やじうまの杜
「AIが人間のクリエイティブを乗っ取る世界とは考えていない」 ヨコオタロウ氏がゲーム制作におけるAIを語る
AIの存在にヨコオ節炸裂! “予想外にインストールが……”
2024年10月2日 17:00
“やじうまの杜”では、ニュース・レビューにこだわらない幅広い話題をお伝えします。
「東京ゲームショウ2024(TGS2024)」の2日目、9月27日にインテルブースで「ヨコオタロウから学ぶ未来のゲーム作り with 夢川閔巳 Supported by GCG」が開催されました。本記事ではそのトークイベントの内容を会話形式でお伝えします。
このイベントは、「ドラッグ オン ドラグーン」シリーズ、「NieR」シリーズ、「SINoALICE」などで知られるゲームクリエイターのヨコオタロウ氏が登壇し、MCの夢川閔巳-ゆめかわみんみ-氏の進行で、ゲーム制作におけるAIの可能性について語るというものでした。
トークイベントでは、脳波でシナリオをかける時代が来るかという質問に、その時代までシナリオというフォーマットが残っているかどうか、とコンテンツの未来の形が語られました。また、AIのテクノロジーは実は進歩していないという切り口から、どう向き合えばクリエイティブでAIの魅力が発揮できるかという、クリエイター視点での今のAIに対する発見もありました。
今回は、ヨコオ氏の独特なトークはファンにとって重要だと思うので、冒頭のやりとりも一部ご紹介します。本題の、クリエイター視点でAIをどう捉えているかという内容をすぐ読みたい方は[AIに関してどう思うか]まで飛ばしていただいても大丈夫です。
冒頭はヨコオ氏のユーモアなトークが会場の笑いを誘いました
ヨコオタロウ氏はイベントなどに出演する際、「NieR」シリーズに登場する「エミール」というキャラクターの頭部を模したマスクを着用しています。今回もその「エミールマスク」がヨコオタロウ氏としてテーブルに置かれ、イベントがスタートしました。
ヨコオ氏:僕の顔は皆さん、お客様から見えますかね。低くないですか。そこの高そうなPCの上に置いたらいいんじゃないですか(笑)。
夢川氏:あ、そうしますね。高そうな。黒い方ですか。
ヨコオ氏:そう黒い方です。――今、それ、足を引っ掛けてそのPC倒してほしいな。
夢川氏:わかりました(笑)。
ヨコオ氏:はい、皆さんこんにちは。よろしくお願いします。すごいいきなり台本を無視した進行し始めましたが。
このあとも押せないので頑張りましょうと夢川氏が返し、本題へ。
未来のゲーム作りについて~フリートーク~
夢川氏:ここからは、ヨコオタロウさんに未来のゲーム作りについてお話していただきましょう。じゃあ、喋ってください。
ヨコオ氏:これ、多くのクリエイターの刺激になりたいって書いてありますけど、主催の人が書いただけで俺は別に思ってない。
夢川氏:僕もそう思ったんですけど、台本に書いてあったので読んだんですよ。
ヨコオ氏:何の刺激にもならずに、あの、忘れ去られたいと思ってます。
夢川氏:ヨコオさん、そんな人のために動く感じじゃないですもんね。
ヨコオ氏:そうですね、自分のため自欲のために動いてます。
夢川氏:はい、ここは訂正しておきます。じゃあ、未来のゲーム作りについてお話していただきましょうということですが、こちらフリートークですね。
ヨコオ氏:これなんか、AIって書いてあって、俺の予想だとインテルさんはAIっていいよねっていう方向の話をした方がいいと思うんですよね。でも、その場に俺を呼ぶのは間違ってるんですよ。
夢川氏:お、AIへの批判意見がありますか?
ヨコオ氏:そうですね、批判意見というか、何か褒めることに僕は向いてないので。ひどいことを言いかねないなと思ってこの場に来ました。
ここでヨコオ氏が「僕、正面向きたいです」と、位置調整タイム。
ここでは伝えきれないのですが、ヨコオタロウ氏の軽快で独特なトークで、終始楽しい雰囲気のイベントでした。ここからは本題の、AIに関してのトークが繰り広げられます。
AIに関してどう思うか
ヨコオ氏:いや、どう思うかはないんですよね。テクノロジーなので、現れたなっていう感じで。別に好きとか嫌いとかなくて、そういう技術が来たんだというふうに思ってます。
夢川氏:あ、終わりですか?
