石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
発売直後の大ヒットはなぜ? 「パルワールド」の今とこれからを考える
「ポケモン」や「ゼルダ」、「マイクラ」などのいいとこ取りをうまくアピール
2024年1月26日 11:00
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。
発売してすぐSteamで記録的な大ヒット
「パルワールド」というゲームがにわかに脚光を浴びている。本作は1月19日に早期アクセスを開始したばかりだが、リリースから5日で売上が700万本を突破。同時接続プレイヤー数は185万人を超え、Steamの全タイトルで「PUBG: BATTLEGROUNDS」に次ぐ史上2位を記録している。
開発したのは株式会社ポケットペアという2015年設立のまだ若い会社。本作が出る以前の知名度は低く、今でも耳が早いゲーマーにしか知られていないはずだ。にも関わらず、発売してすぐに世界的大ヒットを記録する異常事態。令和の時代に突如現れた超巨大彗星である。
#パルワールド、リリースから5日で売上本数700万本達成しました!
— パルワールド/Palworld 公式 (@Palworld_JP)January 24, 2024
本当にありがとうございます!
現在、最優先で障害やバグ修正を対応中です。
一部プレイヤーの皆様にはご不便おかけしてしまい大変申し訳ございません。
今後とも#パルワールドと#ポケットペアの応援よろしくお願いします。pic.twitter.com/3Q6BSrnQzR
【歴代ゲーム史上2位!】#パルワールドを現在プレイ中のSteamユーザーが185万人を突破しました!
— パルワールド/Palworld 公式 (@Palworld_JP)January 23, 2024
平日にもかかわらず沢山の方々にプレイしていただき、本当にありがとうございます!
もっと快適に楽しんでいただけるよう、開発チーム一同全力で対応中です。今後とも応援よろしくお願いします!pic.twitter.com/IbVWGG4U4h
早期アクセスということで、今後ゲーム内容やバランスが変更される前提ではあるが、ひとまずどんなゲームであるのかを紹介していく。
筆者は本作のSteam版をプレイしているが、Microsoft Storeでも販売されている。こちらは3,500円での単品販売のほか、Xbox Game PassおよびPC Game Passの定額サービス内でも利用可能。さらに無料体験版も用意されている。
いろいろなパルを捕まえ、みんな一緒に暮らせる
東京ゲームショウ2023に出展された際の説明を見ると、本作は「マルチプレイヤー・オープンワールド・サバイバル・クラフト・モンスターコレクションゲーム」と盛りだくさんの要素が並ぶ。順を追って説明しよう。
本作はパルと呼ばれるモンスターが生息する世界に、主人公が1人放り込まれてしまうところからスタートする。この世界でとにかく生き抜くことが当面の目的となる。自由に移動できる3Dフィールドで素材を手に入れ、拠点となる場所を作っていく。
木や石といった素材は、小さなものなら手で拾えるし、大きなものも素手で叩いて壊せば取れる。また斧やつるはしといった道具を作れば、採集速度も上がる。この辺りは「マインクラフト」っぽいサバイバル・クラフトゲームだ。
フィールドを歩いていると、いろいろな種類のパルに出会う。攻撃して倒せば素材が手に入るが、「スフィア」というボール状のアイテムを投げつけると捕獲できることがある。パルを攻撃して弱らせてからの方が捕獲しやすく、成功すれば自分の仲間になってくれる。
仲間のパルは自由に出し入れでき、自分と一緒に戦ってくれる。パルは種類によって能力が異なり、主人公と一緒にレベルも上がっていく。ここは「ポケットモンスター」に似ている。
本作のユニークな点は、パルが戦いのほか、生産系の作業にも参加できる点だ。パルにはそれぞれ採掘や伐採など可能な行動がいくつか設定されており、拠点での作業を肩代わりしてくれる。例えば種まきと水やりができるパルを拠点に置けば、食物を育てる農作業を自動化できる。
拠点には発展度を示すレベルがあり、同時に出せるパルの数が増えていく。いろいろな作業をパルに任せることで、生産に関わる手間を減らせる。加えて、主人公と一緒に作業をしてくれるので、パルと暮らしている感覚になれる。1人プレイでも自分好みでにぎやかな拠点になっていくのは視覚的にも楽しい。
あとは冒険要素もある。フィールドには巨大で強力なパルがいるほか、主人公以外のパル使いとのボスバトルも用意されている。アクションとしては棒や槍などによる近接攻撃と、弓矢を使う遠距離攻撃が可能だ。
筆者は最初のボスバトルまでプレイしたが、近接戦闘をするとあっという間にやられてしまう。遠距離武器で戦いつつ、転がって避ける回避行動を取るのが重要なようだ。遠距離武器は、最初は弓矢だが、筆者は強力なクロスボウまで生産できた。さらにレベルが上がれば銃器も使えるようになるそうだ。
なおゲームを開始する際にはワールドを作成する。キャラクターはワールドごとに保存され、新たなワールドを作成するたび最初からのプレイとなる。「マインクラフト」と同じ仕組みだ。マルチプレイも可能で、自身のPCにあるワールドに他のプレイヤーを招いて遊べるほか、ワールドを動かす専用サーバーの構築もできる。ただ筆者の環境ではマルチプレイサーバーにログインできず、マルチプレイはできていない。
海外のゲーマーにコンセプトが刺さったか
本作がなぜこれほど爆発的に売れたのかを考えてみると、やはり発売までの見せ方がうまかったのだと思う。これまで公開された映像では、「ゼルダの伝説」のようなオープンワールドで、「ポケットモンスター」のようにモンスターを集め、「マインクラフト」のようにサバイバルするという、本作の特徴をリッチな描写で見せている。
