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優勝→急成長のAIスタートアップが考える「AI時代の事業のあり方」と「AIハッカソン」の関係とは?

~急成長するAIスタートアップに聞く「AIハッカソン」がイイ理由(3)

 プログラムを書いた経験がなくても、AIを使えば短い時間でアプリやシステムを形にできる。そんな時代の到来を映し出すのが、サードウェーブが主催する「全日本AIハッカソン」。

 2023年に開催された「24時間AIハッカソン」がその前身で、以降毎年開催。2025年からはレギュレーションを変えて「全日本AIハッカソン」となり、今年も「全日本AIハッカソン 2026」が開催中だ。

 この「全日本AIハッカソン」は、3時間の制限時間内にWebブラウザー(Google Chrome)から体験できる作品を制作し、審査員がそれを実際に動かして勝者を決める参加費無料・賞金ありのイベントだ。開発テーマはハッカソン開始時に発表され、司会進行はAI/ストラテジースペシャリストの清水亮氏が担当する。予選の最終回「6th ラウンド」(8月22日オンライン開催)の申し込みはまもなく7月15日(水)に締め切られる(詳細はこちら)。

 そして、2023年11月にベルサール秋葉原で開かれた初回大会で優勝したのが、製造業に特化したAI開発を手がけるスタートアップ、株式会社エムニのチームだ。

 そして驚いたのが優勝の翌年。エムニは翌年の「AIフェスティバル 2024 Powered by GALLERIA」に協賛企業として名を連ね、主催のサードウェーブとの協業も進めている。創業直後に手にした一勝は、その場かぎりの結果では終わらず、同社の事業のあり方そのものへとつながっていった。代表取締役CEOの下野祐太氏に、勝つための考え方と、それが事業へどう生きているのかを聞いた(聞き手:鈴木 光太郎(窓の杜編集長)、構成:柳谷 智宣)。

株式会社エムニ 代表取締役CEO 下野祐太氏。

【急成長するAIスタートアップに聞く「AIハッカソン」がイイ理由】

失うものは何もない。AI時代の今こそ、人生で一度はハッカソンに飛び込んでみてほしい理由
プログラムを書けなくてもAIハッカソンで優勝できる!重要なのは技術ではなく『課題を見抜く力』
優勝→急成長のAIスタートアップが考える「AI時代の事業のあり方」と「AIハッカソン」の関係とは?

「コードが書けない」は関係ない。AIと組めば、3時間でアプリは作れる

 勝つためのアイデアをどう生み出すか。下野氏の答えは一貫して「課題起点」とのことだった。使いたい技術ありきではなく、与えられたテーマから連想を広げ、何が課題になりそうか、どんなものがあれば嬉しいかを膨らませて成果物を構想していく。

 背景にあるのは、技術やAIの性能ではもはや差がつきにくいという認識だ。AIによる開発がコモディティ化し、短期間のハッカソンでも誰もが一定の水準に届くようになった。だからこそ意識は、何を作り、どんな価値を出し、どこをアピールするのかへ向かう。

「ハッカソンは芸術作品と似ています。これまでは作る部分に時間がかかり、技術力を見せるショーのようになっていました。でも、その部分が均一化されたので、より芸術性のウエイトが大きくなっている。自分たちは何を表現したいのか、どこに色をつけ、なぜそこに色をつけるのか。そこをチームで深掘りしていくところに価値があると思います」(下野氏)

 AIだけで仕上げたものは、突き詰めれば誰が作っても似通う。これってAIだけでもできたよね、と言わせない色を出せるか。そこに勝敗が懸かっていると下野氏は考える。

AIハッカソン参加時にプレゼンしている様子。

技術ではもう差が付かない勝敗を分けるのは『なぜ作るのか、どんな価値を出すのか』という課題への解像度

 チームで臨むうえで重視しているのが、役割分担と評価軸だそう。優勝時は3人で参加し、AIの精度改善が得意な下野氏、デザインとフロントエンドに強いメンバー、インフラとバックエンドに強いメンバーと、それぞれの得意に沿ってミッションを割り振った。まず一人ひとりの強みを共有し、誰が何を担うかを決める。そこがかみ合えば、短い時間でも力を持ち寄って一つの形にできる。

 当日の意見の衝突そのものは、悪いことだと考えていないそう。とはいえ、ただぶつかるだけでは前に進まないので、デザインの完成度、課題の確からしさ、AIの使い方の工夫といった評価の物差しを先に共有しておく。判断の基準があれば、議論は建設的になるという。

