石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
「ディアブロ IV」待望のシーズン1、イマイチ盛り上がらないのはなぜ?
オープンワールド化にともなうレベル調整機能の功罪
2023年9月15日 11:00
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。
「ディアブロ IV」でもシーズン制がスタート
6月6日の発売から3カ月が経過したハック&スラッシュのシリーズ最新作「ディアブロ IV」。前作の発売からおよそ11年後の登場となった本作があれば、今年はずっと遊べると思っていた人も多いのではないかと思う。
本作は前作に引き続き、シーズン制を採用している。シーズンとは、一定の期間を設けて開催されるゲーム内イベントで、プレイするにはそのシーズン用のキャラクターを作成する必要がある。つまりシーズン開始と同時に全員がほぼ最初からゲームを再スタートするというものだ。
「何でわざわざ最初から?」と思うだろうが、シーズンにはオリジナルのストーリーが追加されたシーズンクエストや、新たなアイテム、モンスターの追加など新要素が入る。シーズンが終了するとシーズンキャラクターはエターナル(通常枠)キャラクターとなり、無駄になるわけではない。
シーズンは新要素をいち早くプレイできるのがシステム的な注目点だが、それ以上に重要なのはキャラクターを1から育て直すことだ。ハック&スラッシュは、とにかく敵を倒してより強い装備品を集めるゲームだが、突き詰めていくと最高効率のプレイを繰り返す作業的なゲームになってしまう。
シーズンの仕切り直しをきっかけに、別のクラスやスキルを試せる機会が得られ、結果的にゲームを長く、余すことなく楽しめる。またハック&スラッシュの面白さは装備の強化にあるので、最初からやればまた新しい装備を得る楽しみが味わえる。これが意外と重要だ。
シーズン1が始まったが、何だか盛り上がりに欠ける?
そして本作では、発売から1カ月半が経過した7月21日から、シーズン1「厄災のマリグナント」がスタートした。装備に能力を付加する宝石のように使える「マリグナントの心臓」が追加されたほか、装飾アイテムがもらえる「シーズン・ジャーニー」など、シーズン限定の要素がいくつも用意されている。
発売から1カ月半でのシーズン開始はちょっと早いかなと思ったが、エターナルでレベル100の天井に達したプレイヤーも見受けられ、最初のコンテンツ追加のタイミングとしては悪くなかったように思う。
そしてさらに1カ月半ほどが経過した現在、筆者の周囲を見ていると、どうもプレイヤーの熱意が大きく下がったように感じている。発売から3カ月も経てば同じように熱狂していられないだろうとは思うが、まとう空気が否定的で、「このゲームはもういいや」というニュアンスを感じる。発売直後は相当な盛り上がりを見せていただけに、落差がかなり大きい。
筆者はのんびりプレイしていて、シーズン開始前のエターナルでレベル50、シーズン1では現在レベル65。周囲から漏れ聞こえる、本作の何が気に入らないかということが、ちょっとずつ実感を伴ってきたところだ。
オープンワールドでも楽しく遊べるレベル補正が生んだもの
本作はシリーズで初めて、オープンワールドの仕組みを採用した。他のプレイヤーと共存する世界、すなわちMMOっぽいオンラインゲームになった。実際には全てのプレイヤーが1つの世界を共有しているわけではないが、冒険中に他のプレイヤーとすれ違ったり、ボス級の敵に共闘したりといったことが起こる。
この仕組みを本作にそのまま導入すると、レベルの高い(あるいは装備が強力な)プレイヤーが全ての敵をなぎ倒していく、ということになりかねない。そこで本作では、敵の強さをプレイヤーのレベルに合わせて補正している。同じ敵と戦っているように見えて、実はプレイヤーによって敵のレベルが異なるという仕組みだ。
このおかげで多くのプレイヤーが入り混じる状況でも、特定のプレイヤーだけが突出して強いということは起きにくく、多人数によるボス戦ではそこそこバランスのいい戦いができるようになっている。また高レベルのキャラクターが低レベルのキャラクターに同行して強い敵を倒して回ることで、低レベルのキャラクターを一気に成長させる、いわゆるパワーレベリングを防ぐ機能として働いている。
これ自体はオープンワールド化しつつもプレイヤー間のバランスを維持し、良好なプレイ感を作り出すことに成功していると思う。もちろん装備や選んだスキル、腕前の差はあるので、みんなが同じ強さになるわけではないが、破綻しない枠内でうまくまとめている。
しかし、このレベル補正には弊害があるようだ。特定の状況で出現する自分より高いレベルの敵と戦う場面では、レベル補正がプレイヤーの弱体化に働いてしまう。装備やスキルを整えることでいくら強化しても、レベル補正で差がついてしまうので、装備よりもレベルの方が重要ということになってしまう。