ヨコオ氏:終わりです(笑)。
夢川氏:別に良いとも思ってないし悪いとも思ってないという。
ヨコオ氏:そうですね。車と一緒でいろんな用途に使えるなっていうだけですね。
未来のゲーム作りについて
夢川氏:未来のゲーム作り。ゲーム業界、これからどう変わっていくと思うとか何かあれば。
ヨコオ氏:僕いろんなところで言ってるんですけれど、AIとかコンピュータの向上によって、いずれクリエイターっていう商売はなくなると思ってたんですよ。基本的にお客様が自分で作りたいものを作れる時代がやってくるなっていうふうに考えてるんですね。で、その結果、何かを作って、著作権でお金を儲けるっていう時代は、あと何年かしたら終わるんじゃないかなっていうふうに思ってます。
夢川氏:全部が全部なくなるとは到底思えないですけど、徐々になくなっていくってことなんですかね。
ヨコオ氏:そうですね。まあ実際、今、あんまり名前を出さなくていい、出してないような場所って、どんどんAIに置き換わってて。例えば、アダルトゲームのDLゲームとか、もうすごい勢いでAIに置き換わってるんですよ。
夢川氏:確かに。そうですね。
ヨコオ氏:置き換わってないのって何かっていうと、割と名前を出してて、企業やクリエイターがそうやって守られてる環境においては、「AIを使っちゃ駄目だよね」みたいなコンセンサスがあるんです。そうじゃないところからどんどん、そういうものは駆逐されていく気がします。
ヨコオタロウ氏は今、AIの下僕かどうか
2018年11月23日にヨコオ氏がXで「10年後くらいに僕はAIの下僕として労働してるんですよ。きっと。」と投稿してから6年経った今、AIの下僕として労働してるかという質問には、以下のように回答しました。
もうしばらくしたらAIが書いたシナリオが使い物になると思うんですよ。ただ、AIの作ったモノは既存の最大公約数になるので、どうしても刺激に欠ける。そういう時にですね、変化球投手が調教師として必要になるわけで。で、10年後くらいに僕はAIの下僕として労働してるんですよ。きっと。
— yokotaro (@yokotaro)November 22, 2018
ヨコオ氏:これちょっと予想外だったんですけど。AIのインストールがですね、意外と面倒くさくて、僕まだやってないんですよ(笑)。
夢川氏:なるほど(笑)。
ヨコオ氏:仕事が忙しいと、AIを使う、準備する時間も取れない。だから、その準備からやって欲しいなっていうのが、今の俺のAIに対するリクエストです。
夢川氏:インストールが面倒くさいんですか?
ヨコオ氏:やっぱり環境整備とか、どうやって使うかっていうラーニングに時間かかるじゃないですか。そういうのを全部やってほしい。もうなんか、どこに何を入れて、どこのプロンプトに何を入れるとかすごい面倒くさい。
夢川氏:じゃあ、まだ下僕にはなってないってことですね。
ヨコオ氏:そうですね。若い人とか多分、使いこなしてる人がいっぱいいると思うんですけど。実際、論文みたいなものをそれで書いてる人、いっぱいいるし。それをたたき台にして、自分の形を作るっていうことも、よくやってると思います。
夢川氏:使いこなしてるのか、下僕なのかは紙一重ですよね。
ヨコオ氏:そうですね。仕事でメールとか書くじゃないですか。ああいうときの文章とかって、基本的にフォーマットに従って書けばいいんで、何かそこにクリエイティビティとかないから、そういうのこそどんどんAIに書いてもらって置き換わっていくと思うんですよね。
夢川氏:下僕はなりたいとは思われてるんですか?