人気ゲームの要素を組み合わせて1つの形にしたようにも見えるが、実際にそういうゲームを求めていた人が多かったということだろう。しかもそれは日本だけではない。海外では文化的にコマンドバトルを好まない人が多いので、「ポケットモンスター」をオープンワールドでリアルタイム進行できるゲームが待望されていたのかもしれない。
本作のビジュアルは「ポケットモンスター」や「ゼルダの伝説」と雰囲気がよく似ており、それらの作品を好む海外の人からも注目を集めたのだろう。開発するのがそれらと同じ日本のゲーム会社だとわかれば、さらに期待が膨らむのも間違いない。
いずれにせよ、本作のコンセプトが世界に受け入れられるものであったことは確かで、それをうまく形にした上、見栄えのいい映像を出せたポケットペアの作戦勝ちである。それ以外にもヒット要素はあるのかもしれないし、その説明で納得がいく程度の数字でもないのだが。
ちなみに筆者が本作をプレイした時、「クラフトピア」に似ているなと感じた。オブジェクトの設置位置の自由度が高かったり、まじめな物理演算を使っていたりするところがよく似ている。と思ったらやはり開発会社は同じポケットペアだったと後から調べて気づいた。
「クラフトピア」もサバイバルとクラフトを目的とした作品だが、とにかく自由度が高いのが特徴で、少々のバグっぽい挙動には目をつむってクラフトの自由度を優先するという破天荒な内容だ。こちらも80万本以上を売り上げたとしており、設立数年のゲームベンチャーの作品としては立派なヒットを記録している。「クラフトピア」の下地があっての「パルワールド」だと言われれば、いろいろ納得がいく。
前代未聞の大ヒットから、前人未到の開発へ
ビジネス的に大成功を収めている本作だが、本当に大変なのはここからかもしれない。本作の売上金額はすでに200億円を超えるはずで、一部はSteam側に配分されるとしても、開発元には相当な大金が舞い込む。そして本作の開発はまだ終わっていない。
開発には現時点で約3年かけており、開発者の数は徐々に増えて50名程度になったという。かなりの規模にスケールアップしているが、それでも今回の売上に比べれば圧倒的に小さい。これからスタッフを10倍に増やして、追加で3年開発できるのではと思う。
前途洋々である、と言いたいところだが、先行きは見通せない。歴史が浅く人員も少ないゲーム会社が、早期アクセス開始から数日で数百万本、100億円単位の売上を叩き出したという事例は、過去にもそう例がない。ましてや日本の企業となると、ほかに思い当たるものがない。
これまでの開発期間とは比較にならない大金を得て、早期アクセスをどのように正式リリースへ持っていくのか。数百万人ものユーザーの声をどう開発に活かすのか。ゲームは人やお金を費やせば面白くできるというものではなく、開発の方向性が迷走して評価を落とすこともあり得る。
さらに、開発に時間をかけ過ぎれば話題性を失いかねない。今の驚異的な売上は作品への期待度からだけでなく、SNS時代にバズるとここまで弾けるという特異な事例であり、この勢いが熱しやすく冷めやすいことは容易に想像できる。売上1,000万本を突破するのも時間の問題のように見えるが、1カ月後には誰も話題にしなくなっているような怖さもある。
この状況において、本作はどこをゴールとするのか。ビジネス的にはもう大成功したからといって、致命的なバグをつぶして正式リリースとして開発終了、というわけにはいかない。コンテンツに厚みを持たせ、システムを改善し、映像・音声など各所の品質を向上するのは最低ライン。さらにこの先、新たなパルの追加を含めたアップデートを数年は続けて欲しいと考える購入者は多いと思う。本当はそんな義務はないのだが。
本作においてもっとも重要なことは、本作のコンセプトが世界中の人に受け入れられたことだ。そしてコンセプトに沿ったゲームの面白さも表現できており、購入者の第一印象は満足度が高そうに見える。それだけに、ここから先も満足し続けてもらえるものを作るのは難しい。
さらに、今後はおそらく本作を真似た作品も出てくるのではないかと思う。「パルワールドライク」というジャンルができるかどうかはわからないが、何かが爆発的にヒットすると、大手ゲームメーカーが豊富な資金と高い技術力で対抗作を出してくるのがゲーム業界の常だ。
などと考えていくほど本作の先行きが不安になってくるのだが、来年の今頃は、すべてが杞憂だったと言えるくらいの成長を見せてくれていることを願っている。今でも十分遊べるが、まだ早期アクセスであり、ゲームとしてはコア部分しかできていないはずなのだ。開発の方々にはより奮起を期待したいし、プレイヤーの方々には、本作の良し悪しを早々に判断してしまわず、せめて正式リリースを待ってみることをおすすめしたい。
最後に余談だが、本作が「ポケットモンスター」と酷似していることを指摘する声がSNS等で多く聞かれる。モンスターにボールを投げて捕まえる仕組みや、ポケモンとパルのデザインのセンスが近いことから、連想するのは当然だろう。
もし本作に著作権侵害があるとしたら、それは著作権者が訴えた上、法にのっとって粛々と処理されるべきことだ。あるいは個人の感情として本作の内容を許せないのであれば、本作をプレイしなければいい。著作権者への通報や訴訟の要請、本作の開発者への苦情等は、過度になれば営業妨害や脅迫など罪に問われかねないので慎んでいただきたい。
なお、今回本作をプレイするにあたり、GeForce RTX 4060を搭載したマウスコンピューター製ノートPC「G-Tune E4」を使用した。本作のグラフィック設定でプリセット「高」、DLSS「パフォーマンス」を選び、解像度をフルHDにしたところ、60fpsを超えて動作した。本機のディスプレイは144Hz対応なので、フレームレートを優先するかどうかで好みの設定に変えるのがいいだろう。
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/