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失うものは何もない。AI時代の今こそ、人生で一度はハッカソンに飛び込んでみてほしい理由

~急成長するAIスタートアップに聞く「AIハッカソン」がイイ理由(1)

 プログラムを書いた経験がなくても、AIを使えば短い時間でアプリやシステムを形にできる。そんな時代の到来を映し出すのが、サードウェーブが主催する「全日本AIハッカソン」。

 2023年に開催された「24時間AIハッカソン」がその前身で、以降毎年開催。2025年からはレギュレーションを変えて「全日本AIハッカソン」となり、今年も「全日本AIハッカソン 2026」が開催中だ。

 この「全日本AIハッカソン」は、3時間の制限時間内にWebブラウザー(Google Chrome)から体験できる作品を制作し、審査員がそれを実際に動かして勝者を決める参加費無料・賞金ありのイベントだ。開発テーマはハッカソン開始時に発表され、司会進行はAI/ストラテジースペシャリストの清水亮氏が担当する。予選の最終回「6th ラウンド」(8月22日オンライン開催)の申し込みはまもなく7月15日(水)に締め切られる(詳細はこちら)。

 そして、2023年11月にベルサール秋葉原で開かれた初回大会で優勝したのが、製造業に特化したAI開発を手がけるスタートアップ、株式会社エムニのチームだ。なんと、10月末に創業し、数日後のことだ。それからおよそ2年8カ月で、同社は正社員32人、業務委託や学生インターンを含めれば150人規模の組織へと成長している。

 今回は、代表取締役CEOの下野祐太氏に、ハッカソンの魅力や参加して得られたものなどについてお話を伺った(聞き手:鈴木 光太郎(窓の杜編集長)、構成:柳谷 智宣)。

エムニ 代表取締役CEO 下野祐太氏

【急成長するAIスタートアップに聞く「AIハッカソン」がイイ理由】

失うものは何もない。AI時代の今こそ、人生で一度はハッカソンに飛び込んでみてほしい理由
プログラムを書けなくてもAIハッカソンで優勝できる!重要なのは技術ではなく『課題を見抜く力』(7/8掲載)
優勝→急成長のAIスタートアップが考える「AI時代の事業のあり方」と「AIハッカソン」の関係とは?(7/9掲載)

創業直後のチームがなぜ勝てたのか? 「楽」をテーマに挑んだ24時間の舞台裏

 エムニは京都大学と松尾研究所発のAIスタートアップで、設立は2023年10月31日。製造業へ的を絞り、企業ごとに最適なAIを一から作る「オーダーメイドAI」の開発を主力に据える。熟練工の頭のなかにある暗黙知をAIがインタビューして言語化し、若手への技能伝承につなげる「AIインタビュアー」など、製造現場の課題へ踏み込んだプロダクトを送り出してきた。

 下野氏は京都大学大学院でAIを学び、松尾研究所では製造業向けAIの社会実装に3年間携わった。異常検知や外観検査の自動化、生産計画の最適化といった案件をプロジェクトマネージャーとして手がけ、2025年には「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」にも選ばれている。経営の舵を取りながら、営業やデモ開発のコーディングまで自ら手を動かすのが下野氏のスタイルだ。

「エムニは製造業に特化して、AIのシステムを開発提供している会社です。私は代表なので、営業活動からプロジェクトのマネジメント、お客様対応まで幅広くやっています。最近はAIコーディングで、自分が思いついたプロダクトのアイデアをまず形にして、それをエンジニアに渡しながらディスカッションしていく、という関わり方もしています」(下野氏)

 エムニは4人のエンジニアによる共同創業で、全員が技術を面白がる気質を持っていたという。AIハッカソンという面白そうな催しがあると知り、このメンバーで挑めば良い経験になりそうだと考え、創業直後にもかかわらずエントリーした。当然、大きな会社にしたいという思いはあったものの、3年弱で150人規模になるとは当時は想像していなかったと下野氏は振り返った。

 ハッカソンで当日発表されたテーマは「楽」。あらかじめ用意したものは使えず、その場で出されたお題から何を作るかを決め、実装し、発表資料まで仕上げる必要がある。しかも動くものでなければならない。最初のテーマ決めにどれだけ時間を割くか、実装や休憩にどう配分するのかがポイントになる。

 3人が作り上げたのは、議論する人の音声からリアルタイムにマインドマップを生成し、話し合いが行き詰まるとAIが関連する新たな案を提示する「B8」というブレスト支援アプリだった。アイデア出しに難儀した自分たちの経験を逆手に取り、テーマ「楽」を「発想を楽にする」と捉えた一作だ。

「24時間の中で、あまり寝ずにいいものを作り上げていく活動が、すごく楽しかったですね。それまで24時間ぶっ通しのハッカソンは経験がなかったので、あの一体感は新鮮でした。限られた時間をどう切り分けるか、その使い方そのものに戦略性があって、そこも面白かったです」(下野氏)

第一回「24時間AIハッカソン」会場の様子。

「誰でも作れる時代」だからこそ「自分の色」が問われる ―― AIハッカソンが進化させた勝負どころ

 下野氏が参加した頃と今とでは、AIを取り巻く状況が様変わりしたという。

 セキュリティへの配慮なども含め、かつてアピール材料になった要素の多くは、今では差をつけにくい領域になったという。では、勝負どころはどこへ移ったのか。

「私が出た頃は、まだAIコーディングが普及しておらず、どうやって動くものを作るのかという戦いでした。でも今は、そこはもう誰でもできます。だから、自分の色は何なのか、お題に対して何を本質と捉え、それをどう表現するのか。表現するスピードは速くなりましたが、何を表現するのかは、やはりその人に依存します。そこが今のAIハッカソンの面白さだと思います」(下野氏)

お題の本質を捉え、何を表現するのかが人間に求められていると下野氏。

 成果物を作る速度が上がったぶん、アイデアを試しては壊し、また作り直すトライアンドエラーを何度も繰り返せる。その過程で、自分が本当に届けたい価値は何かへ意識を集中できるという。技術力を見せ合う場から、発想や表現を競う場へ。ハッカソンの性格そのものが変わってきているのだ。

 参加して得られる一番のメリットは、AIによる開発がどれくらいのスピードと難易度で進むのか、その肌感覚が手に入ることだと下野氏は語る。AIで色々できるという話は、ニュースを追っていれば自然と耳に入る。しかし、そこから一歩を踏み出すには相応のエネルギーが必要になる。発表というアウトプットが求められ、入り口のテーマも与えられるハッカソンは、その一歩を後押しする装置になるという。

「ハッカソンのいいところは、失うものがないところ」

 実際に手を動かして作ってみれば、世の中で語られていることのうち、何が本当に価値のある難しいことで、何が誰にでもできることなのか、自分なりの物差しが育つ。人の情報をうのみにせず、自分で判断する基準を持てる。これは体験を通してしか得られない。

「ハッカソンのいいところは、失うものがないという点です。時間は使いますが、そこで得られる繋がりも経験も肌感覚も、すべて自分にとってプラスになる。マイナスになった部分は全くなかったと思っています。技術というハードルがAIによって壊された今、興味があるなら、人生で一度はハッカソンを体験してほしいと、経験者としては思います」(下野氏)

 創業直後のチームが優勝し、その経験がやがて事業の土台にもなった。下野氏の歩みは、ハッカソンという場が持つ可能性をそのまま映している。何かを作ってみたい、AIに触れてみたいという気持ちが少しでもあるなら、まずは飛び込んでみる価値があるのではないだろうか。

【急成長するAIスタートアップに聞く「AIハッカソン」がイイ理由】

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