柳谷智宣のAI ウォッチ!
AIを“即戦力の専門家”に変える「Agent Skills」は単なる機能拡張ではない、暗黙知をデジタル化する新たなスタンダード
プロンプトの手間を解消するエージェント機能拡張とは[後編]
2026年2月3日 09:00
2025年から2026年にかけて、大規模言語モデル(LLM)のトレンドは、これまでの文章を作るAIから、自らタスクをこなす「自律型エージェント」へ変化してきている。この流れの中で、Anthropicが打ち出した「Agent Skills」は、汎用的なAIに特定の専門スキルを授けるための、スマートな仕組みとして注目を集めている。
これまでのAI活用というと、AIは一般的な知識が豊富でも、「その会社独自の手順」や「特定のソフトの操作方法」といった実務的なノウハウを知らないという壁があった。「Agent Skills」は、指示書や実行スクリプトをフォルダーにまとめてパッケージ化することで、この溝を埋めるのが特徴だ。いわば、AIという汎用的な知能に、特定の職種に特化した「仕事の道具箱」を持たせるようなものだ。
「段階的開示(Progressive Disclosure)」という考え方
「Agent Skills」では、エージェントに対して「何をすべきか(指示書)」と「どう動かすか(コード)」をセットで提供する構造になっている。フォルダーの中には、心臓部となる設定ファイル(SKILL.md)やPythonなどのスクリプト、APIの仕様書などが整理されており、AIは必要に応じてこれらを読み込み、自分の機能を拡張していく。
それはプロンプトを細切れにしただけではない。ポイントは「段階的開示(Progressive Disclosure)」という考え方だ。
AIのコンテキストウィンドウには限りがあるので、最初から全ての詳細を教え込むのではなく、まずはスキルの「名前と概要」だけをAIに見せる。その後、ユーザーの依頼内容に合わせて必要なスキルの詳細だけを読み込み、実行時にのみスクリプトを動かす。この「必要なときに、必要な分だけ」という設計により、AIのメモリを節約しながら複雑な作業をミスなく遂行できるようになったのだ。
Anthropicがこの規格をオープン化したことで、OpenAIやGoogleといったライバル勢、さらにはWeb開発のインフラを担うVercelなどが、この仕組みを支持し始めている。すでにStripeやNotion、Atlassianといった大手SaaS企業も「スキル」の提供を開始しており、AIがアプリの壁を越えて自律的に動く環境は、いまや共通のスタンダードになりつつある。
特にいま話題になっているのが、動画制作フレームワーク「Remotion」との連携だ。本来、動画制作には専門的なソフトの操作やコードの知識が必要だが、RemotionのスキルをAIに持たせれば、言葉で指示するだけで、アニメーションの作成からレンダリングまでをAIが勝手に終わらせてくれる。ここでは、試しに前編で使ったエージェントツールの「Google Antigravity」に導入してみよう。
npx skills install remotion-dev/skills
上記のコマンドを入力すると、スキルのインストールが始まり、自動的にさまざまなフォルダーが生成され、30個のルールファイルが作成された。
今回は、本連載の「親戚に聞かれる『チャッピーってなに?』~生成AIを布教したいあなたへ。30秒説明と魔法のデモ」のURLを渡して解説動画を作ってもらった。
「解説動画を作って」といったシンプルな指示だけでも動画ができたのだが、クオリティが低かったので、もう少し具体的に指示してみた。音声と画像の生成に必要なAPIキーは事前に取得・設定しておいた。プロンプトを入力すると、時間がかかったものの、縦長の解説動画が生成された。
記事の内容をきちんと把握して3つのポイントにまとめ、イメージ画像を生成し、日本語のナレーションが付いていた。漢字の読み間違いがあったり、画像がSF寄りだったりと、ツッコミどころがあるものの、ポン出しでこの動画が出力されるのには驚いた。
たったこれだけのプロンプトで、記事を読み込み、要約して動画の構成を考え、台本を書いて読み上げ、音声ファイルを生成。画像を生成し、字幕を付けた動画を作成し、音声ファイルとマージするという一連の作業が完了する。このように作業を任せられる点がエージェントの便利なところなのだ。
