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AIハッカソンで何を作るか悩んだならアイディアを出すAIを作ればいいじゃない!
第1回24時間AIハッカソン審査会・授賞式
2023年11月7日 12:04
11月4日、ベルサール秋葉原にて「第1回AIフェスティバル」が開催された。AIのアートグランプリやハッカソン、トークセッションが行われ、多くに人が来場してにぎわっていた。今回は、「第1回 24時間AIハッカソン」の審査会・授賞式の様子をレポートする。
今回初開催となる「第1回24時間AIハッカソン」は前日の11月3日の12時からスタート。まる24時間後の翌日12時までの時間で、テーマに沿った成果物を作成する。チームメンバーは最大5名。各チームにはサードウェーブから高性能ゲーミングPCを2台貸し出された。参加者1人につきノートPCは1台、1チームにつきデスクトップPCは1台まで持ち込みが許可されていた。
- OS:Windows 11 Pro
- CPU:Intel Core i7 13700F
- メモリ:32GB
- ストレージ:1TB SSD
- グラフィックボード:NVIDIA GeForce RTX 4070 12GB
- 電源:650W (80PLUS)
- モニター:I/O DATA LCD GC242HXB
当日発表されたテーマは漢字一文字で「楽」。「らく」「たのしい」「おんがく」など、どのように読むのかも参加者に委ねられた。優勝チームには賞金10万円と副賞としてドスパラポイント1人1万ポイント、準優勝最大2チームには5万円が贈られる。
審査員は慶應大学教授の増井俊之氏と、エンジニア・漫画家千代田まどか(ちょまど)氏、インテル株式会社技術本部部長・工学博士安生健一朗氏の3人が務めた。
議論の音声からマインドマップを作成し、新しい案まで自動提案する「B8」が優勝
審査会では、9チームが持ち時間2分の間に熱いプレゼンを行った。どのチームも24時間という限られた時間でアイディア出しから動作する成果物を作成しており、素晴らしかった。そんな激戦で優勝したのはチーム「エムニ」の下野祐太氏、後藤祐次氏、池奥裕太氏。
ハッカソンで何を作るのを話し合ったところ、色々アイディアは出たものの、どれも決め手がなく議論が詰まってしまったそう。ビジネスシーンでもこんな課題に直面するチームは多いだろう。そこで、逆転の発想で、議論を推進し、アイディア出しを支援するツールを開発することにした。プロダクト名は「B8」。
議論の音声をAIで構造化して整理し、新しい案まで自動で提案するシステムだ。アプリの画面は左側がマインドマップ、右側が音声のストリーミングという配置になっている。
最初のテーマを指定した後、議論を進めると話題が変わった時などにノードが自動的に追加されていく。手動でダブルクリックして追加することも可能。
『各デバイスが音声認識することで自動話者分離を実現しました。先回りして推論することで、予測遅延の最小化も行っています。また、フルスクラッチで開発することで、直感的なUIを実現しました』(エムニ)
審査員から『もっと時間があったり、予算があるなら、どういう発展を遂げますか?』と質問が出た。
『精度面にまだ課題があり、どこでグルーピングするのか、単語をどうやって抽出するのか、アイディアをどういう風に、発想を展開させていくのか、といったところを改善することで、もっと効果的なアイディアをAIが出してくれるようになると思います』(エムニ)
準優勝チーム
準優勝は2チーム。
身の回りにあるものを楽器に見立てて演奏できる「Instrumental Sight」
まずは、チーム「dual」。メンバーが楽器好きなので、身の回りにあるものを楽器に見立てるWebアプリ「Instrumental Sight」を開発した。「楽」を「たのしい」と「がっき」と捉えたのだ。
『最近、YouTubeで空き缶やゴミ箱を叩いて、ドラムっぽく演奏する動画が流行っていて、そこからアイディアを得て作りました。身の回りのものをAIに認識させて、何の楽器に似ているのかを判定し、画像をタップすると、その楽器の音が鳴ります』(dual)
まずは画像をアップロード、物体検出モデル「YORO」で検知。検知した物体の画像がどの楽器に近いかをOpenAIの画像認識AI「CLIP」で計算し、近い楽器の音を当てている。
実際のデモでは、作業中の机の写真をアップロード。ノートPCと机を認識しており、それぞれ黄色と緑に色分けされた。色により音階が変わるという。そして、画像をタップするなりクリックすると、楽器の音が再生された。
悩みを聞いて寄り添った回答、またはアドバイスをしてくれる「kiraku」
もう一つの準優勝チームが「何でもは知らないわよ。2022年1月までのことだけ」の前原宗太朗氏、池永周治氏、小林京輔氏、井上峻氏、中下拓也氏。チーム名は西尾維新の小説に出てくるヒロインの決め台詞をもじったもの。「ChatGPT」は従来2021年9月までのデータを学習して登場したが、最近2022年1月までのデータを元に回答できるようにアップグレードしている。そのネタを入れて来ていて、面白かった。
