週末ゲーム

第531回

2099年の秋葉原を救え! 幻想と現実が交錯するADV「AKIBAALIVE -overture-」

デッキを組んで戦うRPG風リアルタイムバトルが魅力。未来のアキバライフを堪能しよう

 『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームの中から、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は近未来の秋葉原を舞台に、ゲームの力を現実で使う能力者達の戦いを描いたアドベンチャーゲーム「AKIBAALIVE -overture-」をご紹介する。

2099年の秋葉原を舞台に、ゲームの力で現実を戦う少年達の物語

 「AKIBAALIVE -overture-」は近未来の秋葉原を舞台に、ゲームの世界が現実に侵食してくるという事件に立ち向かう少年少女達の戦い、そして秋葉原での愉快なオタクライフを描いたアドベンチャーゲーム。TVアニメのように話数で区切られたテンポの良いシナリオや、デッキ構築とタイミングの読み合いがポイントとなるRPG風のリアルタイムバトル、現実世界とゲーム内で画風の異なる美麗なグラフィックなどが見所の作品だ。

MMORPG“Apocalypse#0”の中で、たびたび葦人を導くことになる謎の黒騎士。葦人は黒騎士から“運命交換”の能力をもつカードを渡される
現実の秋葉原で葦人が“運命交換”を願ったとき、その能力は発現する――

 物語の舞台は2099年、東京都24番目の区として再編成された秋葉原。“秋葉原学院”の高等部に通う主人公の少年“桜井葦人”は体感型MMORPG“Apocalypse#0”のプレイ中、謎の黒騎士に“運命交換”という能力をもつカードを渡される。Apocalypse#0における特殊能力“アルカナ”の中でも唯一無二のレア能力である運命交換とは、認識した対象と自分の運命を入れ替える力。これによってゲーム内の窮地を脱した葦人だったが、今度はゲームからログアウト後の現実の秋葉原で、友人の少女“来栖川鈴音”が爆弾事件に巻き込まれてしまう。

 鈴音を助けるには近付かなければならない、しかし近付けば犯人により爆弾が爆破されるかもしれない……そんな一触即発の状況の中、葦人が『鈴音と運命を換わることができれば』と願ったそのとき、ゲームの能力であるはずの“運命交換”が発現し、爆弾は葦人の手元に。間一髪で爆弾を処理することに成功した葦人だったが、これは秋葉原を舞台にした、虚構と現実が交錯する戦いの始まりに過ぎなかった……。

 その後、秋葉原で起こるトラブルの解決を請け負う部活“AAA部”に成り行きで入部した葦人は、秋葉原で起こるさまざまな事件に巻き込まれながら、Apocalypse#0の幻想世界と現実の秋葉原の関係に迫っていく。その一方で、2099年になっても相変わらず“オタクの街”として賑わう秋葉原を舞台に、多くの個性的なキャラクター達の掛け合いも楽しめる作品だ。

お嬢様だが重度のオタクでもある“来栖川鈴音(すずね)”と、その執事にしてボディガードの“真砂雪”。ちなみに背景はカオス感が漂うAAA部の部室
鈴音の妹“来栖川凛音(りんね)”。姉を溺愛しており、姉を守る実質的な権力を得るため警察官となった。頼りになる存在だが、かなりの毒舌家
葦人の妹“桜井さくら”。妄想設定を現実に持ち込む“中二病”だが、理解のない人の前では設定を振りかざさない思慮深さもある良い子
ゲームの中の存在が現実を侵食してゆく

 なお本作は同人ゲームとして頒布されており、執筆時現在は委託販売店などで購入可能なほか、8月10日より開催される同人誌即売会“コミックマーケット”でも頒布予定となっている。詳細はサークル公式サイトで確認してほしい。公式サイトでは、第2話までを収録した体験版も公開されている。

ショップ巡回にバイト、そして部活動で人助け! 未来のアキバライフを満喫しよう

秋葉原のマップから移動先を選択

 各話の基本的な流れは、導入部に続いてまずはAAA部の活動である秋葉原巡回パートがあり、ここではマップ上から施設を選んで移動可能。ゲームセンターや書店で友人知人と交流したりといったミニシナリオを楽しむことができる。また、メイド喫茶ではアルバイトとしてミニゲームでお金を貯めたり、トレーディングカードショップではApocalypse#0でアルカナ能力を使うためのカードを買ったりガチャを引いたりと、2099年のアキバライフを満喫するのも楽しみだ。

