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毛布をかぶって生成AIの力で美女に変身!? 第二回AIアートグランプリ最終審査会・授賞式

審査員特別賞にはAIが物理シミュレーションで生物の動きをゼロから学習する作品が

第一回AIフェスティバル(24時間AIハッカソン第二回AIアートグランプリ

 11月4日、ベルサール秋葉原にて「第1回 AIフェスティバル」が開催された。AIのアートグランプリやハッカソン、トークセッションが行われ、多くに人が来場してにぎわっていた。今回は、「第2回 AIアートグランプリ」の審査会・授賞式の様子をレポートする。

11月4日、「第1回 AIフェスティバル」が開催された。

 第1回の「AIアートグランプリ」は今年3月、サードウェーブの主催で開催された。eスポーツのようにAIアーティストたちが活躍する場・コミュニティを作り盛り上げたいという想いからスタートした企画だ。今回は8月31日に作品の応募がスタートし、9月20日締め切り。124作品が集まった。その後、10月にファイナリストを選考し、10作品が最終審査会に進んだ。

 審査員はイラストレーター・漫画家 安倍吉俊氏、弁護士 柿沼太一氏、アニメ企画プロデューサー 諏訪道彦氏と映画監督 樋口真嗣氏で、審査員長はメディアアーティスト・東京大学名誉教授 デジタルコンテンツ協会会長 河口洋一郎氏が務める。

河口氏と安倍氏、柿沼氏。諏訪氏と樋口氏は欠席している。

 グランプリは賞金15万円とGeForce RTX 4080を搭載したゲーミングPC「ガレリア」が副賞として贈られる。審査員特別賞は賞金10万円、優秀賞は賞金5万円、佳作は賞金2万円となる。

グランプリは快亭木魚氏の「明日のあたしのアバタイズ」に

 今回のテーマは「明日」。プレゼンテーションはそれぞれ3分間行われ、グランプリを獲得したのは「明日のあたしのアバタイズ」の快亭木魚氏となった。

 アバタイズはアバターとカスタマイズを合わせた造語で、「Stable Diffusion」を使い、自撮りした自分の映像を様々なアバターとして表現している。「Stable Diffusion」で生成しているものの、静止画ではなくそれぞれが短い動画としてつなぎ合わされている。

 長髪の女性になる場合は毛布をかぶり、謎のマシンを首回りに装着した男性になる場合は空きペットボトルを抱えて自撮りしたという。恐竜やサイボーグ犬は手の動きで生成している。一番迫力のあったマッドサイエンティストは頭にワイヤーハンガーを挟み、色々なケーブルを吊り下げて撮影して、大変だったそう。

グランプリを獲得した快亭木魚氏。
自撮り映像を生成AIで自在にアバター化している。
快亭木魚氏のプレゼン

中村政義氏の「動き」が審査員特別賞を受賞

 審査員特別賞を受賞したのは、「動き」の中村政義氏。AIにゼロから考えさせたらどうなるか、物理シミュレーションを使ったデモを見せてくれた。「走れ」と命令すると、ゾンビのような人体のモデルがランダムに関節を動かして動きを学習していく。もちろん、人間のように走ることはできないのだが、時間が経つと、無茶苦茶な動きで前に進み出すのだ。

『私はAIが生み出す創造性に惹かれて、様々な作品を作ってきました。皆さん、この生々しい人の動き、正直どう思いますか。これについて、昔NHKで放送されて、様々な議論や批判が起こったので、ご存知の方も多いと思います。逆に考えると、当時にこれほど議論を引き起こしたAIもなかったのではないでしょうか』(中村氏)

 さらにこのAIに遺伝子や自然淘汰を実装し、コンピューターの中で進化させることに取り組んでいる。強いものは子孫を残し、そうでないものは淘汰される。シミュレーションによって、進化の創造性を直接観察できる「ANLIFE」を開発しているという。

審査員特別賞を獲得した中村氏。
物議を醸したうねり歩くゾンビ。
中村政義氏のプレゼン

優秀賞

 優秀賞は実験東京のお二人とko氏、阿部和樹氏の4名が受賞した。

実験東京の「幻視影絵」

 実験東京はAIエンジニアとデザイナーのコンビで、作品制作を実験ととらえ、様々な表現を行っているという。今回のテーマは影絵遊び。

『人間とAIによる影遊びのメディアアートを作りたいというところからスタートしました。 光の前に立って、人間が影絵を作ると、その影絵を元に「Stable Diffusion」で画像を生成して、その映像を影に投影します』(実験東京)

