柳谷智宣のAI ウォッチ!

ChatGPTからフォトショやPDFを直接操作できる「Adobe Apps for ChatGPT」は無料アカウントでどこまで使える?

画像調整・PDF編集・デザイン作成を試してみた、ファーストレビュー[特別編]

 本連載「柳谷智宣のAI ウォッチ!」では、いま話題のAI(生成AI)を活用したサービスを中心に取り上げていく。今回はChatGPTからAdobeアプリを操作できる「Adobe Apps for ChatGPT」を取り上げる。
「Adobe apps for ChatGPT」がリリース

 12月10日、AdobeとOpenAIは「Adobe Apps for ChatGPT」をリリース。なんと、ChatGPTからAdobe PhotoshopやAdobe Express、Adobe Acrobatといった看板アプリを利用できるというのだ。

 ChatGPTや各Adobeソリューションの無料アカウントでも利用できるというのだから太っ腹。いろいろなアプリの操作方法を覚えなくても、自然言語で処理できるならこれほど便利なことはない。

 今回は「Adobe Apps for ChatGPT」の3ソリューション「Adobe Photoshop for ChatGPT」、「Adobe Express for ChatGPT」、「Adobe Acrobat for ChatGPT」のファーストレビューをお届けする。

無料アカウントでも利用できる「Adobe Apps for ChatGPT」

 利用するには、まずは各種アプリをChatGPTに接続する。

 設定画面から[アプリとコネクター]を開き、「アプリを参照する」から[Adobe Photoshop][Adobe Express][Adobe Acrobat]を選択し、[接続する]をクリック。ポップアップが開くので、Adobeアカウントでログインすればよい。

 Acrobatのみ[アカウントなしで続行する]というオプションが表示されるが、実際にPDFの処理を依頼すると接続画面が出るので、ログインしておいた方がよいだろう。繰り返しになるが、無料アカウントでもOKだ。

ChatGPTの設定画面から[アプリとコネクター]を開く
PhotoshopとExpress、Acrobatに接続する

「Adobe Photoshop for ChatGPT」で犬の首輪の色を変えてみた

 「Adobe apps for ChatGPT」を利用する際は[+]メニューから[さらに表示]と辿り、アプリを選択する。もしくは直接「Photoshopに~」とプロンプトを入力すると有効になる。

 あとは、通常通り画像をドラッグ&ドロップでアップロードし、プロンプトを入力すればよい。ここでは、犬の写真をアップロードし、緑色の首輪を青色にしてもらおう。

まずは「Adobe Photoshop for ChatGPT」を有効にする
画像をアップロードしてプロンプトを入力する

 画像の調整パネルが表示されて「Hue/Saturation(色相・彩度)のスライダーを操作してください」などと指示される。首輪が青くなった画像が出力されるのではなく、首輪を自動選択した状態で、操作をユーザーに渡してくるのが特徴だ。

 調整アイコンをクリックすると画像が大きく表示され、スライダーなどを動かせるようになる。設定はリアルタイムに反映され、首輪が青くなったところで止めて、矢印アイコンからファイルをダウンロードできる。

準備ができたら調整アイコンをクリックする
アドバイスに従ってスライダーを動かして首輪を青くする

 フィルターを適用することもできる。例えば、熊が歩いている写真をアップロードして「背景をぼかして」と指示すればよい。今回は画面下にゲージが表示されたので、そのまま調整できた。

被写体を指定して背景をぼかすこともできる

 Photoshopとはいえ、できることは基本的な操作のみだ。現状では「生成塗りつぶし」や「オブジェクト消去」、「生成拡張」といった高度な機能には対応していなかった。出力画面から直接Photoshopに画像を受け渡せるので、そちらで作業する必要がある。もちろん、その際は有料契約が必要になる。

「Adobe Express for ChatGPT」で誕生日会の招待状を作成してみた、ただし……

 次は「Adobe Express for ChatGPT」で誕生日会の招待状を作成してみよう。

 ツールから選ぶか、「Adobe Expressで~」とプロンプトを入力する。「パーティーの招待状を作成する」と指示すると、いくつかのテンプレートを提示してくれた。

