特別企画
バックアップはHDDは不要に?Windowsもスマホも容量無制限のクラウドへバックアップ
高機能バックアップソフト「Acronis True Image Cloud」を試す
(2015/10/13 00:00)
会社ではPC、自宅ではタブレットや2 in 1 PC、プライベートはスマートフォンと、1人で数台のデバイスを使うのが当たり前の時代となった。また家族が居る場合は、さらに多くのデバイスを管理しなければならない。だが、PCユーザーならバックアップの重要性を重々理解していても、スマートフォンやタブレットは疎かにしがちではないだろうか。もちろんiPhoneであればiTunes、Android搭載スマートフォンなら任意のアプリケーションでバックアップ可能だが、異なる操作方法で日常的なバックアップ操作を行うのは骨の折れる話だ。
他方でWindows 10へのアップグレード前にバックアップを作成したいという需要も高い。既存環境をアップグレードして、そのまま安定動作するかという不安を抱えるケースもあれば、Windows 10を試した後に元のWindows 7/8.1に戻したいというケースもある。さらに古いPCを使い続けている場合はハードウェア寿命などに起因する換装時期とぶつかるケースも少なくない。
そのため事前にバックアップを作成して安全性を高めるためのバックアップツールは、PCのみならずスマートフォンでも重要な地位を占める。だが、どのバックアップツールが優れた機能を備え、どのような場面に活躍するかは実際に使ってみないと分からない部分が多い。そこで先頃アクロニス・ジャパンがリリースした「Acronis True Image Cloud」を使って、定番のPCバックアップ性能や、各モバイルデバイスのバックアップ性能を精査する。
クラウドバックアップの実力を探る
「Acronis True Image Cloud」は、ファイル・フォルダーのバックアップやディスク・パーティションのイメージバックアップなどができる高機能な統合バックアップソフト。加えて、無制限のバックアップ用クラウドストレージ、モバイルデバイスのバックアップ、Web管理画面、クラウドアーカイブなどユニークな機能を取りそろえている。
PCが起動しなくなるなど、緊急時ほど重要になるバックアップデータは手元に置きたいのも心情的に理解できるが、まずはクラウドバックアップに関する機能から精査したい。なお、バックアップデータはAES-256で暗号化し、転送時や保存時の情報漏洩を防いでいる。また保存先となる“Acronis Cloud”ストレージは日本国内のデータセンターを使用し、アクロニス・ジャパンは数カ月以内に北海道や大阪にも増設する予定だという。
今回はCore i7-640LMを搭載したノートPCにメモリーを8GBまで増設し、メインストレージをSSD 128GB(実際の使用容量は約31GB)に変更したデバイスを使用する。インターネット回線はフレッツ 光ネクスト ギガファミリー・スマートタイプ(上り下り共に1Gbps)、ISPはIIJmioという構成にギガビットイーサネット経由で接続した。
「Acronis True Image Cloud」を起動するとAcronisアカウントによるサインインを求められ、認証を経てから“Acronis Cloud”が使用可能になる。バックアップに関する設定を確認したところ、パフォーマンス設定やアップロード速度の設定項目が用意されていたため、両者を速度優先に変更したことを記述しておく。また、名称からも分かるように[除外]タブではアップロード時に除外するファイルやフォルダーの選択が可能だった。あらかじめ「Microsoft Edge」のキャッシュファイルやWindows 10の一時ファイルが登録されているが、必要に応じて“OneDrive”フォルダーなども加えるといいだろう。
クラウドバックアップを実行したところ、CPU占有率は30~60パーセントに張り付き、アップロード速度は50Mbps前後を示していた。「Acronis True Image Cloud」は最初に1時間半強と作業時間を予測していたが、実際は1時間未満で終了。次回以降は既存のバックアップデータと比較してクラウドバックアップを実行するため、変化が少ない場合は数分で作業を終える。これなら、システム全体のバックアップ先としてクラウドは十分活用できる選択肢になり得るだろう。