『我々は「気持ちが楽になる」から取ったチャットボット「kiraku」を作りました。自分の好きなアイコンを選んでカウンセリングを始めます。問診形式で「最近感じる心理的な不調」や「現在のストレスレベル」といった6項目の質問に回答すると、その人に寄り添った回答をするか、課題を解決するかを判断し、チャットできます』(何でもは知らないわよ。2022年1月までのことだけ)
デモでは、『友達の彼氏のこと好きになっちゃった』と相談すると、寄り添ったコメントしてくれた。受け入れて、話を聞いてくれるイメージだ。もう1つのデモでは、『ちょまどさんと写真撮りたかったけど撮れなかった。今回は具体的にどうしたらいいか』と質問。こちらは課題解決型と判断され、チャットでアドバイスをしてくれていた。
筆者が気になったのは「ガクガククエスト」と「ラブゲーム」
筆者が個人的に気になったチームを2つ紹介したい。
学びたいことを入力するとゲームを生成
まずは、チーム「継承工学総合研究所」の栗原雄一氏、蓑島和浩氏、森雄大氏。勉強が苦手な人のために、気楽に楽しく勉強できるように「ガクガククエスト」を開発した。
勉強したいことを入力すると、どのように勉強をした方がよいかロードマップを作ってくれる。そのロードマップを元に自動生成された問題を解くことで、知識を増やしていくのが特徴だ。問題文やロードマップの生成にはGPTを使い、画像は「DALL・E」で作ったという。
デモでは『統計検定の勉強をしたい』と入力すると、重回帰分析や時系列分析といったロードマップが作られた。ゲームを進めると、重回帰分析の問題が出て、下に回答の選択肢が表示される。回答を選び、正解だと経験値を得て、不正解だとダメージを受けるようになっている。苦手な勉強を楽しく進められる見事なゲーミフィケーションだった。
2つのLLMがロールプレイした恋愛シチュエーションを別のLLMが勝敗判定
もう一つ気になったチームが「中塩組」の深水拓郎氏、市川史章氏、須田真弘氏、片岡麻理子氏。開発したのは「ラブゲーム」。
『AIで色々なことが楽になるなら、AIに手伝ってもらえば、恋愛下手な僕らでも楽に恋愛ができるようになるんじゃないか、というのがモチベーションです』(中塩組)
「ChatGPT」のLLMを3つ用意し、チャレンジャーAとチャレンジャーB、そしてジャッジするCという役を割り当てる。それぞれにキャラクターを設定してロールプレイをさせることで、特徴的な回答をさせることができる。例えば、告白の言葉やデートの誘いなど、色々なシチュエーションで回答を得られる。
AIだけだと味気ないからと、ガレリアのGPUパワーを利用し、読み上げソフトウェア「VOICEVOX」で音声を合成し、人形のアバターから再生させる仕組みを構築した。しかし、実際のデモでは音声トラブルで声が出なかったのが残念。とは言え、生成例のスライドではチャレンジャーの出力を紹介しており、とても面白く可能性を感じた。
ハッカソン開始時はもくもくと作業も、夜中には笑いのツボにはまることも
審査時間に事務局の大沼氏のトークタイムが用意された。24時間AIハッカソンの参加チームは9月1日から30日まで募集されたが、最初は応募が少なくて気をもんだそう。しかし、終わってみれば20チームの応募があり、悩みに悩んで10チームに絞り込んだ。(1チーム辞退されたので、参加は9チーム)
一般的なハッカソンだと開始からワイワイすることが多いが、今回はAIというテーマだからか、最初はかなり頭を使ってもくもくと作業していたそう。とは言え、夜中になると笑いが増えてきて、ツボにはまることもあった。午前4時、5時になると床で眠る人も出た。
次は48時間ハッカソン?
授賞式では、グランプリを獲得したエムニと審査員から感想が述べられた。
『私自身、24時間のハッカソンに参加するのは初めてだったので、辛かったところはあるんですが、賞をいただけて大変光栄です。これからも開発の方も引き続き頑張りたいと思います』とエムニの下野氏。
最後に審査員の総評が述べられた。
『皆さん、今日は24時間という非常に長くて短い時間を忙しく過ごされたと思います。優勝されたエムニさんの作品はアイディアがみんな使いたいなと思うものであり、かつ実装がすごく素晴らしかったと改めて思います。このAI全盛期、アイディア出しから、いかに早く形にして、ちゃんと皆さんに使ってもらえるということが、本当に勝負どころです。今回、皆さんクラウドを使って時間かかるんでと言っていたので、ぜひガレリアを使ってローカルで動かしてください。このパフォーマンスを活かしきるくらいの物を作って欲しいと思います』(安生氏)
『本当にどの作品も素晴らしいです。この3連休に24時間のハッカソンに参加するって結構狂気ですよ。まずこのハッカソンにアプライすることが素晴らしいし、24時間走りきって、自分たちの成果を発表して、しかもデモもあって、プレゼンも楽しくて、どれも本当に素晴らしいですね。これからの活動も応援しております』(ちょまど氏)
『ゲームや楽器まで出てきて、非常に面白かったです。24時間経った割には皆さん元気な顔をしてるので、これはもう24時間くらいやってもよさそうですね(笑)』と増井氏は締めた。