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中高生が3日でスマホアプリを作るハッカソン開催、Microsoftのローコード開発ツール「Power Apps」で

“青春の問題”の解決に、生成AIの活用やTeams連動のSNSも……

「夏の3Daysハッカソン 青春の問題をITで解決しよう!」は日本マイクロソフト本社で行われた

 いわゆる「ローコード」でWebアプリやスマホアプリを作れる開発ツールである「Microsoft Power Apps」を使った、東京都立学校生対象のハッカソン「夏の3Daysハッカソン 青春の問題をITで解決しよう!」が8月14日〜16日に開催された。

 「自分たちが考えた青春の問題」を解決するためにアプリを企画・制作するというもので、中学生や高校生の16チームがアプリ作りに挑戦。最終日には最優秀賞をはじめ受賞作品が選ばれた。本稿では決勝進出チームが作ったアプリや、審査の様子、実施した東京都教育庁のコメントなどを紹介する。

 企画と開発合わせて2日というハッカソンだったが、「ローコードでスマホアプリを作れる」というPower Appsの特徴からか、「今回、初めてPower Appsに触った」というチームでもなかなかの開発度。それぞれにアイデアや技術も工夫がこらされており、Azure OpenAI Serviceを利用して生成AI(ChatGPT)を活用したスケジュール管理アプリや、Teams連携を前提にしたSNS、デートプラン作成アプリなど、様々なアプリが発表された。

都立学校に通う中高生が対象、中1のチームも参加

 ハッカソンは東京都教育庁が実施、Microsoft Power Appsを提供する日本マイクロソフト株式会社が会場を提供し、同社品川本社のセミナールームを使って行われた。

 参加対象は、都立高校生と都立の中高一貫校に通う中学生で、今回は応募のあった全員となる57名(欠席者除く)が参加した。同じ学校内でチームを作って応募したところもあれば、1~2名の参加者は初対面同士で当日にチームを作り、各組3~5名の合計16チームでアプリケーションの開発に挑戦した。なお、中学生はそのうちの19名で、中学1年生のチームもあった。

 日程は、初日の8月14日にオリエンテーションと課題についてのアイデア出しなどを行い、企画・開発をスタート、8月15日はアプリケーションの企画と開発の続き、最終日の16日は午前中に発表の準備と予選を行い、午後に決勝と表彰式を行った。

 現在、都立学校ではMicrosoft 365のアカウントが提供され、Teamsをはじめマイクロソフト製品を多く使っている。今回、東京都教育庁では6月からプログラミングスキルを学ぶワークショップを実施しているが、今回の参加者の約半数が対面によるワークショップ参加者となる。また、参加していない生徒も、ハッカソン前に動画によるワークショップを受講している。

 ハッカソンを進行するにあたり、東京都の協力業者によって集められた必要なスキルを持った人がメンターとしてサポートにあたった。なお、日本マイクロソフトは基本的には会場の提供にとどまったが、担当者による後方支援を行っていたほか、本社で作業ができるということとセミナールームのホスピタリティの高さで、生徒たちのモチベーションを高める効果もあったようだ。

決勝に進出した6チームがアプリをプレゼン

 最終日の午前中には予選を行い、16チームから6チームに絞られて午後の本選へと進んだ。今回、報道向けには、最終日午後の決勝プレゼンの取材が許された。

決勝に進出した6チーム
チーム名アプリ名アプリジャンル
くらげくらげカレンダー自動設定型スケジュール
DICELIFE METORONOMEスケジュール
Yoropicana100%YouthFullTeams連携SNS
さんどうぃっちずタイムカラセル振り返りカレンダー
InternationalBeginnersmillioスマート貯金
げえまあずPaidiaデート行程作成支援

※発表順/アプリジャンルは筆者による

16チーム中、決勝に進んだチームは6組

 各チームに共通することは、役割分担がしっかりとできていること。アイデアがまとまったら、プログラミング、デザイン、プレゼンなど担当が分かれ、それぞれの生徒の得意なところで協力して、ひとつのチームになっている。

 プログラミングといっても、コードの記述にあたるプログラミングの根本部分だけでなく、デザインやイラスト、ユーザーインターフェースのよしあしも、ユーザー視点では重要だ。そして、ハッカソンにおいてはプレゼンの良し悪しも勝敗を分ける要素となる。どんなに出来がいいアプリであっても、そのよさや便利さが伝わらなければ、点数にはつながらない。

 審査の項目としても、今回の「青春」というテーマの実現度という次に、プレゼンの分かりやすさや伝わり方なども入っている。さらに審査項目としてアプリのクオリティ、アイデアの驚き、という審査項目もあるが、これもプレゼンでどう伝わるかにかかっていると言える。

