特集・集中企画

学生がたった1カ月半で画像生成AIアプリを構築!? インテル「OpenVINO」によるソフト開発の最前線

「インテル AI Summit Japan」学生コンテスト授賞式レポート

学生コンテスト受賞者によるプレゼンテーションの様子

 インテル(株)は6月6日、AIハードウェア・ソフトウェア開発者向けイベント「インテル AI Summit Japan」を開催。同社が推進する「あらゆる場所へのAI活用(AI Everywhere)」の取り組みと、その日本でのトレンドや最新情報をパートナーや事例を交えながら紹介した。本稿では、分科会セッション「学生コンテスト受賞者によるインテル Core Ultra プロセッサーとインテル OpenVINO ツールキットの組み合わせを活用した新しいAIアプリの紹介」をレポートする。

 学生によるOpenVINOツールコンテスト(正式名称:「インテル プレゼンツ OpenVINO ツールキット学生向け AI コンテスト」)は、専門学校に通う学生を対象に、同社が無償提供しているAI PC向けソフト開発ツール「OpenVINO ツールキット」とインテル Core Ultra プロセッサー搭載のAI PCの組み合わせだからこそ課題解決ができるというソフトウェアを開発し、そのアイデアがパソコンの使い方として独創的であるかを競うもの。1グループは最大5名までエントリー可能で、今回は6チームが参加した。

 採点は4人の審査員が行ない、それぞれ1人30点満点、合計で120点満点で、アイデア作品の中から最優秀作品が決定された。

審査員一覧

  • インテル株式会社 技術本部 部長 工学博士 安生健一朗氏
  • 株式会社ティーアンドエス 取締役 THINK AND SENSE部 部長 松山周平氏
  • 株式会社D2C ID テクニカルディレクター 田中誠也氏
  • テクニカルライター 久保寺陽子氏
審査員は4人。登壇者はインテルの安生健一朗氏

 今回のコンテストで注目すべきは、異例とも言えるほど、その開発期間・納期の短さにある。全体スケジュールとしては、今年2024年3月15日に募集開始、続く4月17日に一次審査、そして5月31日には最終審査となっており、学生たちは約1カ月半という過密スケジュールの中でAIアプリのアイデア出しから始めて、プロトタイプ開発、最終審査でのプレゼン・本開発へと進んでいくことになった。

 この背景として、本コンテストに参加した、佐世保工業高等専門学校(佐世保高専)、東京デザインテクノロジーセンター専門学校(TECH.C.TOKYO)、京都デザイン&テクノロジー専門学校(TECH.C.KYOTO)の3校は、すでにOpenVINO ツールキットを教材とした授業プログラムを導入しており、日頃から先生や生徒の中に同ツールキットに触れている人が多かった。

 それなら「そのまま作ってもらおう」という発想で、この非常に短納期での(成立するか不安な)コンテスト実施となったとのことだが、これがかえって逆に「ある意味、OpenVINOでそんな簡単にAIアプリが作れるんだ、ということの実証例の一つになった」と、プレゼンターを務めたインテル(株)技術本部・部長・工学博士の安生健一朗氏は振り返っている。

非常に短納期でのコンテストスケジュール

 コンテストに参加したチームによる作品は「Taltner 対話コミュニケーション補助ツール」「AI×ホログラム」「集中力サポートツール FocusOn」「OVStudy 子供向け英単語勉強アプリ」「リアルタイムモデル推論アプリ」「生活向上ソフト アキレス」の6つ。優秀賞に佐世保高専の「生活向上ソフト アキレス」が、最優秀賞にTECH.C.KYOTOの「OVStudy 子供向け英単語勉強アプリ」が、それぞれ輝いた。なお、最優秀賞および優秀賞以外のチームには、順位は与えられていない。

 各作品の概要は下記の通り。

AIアプリをたった1カ月半で制作!? 学生が作る「アイデア勝負」の作品群

Taltner 対話コミュニケーション補助ツール

  • チーム名:NouRi
  • 所属:東京デザインテクノロジーセンター専門学校

 「Taltner(タルトナー)」は、初対面の会話時にリアルタイムで話題を提供する、コミュニケーションの補助ツール。

 会話の時に話題を引き出せない人をサポートするべく、STT(Speech-to-Text)とLLMを組み合わせて、インプットされた音声データを解析し、会話の流れに沿った適切な質問(会話の候補)の案をリアルタイムで4つ提示する。提示された話題の候補は、自分のパソコン画面のみにしか表示されないので秘匿性も高い。

審査員からのフィードバック

完成したらすごい便利なツールになるんじゃないかと思います。時間切れで、インテル Core Ultra プロセッサー搭載のAI PC上で検証できなかったというのが非常に残念です。個人的には、会話が苦手な方だけでなく、話題を変えたいときや、オンライン会議で行き詰ってしまったときの沈黙をブレイクするときにも有用なアイデアかと思います。

集中力サポートツール FocusOn

  • チーム名:Iha-labo
  • 所属:佐世保工業高等専門学校

 「FocusOn」は、デスクワーク中でも集中力を続けられるようにサポートするソフトウェア。

 人間の集中力はそれほど続かないということを前提に、視線推論を用いて画面外を見ていた場合にアラートを出す機能や、オブジェクト検出によりWebカメラの画角に映った物体を検知して注意を与える機能を実装した。

