石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
ここは群馬の田舎道? 日本を描いたポーランド産ドリフトゲームの体験版を遊んでみた
ドリフトの王国、日本へようこそ! 「JDM: Rise of the Scorpion」
2024年8月30日 10:40
ポーランドで作られた、日本の田舎道
確か昨年だったと思うが、日本の田舎道を再現したレースゲームの映像がSNSで流れて、話題になったことがある。レースゲームで日本の都市部を舞台にしたものは過去にいくつもあるが、田舎を再現したものは珍しく、注目を集めていたように記憶している。
その作品が、2024年発売予定の「JDM: Japanese Drift Master」。今回、本作の無料体験版となる「JDM: Rise of the Scorpion」がSteamにて配信されている。
本作の開発会社Gaming Factoryは、ポーランドのワルシャワにある。『ということは、外国人解釈によるオモシロ日本が再現されているわけね?』と思ったアナタ。半分正解。
Steamの説明を見ると、『ドリフトの王国、日本へようこそ!競争しながらドリフトして、畝ている山道と様々な道路を走りながらレースしよう!ハイカマ湖の町を回ってみよう。貯金を新しい車に使って、日本式のチューンアップを味わおう!』とある。日本ってドリフトの王国だったのか……と勉強になるが、コミック『頭文字D』発祥の地、くらいの意味かもしれない。
何はともあれ、こちらをプレイしてみよう。
見た感じは確かに日本
ゲームをスタートすると、マンガっぽいコマ割りのメニューが表示される。やっぱり『頭文字D』のほうなのねと理解しつつプレイを開始すると、いきなりマンガが展開される。本作の舞台設定を説明する内容のようだ。
「のようだ」というのは、読んでも内容がよくわからない。想像も交えて説明すると、主人公は裕福な家庭で育った若い男性で、文武両道の優等生。一方で、不良仲間を連れて喧嘩もする素行の悪さ。そして誕生日プレゼントとして、両親から車が与えられ、自分の進むべき道を知るためにドリフトを始める。たぶんこんな感じだ。書いても意味は分からない。
いったん脳をリセットして、もらった車で街を走ってみる。湖の周辺はちょっとした観光地っぽい感じで、少し離れると峠の山道が現れる。日本の田舎の方という雰囲気がよく出ている。
となると、ここはどこかと考察したくなる。小さな湖がある谷か盆地のような形状で、桜が咲いていることから季節は春なのだが、地域が想像しづらい。車のナンバーは札幌なので、北海道だろうか?
と思いながらドライブをしていたら、道端に県道の看板が。そこには「群馬」と書いてある。調べてみると、榛名湖がモチーフではないかという声が多く、実際の風景と比べてみると確かに雰囲気が似ている。忠実に再現したわけではなく、雰囲気の参考にした程度であろう。
というわけで、ここは群馬のようだ。なぜ札幌ナンバーの新車に乗り出したのかはわからない。
ドリフトゲームとしての方向性は明確
ゲームとしては、ドリフトを楽しむ作品ではあるが、オープンワールド形式で自由にドライブできるのも特徴。一般道を自由にドライブ可能だ。最初はちゃんと左側通行になっているのかと心配だったが、正しく左側通行だった。
一般道を走行するとはいえ、速度は自由に出せる。スピード違反で警察がやってくることもない。また車をガードレールにぶつけたり、対向車と衝突したりしても、無傷である。風景を楽しみつつ、自分のペースでドライブして構わない。
ドリフトはある程度加速してからハンドルをひねると、後輪から滑り始める。サイドブレーキを併用すると、一気に横滑りする。滑った時の挙動が割と真面目でゲーム的なサポートが弱く、丁寧にアクセルとハンドルで調整しないと、なかなか思った方向にはドリフトできない。
ゲームを進めると、マップ上に対戦相手が現れる。最初の対戦では、短いコースでドリフトによる獲得ポイントを競う。ドリフトは距離、スピード、美しさなどが評価され、ポイントに換算される。普通のレースゲームのように、早くゴールすれば勝ちというわけではない。その点でも本作はユニークだ。
最初の1戦はぶっつけ本番になるが、その後は練習用コースが登場する。走りやすいコースと練習メニューが用意されており、本作の挙動を順に学べるようになっている。
マツダとスバルの実車も登場。体験版でドライブ可能
ゲームを進めると、車のカスタマイズや、車の購入が可能になる。カスタマイズでは性能を上げるだけでなく、外見の変更も可能になるようだ。体験版だからか、触れる部分はかなり少ない。
車はディーラーで販売されている。最初に乗ることになる親からのプレゼントの車は、イチバンというメーカーの「Fairmaiden」。ロゴが某日本車メーカーっぽく、車体形状もあの車に似ているが、ここは大人の事情である。
ということは、他の車も架空の物だろうなと思っていたのだが、実際にはマツダとスバルの車が並んでいた。本作はこの2社とライセンス契約を結んでいるそうだ。そんなに大規模な作品だと思っていなかったので、日本車メーカーと真面目にライセンスを結んでいることに驚いた。
体験版では数台のマツダ車、スバル車の試運転も可能。制限時間内であれば好きなようにドライブできる。試しにマツダの「RX8」を試乗してみたところ、ちゃんとエンジン音も走行感も別物になっていて、改めて真面目なつくりになっているなと感じた。なお試乗車で派手に事故を起こしても壊れないので大丈夫。
全体として見ると、フォントが画一的だったり、英語の看板が多かったり、文化的建造物のデザインが明らかにおかしかったりと、ツッコミどころは確かにある。そこも本作の面白さではあるが、それは少々ゆがんだ楽しみ方だろう。細部はどうあれ、ゲーム内の風景の多くは、日本人が見て『確かに日本だね』と言える雰囲気をしっかり出せている点は、やはり評価せねばならない。
こんな作品を作りたいという人がいて、しかも日本国外で作られているのが実に面白い。レースゲームとしての挙動も不自然さはなく、普通にドライブを楽しめる。ここまでできているのなら、日本人としては応援の気持ちを送るしかないだろう。ということで本稿をしたためた次第だ。
ちなみに筆者はこんなところで育ったので、本作の町並みは「十分都会やんけ!」と感じるのだが、SNSでは本作を田舎と評することに誰も違和感がないようだったので迎合した。いずれ真の日本の田舎道を再現した作品が出てくれることを祈る(需要はないと思う)。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。