使ってわかるCopilot+ PC

第32回

NPU対応アプリなのにNPUが使えない? 「Copilot+ PC」の意義は“AIの互換性”にあり

実は意外と動かないNPU対応AIアプリの罠

「Copilot+ PC」のWebサイト

NPU対応ソフトは増えてきてはいるのだが……

 「Copilot+ PC」が何であるかといえば、AI処理用の高性能なNPUを搭載したPCである、ということは多くの方がご存知であろう。より具体的に言えば、40TOPS以上の性能を持つNPUを搭載していることが条件となっている。

 NPUを搭載したCPUは、最初の「Copilot+ PC」に搭載されたQualcomm製のもののほかに、インテルやAMDでも40TOPS以上のNPUを搭載した製品が展開されている。またソフトウェア側でも、NPU対応をうたうソフトが増えてきている。

 本連載でもNPU対応ソフトを積極的に紹介しているのだが、実は結構難しい問題がある。そして、その難しさこそが「Copilot+ PC」の存在意義でもあると感じている。今回はその辺りの話をしていこう。

「Copilot+ PC」なのにNPUが使えないソフトがある

 NPU対応ソフトにおいて難しいことというのは、NPU対応をうたうソフトを筆者の環境で動かしてみても、NPUが使われないことが割と多いという問題。そもそもこれを問題と言っていいかは悩ましいのだが、原因は互換性である。

 当たり前のことだが、NPUはCPUメーカーによって異なる。40TOPS以上のNPUと言っても、各社が同じものを搭載しているわけではない。よって、それぞれのNPUに対応したプログラムを用意する必要がある、というのが基本である。

 筆者が使用している「Copilot+ PC」は、マイクロソフト製の「Surface Laptop」で、CPUはQualcomm製。これにインテルのNPUに対応したソフトを導入しても、NPUを使用してくれないわけだ。ちなみにソフト自体はエミュレーション動作も含めて問題なく動作することがほとんど。それゆえにNPUの対応状況がわかりづらいというのもある。

 NPU対応をうたうソフトも、どのCPUメーカーに対応しているのかがわかりづらいことも多い。説明文に対応するCPU(NPU)が書いていない場合もあれば、OpenVINOといった名前で説明されていることもある。OpenVINOはインテル製品向けのAIアプリ開発ツールなのだが、一般の方にはあまりなじみがない名前だろう。

「Copilot+ PC」ならAIソフトが使える、という未来

「Copilot+ PC」のAI機能の1つである「超解像度」。既に正式リリースされている

 今後もその状況が続くのかというと、おそらくそうはならない。PC業界では過去にも同じようなことが起きている。

 もう30年ほど前になるが、当時はさまざまなメーカーからGPU(という呼び方ではなく、グラフィックアクセラレーターと呼ばれた)が発売されていた。これに対しマイクロソフトは、3Dグラフィックス処理を標準化する「Direct3D」を用意した。これによってユーザーはGPUメーカーの違いを気にすることなく、さまざまなゲームを楽しめるようになった(GPUメーカーの数は格段に減ってしまったが)。

 これと同じことがNPUでも起こるだろう。例えば「DirectML」というものでは、NPUだけでなくGPUも含めて、AI処理を標準化することでAI対応アプリを動かす仕組みだ。これもまだ発展途上だが、いずれはAIの活用を楽にしてくれるだろう。

 「Copilot+ PC」も、これに類する標準化規格だと考えるとわかりやすい。CPUメーカーによって搭載されているNPUは別々だが、「Copilot+ PC」に向けたAIアプリは、どのNPUでも使えるようになる。

 これまで本連載で紹介してきたリコールやライブ キャプションといったAI機能は、全ての「Copilot+ PC」で使えるようになる。ユーザーが気づかないところで、NPUの違いを吸収して同じAI機能を使えるようにしてくれるもの、と考えるとわかりやすい。

 AIアプリは「Copilot+ PC」以外にもさまざまあり、それらはCPUメーカーごとの個別の対応が必要なものもあるわけだが、今後は「Copilot+ PC」なり「DirectML」なりといった枠組みでもって扱いやすくなっていく。AI対応アプリを使いたかったら「Copilot+ PC」を買ってね、という未来が近いうちにやってくるはずだ。

 ……というのは筆者の期待も込めていて、それがいつになるのかはまだわからない。まずはインテルやAMDのCPUを搭載した製品に「Copilot+ PC」対応アップデートがやってくるのがスタートラインとなるだろう。

インテル/AMD製CPUを搭載した製品への「Copilot+ PC」対応アップデートは遅れているようだ。新たな発表を待ちたい
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/