「Adobe Express for ChatGPT」で招待状を作成してみる

 続けて、デザイン内に挿入する情報を要求されるので、質問に回答する形でプロンプトに入力すればよい。サクッと文字が差し変わって招待状が完成する。電話番号といった指示していない要素は自動的に削除されるなど、なかなか賢い。もちろん、仕上がりを見ながら何度でも修正可能だ。

デザイン内に入れる情報を指示する。今回は英語にして入れるようにした
指示通りに、いい感じにデザインしてくれた

 ただし、残念ながら日本語が文字化けする。そもそも日本語のテンプレートが用意されていない。日本語で利用する際は、Adobe Express本体で作業することになるだろう。

 セミナーやイベントの告知バナーが作れると便利だと思ったのだが、ChatGPT上ではアップロードした画像で差し替えることができないとのこと。

「Adobe Acrobat for ChatGPT」でPDFを統合/メタデータを消去してみた、PDFの編集機能は……

 続いて「Adobe Acrobat for ChatGPT」を操作してみよう。単なる要約などは、通常のChatGPTでもできるのでスルー。まずは、ファイルを公開するために、PDFのメタデータやコメントなどをすべて削除してもらった。

ツールから「Adobe Acrobat」を選択する

 いろいろと悩みながら作業していたが、2分後にファイルが生成された。リンクからダウンロードして開いたところ、見事にメタデータとコメントの両方がきれいに消去されていた。

処理済みのPDFが出力された
こちらが処理前のPDF
こちらが処理後のPDF。指示通りに対処してくれた

 複数のPDFの統合もお願いしたところ、あっけなくマージしてくれた。こちらは20数秒で処理が完了。出力内のリンクからファイルをダウンロードできる。

複数のPDFの統合にも対応している
プレゼン資料とポスターのPDFを統合することもできた

 「Adobe Acrobat for ChatGPT」で期待していたのが、PDFの編集機能だ。ChatGPT上で、PDF内のテキストやデザインを変更できるならとても手間が省ける。AdobeのWebサイトでもチャット内で直接PDFを編集できると明記してあるのだが、筆者の環境では動作しなかった。

 これは無料アカウントだけでなく、有料のChatGPT PlusとAcrobat Proアカウントでも動作しなかった。「PDFを編集したい」と入力すると、ChatGPT内に編集画面が表示されるはずなのだが、ここにファイルのアップロード画面が出てくるのだ。もちろん、手動で再アップロードしようとしてもエラーになってしまった。こちらは今後のアップデートを待ちたい。

PDFの編集機能は動作しなかった

「Adobe Apps for ChatGPT」はクリエイティブ作業のハードルを確実に下げてくれる

 今回試した限りでは、「Adobe Apps for ChatGPT」で利用できるのはごく基本的な機能にとどまり、Adobeアプリの本領発揮とはいかなかった。それでも、ChatGPTの対話インターフェースからPhotoshopやExpress、Acrobatにまたがって画像と文書を横断的に扱える体験は新鮮で、クリエイティブ作業のハードルを確実に下げてくれる可能性は感じられた。

 今後、日本語対応の強化や高度な画像生成・編集機能、PDF編集機能などが整ってくれば、「とりあえずChatGPTに頼めばよい」というワークフローがより現実的になるはず。無料アカウントで使えるというのも素晴らしい。まだ超便利とは言い難いが、無料なのだからまずは触ってみてはいかがだろうか。

著者プロフィール:柳谷 智宣

IT・ビジネス関連のライター。キャリアは26年目で、デジタルガジェットからWebサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手掛ける。近年はAI、SaaS、DX領域に注力している。日々、大量の原稿を執筆しており、生成AIがないと仕事をさばけない状態になっている。

・著者Webサイト:https://prof.yanagiya.biz/

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