石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

夏のゲーミングPCは熱すぎる!「MSI Afterburner」でビデオカードを省電力・低発熱に

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。

PCゲーマーはエコとは無縁……でいいのか?

 残暑どころか猛暑日が続く今年の8月。こんな時は外に出ないで家でゲームを楽しむに限る。超美麗3DゲームのためにゲーミングPCをフル稼働させ、何百ワットという電力を消費し、大量の排熱をエアコンで処理する。PCゲーマーとは、エコの対極にいる存在である。

 ……などと偉そうに言うには、昨今は肩身が狭い。この夏は6月からの猛暑に加え、ウクライナ侵攻によるエネルギー危機、火力発電所の停止、原発再稼働問題など、電力を巡る問題が多重発生している。政府は電力需給ひっ迫注意報なるものを発し、節電ポイント制度を設けるなど対策は迷走しているが、節電を呼びかける声は東日本大震災以来の大きさだ。

 そんな小難しいことは横に置いても、ハイカロリーな熱源になるゲーミングPCは、暑い夏とは相性が悪い。何か熱対策があってもいいと感じる人は多いだろう。そこで今回は、オーバークロックツール「MSI Afterburner」を紹介する。

「MSI Afterburner」で消費電力を半減、性能は8割以上維持

「MSI Afterburner」のメイン画面。複数のスキン(見た目)も用意されている

 「MSI Afterburner」は、ビデオカードのオーバークロックに使われるソフト。ビデオカードを始めとしたPCパーツを扱う台湾のメーカーであるMSIが無料で提供している。MSIと名前は付いているが、他社のビデオカードでも使用可能だ(もちろん自己責任で)。

 ビデオカードに搭載されたGPUやメモリの動作クロック、電圧を調整する機能に加え、出力パワーや温度のリミット設定も可能。さらに「Overclocking scanner」を使用すると、ビデオカードがどこまでオーバークロック可能かを自動で調べて適切に調整してくれる。ビデオカードの性能を簡単かつ適切に引き出せる、大変便利なツールだ。

「Overclocking scanner」で適切なオーバークロックが可能
[Scan]をクリックしてしばらく待つだけ
電圧とクロックの対応グラフでオーバークロックの具合を確認できる。さらに手動調整も可能

 ただ今回の目的はオーバークロックではなく、ダウンクロック。本ツールのパワーリミットを通常の100%から下げることで、消費電力を抑えて発熱を減らすのである。

 使い方は「Power Limit(%)」の項目にあるバーを動かし、リミットとなる値を決めて、適用ボタンを押すだけ。例えばパワーリミットを80%にすれば、それだけで2割の消費電力が削減できるはずだ。

「Power Limit(%)」の値を減らすと、消費電力を減らせる。この状態だとリミット80%、つまり20%削減

 早速、私の環境でテストしてみよう。使用するのはMSI製ビデオカード「GeForce GTX 1080 ARMOR 8G OC」。TDP(熱設計電力)が180WのGPU「GeForce GTX 1080」を搭載した製品だ。ちなみに最新世代の「GeForce RTX 3080」になると、TGP(Total Graphics Power、TDPより数十ワット高くなる計算)は320Wで、我が家はエコだなと錯覚してしまう。

 テスト内容は「MSI Afterburner」でパワーリミットを100%から10%ずつ落としていき、その都度ベンチマークソフト「3DMark」にあるテストの1つ「Time Spy」を実行し、Graphics Scoreを参照(CPU Scoreを考慮しないため)。合わせて「GPU-Z」でGPUの消費電力や温度などの各種データの最大値を確認した。

 今回のテスト環境では、パワーリミットは最低で50%まで設定できたので、計6回の計測となった。

テスト結果
パワーリミットボード消費電力Time Spy: Graphicsクロック温度
100%221.9W(100%)7,776(100%)1,999.5MHz(100%)75.1度
90%202.1W(91%)7,649(98%)1,974.0MHz(99%)71.4度
80%185.8W(84%)7,528(97%)1,923.5MHz(96%)68.6度
70%160.2W(72%)7,267(93%)1,847.5MHz(92%)65.0度
60%137.9W(62%)6,934(89%)1,860.0MHz(93%)61.5度
50%111.0W(50%)6,406(82%)1,657.5MHz(83%)59.4度
※データ内の( )の値は、パワーリミット100%時のデータとの比較

 消費電力は概ね設定どおりに下がっているのがわかる。対して性能の方は、パワーリミットを80%にしても3%前後しか変化がない。その後は落ち幅が大きくはなるものの、パワーリミットが50%まで下がっても20%弱の落ち込みで済んでいる。さらに発熱もパワーリミットの低下に合わせて下がっている。

「GPU-Z」のデータ。パワーリミット100%では最大221.9Wを消費
パワーリミット80%でも、最高クロックの低下は4%程度と僅かに下がった程度
パワーリミット50%では、最高クロックの低下は約17%。消費電力が減ったほどには性能は落ちていない

 パワーリミットの制限による消費電力や性能の変化は、ビデオカードやその他のPCの構成、室温にもよるので、どのくらいに制限するのがいいとは一概には言えない。プレイするゲームの動作具合も考慮して、自分の環境に合う値を探るのがいいだろう。

 私の環境で言えば、普段は50%まで下げても全く不満はない。省電力化すれば発熱が減り、ファンの回転数が下がって騒音が減るので、静音化にも貢献する。もしヘビーなゲームをプレイする際などに性能が足りないと思ったら、その時はまた「MSI Afterburner」を起動して、パワーリミットをいくらか上げてやればいいだけだ。

 余談だが、「MSI Afterburner」に限らず、ゲーミングPCのパフォーマンスのチェックは時折やっておくといい。今回のテストでデータを眺めていると、CPUの性能が全然出ておらず、発熱が異様に高いことに気づいた。原因はCPUクーラーのトラブル。CPUに限らず、ファンは止まってもすぐ気づかないことも多いので、読者の皆様もこの機会に調べてみては?

最初に「Time Spy」を実行した時の無残なデータ。CPUクーラーの異常に気づけてよかった

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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