ヨコオ氏:どうだろう。気づいたら下僕になってるんじゃないすかね。
夢川氏:本当に下僕にはなる未来が見えてるってことですね、ご自身には。
ヨコオ氏:そうですねー、気づいてないところで言うと、似たような例で言うと、例えば車。僕ら自動車が走ってるとこ歩いちゃダメとか言われるじゃないですか。例えば、機械が動いてるところに人間様が歩いちゃダメって言われてますけど、どっちが偉いんだろうっていうそういう感覚になりますよね。
夢川氏:確かにそうですね。まあ、人間が作った機械ですけど(という)。
ヨコオ氏:そうです。システムにだんだん我々が抑制されてくるというのは、必然なのかなという気はします。
AIとクリエイティブ
ヨコオ氏:皆さんが思う、AIが人間のクリエイティブを乗っ取るっていう世界とは考えてなくて。どちらかというと、人間がAIのアシストを受けて、いろんな人がいろんなものを作れるようになる世界が来るっていう。だから、クリエイティブの作品としては、世の中もっと増える気がします。
夢川氏:じゃあ、AIはやっぱり否定的な意見ではないんですね。
ヨコオ氏:どうですかね。僕は商売敵が増えるんで、その状態が良しかどうかはまた別の話ですね。
夢川氏:いずれAIにヨコオワールドを読み解いてもらって、ヨコオさんの、なんか”NieR 3”みたいな作品書いてって言ったら、割とできちゃうみたいな時代が来てしまうんですかね。
ヨコオ氏:いや全然来るんじゃないですか。実際だって僕、クリエイティブディレクターだから、ゲーム作るときって、若い人にこういうのを作ってとかこういうのを書いてってお願いして、アウトプットを並べてるだけなんで。AIに依頼してるのと、相手が人間かAIかの違いがあるだけで、僕がやってること変わらないんですよ。
最後に、ヨコオ氏は「どうなるかよくわからないけど、仕事としては僕はなくなるんだろうな」という発言に対して、夢川氏は「ヨコオさんの仕事がなくなってしまったら、もうこの業界は終わりだと僕は思ってますので」「ヨコオワールド大好きなので」と、「未来のゲーム作りについて」のコーナーを締めくくりました。
ヨコオタロウ氏への質問コーナー
夢川氏:1つ目は、AIはどのような存在?
ヨコオ氏:道具なので、良くも悪くもないという。使う人次第だなって。
夢川氏:続いて、既にゲーム開発やイメージ作成で使用されている部分は何かありますか?
ヨコオ氏:実際に、僕自身がシナリオで使うのは、さっき言ったようにインストールが難しくて、まだやれてないんですけど。AIに関連したお仕事自体は、ちょっと始めたんですが、今ちょっと中止になってます。うまくいかなかった。いろいろあって。
「脳波でシナリオをかける時代が本当に来ると思いますか?」という質問には?
ヨコオ氏:脳波でシナリオを書ける時代というよりは、その時代までシナリオっていうフォーマットが生き残ってるかどうか、ちょっとよくわかんないなと思う。お客様が見てる画面とかに応じて、お客様の反応を見て、コンテンツが変化するっていう未来が必ず来ると思ってます。それが脳波なのか表情なのか何かっていうのは、細かくはわからないです。例えば、もうちょっとこうなって欲しいとか、もうちょっとこういうふうに、この役者さんもちょっと出番増やして欲しいと思ったら、それに応じて映像とかがその役者さんの出番を増やすとか、そういうことはどんどん生まれてくると思います。
夢川氏:ヨコオさん的には脳波でシナリオを書きたいと今はもう思われてますか?
ヨコオ氏:どうだろう。結局、手で打っても脳波で書いてても同じだけ時間が奪われるんで、どっちでも構わないんですよ。
夢川氏:腱鞘炎にはなりにくいんじゃないすか。
ヨコオ氏:そうですね、多分楽な方をとると思うんですよ。
夢川氏:考えたものを手でアウトプットしてるってことなんで、たぶん脳波の方が楽なんじゃないですかね。
ヨコオ氏:たぶん車に乗りながら文章とか書けるのかもしれないなと。ただ誤字とか出てきたときに、画面に。一文字戻ってそれ直してって口で言うのは死ぬほど大変なんで、どうやって脳波で作るのか、難易度が高いなと思いますけど。
夢川氏:たぶん頭の中で、一文字戻ってそれを「あ」に打ち変えてって思うんじゃないですかね。たぶん(笑)。
ヨコオ氏:うまくいかなくて「最悪だよ」って頭で思ったら「最悪だよ」って画面に出る(笑)。
このあと、夢川氏の「脳波、大変じゃないですか」「まだ不便ですね」に対し、ヨコオ氏は「脳波は別に万能なものではないので」と返し、続きます。
夢川氏:「あれ。こんなことを思ってなかったのに、これ文章として出てきてる。自分こんなこと思ってたんだ」っていう新たな気づきが出てくる可能性もないですか?