ネットワーク速度は状況に応じて変化することを踏まえると、1回のバックアップでは正確性を欠くこととなる。そのため、ほぼ同一の時間帯(早朝)にWeb上からデータを削除して3回クラウドバックアップおよび復元を実行した。復元もWindows 10が起動する状態で実行すると10分足らずで完了してしまう。そこでUSBメモリーのブータブルレスキューメディアを作成し、一度PCのSSDをフォーマットしてから復元操作を実行する。こちらも3回同じ操作を行った結果を掲出した。
今回はノートPCのため比較的短時間で作業を終えたが、デスクトップPCのように大容量HDDを接続した環境では、さらに時間を要するだろう。その際に気になるのが本当に無制限なのかという点だ。アクロニス・ジャパンの担当者に“無制限バックアップ”について訪ねたところ、アカウントあたり3TB程度を想定し、悪意を持ったバックアップ以外は保証すると説明していた。容量に関する問い合わせはサポートで受け付けているという。なお、「Acronis True Image Cloud」の年間ライセンスが切れた場合も、30日間はバックアップデータを保持し、復元操作のみ対応する。
今回の検証で強く感じたのが、その“手軽さ”だ。従来であれば外付けUSB-HDDなどを接続し、バックアップ・復元操作を行うが、LANケーブルさえ接続しておけば何かを用意することなく処理が終わるのである。NASをバックアップデータの格納先として使う感覚に似ているが、HDDの経年劣化などを心配する必要もないため、その安心感は大きかった。
モバイルデバイスバックアップの利便性を知る
「Acronis True Image Cloud」が備える機能の1つにモバイルデバイスバックアップがある。対象となるのはiPhoneやiPadのiOS、Androidの2種類だが、将来的にはWindows Phone 8.1(Windows 10 Mobile)にも対応予定だという。ただしPCのイメージバックアップとは異なり、写真・動画・連絡先・リマインダー・スケジュールがバックアップ対象。Android版はテキストメッセージにも対応する。いずれも無料でApp StoreやGoogle Playの各ストアからダウンロード可能だ。
試しにiPhone用「Acronis True Image Cloud」のバックアップを実行すると、対象となるデータの取捨選択とアプリケーションからのデータへのアクセス許可を下せばバックアップ開始となる。データはPC版と同じくクラウド上に保存し、後述するWeb管理画面から管理可能だ。
データの復元はハンバーガーメニューにならぶ[データアクセスと復元]コマンドから実行する。ここから復元するデータのカテゴリーを選択し、個別にモバイルデバイスなどに書き戻す項目を選択していく。なお、モバイルデバイス側に同一のデータがある場合は変化は生じず、既存データを一度削除してから復元操作を行うと正しくデータが復元できた。
シンプルな操作でバックアップできるのは評価できるものの、作り込みが甘い部分もある。例えば連絡先の見出し(名前など)が白紙状態となり、中身を見ると名前やメールアドレスなど情報はあるのでバックアップ自体は成功しているが、これでは個別復元するのは難しいだろう。また、[データアクセスと復元]コマンドから個別データを参照した後、元のデータ一覧に戻ることができない。いずれもiOS 9.0で試しているためOS側の問題かもしれないが、今後のバージョンアップで改善されることを期待したい。
冒頭で述べたように単純なバックアップであれば専用のアプリケーションを使った方が簡単だが、iOS/Android版「Acronis True Image Cloud」が活躍するのは、"新しいスマートフォンへのデータ復元"だ。例えば現在iPhoneを使用し、諸事情からAndroid搭載デバイスに移行すると仮定しよう。通常であれば、エクスポート機能でアドレス帳データを出力してCSV形式にしてから移行先で読み取ったり、写真や動画は任意のオンラインストレージやPC経由で転送しなければならない。
だが、iOS/Android版「Acronis True Image Cloud」があれば、OSの垣根を越えてバックアップデータにアクセスできるため、キャリア変更時や今流行のMVNOとSIMフリーデバイスの組み合わせに移行する際など、あらゆる場面で活躍するだろう。
クラウド経由でデバイスやデータを管理する