装備品も高レベルの敵ほどいいものを落とすが、高レベルの敵を倒すにはレベルが重要なので、ひとまずレベル上げに注力せねばならない。装備を更新して強化していくのがハック&スラッシュの面白さだったはずが、経験値を稼いでレベルを上げる方が重要で、楽しさが削がれている。
特にレベル50を過ぎると、レベルアップしても新たなスキルを覚える仕掛けがなくなり、別の成長要素に切り替わるため、ビルド(スキルと装備の組み合わせ)の要素も激減してレベル上げの日々が始まる。レベル60辺りで飽きてやめる人が多いと聞いていたが、なるほどこれが原因かと筆者も納得した。
飽きさせない仕組みが複数用意されているが、問題はそこではなかった
だが開発者側はこの点を見越しているように思う。レベル50を過ぎると開放される仕組みがいくつもあり、ゲームが単調にならないようにする配慮が感じられるからだ。
ざっと挙げていくと、使った鍵によって難易度が変わる「ナイトメアダンジョン」、各地に時間限定で出現するミッションを達成していく「囁きの木」、特定エリアのモンスターを倒すと得られるアイテムを拾って宝箱を開ける「ヘルタイド」。また多人数のプレイヤーで挑む巨大な敵「ワールドボス」も出現する。
そしてこれらの全ての仕組みで、達成後にボーナス経験値と装備品が得られる。つまり何をやってもレベルは上がるし、装備品も拾える。自分が好きな遊び方でレベルを上げつつ、適度に装備も更新できるようになっている。また1つ1つのプレイ時間も数分から数十分程度なので、次々に切り替えて遊べる。
遊びの種類をいくつも用意することで、プレイヤーを飽きさせない仕組みは確かにある。そこは評価したいところなのだが、実際にプレイしてみると、結局のところ、どれも敵をなぎ倒して報酬を得るという流れには違いなく、どうしても作業感が否めない。
筆者の実際のプレイでは、いずれかの要素で装備品がいくつも手に入るが、レア度の低い装備品は全て処分。比較的レア度が高いレジェンダリー装備は性能をチェックするが、ほとんどの装備は処分。最上級のユニーク装備はごく稀にしか出ないし、出ても能力次第でお蔵入りになるものも多い。
厳密に言えば、レジェンダリー装備も厳選したり、他の装備と組み合わせたりすることで力を発揮するものもあるはずだが、厳選する時間があるなら経験値を稼ぎに行った方がいい。なので明らかに優秀なアイテム以外はさっさと処分してしまう。
ということで、装備の更新やビルドの楽しみがほとんど失われており、ただレベルを上げるだけのゲームと化している。筆者のようにちょこちょこ遊ぶ程度なら、ゲーム自体の面白さやレベリングの楽しさも見いだせるのだが、毎日何時間も熱心にプレイするとなると、飽きは早いかもしれない。
今がダメでもいずれ復活するはず。前作がそうだったように
ただ、筆者自身が本作を気に入らないかというと、決してそんなことはない。筆者はシリーズ作品の中では、前作の「III」が一番好きという、おそらくファンの中では異端の存在だと思う。前作はシーズン制を導入したことで、数カ月おきにリフレッシュした気分で、ちょっとずつ遊ぶのがとても楽しかった。
それに発売当初の混乱度合いで言えば、前作「III」の時の方がはるかに酷かった。装備品をプレイヤー間で売買できる「オークションハウス」を設けたことでゲームバランスが崩壊し、一部のトッププレイヤー以外はハック&スラッシュの楽しさをほぼ奪われてしまった。なお「オークションハウス」は導入から2年足らずで閉鎖された。
「III」はそこからシーズン制を導入し、ゲームのプレイスタイルを一新。ハック&スラッシュの楽しさをしっかり味わえる良作に返り咲いた。「ディアブロ IV」もその失敗を教訓にしつつ、それ以上に楽しめる仕掛けを盛り込もうとした結果、オープンワールドとレベル補正を導入したのだろう。
現時点でそれが成功しているとは言いがたい状況ではあるが、開発側もこの仕組みを一生続けるつもりはないはずだ。実際に発売してからも度重なるバージョンアップを続けている。多くのクラスを一斉に弱体化したりして多いに反感を買ったりもしたが(今後はもうやらないと明言している)、この先何年もかけて改善は続けられるだろう。今のところは経験値をより稼ぎやすくするという方向の調整が見られる。
もし今はいったんプレイを止めても、また1年後にでも思い出して遊んでもらえればいいのではないかと思う。本作はきっとまた新しい面白さを導き出してくれるに違いない。もっとも筆者は今でもそこそこに楽しんでいるので、今のところはゲームは1日1時間くらいのつもりで遊ぶのがいいのかもしれない。
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/