 プレゼンの時間は5分間。そして審査員の質問か参加者へのアプリ実演が3分間の合計8分間が持ち時間。なお、参加の都立学校生はすべてTeamsのアカウントを持っているため、Teamsでやりとりを可能に設定、作成したアプリは参加者全員で共有でき、すぐに試せるようにしている。

プレゼンが行われ、プレゼン内容も審査のうちとなる

AIが計画を作成するスケジュールアプリ「くらげカレンダー」

くらげカレンダー/チーム名:くらげ

 最初にプレゼンを行ったのは、チーム名「くらげ」の「くらげカレンダー」。都立晴海総合高校の1年生のチームだ。青春とは日常生活の充実にある、時間が絶対に必要。そこに立ちはだかるのは宿題と日々の勉強であるという。そこで、わかりやすい予定表を作り、くらげを育成しながらAIが目標を自動で計画してくれるアプリを考えた。

 達成したい目標を入力すると、AIが1日ごとのタスクリストを設定して、達成するとくらげが成長する。反対に、達成できないとくらげが死んでしまう。なお、アプリ内のくらげの素材はチームメンバーで自作、アニメーションまで作ったという。

 AIはOpenAIのものを使用する設計だが、東京都のアカウントの都合上、実際のアプリに組み入れることはできなかったとのことで、プレゼンでは実装予定だったコードを提示。

 AIを利用してできることとして、例えば、ある日には絵具で手を汚したくないと入力したり、手を汚せないような用事を入れたりすれば、絵具を使うポスター作成というタスクはこの日は外して予定を設定してくれるという。さらに、空き時間などを見渡して、予定の提案をする機能も考えているという。

青春の課題
解決方法
AIによるタスク設定がある
アプリのデモ
今後はAIによって予定の提案も考える

「規則正しい生活」のためのスケジュールアプリ「LIFE METORONOME」

LIFE METORONOME/チーム名:DICE

 次に小石川中等教育学校の中学1年生のチーム「DICE」が作った「LIFE METORONOME」がプレゼンテーションを行った。規則正しい生活を送るためのスケジュールアプリだという。「青春とは、自分たちが何かをしたいという思い」だとし、宿題や勉強があるなか、規則正しく生活すれば、自分の時間が作れるのでは、ということから、このアプリが考えられた。

 予定と予定時間、実際にかかった時間を入力していくと1週間の予定の正確性をいつでも確認できる。今回時間がかかってしまったタスクを確認し、次は早くやろうとするなど、改善につなげる機能を持つ。

 今後の実装では、残り時間を表示させ、時間をより効率的に使えるようする機能を考えているという。さらに、パスワードのハッシュ化でセキュリティ強化や認証の高速化、自動スケジューリングの実現などもアイデアとして挙げられた。

青春には時間が欲しい
LIFE METORONOMEの使い方
タスクを追加する
あとで予定を振り返ることができる
今後の展望

学校内の人間関係に着目したTeams連動のSNS「YouthFull」

YouthFull/チーム名:Yoropicana100%

 南多摩中等教育学校の中学3年生の太鼓部3名で結成したチーム「Yoropicana100%」が作ったアプリは「YouthFull」。人間関係に着目したTeams内のSNSになる。理想の青春をおくるには友達や先輩など「人」が関係することから考えたという。

 ニックネームで参加でき、チームも設定でき、クラブ活動の部員募集ということも可能。好きなもの検索してマイナーな趣味嗜好でもつながることができる。さらに質問・回答のやり取りをする機能や、フリーマーケット機能もある。

 一般的なSNSとの違いは、あくまで学校内での関わりのため安心感があること。一方で学校内のTeasmでは堅苦しく学年を超えた交流がない。学年を超えた交流もしやすくなるようにしているという。

理想の青春には「人」が大事
チームのメンバー募集ができる
フリーマーケット機能
今後の展望
LIFE METORONOMEの長所

毎日の感情を色でシンプルに記録、簡単に振り返る「タイムカラセル」

タイムカラセル/チーム名:さんどうぃっちず

 今回のハッカソンで集まった3人が結成したチーム「さんどうぃっちず」が作ったアプリは「タイムカラセル」。今回のテーマの青春の課題が抽象的なので、その分析から入ったという。恋、スポーツ、委員会など、好きなことがたくさんあるなかで楽しくないこともあり、ストレスを感じることががある。

 中高生のストレスは社会人を上回っているという調査もあり、やりたいことと、やらなければならないことの2つ板挟みで、自分を見失い、どこに向かうのか分からないと思うことこそが青春の課題だと考えた。

