石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
オンラインゲーム初体験は何? 1998年にソニーが手掛けた「Tanarus」の思い出を語ろう
モデム~ISDN時代に登場した20人同時対戦の3D戦車ゲーム
2025年1月23日 16:08
ソニーが手掛けたPC向けオンライン戦車ゲーム
皆様が初めて遊んだオンラインゲームは何だろうか?
現代のゲーマーであれば、オンラインゲームをプレイした経験は当たり前にあるだろう。FPSや格闘ゲームなどの対戦型、MMORPGのような協力型、さらには非同期型のソーシャルゲームなど、オンライン環境を前提としたゲームはいくらでもある。
だが筆者が初めてオンラインゲームに触れた1990年代後半は、まだごく一部の人だけが知る存在だった。大学の先輩に誘われてFPS「Quake」をノートPCのトラックポイントでプレイしたら、『滑らかに回る奴がいる』と笑われたのが懐かしい。
その後、ハック&スラッシュの名作「Diablo」もプレイした。ただ「Quake」も「Diablo」も、筆者は基本的には知った顔と遊ぶ、オンラインではあるがフルオープンではない、限定的なコミュニティで遊ぶゲームだった。
現代のオンラインゲームのように、不特定多数のプレイヤーが入り混じってプレイする作品となると、筆者が最初にプレイしたのは「Tanarus(タナラス)」だ。もはや名前を知っている人も少ないと思うが、ソニーが手掛けた先進的なオンライン対戦ゲームである。
画期的だった20人参加の3Dリアルタイム対戦ゲーム
「Tanarus」が登場したのは1998年8月。日本では「netgame.net」というサービスで、ソニー・ミュージックコミュニケーションズが運営した。当時の記事がPC Watchに残っている。
本作は当時としては珍しく、完全なクライアントサーバー型のオンラインゲームであった。当時のオンラインゲームは誰かのPCがホストになり、他のプレイヤーが接続するというP2P型が基本だったが、本作ではプレイヤーは全て1つのサーバーに集められ、プレイヤーのデータも全てサーバー側に記録された。
また20人のプレイヤーが同時に戦う、リアルタイムアクションゲームというのも珍しかった。プレイヤーは5人ずつ4つのチームに分かれて、戦車同士でチーム戦の撃ち合いをするという内容だ。これを3Dグラフィックスで実現していた。
当時はモデムによる通信が中心で、ISDNが普及し始めた頃。モデムなら33.6kbps(メガではなく、キロで正しい)や56kbps、ISDNでも64kbps(相当がんばっても128kbps)が最大値という時代に、20人がリアルタイム対戦できる3Dゲームというのは、かなり珍しかった。
当時はまだ常時接続サービスの「フレッツ・ISDN」は提供されておらず(2000年開始)、インターネット接続は23時以降の定額電話サービス「テレホーダイ」の利用が基本。「Tanarus」では23時を過ぎると多くのプレイヤーが集まって、翌日1時頃まで毎日盛況だった。
ゲーム画面を今見ると、テクスチャの質も悪く、3Dといってもかなり見栄えが悪く感じるが、当時としては最先端。戦車の装甲を高める追加のシールドが半透明のポリゴンで表示されるのが新しい、という時代だ。
これら全てが画期的な作品であったが、プレイヤーとしてはそれ以上にゲーム内容が画期的であり、代わりのない作品の1つとして記憶に残っている。
仲間との連携が求められる戦略性の高さが秀逸
本作は5人組の4チームが戦うゲームだが、多くの時間は戦場に5対5が2つ存在する形だった。感覚としては、正面にいる5人チームと対戦している。
戦車は未来型で、武器は一定間隔で放たれる単発ビームが基本。装甲を0まで削られると撃破され、一定時間後に自軍ベース(拠点)で復活する。5対5で接敵し、互いに撃ち合う。どちらかが優勢になってどんどん敵ベースへ攻め込んでいくと、復活した相手に逆にやられるので、ある程度相手を撃破した側はいったん引いて補給などを行う。戦車ながらスポーツ的な競い方だ。
ここで重要になるのがチームの協力。ばらばらに敵を攻撃してもそう簡単に倒せないが、1体に集中砲火するとあっという間に撃破できる。先に1体倒せば5対4となり、数で勝れば火力はさらに有利になる。
逆に敵から集中砲火を受けたら、いったん後ろに下がって他の味方に守ってもらう。本作のシールドは攻撃されなければ回復していくので、撃たれたら下がり、無傷の仲間が前に出てカバーするという動きができると、撃ち合いでも極めて強固であった。
しかし当時はまだボイスチャットもない時代。たまたまチームで一緒になったプレイヤー同士で連携を図るのは難しい。そこで5人のうち1人が指揮者になり、作戦を立てて、テキストチャットで味方に指示を出す。誰から先に狙うか、どのタイミングで攻め、引くか。時には相手の意図を外す奇策も出して、チームを勝利に導いていく。
筆者は個人プレイよりも指揮者が大好きで、先陣を切って敵に飛び込んでは、自分がやられても味方を勝利に導ける戦い方を考えていた。まだゲームに不慣れな人たちを上手く導いて、戦いをよりよい形で進められた時が一番楽しかった。
ちなみにゲームの操作に使っていたのは、マイクロソフト製のジョイスティック「SideWinder Precision Pro」。右手はこれで戦車の操作をしながら、左手でキーボードを叩いて指示をしていた。『何で戦いながらチャットできるの?』と驚かれたが、今やって見せてと言われてもできないと思う。
攻撃を集中させるという考え方は、現在の戦車ゲームにも通用する。しかし回復するシールドの概念は他になく、仲間の前に割り込んでカバーするという戦術がオンラインゲームならではで好きだった。仲間と助け合って勝利を目指すという点で、本作ほど息の合った連携が重要になるゲームは、他には未だに出会っていない。
「Tanarus」の開発会社はその後、大ヒット作を生む
本作はその後、サービスをSo-netに移管。サーバー環境が変わったせいか通信ラグが酷く、仲間のカバーが成立しなくなったため、筆者は熱意を失ってプレイを止めてしまった。その後、2003年ごろにサービスを終了。海外でのサービスは続いていたが、現在は終了しているようだ。飽きたわけではないという意味では、とても心残りがある。
「Tanarus」の開発会社であるSony Interactive Studios Americaは、その後989 Studios、Verant Interactiveと名前を変えていく。そしてVerant Interactiveは1999年、3DMMORPG「EverQuest(エバークエスト)」を開発し、大ヒット。後のオンラインゲームに多大な影響を与えることになる。
「Tanarus」は続編となる「Tanarus2」が企画されるも、頓挫したようだ。筆者はその縁から「EverQuest」を長らくプレイすることになる。
皆様が初めて遊んだオンラインゲームは何だろうか? こういう昔話も、酒の肴にはちょうどいいのではないかと思う。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。