「May 2019 Update」でWindows 10はさらに便利に

第6回

Linuxとの相互運用の改善 ~WSL、コンソール、エクスプローラー

「May 2019 Update」と「Windows Subsystem for Linux(WSL)」

 「Windows 10 May 2019 Update(バージョン 1903)」の新機能を紹介する本特集。最終回となる今回は、「Windows Subsystem for Linux(WSL)」やコンソールで導入された改善を紹介する。また、「WSL」と関係するトピックとして、「エクスプローラー」や「メモ帳」の強化についても触れたい。

 なお、「Windows 10 October 2018 Update(バージョン 1809)」における改善については、下記リンクを参照してほしい。

 「October 2018 Update」では“Microsoft Store”で提供される“WSL”対応Linuxディストリビューションの拡充、コマンドラインを利用した“WSL”ディストリビューションのセットアップ、「メモ帳」におけるLinuxの改行コードのサポートなどが行われた。

Windows Subsystem for Linux(WSL)

 当初は“開発者向け”の機能と位置付けられていた“WSL”だが、Windows 10のバージョンアップを重ねるごとに安定性を増し、現在では開発者以外でも気軽に利用できるようになっている。もし環境を破壊してしまっても、再インストールすれば簡単に復旧できることもあり、Linuxを学んでみたいというカジュアルなユーザーにもお勧めしたいところだ。

 しかし、これまでの“WSL”はファイルシステムの相互運用性に難があり、初心者にはお勧めしにくいところがあった。たとえば、Windows環境からWSL/Linuxのファイルシステムへアクセスする行為(ファイルの作成・変更)は推奨されておらず、最悪の場合、ファイルの消失やデータの破損を招く恐れがある。

フォルダーの[Shift]+右クリックメニューで[Linux シェルをここに開く]コマンドを利用すれば、Windows 10のフォルダーをWSL/Linux環境で開ける。しかし、その逆は推奨されていなかった

 「May 2019 Update」では、この問題で大きな前進が見られた。「WSL」を初期化する際に「9P」プロトコルのファイルサーバーを起動し、それを介してファイルを扱うことで、Windows環境からもWSL/Linuxのファイルシステムを扱えるようになったのだ。

 たとえば、WSL/Linux環境で以下のコマンドを利用すると、カレントディレクトリを「エクスプローラー」で開けるようになる。

explorer.exe .

 WSL/Linux環境のファイルシステムは、“¥¥wsl$¥(ディストリビューションの名前)¥”というUNCパスで表現される。たとえば、「Debian」を利用している場合は“¥¥wsl$¥Debian¥”となる。ネットワークリソースへのアクセスとして扱われるため、“cd ¥¥wsl$¥Ubuntu¥home”といったコマンドが機能しないといった制限はあるものの、NASのファイルを扱う程度の気軽さでWSL/Linux環境のファイルシステムを扱えるようになった。

WSL/Linuxのファイルシステムを「エクスプローラー」で表示

 ただし、“AppData”フォルダー以下にあるWSL/Linux環境のファイルを直接操作する行為は依然として禁止されており、最悪の場合、ディストリビューションが破損する可能性があるので注意したい(“AppData”フォルダーは隠しフォルダーになっているので、一般的な使い方をしている限りは破壊する恐れはない)。

ネットワークフォルダーとして利用できる「Ubuntu 18.04」のルートディレクトリ

 また、「9P」サーバーを起動する関係で、Windows環境からWSL/Linux環境のファイルシステムへアクセスするには、前もってWSL/Linuxディストリビューションを動作させておく必要がある。

 「May 2019 Update」の“WSL”は管理コマンド「wsl.exe」コマンドが拡充され、インポートやエクスポートがサポートされた。ディストリビューションの起動や終了もコマンドラインで行えるので、こうした機能を援用するとよいだろう。

  • “-user”“-u”オプション:ディストリビューションを指定したユーザーで起動する
  • “-import”:tarball形式でエクスポートしたディストリビューションを“WSL”へインポートする
  • “-export”:ディストリビューションをtarball形式でエクスポートする
  • “-terminate”“-t”:動作中のディストリビューションを停止する

コンソール

 また、“WSL”を利用する際の窓口といえる「コマンド プロンプト」や「PowerShell」でもいくつかの改善が行われている。

 まず、“ダーク モード”がサポートされた。黒くなるのはタイトルバーとスクロールバーぐらいだが、とくに黒背景がデフォルトの「コマンド プロンプト」は全体的な統一感がグッと増し、よりクールな印象になる。

“ダーク モード”がサポートされたコンソール

 また、コンソールの開発チームが取り組んでいる実験的な機能がテスト導入された。プロパティ画面の[ターミナル]タブを開くと、新しいオプションへアクセスできる。ターミナルの前景色・背景色やカーソルの形・色などがカスタマイズできるほか、最後の出力行より下へのスクロールを禁止してUnix風の動作を再現することが可能だ。

プロパティ画面の[ターミナル]タブ。ターミナルの前景色・背景色やカーソルの形・色などがカスタマイズできる

エクスプローラー

 さらに、「エクスプローラー」でも“WSL”をはじめとするLinux環境との相互運用を考慮した機能強化が行われた。

これまでは裏ワザを使わないと作成できなかった“ドットファイル”

 なかでも注目は、名前がドットから始まり、拡張子を持たないファイル(“.gitignore
”など)を作成できるようになったことだ。これまでも“裏ワザ”(下記リンクを参照)を用いれば作成すること自体は可能だったが、「May 2019 Update」ではそうした知識を持たなくても「エクスプローラー」で簡単に作成できる。

 Linux環境では設定ファイルなど、こうしたスタイルのファイル名を扱う機会が少なくないので、うれしい改善といえるだろう。

 そのほかにも、「エクスプローラー」ではアイコンが刷新されたほか、“ダウンロード”フォルダーにおけるデフォルトのファイルの並び順が“更新日時順”となった。最近ダウンロードしたファイルが、一覧表示の際、トップに表示される。

「エクスプローラー」のアイコンが刷新
“ダウンロード”フォルダーにおけるデフォルトのファイルの並び順が“更新日時順”に

メモ帳

「May 2019 Update」の「メモ帳」

 「メモ帳」では、バイトオーダーマーク(BOM)のないUTF-8エンコーディングが標準の保存形式となった。「May 2019 Update」の「メモ帳」は保存の際に、文字コードを“ANSI”、“UTF-16 LE”、“UTF-16 BE”、“UTF-8”、“UTF-8(BOM 付き)”の6種から選択可能だが、初期設定はBOMのない“UTF-8”にセットされている

 なお、現在開いているテキストファイルの文字コードは、ステータスバー右端で確認が可能。ステータスバーが表示されていない場合は、[表示]-[ステータスバー]オプションを有効化するとよい。

 また、未保存のテキストを扱っている際、タイトルバーの先頭にインジケーター“*(アスタリスク)”が付記されるようになったほか、260文字(MAX_PATH)を超える長いパスを持つファイルを扱えるようになった。キーボードショートカットがいくつか追加されたのも便利だ。

  • [Ctrl]+[Shift]+[N]キー:新しい「メモ帳」ウィンドウを開く
  • [Ctrl]+[Shift]+[S]キー:[名前を付けて保存]ダイアログを開く
  • [Ctrl]+[W]キー:現在の「メモ帳」ウィンドウを閉じる