Chromebookって何?

第1回

“全部クラウドでやればいいじゃない”の割り切りで実現した、ストレスフリー・低価格なデバイス

実はAndroidアプリも使えるスマートフォンとノートパソコンのいいとこどり

編集部にて購入した“Lenovo Ideapad Duet”。キーボード付きの10.1インチモデルで価格は39,800円

 “GIGAスクール”構想の推進で教育現場への導入が進み、にわかに注目を集める“Chromebook”。学校で息子や娘に支給されたのがChromebookだったという保護者も少なくないのではないだろうか。それをきっかけにChromebookへ興味を持ったり、Windowsパソコンとどこが違うのか疑問を持つ方も少なくないだろう。

 そこで本連載では、4回にわたってChromebookとそのOS「Chrome OS」について解説する。パソコンとどこが違い、何が長所なのだろうか。また、パソコンと併用する際に気を付けたいことにも触れたい。

Linuxベースのシンプルな「Google Chrome」専用OS

「Chrome OS」の外観

 「Chrome OS」は、簡単に言ってしまうと「Google Chrome」に最適化されたLinuxだ。Linuxというと上級者向けで少し難しそうに思われるかもしれないが、「Google Chrome」に特化されており、難解なところは見えないようになっている。日本語入力環境も初めから整えられており、パソコンで「Google Chrome」を使った経験のある人ならば、慣れるのにそれほど時間はかからないだろう。

「Chrome OS」のアーキテクチャー。ハードウェアの上に高速起動のためのカスタムハードウェアとLinuxカーネル、システムとGUIのライブラリがあり、「Google Chrome」(Chromium)を動かしている

 「Chrome OS」の特徴は、まずシンプルであることだ。ほぼ「Google Chrome」しか使えない(例外については後述する)代わりに、不要な機能や設定は徹底的に省かれている。そのため、以下の利点が得られる。

  • 初期設定が簡単:“Google アカウント”でログインするだけ使い始められる。ブックマークや拡張機能、パスワードなど、「Google Chrome」のユーザーデータも自動で引き継がれる
  • 起動速度が速い:一般的なブートプロセスが簡素化されているため、Windowsなどより起動が速い。使いたいと思ったときに、すぐ使い始められる
  • 省電力:リソースを浪費する常駐ソフトなどもなく、バッテリー効率がよい
  • トラブルが少ない:OSの設定変更やアプリ追加に制限がある一方、それに起因するトラブルが起こりにくい

 Windowsに比べると「Chrome OS」は柔軟性と拡張性に乏しく、パワーでも劣る。動画編集をバリバリ行ったり、最新のゲームを高画質でサクサク動かしたいといった用途には向いていない。キーボードやマウス、ゲームパッドといった基本的なハードウェアは動作するが、それ以外の周辺機器は動作しないことも多い(一番困るのがプリンターかもしれない)。

 しかし、Webサイトで調べ物をしたり、ストリーミングサービスで動画や音楽を楽しんだり、ブログの執筆やちょっとしたお絵かきを嗜む程度であれば、「Chrome OS」の方がストレスなく使える。トラブルが少なく、バッテリーが長く持ち、起動が早く、十分なパフォーマンスがある。

 どうせパソコン利用の大半は「GoogleChrome」をはじめとするWebブラウザーであり、その先のオンラインサービスだ。アプリのほとんどはWebで代用できるし、データはクラウドに保存してしまえばよい――そうした割り切りができるならば、Chromebookが最適といえる。デスクトップパソコンをすでにもっているならば、出先に持ち出すデバイスはWindows搭載ノートパソコンではなく、Chromebookで十分な人も少なくないはずだ。

 デバイスの心臓であるCPUに関しては、パソコンでよく用いられるパワフルなIntel CPUを搭載したもの、スマートフォンやタブレットで人気のバッテリー持続時間の長いARM CPUを搭載したものの両方が選べる。自分のスタイルがノートパソコン寄りか、タブレット寄りかで判断するとよいだろう。

 また、Googleが開発しているだけあってAndroidとの相性もよい。Chromebookとスマートフォンを連携させれば、以下の機能が利用できる。

  • Smart Lock:手元にAndroidスマートフォンがある場合はパスワードレスでログインできる(第2回で紹介)
  • メッセージ:スマートフォンのSMS/MMSをChromebookで閲覧・作成できる(第4回で紹介)
  • インスタント テザリング:Chromebookからスマートフォンのモバイル回線に接続

