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ボーカルミキシングをしてみよう!~「Audacity」でボーカルにエフェクターをかける
2017年11月14日 06:30
前回録音したボーカル音源をもとに、今回はイコライザーやコンプレッサー、リバーブなどのエフェクターを使って、もっとかっこいいトラックを作る方法を紹介しましょう。
Audacityを使ってボーカルにエフェクターをかける
ボーカルのミキシングはいろいろな方法があるのですが、音を変化させるエフェクターを利用して加工していくことで、磨きをかけていきます。エフェクターには、さまざまな種類のものが存在しますが、今回は“コンプレッサー”、“イコライザー”、“リバーブ”の3種類を用いて、この順にエフェクターを掛けていこうと思います。
コンプレッサーで音量バランスを整え、イコライザーで音質を調整し、リバーブで空気感や雰囲気を作りオケとなじむようにしていきます。
“コンプレッサー”で音を圧縮する
まずは、「Audacity」のコンプレッサーについて紹介します。コンプレッサーというのは、音を圧縮(Compression)するエフェクターです。圧縮といっても、MP3などの容量を圧縮するのではなく、ボーカルは音量差があるので、大きい音と小さい音のバラつきを整え聴きやすくするというものです。
コンプレッサーをかけたいトラックを選択して[エフェクト]メニューから[コンプレッサー]を選びます。
以下はそれぞれのパラメータについての説明です。
- [閾(しきい)値]:入力音が設定した値を超えると、コンプレッサーが作動します。
- [ノイズフロア]:設定した値より小さい音を減衰させます。
- [レシオ]:閾値を超えた信号の圧縮比率。2:1に設定した場合、閾値を超えた音を1/2に圧縮します。
- [アタックタイム]:閾値を上回ってからレシオで設定した値に達するまでの時間。
- [リリースタイム]:閾値を下回ってからコンプレッサーが停止するまでの時間。
- [圧縮の後0dBになるようにゲインを調整する]:チェックがONだと自動でノーマライズ処理がされます。
- [ピークに基づく圧縮]:圧縮しながらボリュームをギリギリまで増幅します。
ボーカルトラックにコンプレッサーをかける際は、[圧縮の後0dBになるようにゲインを調整する]と[ピークに基づく圧縮]のチェックは外しておきます。
ボーカルに使用する際のセッティングの例としてはレシオを2:1~8:1に設定し、アタックタイムは0.10秒、リリースは1.0秒に、閾値はかけたいトラックのレベルメーターを見ながら3~6dBほどかかるように調整します。
たとえば、ボーカルトラックをソロにして、トラックのゲイン調整を+0.0dBのまま再生した時に、一番大きい音がレベルメーターの-3と書いているところまで振れたとします。その場合、閾値を-9dBに設定すると6dB分レシオに設定した比率で圧縮されます。
コンプレッサーは変化のわかりにくいエフェクターなので、かけすぎには注意が必要です。圧縮しすぎると歌の強弱が失われてしまうので、エフェクターをかける前とかけた後を比べながら耳で判断しましょう。
上記の例では大きい音を少しだけ抑えた使い方をしましたが、もっと積極的に圧縮して波形の形が大きく変わっていても、聴いた音がよければ大丈夫です。ジャンルによっても、どのぐらいかけたらよいかが変わってくるのでアンドゥ機能を使いながら何度か挑戦してみてください。アタックタイムとリリースタイムの設定は一番早いままで、閾値とレシオを調整しながらかかり具合を変えていくとよいと思います。
最終的に、もう少し強めにコンプレッサーをかけて音量差を整えました。
“イコライザー”で帯域ごとの音量を変化させる
次にイコライザーをかけていきます。イコライザーとは、低域を削ったり、高域を足したりと帯域ごとの音量を変化させるエフェクターです。このイコライザーを利用することで、ずいぶん声の雰囲気も変わってきますので、音作りにおいてはとても重要なエフェクターなのです。「Audacity」では“イコライゼーション”と表記されています。
「Audacity」では[エフェクト]メニューの[イコライゼーション]から使用することができます。