 人間には鳥の影絵に見えるのに、生成AIが犬の映像を生成するなど、思った通りにならないこともある。この人間と異なるAIの解釈こそが面白い、と語った。

実験東京のお二人。
影絵を作ると「Stable Diffusion」が動物の画像を生成して上書き表示する。
実験東京のプレゼン

ko氏の「What future do you hope for?」

 ko氏は「What future do you hope for?」という動画を作成した。「Midjourney」のZoom機能を利用し、画像の周囲に新たに画像を生成し、拡張していき、それを連続して繋げている。

 赤ずきんから始まり、戦争や近代など時代が進んでいき、未来の明日が来る、というストーリーになっている。生成したのは静止画だが、それぞれを「Adobe Firefly」などのツールで手を入れ、炎や煙を動かしたりしているという。

『プロンプトによって1600年から未来の映像へとズームさせていくのが、今話しているイベントの振る舞いや言動がプロンプトのように広がって、未来を形成していく現実みたいだなと思っています』(ko氏)

「What future do you hope for?」についてプレゼンするko氏。
「Midjourney」のZoom機能を使って画像を拡張していく。
ko氏のプレゼン

阿部和樹氏の「アイマノカタチ」

 阿部和樹氏は「アイマノカタチ」という作品を発表した。複数のものの形を混ぜ合わせたような形状をしている曖昧な形を表現している。例えば、ドクロとウサギとボトルを混ぜ合わせ、それぞれの特徴を残しつつも、1つの形状となっている。

『多義性を持った曖昧な形を、画像生成AIと画像認識AIを組み込んだシステムで無数に潜在する形の中から探し出しました。プリミティブに形という概念を単体で考えた場合、私たちが認識できる形の存在はごくわずかだと考えています。長い歴史の中で、偶然、機能的であったり、優位性を示せる形であって、きっと見つけられてない形でものが存在すると私は思いました。まだ見ぬ形がどんな形をしているのか、どんな印象を与えてくれるのかを見てみたくなったというのがこの作品のモチベーションです』(阿部氏)

 形を作るなら紙と鉛筆でも粘土でも可能だが、自分が思いもしなかった形を探し出すためにAIを採用したという。技術的にはまず画像認識AIに学習させて3つのものだけを認識するようにする。次に、画像生成AIで生成させたものを判別させ、らしさの割合を出している。33%ずつになっていない場合はプロンプトを自動でチューニングし、再生成し、判別するといったサイクルを繰り返している。

「アイマノカタチ」についてプレゼンする阿部和樹氏。
3つの物体をバランスよく混合した「アイマノカタチ」。
阿部和樹氏のプレゼン

快亭木魚氏の本業は事務職

 最終審査結果発表では賞状や賞金、副賞の贈呈が行われた。審査員特別賞について川口氏は『彼の今回の作品は遺伝的アルゴリズムや人工生命体について、長期的に真面目にやってることも含めて、今回の生成AIの流れにうまく加味したことが審査員の中で認められました』とコメントした。

 グランプリを獲得した快亭木魚氏には賞金とともにサードウェーブの尾崎代表取締役より、ガレリアが授与された。

『作る過程でアイディアを出してAIを活用しているところが非常に面白い作品だと思います。ぜひ、性能の高いCPUとグラフィックスカードを積んだガレリアで新しい作品を作ってもらいたいと思います』(尾崎氏)

『私は普通のFAXを使っているような事務職です。今回「明日」というテーマでしたが、こんな明日が来るとは想像もしていませんでした。でも、いろんな人がAIを使えるようになったので、私のような趣味でやっているような人間でも届いたというところもあると思います』(快亭木魚氏)

グランプリを獲得した快亭木魚氏にガレリアが贈呈された。

AIを使って自分の眠っていた能力を引き出してくれるような可能性が出てきた

 最後に、審査委員が総評を語った。

『第1回と同様に審査は非常に難航しました。作品の応募基準がそんなにかっちりしてるわけではないので、なかなか比べるってことが難しかったです。総合的に評価して、今日はこういう順位を付させていただきましたけども、本当に皆さん紙一重だったと思っています。今後も、AIを使った創作に取り組んでいただいて、素晴らしいものを生み出していただければなと思っています』(柿沼氏)

『当然、作品で審査するわけですけど、プレゼンで制作の過程が見えたり、作ってる人の姿が見えたりすることで、作品の面白みが増した気がします。AIは作品を作るための非常に重要なパーツではあるんだけど、作っている人間の姿がすごく大事なんだなって思いました』(安倍氏)

『事務の人がAIと一緒に遊ぶことでサイバーの世界の人気者になって、夢を与えてくれました。AIを使って自分の眠っていた能力を引き出してくれるような可能性が出てきたので、とてもよかったです。今回、皆さんのレベルが高くて、激戦だったので、次に繋がるなと思いました。ぜひ、AIによるアートやデザインの世界を高めてくれればいいなと思います』と河口氏は締めた。

「第2回 AIアートグランプリ」に参加した登壇者と審査員、司会の皆さん。