 さらに学院では、AAA部の部室でダベる他に、AAA部に寄せられたさまざまな依頼をこなし、お金やApocalypse#0のカードといった報酬を得ることもできる。一通り巡回をこなしたらマップ右下の“NEXT SCENARIO”を選択することで、物語は先へと進んでいく。

書店で出会った後輩とオタク語り。2099年においてもジョジョは不朽の名作である模様
とある事情により、女装してメイド喫茶でアルバイトすることになる葦人。バイトはタイピングゲームとなっており、成績に応じた報酬を貰える
トレーディングカードショップ“ネコビオー”ではApocalypse#0のカードを購入するほか、ガチャでカードを引くことも可能。どちらが安く済むかは運次第!?
AAA部にはさまざまな依頼が。解決することで報酬をゲットできる

RPG風の戦闘パートは読み合い重視のリアルタイムバトル。自分だけのデッキを組んで戦え!

戦闘はATB方式。ゲージが溜まるとコマンド選択が可能になる

 そして各話のクライマックスでは、“何でもアリ”の秋葉原らしく、巨大ロボットやゲームの中から出てきた敵、葦人と同様にゲーム内のアルカナ能力を現実で使いこなす“A能力者”との戦いが、RPG風の戦闘パートで展開する。

 戦闘は敵・味方共に“ATゲージ”が溜まったら行動できるATB方式。味方側は最大3人パーティだがプレイヤーが直接操作するのは主人公の葦人のみで、他のメンバーは自動で行動する。コマンド選択中も戦闘が進行してくリアルタイム性の高いバトルだ。

 戦闘でまずポイントとなるのは、アルカナ能力を司るApocalypse#0のカードをあらかじめセットしておくデッキ構築。これは戦闘自体がカードバトルというわけではなく、セットしたカードに応じて葦人の能力が強化されるという、一般的なRPGにおけるスキルのカスタマイズに相当するものだ。カードにはそれぞれ必要コストが設定されており、総コストの範囲内で戦闘に利用するカードを選択する。

 カードは4つの系統に分かれており、“剣”系は自身のステータスを上げたり常時発動の特殊効果を得たりと、いわゆるパッシブスキルに相当。“杖”系は魔法を、“聖杯”系は召喚術を使えるようになる。また、杖や聖杯は使用時に詠唱時間が必要となるが、“護符”系のカードは一回の戦闘で一度しか使えない代わりに即座に効果を発揮するという、アイテム的な位置付けのカードだ。

手持ちのカードをコストの範囲内で選択し、デッキを構築
召喚は詠唱時間が長く必要だが、さまざまな特殊能力をもつ使い魔が一定時間代わりに戦ってくれる。召喚解除時に大技を繰り出すことも可能

 リアルタイムに進行していくバトルにおいて、この詠唱時間の概念はとくに重要だ。詠唱中はATゲージが“WAIT”という表示になり、この間に攻撃を受けると詠唱がキャンセルされることがあるほか、一定時間行動不能になる“スタン”攻撃を受けると確実に詠唱キャンセルとなる。強力なアルカナ能力ほど詠唱時間は長いため、敵の隙をついて詠唱を行ったり、逆に敵の詠唱を妨害できるよう敢えて行動せず様子を見たりと、ATゲージの読み合いが重要な駆け引きとなっている。

 さらに、葦人だけの特別な力である運命交換は、戦闘パートにおいても大きな意味をもつ。敵が詠唱時間のかかる大技を繰り出してくるときに、タイミングを合わせて運命交換を発動すれば、葦人に当たるはずの攻撃を敵にそのまま返したり、敵が自分にかけようとした能力強化を葦人が横取りすることも可能だ。運命交換は一度使うと一定のチャージ時間ののち、再び使えるようになる仕組み。

敵が大技の準備に入ったらタイミングを合わせて“運命交換”を使えば、効果の対象を入れ替えることが可能

 そのほか、仲間になったキャラクターに戦闘中一度だけ援護を要請できる“ストライカー”、パーティメンバーと攻撃のタイミングを合わせることで必中となる上に、個別に攻撃するよりダメージも増える“同期攻撃”、敵から狙われやすいがATゲージが溜まりやすくなる前衛メンバーを指定する“陣形”といったシステムが用意されている。

