ニュース
高校生のモバイルアプリコンテストで今と未来の自分で毎日チャットするアプリが優勝
「東京都モバイルアプリコンテスト2023」結果発表と表彰式レポート
2024年1月30日 13:59
東京都教育委員会が高校生を対象に開催した「東京都モバイルアプリコンテスト2023」(以下、モバイルアプリコンテスト)の結果発表と表彰式が、1月21日に都内で開催された。
モバイルアプリコンテストは、東京都教育委員会による「みんなでアプリ作ろうキャンペーン」の一環として開催された。これまでのイベントでは都立高校の生徒が対象だったが、モバイルアプリコンテストでは都内の国公私立高校の生徒が対象となった(一部、都立の中高一貫校の生徒の参加もあった)。
募集テーマは「あなたが考える身近な問題を解決するためのモバイルアプリ」。応募方法としては、作品と企画書のほか、作品を説明する動画の提出が求められた。応募のあった33作品のうち、一時審査を通過した12作品が、最終審査を経て表彰式にのぞんだ。
表彰された作品は、確かにいずれも「身近な問題」とその解決法について、着眼点に光るものがあった。また、YouTubeを見て育ったぐらいの世代だけあって、説明動画もそれぞれ工夫が凝らされていたのも印象的だった。
表彰式には小池百合子都知事もビデオメッセージで登場。「急速に進む情報社会に、これからの東京を支える若い皆さんがしっかり適応して、社会に貢献する人材として大きく成長していただきたい。そのきっかけとなるように開催することにした」「ぜひ、(12組の)多様な発想や価値観に触れることでさらなる刺激を受け、今後の活動に活かしてください」「その過程での皆さんの成長が、東京にとどまらず、日本や世界を発展させる。これからのすばらしい活躍に期待しています」とあいさつした。
最優秀賞:努力の継続のために今と未来の自分がチャットする「forme」
最優秀賞は、桜蔭高等学校の椎葉友渚さんによる「forme」が受賞した。
「forme」は、夢に向かって努力を継続するのをサポートするアプリ。「努力の継続は苦手」という自身の課題をもとに、「今の自分と未来の自分で毎日チャットする」ことで、誰かに話していると頑張りやすい、あるいは自己暗示により、モチベーションを保つというアイデアだ。
チャットでは1日ごとに入れかわり、自分同士で対話する。未来の自分の気持になるためのChatGPTによるサポートを備え、毎日使うために使いやすさや楽しさにこだわり、チュートリアルも作り込んだという。審査員からは、Swiftで開発された本格的なアプリでソースコードのできもよく、デザインも優秀と、総合力の高さが語られた。
椎葉さんは、中学2年生のときからプログラミング教室でプログラミングを学んでいるという。インタビューで「プログラミングは好きですか?」と質問すると、「プログラミング大好きです!」と力強く答えた。
イノベーション賞:障がいのある人などが緊急時に家族を呼び出す「呼び出しアプリ「はよ帰ってきてくれ!」」
イノベーション賞は、東京都立城南特別支援学校のノイズ ローラ萌生 菊池さんによる「呼び出しアプリ「はよ帰ってきてくれ!」」が受賞した。
身体障がいのある人や小学生ぐらいが一人で家にいるときに災害など緊急を要することが起きた場合に、すぐ家族を呼び出して帰ってきてもらうというアプリ。送信側と受信側があり、定型文などを選ぶことで、相手を音とメッセージで呼び出すことができる。できる限りボタンをタップする回数を少なくしたのも工夫点だ。
菊池さん自身も身体障がいを持ち、このアプリも視線入力により作った。まだプログラミングも初心者で、文法などをインターネットで見て一つ一つ調べて作ったとのことだった。
アイデアやデザイン、パフォーマンス、ネクストジェネレーションの各部門賞
そのほかの部門賞も発表された。
アイデア賞は、学習院女子高等科の加藤心和さんによる「HBDay」が受賞した。友達の誕生日と以前渡したプレゼント、貰ったプレゼントなどを登録しておくことで、誕生日を忘れていてプレゼントを用意する時間がなくなるのを防いだり、以前のプレゼントを参考にしたりできるというアプリだ。審査員からは、高校生らしいアイデアとの声があった。
デザイン賞は、広尾学園高等学校の谷有咲さんによる「Okotone」が受賞した。スマートフォン上で琴を演奏できるアプリで、Unityで作られた。琴の魅力を伝えるために、モダンでかわいいデザインにし、縦画面や直感的に使える工夫、日本語と英語の2言語対応、学習モード、調弦変更、録音機能などを用意したという。
パフォーマンス賞は、東京工業大学附属科学技術高等学校の古沢颯己さんと石川陽史さんによる「DailyStation」が受賞した。電車で寝て目的地を乗り過ごすのを防ぐアプリで、時間でアラームを設定すると運行状況で時間がずれるのでGPSを使ったことや、乗り過ごしたときに目的地に戻るためにベストなルートを探す経路検索などが工夫だ。
審査員からは、機能はもちろん、実際に電車に乗車したドラマ仕立ての動画の評価が高かった。受賞コメントによると「誇張はあるが実体験にもとづいている」とのことだった。