EQタイプは描画とグラフィックの2種類あります。描画の場合は、点を打ちそれらを動かすことによって自由に周波数を変化させることができます。グラフィックは、指定された周波数を上下させることによって周波数を変化させます。
以下に、ボーカルにかける際、どこの帯域にどういった特徴があるか紹介します。
- 200Hz辺りには低音があり、ここを上げるとボーカルの音に厚みがでます。音がこもっている場合はこの帯域を下げるとよいでしょう。
- 400Hz辺りは基音があります。上げると声が太めに聴こえ、下げるとスッキリした音になりますが、下げすぎには注意してください。
- 1kHz辺りを上げると音が前に出てきます。
- 5kHzより上の帯域を上げると声がきらびやかになります。上げすぎると耳が痛くなるボーカルになってしまいます。
ボーカルにイコライザーをかける時は6dB~-6dB以内で調整するとよい効果が得られます。それ以上変化させるとバランスが悪くなってしまうことが多いです。
今回は、描画タイプを使いイコライジングしました。実際に適応されるイコライザーの線は緑色の線なので、点を打った後フィルター長を動かし調整してみましょう。使用するマイクや環境によって、イコライザーの設定は変わってくるので周波数ごとの特徴を見ながら調整してみてください。
“リバーブ”で音に残響音や反射音を加える
最後にリバーブです。
リバーブは残響音を調整するエフェクターです。カラオケでいうところのエコーのことですね。音に残響音や反射音を加えることで、空間的な広がりや雰囲気を作ることができます。たとえば部屋で歌ったボーカルを、大きなホールで歌っているかのような残響感を演出できます。
リバーブを使う際は[エフェクト]メニューから[リバーブ]を選びます。
それぞれのパラメータは以下のとおりです。
- [ルームサイズ (%)]:空間の広さ。値が小さければ狭い空間での反響音、高ければ広い空間での反響音を再現できます。
- [プリディレイ (ms)]:反響が始まる時間。0の場合は元音と同時に反響し、数値を上げれば残響音が遅れて聴こえます。
- [残響 (%)]:残響音の長さのです。音が反響しやすい空間なのか、反響しにくい空間なのかを調整できます。
- [ダンピング (dB)]:残響音の音質。数値が高いほど響きが弱くなります。
- [トーンLow (%)]:低音域の響きの割合。数値を上げると低音が足されていきます。
- [トーンHigh (%)]:高音域の響きの割合。数値を上げると高音が足されていきます。
- [ウェットゲイン (dB)]:原音に作った残響音をどれだけ足すか調整できます。最終的なリバーブのかけ具合はウェットゲインで調整します。
- [ドライゲイン (dB)]:原音の音の大きさです。特に変える必要がないので、0dBのままにしておきます。
- [ステレオ幅 (%)]:ステレオ感を調整できます。数値が高いほどステレオ感が強くなります。ボーカルにリバーブをかける時は高めの数値に設定します。
実際の使い方としては、プリセットがいくつか用意されているのでそこから微調整しいくのがよいでしょう。
プリセットは、[管理]→[出荷時プリセット]で閲覧できます。
今回は、プリセットの“ボーカルⅠ”を選び、そこからプリディレイとウェットゲインを少し調整しました。
リバーブのコツは、ウェットゲインを上げすぎないことです。バラードなどスローテンポの楽曲において、リバーブをたくさんかける際には[ルームサイズ]や[残響]、[ダンピング]のパラメータを調整し、残響時間が長いものを作り、それをウェットゲインで調整すると楽曲になじむボーカルトラックが作れます。
コーラスなどにかける時は、メインのボーカルトラックで作ったリバーブの設定のまま、少しウェットゲイン上げることでメインボーカルと同じ空気感のまま、メインボーカルの後ろで歌っているかのような空間を演出できます。
エフェクターのかける順番は自由なので、それぞれのエフェクターの特徴を理解しながらいろいろ試してみるとよいでしょう。どのエフェクターも一度ではなかなかうまくいかないものなので、アンドゥ機能をうまく使いながら納得のいく設定を探してみてください。
藤本 健
リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto。