石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

その名も「マルウェア」! 余計なソフトをインストールさせないパズルゲームに挑戦

1999年にタイムトラベルする設定や、メーラーで話が展開する演出もユニーク

Steam「マルウェア」のページ

マルウェアを題材にしたゲームが登場

 「マルウェア」というう名前のゲームが、8月に発売された。マルウェアというのは悪意のあるソフトウェアのことで、ウイルスやトロイの木馬が代表的だ。最近はランサムウェアによる被害を受ける企業の話をよく聞くが、これもマルウェアに含まれる。

 それをゲームにしたものが本作なのだが、いったいどんな作品だろうか。あえて前情報を入れずにプレイしていこうと思う。本作はSteamにて350円で販売されており、無料のデモ版も用意されている。本作を友達にプレゼントして「マルウェアを送ったよ!」というネタもあるのでぜひお試しを。

不要なソフトを一緒に入れようとするインストーラーを何とかする

本作を起動したところ。ただのメーラーの画面である

 ゲームを起動してみると、オープニングの演出も何もなく、いきなりフルスクリーンで「Outhook Express」というウインドウが起動する。画面のデザインからして、筆者も慣れ親しんだ(が、今は使っていない)Windows純正メーラー「Outlook Express」のオマージュだとわかる。

 本作は「マルウェア」だったと思うのだが、なぜメーラー風の画面が起動したのだろうか? これも本作の一部であろうとは思うのだが、いきなりのことで面食らってしまう。ともかく届いているメールを読んでみることにする。

 メールを古い方(下の方)から順に読んでいくと、どうやら本作の主人公は未来の人間で、1999年への時間旅行に参加したらしい。しかし時空海賊団という悪党に銀行口座の金を全て持ち去られ、無一文になっている。時間旅行の参加費用である30万ドルも払えていない状態で、そのためか元の時代に帰ることもできないようだ。

有り金を全て奪われたもよう
時間旅行の代金も未払いになっている。これでは元の時代に帰れない?

 さらに新しいメールを見ると、とあるメーリンググループ宛てのメールを受信していた。ショッピングソフトをダウンロードしたが、広告プラグインがバンドルされるので、スキップする方法を教えて欲しい、というものだ。ソフトのインストールパッケージも添付されており、報酬として20ドルを支払うという。

とあるソフトが添付されたメール

 早速、添付されているソフトをクリックすると、自動的にインストーラーが走り出す。すると本当にメーラーのウインドウが閉じられて、別のウインドウでインストーラーが動く(このおかげでプレイ動画の録画が途切れたりもした)。

本物っぽく、古臭い感じのインストーラーが起動

 インストーラーでは、最初に長いライセンス契約内容を読まされる。読み飛ばしていきたい気持ちになるが、実に怪しいのでちゃんと目を通していく……が、怪しいところはないように見える。素直に「私はこの契約に同意します」にチェックを入れて次へ。するとインストールが開始され、無事に作業が完了した。

ライセンスの長い規約。全部読むのは面倒だが仕方ない

 と、そこで完了を告げるウインドウの下の方に「メッセージアシスタントの使用」というチェックボックスがあった。試しにこのチェックボックスをにチェックが入ったままで「完了」ボタンを押すと、「1 マルウェアがインストールされました」という表示が。

マルウェアがインストールされてしまったもよう

 そして何事もなかったかのようにメーラーの画面に戻される。特に進展はなく、再びインストーラーを起動することも可能だ。どうやら指定されたソフトのインストーラーを動かし、目的のソフトをインストールしつつ、余計なソフトを入れないようにするのが目的のようだ。

チェックボックスを外してみると、マルウェアはインストールされなかった。これで依頼達成

 もしマルウェアがインストールされてしまっても、画面がメーラーに戻されるだけで、その後は何もなかったかのように再びインストーラーを起動できる(少なくとも序盤のうちは)。失敗を恐れず、何度もチャレンジせよということだろう。

ゲームとしては1発ネタ。想像以上に厄介なパズルゲーム

 最初のソフトのインストールでマルウェアのインストールを回避できると、依頼人から報酬が送られてくるとともに、別の依頼が舞い込んでくる。そこにも新たなインストーラーが用意されており、マルウェアがインストールされないように設定を変えていく。

 最初のうちはいかにもな場所にマルウェアのインストールに関するチェック項目があるのだが、だんだんと巧妙になってくる。簡単には見つからない場所にチェックボックスがあったり、微妙な表現でチェックすべきか外すべきかを悩ませるような仕掛けもある。ある種のパズルゲームというニュアンスの作品だ。

この中にもマルウェアを入れる仕掛けが隠れている

 本作はゲームとしては、1発ネタのパズルを詰め合わせた作品なので、具体的な解き方を解説してしまうとゲームの魅力を完全に損なってしまう。価格が安く、見た目も面白いので、ゲーム配信などでも人気が出そうな作品なのだが、極力控えていただきたい。アドベンチャーゲームを配信してストーリーがネタバレするのと同様の問題と考えていただければと思う。

 そしていくつかのソフトウェアでマルウェアをインストールしない手順を発見していくと、次の依頼のほかに、現状についての情報もメールで流れてくる。現代からと思われる知り合いのメールが届いたり、時空海賊団からの挑戦状めいたメールが届いたりもする。

マルウェアを仕込んだと思われる者からのメールも来る

 つまり本作のメイン画面はメーラーであり、マルウェア入りのソフトがメールで届けられつつ、別のメールの内容でもってストーリーが進んでいくようだ。わかってしまえばなるほどと思わされる遊ばせ方だが、メーラーなどという実用性一辺倒で淡白なインターフェイスをゲームのメインウインドウに据えようという開発者の思考がすごい。

 ゲームを進めていくと、どうも時空海賊団の活動によって時空がゆがめられているらしく、タイムパトロール(時空警察だろうか)も混乱しているらしい。プレイヤーの元には、片目を患った伊達政宗からも依頼が来る。さすがにハンドルネームだと思うが、メーラーだけのインターフェイスでは想像しかできないし、いずれにせよ依頼に答える以外に道はない。

片目を患う伊達政宗からの依頼。メールの文章や添付ファイル名もちょっと考えられていて面白い

 筆者はまだクリアできていないのだが、途中からかなり難易度が上がってきて、夜に眠い目をこすりながらのプレイではすぐに行き詰まってしまう。見た目のインパクト、ユニークさからは想像できない厄介なパズルゲームなので、ぜひ腰を据えて遊んでみていただきたい。初見であれば何人かで一緒にやるのも楽しいのではないかと思う。

 なお本作はSteam ワークショップをサポートしており、ユーザーが独自にマルウェア入りのインストーラーを作成し、他のプレイヤーに公開するという機能もある。もしかすると作る方で熱中する人が出てくるのではないかと思う。

Steam ワークショップ対応で、ユーザーが作成したマルウェアも試せる
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。