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「クリスタ」は画像生成AI搭載を中止 ~ユーザーからの反対意見を尊重【12月6日追記】

「画像生成AIパレット」を実装しないv1.13.0無償アップデーターが公開

同社のリリースページ

 (株)セルシスは12月2日、定番ペイントソフト「CLIP STUDIO PAINT」(クリスタ)に画像生成AI機能を搭載しない方針を明らかにした。

 事の発端は11月29日、同社がv1.13.0(12月6日公開予定)に「画像生成AIパレット」を試験実装すると発表してことだ。「画像生成AIパレット」には「Stable Diffusion」に基づく画像AIが使われており、プロンプト(AIへの指示)をもとにイラストの背景や簡単なデザインに使える画像を生成できる。

 同社は創作活動をより身近にしたいという考えをもと、「CLIP STUDIO PAINT」に自動彩色、ポーズスキャナーといったAI機能を活用しており、「画像生成AIパレット」もその延長線上にあるといえるだろう。

 しかしその一方で、AIによる画像の生成はこれまでのAI機能とは同一に語れない部分もある。とくに学習に利用している素材の著作権を侵害しているのではないかという指摘に関しては、その是非やありうるべき姿についてさまざまな点から議論が行われているさなかであり、まだ社会的なコンセンサスが得られていない状況にある。

 こうした点に関しては同社も懸念しており、「画像生成AIが創作活動とどのように共存できるのか、またセルシスはこの新しい技術にどのようにアプローチしていくべきなのか」を問うために試験実装の告知という形で「画像生成AIパレット」を公表した。「ユーザーの皆様が画像生成AIを自由に使える形で提供した上で、ユーザーの皆様とのコミュニケーションを通じて検討を行いたい」との考えからだ。

 ところが、こうした同社の思惑を超え、公開前から以下のような批判的な意見が多く寄せられたという。

  • 現状の方式の画像生成AIが、著作権を侵害していなくとも、誰かの著作物を利用して画像が生成されており、その由来が不明であるアプリは使いたくない。
  • アーティストの為のツールを名乗っているが、画像生成AI機能はむしろアーティストを苦境に追い込み、その活動を阻害する。
  • 倫理的に問題がない方法で収集されたデータを利用していないのであれば、使えない。
  • CLIP STUDIO PAINTを使っただけで、画像生成AIで作ったと疑われてしまう。
  • なぜ要望が多い機能の改善に取り組まずに、問題視されている機能を追加するのか理解できない。
  • 信用できない機能が搭載されている道具は、創作のパートナーとして受け入れられない。
  • 他者の権利が侵害される可能性のある画像が生成され得る機能を提供しておいて、そうならないよう自身で気をつけてほしい、というセルシスのスタンスは無責任だ。

 そのため、同社は「CLIP STUDIO PAINT」に「画像生成AIパレット」を試験実装することを取りやめることにしたとのこと。とはいえ、こうした機能を実装するペイントソフトが他にあらわれることは避けられない。イラストレーターとAIの関係がこれからどうなるか、「CLIP STUDIO PAINT」がそのなかで支持され続けるのか、あるいは他のソフトに取って代わられてしまうのか。今後の成り行きに注目したい。

[2022年12月6日編集部追記] 12月6日付で「CLIP STUDIO PAINT」v1.13.0の無償アップデーターが公開された。告知通り、「画像生成AIパレット」は非搭載となっている。