「評価指標や物差しがない状態で先に作り始めると、進まないんです。AIはどんどんアイデアを出してきますが、方向性が定まっていなければ、前に進まず、ぐるぐる回っているだけになります。何のための議論なのかを最初に決めることが大事だと思います」(下野氏)

 もう一つ下野氏が勧めるのが、作りながら話すという進め方だ。Claude CodeやCoworkを使えば動くモックをすぐ用意でき、気に入らなければ壊して作り直せる。動くものを前にすれば議論の解像度が上がり、3時間経っても何も決まらない、という事態を避けられる。

 作る作業(How)が速くなったぶん、人間に残るのは、なぜ作るのか、どんな価値を出すのかというWhyの部分だと下野氏は言う。何を捨て、何を優先するか。その取捨選択は、どう作りたいか、何をアピールしたいかという思いに根ざすため、AIには肩代わりできない。また、一人で詰めた成果物は深まりきらないという。

「いろんな角度からの指摘やディスカッションがあって、この最後の数パーセントが深まります。優勝できるかどうかは、そこで変わってくると思っています。AIが短絡的にはたどり着けない、自分たちだけの深め方にこそ価値があるのです」(下野氏)

リアルなデモがそのまま営業ツールにハッカソンでの一勝が、事業の強力な『型』に

 ハッカソンでは、作品を制作した後、審査員に説明し、デモンストレーションを行う。審査員に刺さるデモンストレーションはどのようにすればよいだろうか。

「デモで大事なのはリアリティです。デモっぽいデモは刺さりません。機能の説明をするのではなく、登場人物を立てて、その人が今どういう状況なのかから語る。実際に使ったときにどんなベネフィットがあるのかを、リアリティを持って伝えることが重要だと思います」(下野氏)

 ピッチは、むしろ説明しすぎないほうがいいという。AIで作るスライドは情報量が多くなりがちで、文字を詰め込むほど刺さらなくなる。一文だけのスライドを掲げ、その背景や思いを自分の言葉で語る方が、ノイズがそぎ落され、言いたいことが伝わるという。

AIハッカソン時の発表スライド。

 こうした進め方は、ハッカソンの場にとどまらない。エムニが顧客と向き合うときの順序も、まったく同じだという。

「我々は『こういう技術がありますがどうですか』、という営業はしません。まずお客様の課題が何なのか、業務フローがどうなっているのかを聞き、解くべき課題を洗い出します。そのうえで、やっと開発の話をします。ハッカソンでやっていたことと流れは同じで、ある種、型になっているのだと思います」(下野氏)

 提案の場でも、爆速でデモを作って見せ、反応を確かめながら直していく。試して直すという往復が、開発の前段に組み込まれている。

 成果は具体的な形でも表れている。ハッカソンを起点に受注へつながり、売上が生まれた案件があるという。

 さらに、会場で知り合ったエンジニアが、後にエムニへ入社した例もある。一つのテーマにどう向き合い、何を表現したかを互いに見た仲は、浅いつながりでは終わらない。AIの使い方を深く語り合える縁は、一緒に働く場やハッカソンのような場でこそ生まれると下野氏は語る。

 エムニは今、AIとともに働く新しい仕事のあり方を探る「AI駆動経営」を掲げている。創業直後の優勝から始まった歩みは、製造業の現場を変えるAI開発という事業へと広がった。技術というハードルが壊れた時代に、課題を見抜き、価値を表現する力を競い合うハッカソンは、次のキャリアや事業の起点になる可能性を持っているといえる。

技術の壁はもうない。「アイデアを形にする」「作ることを楽しむ練習」としてのハッカソン

 以上、3回のインタビューを掲載したが、AIの登場で、アイデアを形にするコストは限りなくゼロに近づいた。今、ハッカソンに必要なのは高度なプログラミング技術ではなく、『誰のどんな課題を解決したいか』という、参加者自身の視点になったといえるだろう。

 『全日本AIハッカソン 2026』予選最終ラウンドは、8月22日にオンラインで開催される。環境構築や複雑なコードはAIがサポートしてくれるし、簡単に用意できる『動くモックアップ』を作るだけでも、プロ同士の議論に参加する価値がある。まずは手ぶらで、あなたのアイデアと対話力を試す場として参加してみるのはどうだろう?エントリーは7月15日(水)までだ。

【急成長するAIスタートアップに聞く「AIハッカソン」がイイ理由】

失うものは何もない。AI時代の今こそ、人生で一度はハッカソンに飛び込んでみてほしい理由
プログラムを書けなくてもAIハッカソンで優勝できる!重要なのは技術ではなく『課題を見抜く力』
優勝→急成長のAIスタートアップが考える「AI時代の事業のあり方」と「AIハッカソン」の関係とは?