石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
動作の重さを開発が認めた? 都市開発シム「Cities: Skylines II」に厳しい評価
2023年11月2日 11:00
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。
待望の新作なのにウケが悪い
都市開発シミュレーター「Cities: Skylines II(シティーズ: スカイライン2)」が10月25日に発売された。同ジャンルの名作である「シムシティ」シリーズを過去のものにした前作から、さらに磨きをかけた作品ということで、注目度は前作の発売時より格段に高い。
ところが本作は発売前から苦難に見舞われた。日本円を含む多数の通貨で発売後の値上げが告知され、価格は予約時の5,390円から、現在は6,990円へと約3割値上げされている。さらにPlayStation 5版およびXbox Series X|S版は2024年春へと発売延期。PC版のみが先行する形となった。
そのPC版も、発売前後でパフォーマンスに関する問題が噴出。待望されたはずの本作は、10月30日の本稿執筆時点でSteamの評価が「賛否両論」で、高評価の割合はたった55%と低い。いったい何があったのか。
発売時点では動作が重いことを開発側が認める
Steamのレビューを見ていくと、動作が重いという声がとても多い。高評価を付けながらも動作が重い点に言及しているものも多く、レビュー内容の大半が動作に関するものになっている。ゲーム内容そのものについての声はかなり少ない。
実は本作の動作については、発売前から不安視されていた。推奨環境のビデオカードがGeForce RTX 2080 Ti(11GB)からGeForce RTX 3080(10GB)へと引き上げられたのが1つ。さらに発売から約10日前には、パフォーマンスに関するコメントが出されている。
これによると、現時点では開発側が目標としていたパフォーマンスに届いていないという。今後もパフォーマンスの改善は続けていくとしているが、本作のプロジェクトを長期的に見て、発売は予定通りのスケジュールの方が良いと判断した、とも書かれている。
要するに、「動作が重いのは承知の上で発売し、今後改善していく」ということだ。数カ月前から予約販売を始めており、また発売後の値上げ告知も行った手前、発売を遅らせるわけにはいかないという事情もあっただろう。
ユーザー目線で言えば、動作が重いことのストレスはあるだろうが、まだまだ改善の余地があるという意味では安心はできる。何せ本作は発売してすぐ遊んで終わりという作品ではなく、この先数年は拡張要素を組み入れながら楽しんでいくものになるはずだからだ。
実際、パフォーマンスに関する発表の前に、公式のMODプラットフォームを導入することが書かれている。これはPC版のみならず、PS5やXboxでも展開されるという。もっともMODプラットフォームの導入時期はまだ未定で、MODを作るためのゲーム内エディターすらまだベータ版という段階。「こんな状態で売るな」というレビューが出るのも致し方ない。
ともかくパフォーマンスに問題を抱えた状態で発売されたという事実はいまさらどうしようもない。現時点では画質設定を下げてプレイすることが推奨されており、具体的な設定項目のガイドも公式から出された。なんと発売当日にである。
実際にゲーミングPCで動かしてみると?
参考までに、現時点でどのくらいのパフォーマンスが出るのかを見てみよう。検証には「NVIDIA FrameView」を使って、フレームレートやGPU使用率などのデータを見る。グラフィックス設定は初期状態のままとするが、ほぼ全てが最高画質の設定になっていた。
最初に使用したPCは、GeForce RTX 4060を搭載したマウスコンピューター製ノートPC「G-Tune E4」。ミドルクラスのゲーミングノートPCで、同社が示す推奨環境にはGPUとビデオメモリが足りていない。
素材は筆者が初めて作った街で、人口約3,400人と小さなもの。街の全景など引いた視点では約20fps、ズームインすると30fpsという感じで、実際のプレイでも概ねこの間を行き来する感じ。ちなみに何もない地面に最大までズームしたところ39fpsになった。GPU使用率は常に100%近くで、さすがに何かがおかしい気がする。
次に筆者所有のデスクトップPCで試してみた。こちらはCPUがCore i5-13600K、GPUがGeForce RTX 4080搭載のZOTAC製ビデオカード「ZOTAC GAMING GeForce RTX 4080 16GB AMP Extreme AIRO」。
こちらは解像度をフルHDにすると、常に60fpsを維持(Vsyncオン)。GPU使用率も60%程度で余裕がある状態だ。しかし解像度を4Kにすると、30fpsくらいまで落ちてしまい、GPUにも余裕がなくなる。解像度が高い方が見た目は圧倒的にいいのだが。
いずれも街がまだ小さい段階でこの状態なので、今後は負荷がさらに増していくのだと思われるが、今のところはまだ普通に遊べるレベルではある。あくまで現時点での話なので、少しずつでも改善していってくれるといいのだが。
ゲーム内容の進化は感じられる
ゲーム本編と関係ない話ばかりをしていても面白くないので、筆者が実際にプレイして感じたことも書いておきたい。本作はゲーム進行に合わせて丁寧なチュートリアルが表示されるので、初めてのプレイや新機能についても下調べなく遊べる。
本作を遊び始めてすぐ驚いたのが、道を引いたら電気と水道が通ること。道路の下に送電線と上下水道管が内蔵されており、発電所から道に電線を引けば、道路沿いの建物に電気が通る。
前作では発電施設の周囲の一定範囲に電気が届き、そこから建物が続く範囲で電気が流れていった。本作は道路にあるユーティリティネットワークと呼ばれる仕組みのおかげで、電線や水道を引く手間が圧倒的に減っている。ただし発電施設から道への電線、および水道施設から道への配管は必須なのでお忘れなく。電線は地下にも引ける。
調子よく街を作っていくと、やっぱり道路が渋滞する。初めての街づくりでまずは様子見にと、高速道路につながる目抜き通りを片側2車線で引いてしまったためか、あっさり大渋滞が起きてしまった。前作を評して「街づくりゲーではなく渋滞解消ゲー」とも言われたが、本作でも健在である。
ただ本作ではバスが効果的なのか、人の動きがありそうなところにざっくりとバス路線を引いたら、思った以上に渋滞が解消された。ほかにも工業地域と高速道路を直結するように作るなどして、さらに渋滞を削減。本作で渋滞解消ゲーが解消しているのかどうかは不明だが、前作までのノウハウが活かせるのは確かなようだ。
そして筆者がプレイしていて最も強く感じたことは、思ったよりリアルじゃないということ。本作はアクションゲームではないので、動作が少々重いのはさほど気にならないのだが、プロモーションムービーで見た映像のインパクトが、実際のプレイでは感じられない。
何でだろうと改めてプロモーションムービーを見返すと、確かに筆者が作った街と同じレベルの映像が表示されているようだ。それならばいったい何が違うのか。カメラと街づくりの腕である。映える街を作って、格好いい画角で撮影するだけでいい。
それができたら苦労しないが、本稿のスクリーンショットがぱっとしないのはゲームのせいではない、ということは明言しておかねばなるまい。ゲームとしての面白さは間違いないので、いつかパフォーマンスが改善されて素敵な街を作り上げられたら、また改めて本作をご紹介したい。
【追記】フォトモードについて
執筆後に気づいたのだが、本作には「フォトモード」があり、カメラを自在に動かして撮影できる。試しに数枚撮ってみたところ、確かにゲームプレイ時よりはそれっぽい絵になったものの、まだまだ物足りなさがある。街づくりが足りていない、筆者の撮影の腕が悪いというのも多いにあるが、カメラが寄った時の細部の表現が何かと雑に感じる。処理負荷とともにこの辺りも改善されるといいのだが。
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/