ヨコオ氏:AIを使っててよくあるのが、思った通りの結果が出ないっていうところが、すごく面白いところだなと思うので、そこを使って何かアイディアのヒントにするなっていうことはあり得ると思うんですけども、それもそのうち人間がアイディアのヒントにしようと思う時代を過ぎて、AIがAI自身でアイディアをどんどん生み出す時代が来ると思いますけども。
夢川氏:思い通りにならないことをストレスと感じないところがいいところですね。
ヨコオ氏:結局、何がエンタメとして商品になるかっていうのは、お客様が決めることなので、お客様自身で決めていけるっていうのが、一番理想的な未来なんじゃないですか。
夢川氏:すごいポジティブですね。僕、ヨコオさんご自身の魅力は、ネガティブすぎることだと思ってるんですよ。なのにすごくポジティブなことをおっしゃっている。
ヨコオ氏:いや、別にそれで僕のお金が儲かるわけじゃないんだよね。別に、ポジティブではないです。
夢川氏:ああ(笑)。そっか。
ヨコオ氏:ただ、僕はずっと昔から、コンピューターはクリエイターの仕事を奪ってクリエイターは仕事がなくなるって、もう20年前ぐらいから言ってるんですけど。全然その時代が来ないんで、俺の予言はなかなか到来しないなと思って。
夢川氏:そうあれと思ってるんじゃなくて、そうなってしまうのは嫌だなって思われてるってことですよね。
ヨコオ氏:そうです。例えばアクションゲームとか、モーションをみんなキャプチャーしたり手で入れたりしてるじゃないですか。もう人間の動きなんて、基本的に動物の筋肉と骨格でできてるから、パターンがあるはずで、そのパターンを読み取って、それが自動的に生成する時代が、もうなんかすぐ来るって20年前ぐらいに思ったんですけど、全然来ないと(笑)。
夢川氏:じゃあ、今は何年後に来ると思いますか。
ヨコオ氏:いやもう僕、その20年前のやつは全然来ないんで、当面来ないですね。AIもっと頑張れって思います。
夢川氏:AI頑張ってほしいですね。それはインテルさんにも頑張っていただいて。
ヨコオ氏:インテルさん頑張ってください。
夢川氏:はい、頑張ってくださいインテルさん。
現代のAIとゲーム業界
ヨコオ氏が、6年前のインタビューで「全てのクリエイターの仕事をAIが奪うと思っています。なぜならAIはインプットとアウトプットを解析する能力が人より優れていて、『答え』の存在する現象は全て、AIで最適解を導き出せるから」と回答したことに対して、当時よりAIが実用化され、AIの実力が進んでいる現代、どのようにAIと向き合われているかという質問でしたが、向き合い方は今お聞きしたので。と、次の質問へ移りました。
夢川氏:実際、ゲーム業界全体がどのように向き合われていると思うのか。ゲーム業界がどういうふうに向き合っていったらより良い業界になると思われますか。
ヨコオ氏:今、AIがすごい進歩してるってお話があったんですけど、基本は今のAIって、ビッグデータって言ってたくさんのデータから、ラーニング、ディープラーニングして、どういうパターンが何であるか、猫はどういう形であるかみたいな学習をして、こういうものを出すみたいな。極端な話を言うと、多数決をとってるシステムなんですよ。これはこういうものですよって多数決の合意が出てきて、それをアウトプットしてるってそういうものなんですけれども。その仕組みって昔からあって、特に実は進歩してない。データが大きくなったから派手に良くなって見えるんですけど、テクノロジーとしてはあんまり変わってないんです。だから、AIのテクノロジーってもっと本当は広範囲にいろいろできるはずで、例えば、お客様が面白いと思ってるかどうかっていうのをセンサーで取るとか、そういうことをやり始めないと、クリエイティブにフィードバックできないかなと思います。だから、今のいわゆる画像生成とか文章生成は、基本的には多数決でみんなが言ってるものの平均値が出てるだけなので、そうじゃない未来が来てから初めてAIの魅力が出てくるのかなっていう気がしますね。
夢川氏:進歩してると思われがちなだけで、あんまり進歩してないと捉えられてる。
ヨコオ氏:僕はそう思います。
最後に、クリエイターを目指している方へ”温かい”メッセージ
夢川氏:”温かい”方で。
ヨコオ氏:温かい? なんだろうな。ゲーム業界って、すごく大きい業界に見えて実は世界全体ではちっちゃいちっちゃい業界だと思うんです。ちっちゃい業界の中で本当にいろんなことやってくのって、ある種ちっちゃい村の中で生きてくのと一緒で、ちっちゃい村によくおばあちゃんっているじゃないですか。おばあちゃんのご飯ってすごく美味しいじゃないですか。ゲーム業界に入るときは、おばあちゃんの顔を思い浮かべながらお仕事をしていただけると、温かい気持ちになれるかなと思います。
以上、「ヨコオタロウから学ぶ未来のゲーム作り with 夢川閔巳 Supported by GCG」から、ヨコオ氏が思うクリエイターにとってのAIについてお伝えしました。