使ってわかるCopilot+ PC

第18回

仮想環境でNPUは動くのか?Arm版Windowsの「Hyper-V」でInsider Previewビルドを動かしてみよう

検証に使用した「Copilot+ PC」、「Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)」

「Hyper-V」でInsider Previewビルドを動かそう

 先週はSnapdragon Xを搭載した「Copilot+ PC」で、「Hyper-V」を導入して仮想環境を構築する準備をした。今週はいよいよ、Windows 11のInsider Previewビルドを仮想環境に作っていく。

 「Hyper-V」の操作手順は、x86版と変わらない。よって環境構築もそう難しくはないのだが、Arm版Windowsでは別のところでつまずくポイントがある。

ISOがない?

※(11/15 10:00更新)記事執筆時は
ISOイメージが公開されていませんでしたが、
現在は公開されております。

 仮想環境にOSをインストールする手順は、基本的には物理環境と同じだ。インストールメディアを用意して、仮想マシンにインストールする。PCの中にPCがある状態で、感覚的には別のPCをリモート操作しているようなものだ。物理マシンでOSのクリーンインストールをやったことがある人なら、さほど難しい作業ではない。

 Windows 11のインストールメディアは、インターネットでダウンロードできる。「Windows 11が無料で使える」という話ではなく、インストール後にライセンスを登録または購入すれば正式に使用できるというもので、データは無料で公開されているのである。何らかの理由でWindows 11の再インストールが必要になったら、インストールメディアを探すことなく、ダウンロードできることは覚えておくといい。

 ダウンロード先は、こちら。Webブラウザで「Windows 11 ダウンロード」などと検索すればすぐ見つかる。

 今回の作業手順は下記のような予定になる。

  1. 「Hyper-V」の仮想マシンにインストールするためのWindows 11のインストールメディアをダウンロード
  2. 仮想マシンにWindows 11をインストール
  3. 仮想マシンのWindows 11にInsider Previewビルドをインストール
  4. 上記作業が無事完了したら、ライセンスを登録

 まずはWindows 11のインストールメディアをダウンロード。今回は仮想マシンへのインストールなので、ディスクイメージのISOファイルをダウンロードする。ISOファイルは仮想マシン上にある仮想ドライブにそのまま持っていける。仮想マシンから見れば、「DVDドライブにWindows 11のインストールDVDが入れられた」という状態になる。

 ところが、ここでいきなりつまずくことになる。ダウンロードできるISOファイルは、本稿執筆時点ではx64版しか用意されていなかった。「Arm64デバイス用のWindows 11 ISOは、今後数週間以内に提供開始される予定です」という一文もある(編注:記事掲載後に提供開始されています)。

記事執筆時、Arm版WindowsのISOファイルはまだ存在しなかった
本稿掲載日(11月15日)では、Arm版WindowsのISOファイルも提供されている

ISOはなくともVHDXがある

 やむなく他の手を探ると、Arm版Windowsに関するQ&Aのページで、「Windows 11 Arm64 デバイスで Hyper-V を使用して Windows 11 仮想マシンをホストできますか?」という項目を発見した。

 これによると、Windows Insider Preview版のWindows 11のVHDX形式のファイルを使用して仮想マシンに使うようだ。VHDXはHDDをイメージファイル化したようなもの。つまり、Arm版Windows 11のInsider Previewビルドがクリーンインストールされた状態のHDDイメージが配布されているわけだ。ISOファイルからインストール作業をするより手間がない。

 Insider Preview版しか存在しないというのは、普通に考えると結構なリスクなのだが、今回はInsider Previewを使いたかったので、筆者としては願ったり叶ったり。

Insider Preview版ならダウンロードできる

 先の解説に従い、Windows Insider Preview DownloadsのWebサイトにアクセスする。Microsoftアカウントでログインすると、ダウンロードできるようになる。

 このサイトは英語だが、必要な手順は数ステップだ。まずは少し下の方にスクロールし、「Select Windows 11 Client Arm64 Insider Preview Dev Channel Edition:」と書かれたプルダウンメニューから、使用したいInsider Previewチャンネルを選択する。

 Windows 11のInsider Previewは先行して新要素を試せるものだが、製品版に近いものから先進的なテストのものまで、3つのチャンネルに分けて提供されている。最も製品版に近いのが「Beta」、より新しい機能が加えられるものが「Dev」、最も先進的な機能を試せる「Canary」の3つがある。この3つのどれを利用するかを選択せよ、ということだ。選んだら下にある「Confirm(了承)」ボタンをクリック。

使用したいビルドを選択

 次は「Select the product language(言語を選択)」。といっても執筆時点では「English(United States)」しか提供されていなかったので、選択の余地はない。選んだら下の「Confirm」をクリック。

言語選択だが、英語しか選べない

 するとダウンロードページへと遷移するので、「Download Now」ボタンをクリックすれば、VHDXファイルがダウンロードされる。どのチャンネルでもファイルサイズは10GB前後となる。

