林檎とAI
日本語に対応した「Apple Intelligence」は私たちの暮らしをどう変える?
“オンデバイスAI”というiPhoneならではの利点を押さえよう
2025年6月5日 09:00
2025年4月1日より日本語対応した「Apple Intelligence(アップル・インテリジェンス)」。すでに多くのiPhone、iPad、Macユーザーが、その新機能を使い始めているのではないでしょうか。本特集では、基本的な使い方から日常をもっと便利にするためのAI活用テクニックまで、利用者目線で詳しく解説していきます。
Apple Intelligenceは、Appleが開発したパーソナルAIシステムです。2024年12月にアメリカで提供が開始され、2025年4月1日からは日本語を含む8つの言語環境に対応しました。一部の機能はベータ版として提供されていますが、今後のアップデートにより機能が順次拡大されていく予定です。
iPhoneでApple Intelligenceを利用するには、2023年に発売されたiPhone 15 Pro/Pro Max、または現行のiPhone 16シリーズ以降のモデルが必要です。また、基本ソフトウェアをiOS 18.4以降にアップデートしてから、「設定」アプリで機能をONにしておきましょう。
なお、M1チップ以降のAppleシリコンを搭載したiPad Pro、A17 Proを搭載したiPad mini、そしてAppleシリコンを搭載したすべてのMacもApple Intelligenceに対応していますが、本特集ではiPhoneでの活用に焦点を当てて解説していきます。
Apple Intelligenceは何ができるのか?
では、Apple Intelligenceでは何ができ、他のAIサービスと比べてどのような点が優れているのでしょうか。
まず注目すべき特徴は、AI機能のほとんどが独立したアプリとしてではなく、iOS全体にシームレスに統合されている点です。これにより、ユーザーは「AIを操作している」という意識を持つことなく、日常の操作のなかで自然にAIのアシストを受けることができます。
主な機能としては、文章の校正や要約を支援する「作文ツール」、写真から不要な被写体を消去できる「クリーンアップ」機能、人物写真からアニメ風などの似顔絵を生成できる「Image Playground(イメージ・プレイグラウンド)」アプリ、「メッセージ」アプリで作れるオリジナル絵文字の「ジェン文字」など、ビジネスシーンからプライベートまで便利な機能が豊富に用意されています。
“オンデバイスAI”というiPhoneならではの利点
新機能の使い方を詳しく紹介する前に、Apple Intelligenceならではの重要な特徴をもうひとつ押さえておきましょう。
それは、ユーザーのプライバシーを守るために、可能な限りAIの処理をiPhone本体内で行う「オンデバイス処理」が採用されている点です。
近年話題の「ChatGPT」や「Gemini」など、生成AIサービスの多くはクラウド上のサーバーでAI処理を行う仕組みとなっています。各サービスでは利用規約に従って個人情報の取り扱いが管理されていますが、「自分のデータが本当に守られているのだろうか?」と不安に感じる人も少なくありません。
Apple Intelligenceでは、大半のリクエストはiPhone内部にある小型AIモデルによって高速かつ安全に処理されます。そして、より複雑なリクエストについてのみ、Appleのプライベートクラウド上にある大規模AIモデルが処理を担当するハイブリッド構成のシステムが採用されています。その際に発生する通信もすべて暗号化され、ユーザーのデータや個人情報がiPhoneの外に保存されることはありません。
さらに、プライバシー保護が確実に実現されているかどうかを検証できる仕組みも導入されており、ユーザーが安心してAI機能を活用できる環境が整えられています。こうした設計思想は、Apple Intelligenceの大きな価値のひとつといえるでしょう。
一方で、AIに詳しい方であれば「履歴を保存すれば使い勝手が向上するのでは?」「オンデバイスAIではクラウドに比べて処理性能が劣るのでは?」といった懸念を抱くかもしれません。
こうした声にも応えるべく、Apple Intelligenceでは外部サービス「ChatGPT」との連携機能も提供されています。「設定」アプリからChatGPT拡張機能をONにするだけで、OpenAIのユーザー登録をしなくても、ChatGPTによるテキスト生成や画像生成機能をすぐに利用できます。
アプリ&デバイス連携でAIがもっと便利になる
Apple Intelligenceを活用する上で、もうひとつ注目すべきポイントは「作文ツール」や「Image Playground」などの機能を単体で使うだけでなく、アプリ同士、さらにはApple製のデバイス同士でシームレスに連携できる点です。
たとえば、Webブラウザー「Safari」で気になる記事を見つけた場合は、「リーダー表示」に切り替えてApple Intelligenceで記事の要約を作成し、「メモ」アプリに保存しておくことができます。
この「メモ」は、同じApple Account(旧称:Apple ID)でサインインしているiPadやMacにも自動同期されるので、あとから別のデバイスで記事の要約や元ページへのリンクを確認できます。
また、「電話」アプリで通話を録音しておけば、録音内容が「メモ」アプリの[通話録音]フォルダーに自動で保存されてテキスト化されます。さらに、「作文ツール」で短く要約しておけば、どのAppleデバイスからでも会話内容を簡単に振り返ることができます。
ほかにも、「メッセージ」アプリで作成・使用したオリジナルのジェン文字や、「Image Playground」で生成した画像も、同じApple Accountで利用している別のデバイスとの間で自動的に同期されます。
これらの連携は、Appleのクラウドサービス「iCloud(アイクラウド)」によって実現されていますが、Apple Intelligenceとの組み合わせによって毎日の作業がさらにスマートで便利になるのです。
次回は、Apple Intelligenceの注目すべき新機能について、さらに詳しく掘り下げていきます。
著者プロフィール:栗原亮(Arkhē)
編集者/ライター、LinkedInラーニング講師。コンテンツ制作会社アルケー(Arkhē)代表。1975年東京生まれ、日本大学大学院文学研究科修士課程(哲学)修了後、出版社勤務を経て主にApple製品に関する記事を各メディアで執筆。デジタル技術で暮らしや仕事、学びをアップデートするために、教育・医療・エンタープライズ・エンターテインメントなど各分野のAI&ICT動向を領域横断的に取材している。
・著者Webサイト:https://arkhe.ltd