以下のウェブ記事の内容を解説するYouTubeショート(9:16)動画をRemotionで作成してください。たくさんの人に見てもらえる高品質な動画にしてください。
【記事URL】 https://forest.watch.impress.co.jp/docs/serial/yaaiwatch/2074813.html
【構成指示】
記事の重要ポイントを3つに絞り、初心者でもわかる言葉で構成してください。デザインはスタイリッシュに、音声モデルはOpenAIのAPI、画像生成はGeminiのAPIを使って生成してください。
専門知のパッケージ化が実現する自律型システムと実務への適用
これまでのチャットUIでやり取りする場合、AIに特定の仕事をさせるたびに、背景知識や手順を延々と説明する必要があった。しかし、これからは実務のノウハウを「スキル」としてパッケージ化し、あたかもスマートフォンのアプリをインストールするように、AIに即戦力の能力を授けることができる。専門家の暗黙知をデジタル化できるのが画期的なポイントなのだ。
この恩恵はエンジニアだけのものではない。非エンジニアの領域でも、実務への適用は急速に進んでいる。
例えば、企業の法務部門であれば、膨大な過去の契約事例や社内規定を「法務審査スキル」としてパッケージ化できる。これをAIエージェントに組み込めば、AIは「自社の基準に照らすと、この条項にはリスクがある」と、ベテラン社員のような視点で契約書をチェックし始める。
筆者のようなライターであれば、媒体ごとの細かな表記ルールや、読者層に合わせた語り口の癖をスキル化することで、適切なトンマナを反映した原稿を安定して生成できる。デザイナーであれば、独自の色彩設計や余白の比率、ロゴの取り扱い規定をスキルとして持たせることで、AIに「自社らしいデザイン」の初期案を自律的に判断させることが可能だ。
さらに、この「知のパッケージ化」は、日本企業あるあるの属人化という課題も解決してくれる。優秀な営業担当者が持つ「顧客の心をつかむメールの書き方」や、熟練の秘書が実践している「役員の好みを踏まえた出張手配の手順」をスキル化して共有すれば、組織全体のスキルが底上げされる。これまでは「あの人に聞かないとわからない」とされていたブラックボックス化したノウハウを、AIが実行可能な「動くマニュアル」として活用することができるのだ。
ただし、「Agent Skills」は強力な機能だが、リスクを伴うということも理解しておきたい。
スキルには実行コードが含まれるため、悪意あるスキルを導入すると、システムが書き換えられたり、データが盗まれたりする恐れがある。ネット上のスキルを闇雲に使うのは危険なので注意が必要だ。
外部ドキュメントに悪意ある命令を紛れ込ませ、AIを操る「プロンプト・インジェクション」のリスクも無視できない。さらに、コスト管理や、AIが決められた手順に固執して柔軟性を失うといった課題もある。これらを防ぐための「安全策(ガードレール)」をあらかじめ指示に組み込むことが、実運用の鍵となるだろう。
「Agent Skills」は、単なる機能拡張というより、手軽にAIの真価を引き出すための新しい仕組みといえる。今後は、自身の専門性をスキルとしてパッケージ化できる組織が時代をリードするようになるだろう。金融や医療といった複雑な規制がある分野でも、ルールのスキル化によってAIの有用性はさらに高まるはず。非エンジニアでも使うのは難しくないので、ぜひいまのうちに触り始めることをおすすめする。
著者プロフィール:柳谷 智宣
IT・ビジネス関連のライター。キャリアは26年目で、デジタルガジェットからWebサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手掛ける。近年はAI、SaaS、DX領域に注力している。日々、大量の原稿を執筆しており、生成AIがないと仕事をさばけない状態になっている。
・著者Webサイト:https://prof.yanagiya.biz/














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