ネクストジェネレーション賞は、東京都立三鷹中等教育学校(前期課程)の山口航輝さん、菊田竜成さん、五月女拓海さん、坂上智康さんによる「Let's share hobby!」が受賞した。
中学生のチームによるもので、趣味を共有する基本機能を中心に、地図や電卓、バスの到着チャイム音など、さまざまな機能がつけられているところが、遊び感覚あふれるものになっていた。
審査員特別賞も表彰
審査員それぞれが選んだ審査員特別賞も発表された。
株式会社インプレスの鈴木光太郎氏(PC編集統括部統括部長 INTERNET Watch/窓の杜編集長)の選んだ審査員特別賞は、開成高等学校の秋山弘幸さんと江口寛輔さんによる「ポケワード」が受賞した。
一種の辞書アプリで、授業中に専門用語をWikipediaなどで調べてもよくわからなかった体験がもとになっているという。用語の説明をChatGPTで30字に要約することで正確性より手早くわかるようにして、それを保存できるようにしている。技術としては、フロントエンドにReact.jsとNext.jsを使っているとのことだった。
選評としては、アイデアが今風であることや、それに技術がマッチしていること、さらにいろいろ応用できそうな点が選考理由として語られた。
Microsoft Corporationの坂口福太郎氏(World Wide Public Sector Industry Advisor/Education DX,AX戦略室長)の選んだ審査員特別賞は、東京都立三鷹中等教育学校(後期過程)の三保幸輝さん、奥村航輝さん、木村心亮さんによる「FesSystem(文化祭運営管理システム)」が受賞した。
文化祭における、予約整理券発行や、そのQRコードによるチェックイン、モバイルアプリからの予約状況確認、遅延状況や終了のお知らせ、さらには展示のARなどの機能を実装したアプリだ。3人がデザインやプログラミングなどそれぞれの得意分野を担当して開発したという。
選評としては、Pythonやデータベース、Microsoft Power Appsなどを使ってフロントエンドからバックエンドまで実装したシステムとしての完成度と、フェスのための漏れのない要件定義などが高く評価された。
株式会社blankcanvas 代表取締役 福井采音氏の選んだ審査員特別賞は、広尾学園高等学校の佐竹諒哉さんによる「AI旅行計画支援アプリ」が受賞した。
Web上でChatGPTを使って旅行計画を立てるアプリで、訪日外国人を想定している。「eating sushi(寿司を食べる)」といったアクティビティを入力し、日程や予算などを指定すると、旅行計画が立てられる。なお、佐竹さん自身もアメリカ生まれで、海外の人がもっと日本に来てくれることを願って開発したという
アプリケーションはWebブラウザー上で完結している。そのため、OpenAPIのAPIキーを安全に保存するのが難しいことから、最初にAPIキーを入力する形をとっている。技術用途としては、TypeScript言語とUIフレームワークのSvelteを使い、GitHubアカウントからVercelにデプロイしているという。
選評では、モダンな技術要素の選定や、APIキーの扱いの判断などにエンジニアの素養を感じたと語られた。
株式会社Studio947の狩野さやか氏(教育ICTライター/ウェブデザイナー)の選んだ審査員特別賞は、開成高等学校の秋山弘幸さんによる「漢字忍者.com」が受賞した。
これは外国の人名を入力すると、漢字表記(当て字)を生成するというものだ。元の名前とともに、フレーム(和っぽい絵)やフォントや色を指定でき、結果が表示される。なお秋山さんは、ポケワードでの2人組での受賞に続き、こちらは単独での受賞となった。
選評では、目のつけどころとして「ありそう」というのが秀でていること、またデザインなどいろいろな要素がバランスよく作られていると説明された。
東京都 デジタルサービス局戦略部の宮原慎治氏が選んだ審査員特別賞は、東京都立南多摩中等教育学校(前期過程)の吉田祐梨さんと尾辻芽彩さんによる「BentoColor」が受賞した。
弁当作りは、時間や栄養、彩り、マンネリ回避など考えることが多くて面倒くさい、という問題が元になっている。そこで、テンプレートを作って楽しくお弁当作りを、というのがコンプトだ。弁当のメニュー例を見られる閲覧機能、色で示された見た目のテンプレートを選んでおかずを提案する機能、作った弁当を記録してモチベーションアップする記録機能からなる。
選評では、ユーザーの課題設定が明確なこと、弁当作りにゲーム性をとり入れたこと、ターゲットのことを考える気持ちが評価されたと語られた。
東京都 教育庁 総務部の江川徹氏が選んだ審査員特別賞は、都立立川高等学校の山本勇太さんの「ボートりすと」が受賞した。
買ったもののバーコードをスキャンして記録できるアプリだ。スキャンするとインターネットから商品情報を取得して、記録する。割引があったときなどに価格を変更したり、メモに感想を入れたりといったこともできる。
もともと読書記録のために作ったが、家族の要望を受けて、ほかの買い物にも対応したという。選評では、そうした身近な課題をちょっとしたことで解決したところが評価されたと語られた。