これでダウンロードできる。手続きは簡単だ

VHDXファイルで仮想マシンを構築

 ダウンロードしたら、[Hyper-V マネージャー]を開き、[操作]>[新規]>[仮想マシン]と選択して、仮想マシンを作成する。設定変更が必要な点がいくつかあるので確認していく。

[Hyper-V マネージャー]を開く

 [名前と場所の指定]では、仮想マシンの名前を決める。好きな名前をつけて構わない。

管理用の名前を付ける

 [世代の指定]は初期設定の[第2世代]のまま。

[第2世代]のまま次へ

 [メモリの割り当て]は[4096MB]以上とする。Windows 11のシステム要件が4GB以上とされているため。

初期値が[4096MB]であればそのままでいい

 [ネットワークの構成]では、[Default Switch]を選ぶ。これで仮想マシンからインターネット接続が可能になる。

[Default Switch]を選択する

 [仮想ハードディスクの接続]では、[既存の仮想ハードディスクを使用する]を選択し、先程ダウンロードしたInsider PreviewビルドのVHDXファイルを指定する。

ダウンロードしたVHDXファイルを指定

 [要約]で下の[完了]ボタンをクリック。

これで準備完了

 作業が終わると、[Hyper-V マネージャー]の[仮想マシン]に、さきほど名前を付けた仮想マシンがリストに上がってくるので、右クリックでメニューを開いて[設定]を選択する。

右クリックでメニューを開く

 仮想マシンの設定が開くので、[セキュリティ]を選択し、[トラステッド プラットフォーム モジュールを有効にする]にチェックを入れる。これもWindows 11のシステム要件の1つだ。

[トラステッド プラットフォーム モジュールを有効にする]にチェック。これを忘れると起動後に警告が表示される

 これで設定は完了。仮想マシンの名前をダブルクリックするか、右クリックのメニューから[接続]を選ぶ。すると『仮想マシンはオフになっています』という画面が出るので、[起動]ボタンをクリックする。

[起動]をクリック。仮想マシンが動き始める

 しばらく待てば、Windows 11の初期設定画面が表示される。リージョン(国や地域)、キーボード、デバイスの名前、Microsoftアカウントなどの設定が続くので、適切に進めていく。英語だが日本語版とやることは同じ。

英語ではあるが、Windows 11のセットアップ画面が表示される

 テキスト入力は英語になっているので、Microsoftアカウントの入力で「@」を打つ際には、日本語配列のキーボードでは[Shift]+[2]キー(日本語環境では「"」が出る)と入力する。作業が終わればWindowsのデスクトップが表示される。

 この後、日本語への言語変更設定なども行うのだが、Windows 11 Insider Previewビルドの実行環境はこれで完成だ。仮想マシンといっても動いているのはWindows 11そのもの(Insider Previewビルドではあるが)なので、使い方に困ることはないはずだ。

セットアップが終わればWindows 11が起動する。まずは言語設定を日本語に直しておこう

しかしNPUは動かない

 筆者が仮想マシンを用意した目的は、「Copilot+ PC」の現環境を残したまま、新要素をいち早く体験するためだ。Windows 11 Insider Previewビルドを仮想マシンにインストールできたので、テスト環境は整ったように見える。

 しかし重要なのはInsider Previewビルドが動くことだけではない。NPUが動作する必要がある。「Copilot+ PC」ならではの機能は、NPUが使用できないことには始まらない。では今回用意した仮想マシンでNPUが動いているのか?

 仮想マシンでタスクマネージャーを開いたところ、NPUの文字は見当たらなかった。3つのチャンネル全てで試してみたものの、いずれもNPUは動いておらず、「ペイント」などのアプリを起動してもAI機能は表示されなかった。

タスクマネージャーを開いてみたが、物理マシンにあるNPUの表示が仮想マシンにはない
「ペイント」にAI機能が表示されない

 仮想マシンのCPU設定を見ても、それらしい設定項目はない。残念ながら、ただ仮想マシンを作るだけではNPUは動いてくれなかった。そもそもNPUだけでなくGPUも表示されておらず、仮想マシンでのNPU活用はそう簡単にはいかないだろうと想像できる。

 筆者の目的は達せられなかったわけだが、仮想マシンであればInsider Previewに用意された複数の3つのチャンネル全てを並存することも可能。Insider Previewビルドを手軽に試すという意味では、仮想マシンにはとても大きなメリットがある。Arm版Windowsでも最新要素を試したい方は、「Hyper-V」の導入にチャレンジしてみていただきたい。

3つのチャンネルを3つの仮想マシンとして並存できる
「Beta」チャンネルのVHDXファイル(Build 22598)は、執筆時点で既に期限切れとなっている。もし同じことを試すのであれば「Dev」チャンネルからがおすすめ
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/