 また、最近のChromebookではAndroidアプリも利用可能(第3回で紹介)で、スマートフォンの延長としても使えるのだ。

スマートフォンを連携させれば、Chromebookはより便利になる
「Google Play」ストアアプリからAndroidアプリを追加することも

 スマートフォンとノートパソコンの中間というポジションは、Appleのタブレット端末“iPad”と似ている。最新のiPadはキーボード・マウスも利用可能で、Chromebookと同様、ノートパソコンとしても使える。しかし、キーボードまでそろえるコストを考えると、圧倒的に安いChromebookに軍配が上がる。Chromebookはファイルを原則、クラウドで保存する。そのため、ストレージ容量を抑えて低価格化した製品が多いのだ。 リーズナブルな価格 でたいたいの用途をまかなえるという“絶妙なバランス”がChromebookの一番の魅力だ。

クラウド前提だからこその万全なセキュリティ

 さて、クラウドが前提の「Chrome OS」を使う上で気になるのが、セキュリティだ。

 「Chrome OS」のセキュリティは、“多層防御”と呼ばれる原則に基づいて設計されている。これはセキュリティ技術を幾重にも張り巡らせ、いずれか1層が破られても他の層で分厚くユーザーデータを保護するという考え方で、「Chrome OS」には以下の仕組みが組み込まれている。

日々進化するマルウェアに対抗するため、システムを常にアップデート
  • 自動更新:日々進化するマルウェアに対抗するため、システムを常にアップデートする。「Chrome OS」はシンプルなため、アップデートに関するトラブルも少ない
  • サンドボックス:「Chrome OS」はそれぞれのWebページやアプリケーションが“サンドボックス”と呼ばれる隔離環境で実行される。そのため、万が一マルウェアに感染しても他のサンドボックスやOSには影響が及ばないため、被害を最小限に抑えることができる
  • 確認付きブート:起動時に改竄や破損をセルフチェック。もしサンドボックスを迂回するマルウェアによりシステムが書き換えられても、「Chrome OS」は再起動時に自動で修復される
  • データの暗号化:重要なデータを扱う際、「Chrome OS」は基本的に暗号化された通信を介してクラウドに保存する。ダウンロードファイルやCookie、キャッシュなど、ローカルに保存されるデータに関しても、不正利用対策を施したハードウェアで暗号化される
  • 復元モード:「Chrome OS」に何らかの問題が発生しても、以前に正常動作していた状態にロールバックできる([ESC]+[更新]キーを押した状態で電源ボタンを押す。タブレットの場合は音量大・音量小・電源ボタンを同時に10秒以上押し続ける)

 Windowsにも導入されている技術がほとんどだが、「Chrome OS」の場合はユーザーが手動で有効化したり、機能を管理する必要はない。特筆すべきはウイルススキャン機能がないことで、これもパフォーマンス向上とトラブルの防止に役立っているだろう。防備に関しては、「Chrome」のフィッシング対策機能セーフ ブラウジング”と「Chrome OS」の多層防御でカバーするという思想だ。

まとめ

 「Chrome OS」は「Google Chrome」の実行に機能を絞り、シンプルかつ低価格で、セキュリティに優れるOSだ。スマホでは手に負えないことをやらせるタブレットとして便利であるだけでなく、バッテリー持続時間の長さはノートパソコンの代用としても魅力だ。ゲームや動画編集などを行わないのであれば、パソコンの利用時間のほとんどはWebブラウザーであるはず。「Chrome OS」はそうした割り切りの上に、ストレスフリーでリーズナブルなデバイスを実現している。破損の可能性や管理の容易さを考慮しなければならない教育目的で重宝されるのも納得といえるだろう。無論、一般ユーザーにとっても有力な選択肢だ。

 次回は実際に「Chrome OS」を動かしながら、基礎的な使い方を解説する。

Chromebookを中古で買う場合の注意点

 Chromebookに興味を持った読者のなかには、とりあえず体験してみたい、少しでも安く手に入れたいという理由から、中古デバイスを購入の選択肢に入れる方もいるかもしれない。そのときは、かならず“自動更新ポリシー”に注意してほしい。

 Chromebookにはそれぞれ自動更新の有効期限(AUE)が設定されており、それを過ぎるとシステムのアップデートが行えなくなる。つまり、インターネットに接続して利用するのは大変危険な状態になる。

 現行のChromebookは通常、AUEが7年から8年以上に設定されている。しかし、古い機種はこれが3年だったり、6年だったりする。購入の段階ですでにAUEが切れかけていたというケースもあるだろう。

 Windowsパソコンであれば、サポートが切れてもオフライン(インターネットに接続しない)やスタンドアロン(ネットワークに接続せず単体で)で何かに再利用する手はある。しかし、Chromebookはクラウドで(インターネットに接続して)利用するのが前提である以上、その手は使えず、無用の長物となってしまうので注意したい。

利用中のChromebookのAUEは設定画面の[Chrome OS について]セクションで確認できる

 なお、ChromebookのAUEはGoogleのサポートページで確認できる。