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インテルが生成AIをローカルで動かす「AI PC」のユーザー体験に触れるイベントを開催

NPU(Neural Processing Unit)搭載PCでオフラインでAIが高速動作する未來

「AI PC」が変える新しいユーザー体験に触れるインテルのイベントが原宿で開催

 AI時代に対応した高い処理能力のPCが生み出す未来を描くイベント「AI PC Garden」が2024年3月30日(土)、31日(日)に、原宿のCafé STUDIOで開かれた。このイベントはインテル(株)が2023年末に発表した「インテル Core Ultra プロセッサー」が可能にするユーザー体験を広く一般に伝えるもので、テック関連のイベントとは思えない鮮やかなフラワーデザインで彩られた空間に、同プロセッサーを搭載したPCが並び、来場者を迎えた。

鮮やかなフラワーデザインで彩られた空間に、同プロセッサーを搭載したPCが並ぶ会場

「AI PC」でAIの処理はクラウドからローカルへ

 AIの機能を実現するにはコンピューターの膨大な処理能力が必要で、今一般ユーザーが手軽に利用できるAIソリューションは、クラウド側で処理されるものばかりだ。それに対し今注目されているのは、ユーザーPCのローカル側で多くのAI処理ができるプロセッサーを搭載した「AI PC」と呼ばれるPCだ。「インテル Core Ultra プロセッサー」は、CPU、GPUに加えて、AIの処理に特化したNPU(Neural Processing Unit)が搭載されているのが特徴で、それぞれをバランスよく使ってパワフルなAI機能を実現する。

インテル(株)上野晶子氏

 イベントの一般オープンに先立って行われたプレス向けプレビューで、同社の執行役員 マーケティング本部本部長 上野晶子氏は、『今、ハードウェアはできたものの、ローカルでAIを使っていくというときに何が足りていないか。アプリケーションが足りていないんですね』と指摘した。

 ハードが整ってもそのプロセッサーを有効に使うアプリケーションがなければ新たなユーザー体験は生まれない。『このAIガーデンに一般の方が集っていろいろなアプリケーションをたくさん作って欲しい。ここから花を開かせて欲しいという思いでこのガーデンを作りました』と上野氏は続け、会場では「AI PC」の力がわかるアプリケーションを体験できることを紹介した。

デュアルディスプレイ搭載のASUS Zenbook DUOの使用イメージ

 会場の原宿のカフェはフラワーデザイナーの鏑木誠悟氏による華やかな空間演出で彩られ、映像作家の神宮司秀将氏によるプロモーション映像と、イラストレーターのSHIBATO氏の作品で未来の「AI PC」がある世界観が表現された。インテルでは2022年から「Blue Carpet Project」というクリエイター支援を行っていて、神宮司氏とSHIBATO氏はそのメンバーでもある。このプロジェクトでは現在40名ほどのクリエイターに最新PCを貸し出しているということだ。

神宮司氏によるプロモーション映像とSHIBATO氏のイラストレーション

Z世代は生成AI活用イメージは「省力化」ではなく「クリエイティブ」

トレンド評論家 牛窪恵氏

 続いてトレンド評論家の牛窪恵氏が講演し、世代間の価値観の違いを「コスパ志向」のゆとり世代(現30〜36歳)と「タイパ志向」のZ世代(現20〜29歳)などと、わかりやすいキーワードでテンポよく解説した。生成AIに対する意識にも世代間で違いがある。例えば生成AIのイメージを聞くと、40歳以上の世代は「仕事を手伝ってくれるもの」という回答が一番なのに対し、それより下のZ世代、ゆとり世代が含まれる世代では、「おもしろいコンテンツを生み出すもの」という回答が一番に来るという調査結果が示された。

牛窪氏の講演資料より。(出典:2023年 アドビ「XYZ世代間のAIに対する意識と使用実態」調査)

 牛窪氏は、多くの上の世代がAIに求めるイメージは「時短」や「生産性向上」などかもしれないが、若い世代がAIに求めているのは、AIと「分業」したり「協業」したりして自らがよりクリエイティブになることではないかと示し、『自分のクリエイティビティを一緒に協業してひらめきを促してくれる。それが実際にこれから求められるAIではないかと思っています』と結んだ。

牛窪氏講演資料より。AIに求められるのは、単なる省力化ではなく、クリエイティブなことに没頭するための分業や、イノベーションのための協業の役割だと示した

 このイベントには、そんな若い次世代に夢を持ってイノベーションを起こしてほしいというメッセージも込められている。

ジェスチャーで操作、ネットにつながずローカルで処理

 最新の「AI PC」で体験できたデモを紹介しよう。手のジェスチャーで操作できるという中国の動画サービスは、例えばPCのカメラにパーの形で手をかざすだけで一時停止ができる。これは、定期的にカメラの画像を見張る処理をNPUに任せることで実現しているということだ。CPUやGPUで処理させるよりも低消費電力で実行できる上、CPUとGPUを他の処理に使えるのが大きなメリットだ。

 また、Microsoftが新しいOSから標準で搭載しているWindows Studio Effectsという機能では、カメラに映った人物と背景の境界を認識して背景をぼかすフィルターの処理や動く人物にフォーカスして自動フレーミングをする処理をNPUに任せることで、消費電力を抑えている。オンライン会議ツールではお馴染みの機能ではあるが、これらのAIによる処理をCPUとGPUではなくNPUが担うことでバッテリーの消費を抑えながらより快適に使えるようになるということだ。

 さらに、ChatGPTのような会話形式の生成AIはクラウド上のリソースで膨大な処理を行って実現しているが、Stability AI Japanが開発した、PCのローカル側で処理できる言語モデルがデモされていた。インターネットに接続していない状態で、会話形式でさまざまなやりとりができる。

ローカルで動く言語モデルのデモ。パラメータ数7Bの言語モデルが、ノート型の「AI PC」上で処理されている

 他にも「Luminar Neo」という写真編集アプリケーションのデモでは、「電線を除去」というボタンひとつで、写真のどこも選択することなく10秒ほどできれいに電線が取り除かれた。

電線がある写真(左)からきれいに電線が取り除かれた(右)

 現状では、まだ新しいプロセッサーを有効活用するこうしたアプリケーションが少なく、インテルでは「OpenVINO」という開発者向けのツールキットを無償提供してコミュニティも運営しているということだ。こうしたイベントを通じて開発者の裾野が広がり、プロセッサーの特徴を生かした新たなアプリケーションが生まれていくことが期待されている。ハードウェアの進化とアプリケーションの進化がかけ合わさることで、今後どのようなユーザー体験が一般ユーザーに届けられるのだろうか。