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落合陽一氏が語る「AIの神事で祈る時代」 ~計算と自然が融合した先にあるものは?~【AIフェスティバル 2024】

基調講演レポート

AIフェスティバル 2024

 株式会社サードウェーブ主催によるイベント「AIフェスティバル 2024 Powered by GALLERIA」が、11月8日〜9日に秋葉原で開催されている。昨年に続き2回目の開催となる。

 第三回「AIアートグランプリ」の表彰式や、大阪・福岡・東京で開催された「24時間AIハッカソン2024」各優勝チームのトークイベント、第一線で活躍する人たちによるトークセッション、協賛各社のブース展示などが行われている。

 基調講演ではメディアアーティストの落合陽一氏が登壇した。

「そして神社を作る」

 講演タイトルは「そして神社を作る」。落合氏の提唱する「デジタルネイチャー」の考えをもとに、 自然に対する畏れから信仰が生まれ神社に祈るなら、計算と自然が融合するときにはAIの神事で祈ってもいいのではないか 、という試みだ。

 講演では、デジタルネイチャーを中心に、落合氏の研究や作品、考えが紹介された。

「自然は計算機とみなすことができ、自然は計算機の中にも存在する」「その融合が計算機時代の自然である」

メディアアーティストの落合陽一氏

 落合氏はデジタルネイチャーの考えを「自然は計算機とみなすことができ、自然は計算機の中にも存在する、その融合が計算機時代の自然である」と言う。

 計算機の中の自然というのは、計算機の中で衝突や気象など自然をシミュレーションするようなことだ。

 また、「自然の中の計算機」とは、自然の中の衝突や気象などは計算で表すことができ、つまり「計算機」であるというようなことのようだ。「これを融合することで、異質な新しい計算機自然が生まれるに違いない、という確信」(落合氏)から考えているという。

「計算機と自然 計算機の自然」。スライド背景はAIによる画像。
「自然は計算機とみなすことができ 自然は計算機の中にも存在する その融合が計算機時代の自然である」
計算機の中の自然と自然の中の計算機がぐるぐる入れ子になる

「計算シミュレーションに基づいて実世界を更新するにはどうしたらいいか」

 落合氏は「物理的に動くものとコンピューターの中のシミュレーションが一致するというのをどうやって動的に更新し続けるか」というのが博士論文のころのテーマだったという。

 このように、計算シミュレーションに基づいて実世界を更新するにはどうしたらいいかをテーマに、例えば3Dプリンターを速くする、あるいは固定システムを自動化するといったことが重要な問題だと落合氏は語る。

物理に動くものとシミュレーションが一致するものを更新し続けるというテーマ
「普段どんな感じで普段ものを見てるんですか」と学生に聞かれて書いた図
それを“霞が関っぽく”書いた図

 こうして3Dプリンターやメタマテリアルなどいままで作れなかったものができることで自然が計算機によって拡張され、拡張された自然が計算機にもう一度戻ってくるというループが、より早く進むはずだと落合氏は言う。

 そしてデジタルネイチャー系をループを高速化する、ループの適応範囲を広げる、自動最適化の範囲を広げる、の3要素で定式化した。

メタマテリアルによる吸音系シミュレーション
デジタルネイチャー系を3要素で定式化

 「このようにコンピューターが人によっての自然を作り変えると、この世界のあらゆる原則や原理は変換されてしまう」という世界観を落合氏は語った。

 アナロジーとしては、科学と計算機科学と同じように、自然とデジタルネイチャー(計算機自然)があるという考えだ。「農業も物理学も化学もAIで自然の一部だとは思っています」と落合氏。

質量中心の科学から、人間中心の科学へ、そして計算中心(デジタルネイチャー)へ
自然とデジタルネイチャー(計算機自然)を、科学と計算機科学にアナロジー

 ここで落合氏はAIの進歩を生物に重ねた。2010年代ごろのAIの学習投入量は10の17乗程度でミツバチぐらいに相当、それが2022年ごろChatGPTが登場したころは10の24乗程度。

 一方人間が生涯で学習する知識が10の25乗程度だという。このラインは2003年のGPT-4で到達し、Llamaはそれをオープンに使えるようにした。こうしてここまでまっすぐに伸びてきて、これから先も大手が資金を投入すれば伸びそうな感じいなっている、と落合氏は語った。

生物とAIの学習投入量

「選ぶこと、キュレーションが最後の仕事になる」

 ここで落合氏は改めてラボの研究を紹介した。2023年ごろのGPT-3.5の時代には、ボードゲームやカードゲームを自動で作り出す研究があったという。

 こうして自動でゲームができるようになったとき人間が何をするかについて、遊んだゲームの中でどれが一番面白かったかを選ぶ、キュレーションやDJのようなことだと落合氏は言う。

 また、GPT-2の頃にはAIがあらすじやキャラクターを自動生成する研究があったという。

ボードゲームやカードゲームを自動で作り出す研究
あらすじ生成

 2016年には、ファッション写真から画像を作る研究があり、ファッションショーを学習させて逆に服を作れるかと考えていたという。それが2023年になるとパターンもわかるような画像が生成されるように、問題自体が消滅したと落合氏は語った。

ファッション写真から絵を作る(2016年)
2023年にはパターンがわかるような画像ができるように

 ChatGPTが登場した2022年末には、ChatGPTをインターフェイスとしてp5.jsのコードを書かせてそのまま実行するということも試したという。

2022年12月、ChatGPTでp5.jsのコードを書かせて実行する

 ここで、「人間が機械と協調して作る」から「自動実装されたもの、機械を見て選ぶ」にパラダイムが変わるのは不可避、と落合氏。

 そして、全部新曲のDJと作曲家の区別はつかない、書いた小説が漫画になるなら漫画家と区別がつかない、として、選ぶこと、キュレーションが最後の仕事になると語った。

「人間が機械と協調して作る」から「自動実装されたもの、機械を見て選ぶ」

 そのほか、2025年万博のパビリオン「null2(ヌルヌル)」や、荘子の「胡蝶の夢」をAIで映像にしたものを紹介した。

2025年万博のパビリオン「null2(ヌルヌル)」
荘子の「胡蝶の夢」をAIで映像に

「データが勝手に喋り出す世界では、死生観は大きく変化する」「自然への怖れで神社が生まれるように、コンピュータでも……」

 そして最後に、タイトルである「神社を作る」だ。

 データが勝手に喋り出す世界において、死生観が大きく変化するはずで、とりあえず宗教を考えて神社を作ろう、と落合氏。

 地震など自然への怖れがあって神社が生まれるように、コンピュータでもパスワードが流出しませんようになど怖れられていることを祈る神社がってもいい、というわけだ。そこで知り合いの宮司になったところ、禰宜になれば神事ができるということで、自身が禰宜になったと語った。

神社を作る