クラウドバックアップやモバイルデバイスバックアップ機能をさらに便利に利用できるのが、バックアップデータをWebブラウザー経由で一元管理する“Web管理画面”だ。文字どおり“Acronis Cloud”に保存したバックアップデータの抽出や削除といった管理操作を行うインターフェイスとなっている。Web経由でクラウド上のデータを自由に操作できるため、例えばバックアップ内容が不要になった場合は手軽なUIから削除を実行できる。
もう1つ紹介しておきたい機能が“クラウドアーカイブ”だ。“Acronis Cloud”をPCのディスクドライブとしてマウントし、使用頻度の低いファイルやストレージの空き容量をひっ迫する巨大なファイルを“Acronis Cloud”に待避する機能である。一見するとオンラインストレージサービスの仮想ドライブ化と見て取れるが、本機能が優れているのは、ユーザーフォルダー下の各種ファイルを大まかなカテゴリーで取捨選択できる点だ。
例えば撮りためた画像ファイルや動画ファイルだけをクラウドアーカイブすれば、ローカルストレージの空き容量を大きく確保できるため、ストレージ容量の増設が難しいタブレットや2 in 1 PCを使っているユーザーには便利な機能となるだろう。
アーカイブしたデータはエクスプローラーからそのままアクセス可能だが、Web管理画面からも参照できる。ただし、一度アーカイブしたファイルを一括して元のストレージに戻すような機能は用意されていない。
さて、このように「Acronis True Image Cloud」は多くの機能をクラウドと連動させているが、ここでエディション形態を確認しよう。「Acronis True Image Cloud」は1PC/3モバイルデバイス、3PC/10モバイルデバイス、5PC/15モバイルデバイスの3種類を用意しているが、家族のモバイルデバイスを管理する場合は家族構成に応じて選択する必要がある。1PCは9,980円/年、3PCは15,980円/年、5PCは19,980円/年と1年更新のサブスクリプションモデルのため、他のバックアップツールと比べると金銭的負担が少なくないが、無制限のオンラインストレージが付属することを踏まえると決して"高い"とは言えないだろう。
それでもローカルバックアップも大事
クラウドを使ったバックアップの優位性はご理解頂けたと思うが、それでも"手元にバックアップデータを残したい"と考える方もおられるだろう。そこで、クラウドバックアップと同じ環境にExpressCard/54 USB 3.0増設カードを増設し、外付けUSB 3.0 HDDに対してバックアップに必要な時間を測定した。実際にバックアップ機能を利用するシーンを想定し、こちらのパフォーマンス設定は優先順位を「低」を選択している。
今回は比較対象として、Nagatsuki氏のバックアップソフト「BunBackup」64bit版v4.2も使わせて頂いた。ご承知のとおり「BunBackup」は事前に作成したファイル情報を元にフォルダー単位でバックアップを作成するツールのため、比較対象として適切ではないが、あくまでも参考値としてほしい。また、クラウドバックアップと同じく3回のバックアップ操作を行った結果を掲示している。
Acronis True Image Backup Archiveファイル(tib形式ファイル)はさすがに結構な時間を要するが、ファイル単位のバックアップは約6分の1の速度で完了した。具体的なロジックまでは確認できないが、バックアップ処理に対する最適化が功を奏しているのだろう。
そのほか最新版では、以前から好評ながらも前バージョンで廃止した“Try&Decide”機能も復活している。Try&Decide機能を使えば、システムへ影響する変更をサンドボックス上で試し、結果を確認した上で実際のシステムへ変更を適用可能。新たなアプリケーションやデバイスドライバーをテストし、OSを以前の状態に戻せる同機能を多用してきたユーザーには朗報である。
このように「Acronis True Image Cloud」は自社クラウドサービスと連動したバックアップ・復元環境を備えつつも、ローカルストレージに対するバックアップ機能も充実している。現在使用中のPC環境をWindows 10へアップグレードする予定の方は、ハードウェアの寿命も鑑みて事前にバックアップを作成するのが安全だが、その際も「Acronis True Image Cloud」は大いに役立つだろう。
[制作協力:アクロニス・ジャパン]