大ダメージを与えたり、敵の詠唱を即座にキャンセルしたりと、まさに切り札となる“ストライカー”

 これらの要素により、限られたコストの中で物理攻撃型、魔法型、バランス型……など戦闘スタイルに応じたデッキを組むという戦略、そしてATゲージの読み合いや、デッキを活用するための陣形、護符カードおよびストライカーの使い所といった戦術が勝利の鍵となる。アドベンチャーゲームの戦闘パートという枠を越えた、臨場感のある本格的なバトルが醍醐味だ。

 また、サイドビューの戦闘画面は、細かく描き込まれたドット絵のアニメーションや、カットインとエフェクトによる演出も見所となっている。とくにゲーム終盤にかけて見られる、現実の秋葉原と幻想が融合したような戦闘背景は、決戦の舞台を大いに盛り上げてくれる。

カットインによる演出も見所

悪の組織との戦いから同人誌制作まで。ごった煮感あふれる賑やかな作品

 話数ごとにテイストの異なるバラエティに富んだシナリオも本作の魅力。殺人事件を追っていくようなシリアス展開がある一方、世界征服……の手始めに秋葉原征服を狙う秘密組織と正義のヒューマノイドが対峙する変身ヒーローもののようなエピソードや、夏と冬に有明で開催される“コミックフェスティバル”に向けて同人誌制作に奮闘するエピソードも。またApocalypse#0の中で大規模な戦闘を率いることになったりと、現実とゲーム世界が交差しつつ物語が進んでいく。こうした事件を経て、クールな思索型だがここぞという時はアツさも見せる葦人のもとへ、頼りになる仲間達が集ってゆく展開も王道的で気持ちよい。

巨大ロボットを駆使して秋葉原征服を目論む“夜姫百合子(やひめりりす)”と、それを阻む正義のヒューマノイド“クロスエンジェル”。スケールが大きいのか小さいのか微妙な戦いが繰り広げられる

 グラフィック面も、現実サイドではスタイリッシュなキャラクターデザインにアニメ調の塗りが際立つ一方、Apocalypse#0サイドでは幻想的なクリーチャー達を厚塗りで表現しており、これに戦闘パートのドット絵も加わって、ひとつの作品で3つの画風を堪能できるのは本作ならではのウリだ。

美麗なグラフィックで表現される幻想世界の住人達

 そして本作最大の魅力は、こうしたメインシナリオの展開に、秋葉原巡回という寄り道要素を加えた、いい意味でのごった煮感だろう。ミニゲームを極めるもよし、レアカードを求めてひたすらガチャを回すもよし。また、AAA部への依頼には繰り返し挑戦できる戦闘系の依頼もあるので、“ぼくのかんがえた最強デッキ”を組んでバトルに明け暮れるのもアリだ。さらに、キャラクター達とメールをやり取りする要素や、重要語句から一発ネタまで幅広く解説した用語集などもあり、年中お祭りのような秋葉原を存分に楽しめる作品となっている。

メニュー画面はPDAを模しており、メールの閲覧も可能。メールは新着通知もあり、届いた直後にチェックすれば返信もできる
用語集の項目は、作品世界の理解に役立つものから一発ネタまでさまざま。ゲームの進行に応じて内容が増えていく
さまざまな思惑を孕みつつ、戦いは続いていく

 なお本作「AKIBAALIVE -overture-」は単体でひとつの結末を迎えてはいるものの、overture(序曲)の名の通り前編という位置付けで、現在は後編にあたる“GAMEOVER”編が開発中。後編ではゲーム世界と現実の繋がり、そしてA能力の謎へさらに迫っていくことが期待されるほか、戦闘パートも参加メンバーの編成が可能になるなどよりパワーアップするようだ。未来の秋葉原をめぐる戦いに興味があるという方は、まずは本作の体験版からプレイしてみてはいかがだろうか。

ソフトウェア情報

「AKIBAALIVE -overture-」
【著作権者】
PSYCHOFRAME
【対応OS】
Windows XP/Vista/7
【ソフト種別】
パッケージ販売 2,500円(税込み)など(体験版あり)
【バージョン】
1.2(13/06/27)

(中村 友次郎)