 そのなかで、毎日の感情を色で記録、色のタイムカプセルとして振り返る。カラーとタイムカプセルを掛けあわせて「タイムカラセル」というネーミングとなった。日記よりも簡単に、色を選ぶだけでその日の感情を記録し、さらに写真や音楽を添付できて、「名言」を表示する機能もある。

 たとえば、幸せなときを赤、悲しいときは青と決めていき、色の並びから過去を振り替えれるようにする。さらに、さらに名言や音楽も振り返ることができる。

タイムカラセルのコンセプト
毎日を色で記録していく
入力後、名言などが表示される
色で分類、写真で振り返る
カレンダーで色の並びを見る

「中高生の金欠」を解決するスマート貯金アプリ「millio」

millio/チーム名:InternationalBeginners

 都立国際高校のチーム「InternationalBeginners」は、スマート貯金アプリ「millio」を作成した。飲食や外出など理想の青春の実現に不可欠なものは「お金」だとし、中高生の金欠という課題を解決するために貯金を手助けしてくれるアプリを考えた。キャラクター育成ができるスマート貯金箱だという。

 貯金する金額、買いたいものと買いたい日を設定し、貯金する比率の最適解を表示するというアプリ。複数の欲しいものの優先順位を設定できるほか、システムがおすすめの割合の提示もする。ゲーム性があり、楽しくお金の管理ができることが特徴だという。

 今後の改善点としては、お金の入りやすい日程や時期、季節を予想するシステム、ウィジェットによる通知やリマインダー、現在のPower Appsでは難しい電子マネーとの連携なども考えている。最終的には中高生だけでなく、大人も子どもも楽しめるスマート貯金箱を目指したいと語った。

キャラクター育成ができるスマート貯金場
設定の流れ
貯金額を入力すると達成率などを表示
目標を設定しておく。優先順位の設定ができる
今後の改善など

デートプランを考え、提案してくれる「Paidia」

Paidia/チーム名:げえまあず

 プレゼンの最後は、葛飾商業高校3年のチーム「げえまあず」が作成した「Paidia」。チーム内で青春の課題について真剣に話し合った結果、恋愛以外に考えられないとなり、恋愛で解決したい問題として、負担が大きいデートプランを考え、提案してくれる「魔法のアプリ」だという。

 名称の「Paidia」はギリシア語で冒険という意味。デートスポットを最初に検索、その下に関連スポットが表示、そこからデートプランを通って、共有して、有意義なデートにするという。今回のハッカソン参加者のうち女子に聞いたところでは、デートプランは先に知りたいという声が多かったとのことで、プランを先に提示できる機能がある。

 デモとして東京・お台場のデートプランを組む方法が紹介された、スポットはカテゴリーから検索するが、検索機能では飲食店の価格帯などで絞り込めるという。現在は未実装だが、ここからアミューズメント施設の予約にも対応させたいという。さらに、おすすめの服装や、天気予報なども表示する。

 将来、さらに追加したい機能としては、ゲームソフトの「スーパーマリオメーカー」でコースを作成し投稿する機能があるが、これをデートプランに置き換え、ログイン、いいね、フォロー、コメントを使い、新たなSNSを確立し、デートプロフェッショナルという新しいインフルエンサーも登場させたいとした。

デートの負担
デートプランを先に教えてほしいかどうかの調査結果
デートスポット検索
プラン作成機能
最高の青春をめざす

最優秀賞は「くらげカレンダー」

 6組の発表後、審査員による審査があり、入賞作品の発表と表彰式となった。最優秀賞に選ばれたのは「くらげカレンダー」。優秀賞には「タイムカラセル」、審査員特別賞には「millio」が選ばれた。

最優秀賞には、東京都教育委員会教育長の浜佳葉子氏から表彰状が渡された
最優秀賞のくらげカレンダーを作ったくらげのみなさん
優秀賞のタイムカラセルを作ったさんどうぃっちずのみなさん
審査員特別賞のmillioを作ったInternationalBeginnersのみなさん

 審査員のコメントを紹介する。どの審査員からも、3日間という短い時間でアイデアからプログラミング、プレゼンまで進めたことなどに対し、非常に高い評価がされた。

 インプレスの鈴木光太郎(窓の杜編集長)は「予選で落ちてしまった作品も含め、3日間でここまでできるのか、というのが正直な感想。各チームの役割分担がうまくできていて、見ていて楽しかった。使ってみたいアプリもあったので、開発できたら配信していただけたらうれしい」とコメントした。

インプレスの鈴木光太郎

 株式会社アイリッジの井上直人氏(ビジネスパートナー部門統括)は「まず驚いたのが、みなさん本当にプレゼンが上手。自信も持っていいと思うし、私自身も参考になった。ふだんからいろいろなアプリを触る仕事をいているが、普遍的なテーマや難しいテーマにチャレンジしていることは参考になったし、チャレンジを続けてほしいと思った」と語った。

株式会社アイリッジ ビジネスパートナー部門統括の井上直人氏

 Microsoftコーポレーションの千代田まどか氏(Cloud Developer Advocate)は、「すごい感動したので1時間ぐらい喋りたい」と称え、「この3日間で実際に作り上げ、プレゼンし、何かを残すことができて本当にすばらしい。みなさんは日本の宝なので、これからの日本を作り上げていく素晴らしい方々なので、めちゃくちゃ応援します」と期待を寄せた。

Microsoftコーポレーション Cloud Developer Advocateの千代田まどか氏

 最後に、主催者を代表して、東京都教育庁 総務部情報企画担当課長の江川徹氏が「青春というキーワードを切り口にしてすごいパワーを発揮してくれた。身近な誰かを助けようとするという思いで、その力が伝わっていくと、最後は社会を良くすることにも繋がるだろうと思いながら見てきた。予選も決勝も素晴らしく、3日間を通じてアプリを作る経験をしたみなさんにはすごく期待している」と感想を述べた。

 そのうえで「みなさんの将来は、会場を提供してくれたマイクロソフトのような大きい会社に入るのもいいが、東京都としてはスタートアップとして起業することや、副業としてプログラミングに携わるような働き方も考えている。今の大人が昔考えていたものとは違う働き方に変わっているが、そんな時代でもおおいに頑張っていただければと思っている」と、東京都の方針を絡めながらも今後の活躍を期待し、今回のハッカソンは閉会した。

東京都教育庁 総務部情報企画担当課長 江川徹氏

プログラミングを極めたい生徒と、仕事のツールとして活用したい生徒へ二極化

 入賞チームから話を聞いたところ、今後、プログラミングをさらに極めたいという生徒がいる一方で、プログラミングを将来の職業にするというよりは、別のことに興味があり、仕事をする上でのツールとして活用していきたいという生徒も目立った。

 今回のアイデアに対しての自信の声などもあり、ハッカソンだけにとどまらず今後も発展させていきたいという希望の声も聞かれた。それでも、純粋に人の役に立ちたいという気持ちからアプリを作ったことが伺え、アプリから利益を得るという考えを前面に出した生徒はいなかった。

 参加者の参加時のレベルは、初心者もいてさまざまだったが、どのチームも形になるものを作り上げた。なかにはMicrosoft Power Appsではできることの制限にぶつかってしまい、他の環境でさらにアプリを発展させたいといった声も聞かれた。また、中学生の参加が多かったことで、高校生からは「今の中学生やばい」という声もあった。

 参加のきっかけを聞いてみたところ、学校に掲示されていたポスターの案内をきっかけに応募した生徒がいたほか、Twitter(X)で見つけて応募したという声も聞かれた。会場では違う学校の生徒とチームを組むことになった参加者も、すぐに打ち解けて一緒に作業を進めることができるなど、参加者同士の交流もしやすかったようだ。

東京都教育庁としても学びがあった

 主催者の東京都教育庁の総務部情報企画担当課長の江川徹氏によれば、今回のハッカソンは、高校生で必須となった「情報I」で学んだことを発揮できる機会をと考えて、企画がスタートしたという。

 「青春の課題」というテーマを設定していたが、どのようなアウトプットになるかと想定していたものと、実際の生徒たちのアイデアの違いに驚いたとし、例えば、文化祭の催しをもれなく観覧するなどのアプリなどを想定していたが、もっと個人の問題に向いていて、教育庁としても学ぶことがあったという。

 参加者についても、情報Iをすでに学んだ学年より、未学習の高校1年生が応募してきたり、都立学校の生徒比率に比べても中学生の応募が多かったこと、チームを組まずに1~2名で応募してきた生徒が意外に多かったことに驚いたという。

 今回、プログラミングのハッカソンで、Microsoft Power Appsによるモバイルアプリとしたことについては「色々なプログラミング環境はあるが、実際に自分で作ったものが友達のスマートフォンにインストールできるということを面白さ、そこに魅力を感じてくれたのではないか」と分析するものの「モバイルアプリでさらに高度な内容は、我々にはハードルが高く、場を用意するのは簡単ではない」とし、高度なものに進むよりは、プログラミングなどを広めることを当面の取り組みとしていくとした。

今回の参加者全員で記念撮影