審査員からのフィードバック

むしろ「集中しやすいよ」「どうやったら集中させられるか」の方が重要なのではないかと思いました。現状は改善の余地ありという判定になりますが、自分たちで指摘している通り、オンライン会議やWeb試験など応用先は結構あるので、一般的な集中力という話ではない形でもっとアイデアを詰めていけば、解決すべき課題が絞り込まれて、より面白いツールになっていくと思います。

リアルタイムモデル推論アプリ

  • チーム名:OVAAS
  • 所属:東京デザインテクノロジーセンター専門学校

 AIをより身近に感じてもらえるように、OpenVINOによるAI推論デモを簡易的に実行できる、リアルタイムでのモデル推論可能なデスクトップアプリケーション。

 OpenVINOが提供しているサンプルアプリケーションを、実際にソフトウェア開発者向けコードをダウンロードしてコンパイルし、起動するというのは手間がかかることに注目。AIについて学び始める第一歩として、視覚的にわかりやすい画風変換や物体検知などを実装した。

審査員からのフィードバック

サンプルアプリをコード提供ではなく、そのままバイナリ化・デスクトップアプリ化する、というまさに逆転の発想ですね。ユーザーの興味をもっと引くために、まずはあるものを便利していくというアイデアを評価しました。

AI×ホログラム

  • チーム名:SC
  • 所属:京都デザイン&テクノロジー専門学校

 AIを使うと何ができるのか、それを直観的にわかるようにしたイベント向け展示物。

 カメラでキャプチャーした映像から人物を検出し、背景を除去したデータをソニーの空間再現ディスプレイへ出力。さらに音声で入力されたキーワードをイメージするエフェクトを映像で追加し、あたかも自分が仮想空間に浮かんでいるような表現を実現した。

審査員からのフィードバック

AI(OpenVINO)用とレンダリング(Unity)用で、PCを2台使ってしまった点は減点の対象になってしまいましたが、AIに馴染みのない若者や高齢者が楽しんで最新技術に触れられるアイデアですね。今年後半から来年初頭の制作につなげていくということなので、今後の進化に期待したいところです。

【優秀賞】生活向上ソフト アキレス

  • チーム名:ツァラトゥストラ
  • 所属:佐世保工業高等専門学校
会場では制作者の松本大心さんによるオンラインプレゼンテーションが行なわれた

 「PCによる健康維持は有用である」という考えから、デスクワーク時の姿勢悪化を防止する姿勢補正や、うたた寝している姿勢を感知する睡眠検出、腕の皮膚を映した画像から発疹などの異常がないかを診断する発疹検出など、ノートブックPCに付いてるカメラを駆使してユーザーの健康管理を目的としたソフトウェア。AIを導入さえすれば、どんなものでも検出できることを提案する。

審査員からのフィードバック

単純に見えて、実は有用なアイデアなのではないかと感じました。少し気になるけど病院に行くまでもないときに、何か自動で診断してくれて予診替わりのアドバイスになってくれる。会社の健康診断でもニーズがありそうです。プライバシーの問題ともかかわる個人診療の分野で応用の範囲があるのではないかと思います。

【最優秀賞】OVStudy 子供向け英単語勉強アプリ

  • チーム名:MayaSuki
  • 所属:京都デザイン&テクノロジー専門学校

 「OVStudy」は、OpenVINOと生成AIを組み合わせて、子供のAI学習・英単語勉強を両立するアプリケーション。

 楽しく英語を学べるソフトウェアをコンセプトに、生成された画像に映っている要素の英単語を入力し、塗りつぶした面積によってスコアが加算されるゲームを構築した。手元に使える画像がなくても物体検知ゲームをプレイできるよう画像生成AI(Stable Diffusion等を活用、約20秒ほどで生成可能)や、英単語を辞書に入力してテストを出してくれる機能なども搭載されている。

審査員からのフィードバック

完成まで約1カ月かかってないという、OpenVINOの手軽さと学生の機動力の速さを実感させてくれた作品です。まさに、インテルからのオープンソースモデルをぱっと組み合わせて簡単にアプリが作れるということを実証してくれました。

OpenVINOがもたらすAIアプリ開発の手軽さ

 今回のセッションでは、最優秀賞に輝いた、TECH.C.KYOTO スーパーAIクリエイター専攻3年の入矢脩士さんが登壇。トロフィーを進呈する授賞式が行なわれたほか、受賞記念のプレゼンテーションも実施された。

 インテルの安生氏は、学生たちの作品を踏まえて「やること、やっていることは非常にシンプル。AIアプリのアイデア実装は、割とシンプルなアーキテクチャーでできる」と総括した。

 こうしたAIアプリ開発の手軽さの背景として、OpenVINOには、500以上のオープンソースモデルを提供している「Open Model Zoo Demos」があり、ここからいくつかのモデルを好きに選択してアプリを構築できるからだとアピール。今回のセッションを締めくくった。

最優秀賞に輝いた入矢脩士さんにトロフィーを進呈
オチも秀逸な記念プレゼンテーションも実施された