石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

ゲーミングPCってどんなPCなんだ? ~CPUの進化とゲームの多様化で揺らぐ定義

PCをゲーム目的で購入するときの判断材料を考える

現在のゲーミングPCの定義を考える

筆者の自作ゲーミングPC(組み立て途中)

 新生活を始めるにあたり、ゲーミングPCを買おうかと思っている方もいらっしゃるだろう。そんな方に質問なのだが、「ゲーミングPCって何?」と問われたら、何と答えるだろうか?

 時々耳にする話として、とにかく高性能なPCが欲しいと言って、ハイエンドゲーミングPCを購入する人がいる。筆者としては「もったいない買い物をするなあ」と思ってしまう。おそらく性能には満足していると思うが、無駄になっている部分もある。

 そして最近はゲーミングPCを名乗る製品も幅広くあり、定義もかなり曖昧になっているように感じる。ゲーミングPCとは何なのか、今改めて考えてみよう。

ディスクリートGPUを搭載しないゲーミングPCとは?

 PCゲームをたしなむ方であれば、ゲーミングPCは「3Dゲームを快適に動かせるPC」と答えるだろう。数年前までは、ビデオカードやディスクリート(外付け)GPUを搭載していることがゲーミングPCの定義であった。

 とにかく高性能なPCが欲しいからとハイエンドゲーミングPCを買うと、CPUやストレージが高性能なものになるのは確か。しかし高性能なディスクリートGPUを使う機会はそう多くない。PCゲーム以外だと、最近だと生成AIに使えるものの、なかなか一般用途では使い道がない。ゆえに高価なディスクリートGPUは無駄になってしまう。やはりゲーミングPCはゲームのためのものだ。

 しかし最近はディスクリートGPUを搭載していないのにゲーミングPCを名乗る製品がある。例えばパソコン工房のゲーミングPCブランド「LEVEL∞」を見ると、ディスクリートGPUを搭載していないのに、ゲーミングPCとして売られている製品がある。

パソコン工房「LEVEL∞」ブランドのゲーミングノートPC

 これはCPU内蔵のグラフィックス機能が高性能化したのが要因だ。CPUの世代が進むと同時に内蔵グラフィックスの性能も強化され、3D描画性能もどんどん高まっている。軽めの3Dゲームなら動作可能になり、もうゲーミング用途にも耐えうるという判断なのだろう。

 ただPCゲーマーの中には「こんな製品をゲーミングPCと呼ぶな」と言いたい方も多いはず。ではこちらはどうだろう?

ポータブルゲーミングPC「ROG Ally」

 ASUSのポータブルゲーミングPC「ROG Ally」は、小型筐体ながらWindows 11を搭載したれっきとしたPCである。7インチフルHDのディスプレイはリフレッシュレート120Hzに対応。CPUはAMDのRyzen 7 7840UのAIエンジンを省いたとされるRyzen Z1 Extremeを搭載する。

 しかしディスクリートGPUは搭載せず、グラフィックス機能はCPUに内蔵されたRadeonグラフィックスを使っている。本機に限らず、最近流行のポータブルゲーミングPCはほぼ全てCPU内蔵のグラフィックス機能を用いている。

 果たしてポータブルゲーミングPCはゲーミングPCではないのだろうか? 「ポータブルゲーミングPCと普通のゲーミングPCを一緒にするな」という考え方もあるだろうが、ゲーミングPCではないと言うのはいささか乱暴に感じる。筐体の形状からも、ゲーム用途に作られた製品であることは明らかだ。

 PCのハードウェアの進化により、PCゲームに必ずしもディスクリートGPUが必要ではないという判断をする製品やメーカーが増えてきている。またゲーム用のストレージがHDDからSSDに移り、小型化・高速化したことも、ゲーミングPCの解釈を広げる一因になっている。

長寿タイトルや2Dゲーム、eスポーツなどで動作が軽いゲームが増えた

 さらにソフトウェアであるゲームの方も変わってきている。PCゲームといえば、コンシューマゲームよりもリッチなグラフィックスを採用した最先端のゲームというイメージが強かった。光の反射を計算してより映像をリアルに見せるレイトレーシング機能を用いるなどして、美麗な3Dグラフィックスを実現したゲームも存在する。特にPC向けの最新ビッグタイトルはその傾向が強い。

アップデートでレイトレーシングに対応した「Diablo IV」

 しかし、最近はそんなタイトルばかりでもない。高度なゲームエンジンの採用により、PCとコンシューマゲームのマルチプラットフォーム展開を同時に行うタイトルもかなり多くなってきた。

 「最新のヘビーな3DゲームをプレイできてこそゲーミングPCだ」と言うなら、その時点で最新かつハイエンドなゲーミングPCが必要になることもある。しかし意地悪な反論をするなら、ゲーム側の映像品質を最高設定にしたり、解像度を極めて高いものにすれば、その時点でのハイエンドゲーミングPCでも快適には動作しないゲームはよくある。

 ミドルクラス以下のGPUを搭載したPCはゲーミングPCと呼ばない、というのはありえないだろう。最新の超ヘビーなゲームでなければ、あるいは極端に高画質な設定にしなければ、十分快適に動作するゲームは多いはずだ。

 さらに視点を変えよう。現在までに世界で最も売れているゲームは、サンドボックスゲーム「マインクラフト」だ。発売から既に10年以上が経過しているが、今も世界中でプレイされている。もちろんPCゲームとしても大人気だ。

現在も世界中でプレイされている「マインクラフト」

 では「マインクラフト」を快適に遊べるPCなら、ゲーミングPCと呼んでもいいのだろうか? 本作のうち、Bedrock版(統合版)で公式に最適とされるスペックは、CPUにCore i7-6500UまたはAMD A8-6600K、GPUにGeForce 940MまたはRadeon HD 8570Dとなっている。このCPUやGPUはかなり古いもので、今や入手も難しい。そして今ある一般的な(ゲーミングPCではない)PCはそれより高性能だ。

 つまり、現時点で市販されているPCなら、ほぼ間違いなく「マインクラフト」を快適に遊べる。世界で一番人気のゲームが遊べるPCは、今やどこにでもあるわけだ。同様に長寿の人気ゲームは他にも多数あり、それらも徐々にCPU内蔵グラフィックスで動作するようになっていく。

 ほかにも要求スペックが低いゲームはある。わかりやすいところでは、3Dグラフィックスを使用しない2Dベースのゲームは、ゲーミングPCでなくとも概ね軽快に動作する。例えば2Dグラフィックスによるリメイク作品「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」は、推奨スペックのCPUがCore i3-3225と相当古いもので、GPUに至ってはCPU内蔵グラフィックスが指定されている。

2Dでリメイクされた「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」

 さらにはeスポーツの影響もある。FPS「VALORANT」は低スペックのPCでも高いフレームレートが出ることで知られている。eスポーツでは一部のトッププロが競うだけではなく、プレイヤー人口を増やすことも大切だ。そのためにゲームの動作を極力軽くし、どんなPCでも遊べるようにするというアプローチは理にかなっている。

eスポーツタイトルとして人気の「Valorant」は、とにかく動作が軽量なのも魅力

 このようにゲーム側の変化によって、PCゲームをプレイするのに必ずしも高性能なゲーミングPCが必要とは限らなくなってきた。

ゲーミングPCを定義することに意味はなくなった

 「ゲーミングPCとは何か」という定義は、ハードウェアの進化とゲームの変化によって、とても曖昧になってきた。ではゲーミングPCが欲しいという方はどのように商品を選べばいいのか。

 まず重要なことは、自分が遊びたいゲームが何かを考えることだ。ほとんどのPCゲームには、動作環境や推奨環境としてスペックが書かれている。快適にプレイしたいのであれば、推奨環境とされるものを満たすか、上回るようにすれば安心だ。

 ただし、3Dゲームはプレイする解像度によって処理負荷が大きく変わる。一般的なPCゲームの基準は今のところフルHD(1,920×1,080ドット)だが、最近はWQHD(2,560×1,440ドット)の人気が出てきている。さらに4K(3,840×2,160ドット)も一般的に使われるようになってきた。

 解像度が高くなるほど、GPUの処理負荷は上がる。筆者の感覚では、WQHDでプレイするなら1ランク、4Kなら2ランクは上のGPUを搭載したゲーミングPCを選ぶのがいい。またリフレッシュレートも一般的な60Hzではなく、120Hzや240Hzといった高リフレッシュレートでプレイするなら、やはりGPUのランクを上げる必要がある。

「Cities: Skylines II」は高解像度で遊びたい作品だが、解像度を上げれば負荷も格段に増す

 GPUのランクは、ざっくり言えば型番の数字が大きい物、あるいは単体のビデオカード製品で比較して価格がより高価なものでいい。またGPUの世代が進むと、性能は1ランク上がるくらいのイメージでいるといい。この話だけで記事が1本できてしまうほど長くなるので、申し訳ないが今回は省略させていただく。

 特に遊びたいゲームが決まっていないとか、将来出るであろうビッグタイトルもなるべく遊びたいということなら、やはりなるべく高性能なゲーミングPCを選ぶ方がいい。特にGPUが高性能であることに比重を置く(GPUになるべくお金をかける)ことを考えると、先々の幸福度は上がる。

 もし「マインクラフト」を快適に遊びたいというのであれば、わざわざ高価なゲーミングPCを用意する必要はなく、現在市販されているPCならほぼどれでも問題ない(高性能なGPUなら遠方まで見渡せるというメリットはある)。本作に限らず、とにかく遊びたいゲームの要求スペックを満たせるかどうかを考えるのが大切だ。

 たとえゲーミングPCの定義が曖昧でも、PCの知識があれば何ら困ることはない。とはいえ、ただゲームを遊びたいだけの人に「まずPCの勉強をしてください」と言うのも酷だ。そんな方に向けて、「とりあえずこれを買っておけば大抵のゲームは遊べますよ」と言えるのがゲーミングPCの価値なのかな、とも思う。

 「ゲーミングPCとは何か」という定義は、もはやあってないようなものになった。売り手側が「これはゲーミングPCだ」と言えばゲーミングPCになる、という状態なのだ。そこに惑わされることなく、製品スペックをできるだけよく見て、自分に必要なマシンを入手していただきたい。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』 記事一覧

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。