【第22回】
オンラインソフト・フェノメナ(前編)
~ソフトがもたらす社会問題~
(01/08/06)
“良いこと”ばかりじゃない
本来、オンラインソフトは人の役に立ったり娯楽を提供するなど“良いこと”に使われるものがほとんどだが、時には作者の意に反して、もしくは意図的に作成され悪意をもって利用されることがある。また、悪意はなくとも結果的にそのソフトの利用が法律に抵触したり他人の権利を侵害したり、誰かの心を傷つける場合もある。オンラインソフトがインターネットなどのネットワークによって流通するものである以上、ネットワークのもつマイナス面の影響をオンラインソフトが受けてしまうということは、開発者も利用者も目をそむけずにしっかり意識する必要があるだろう。
そこで今回のよもやま話では、オンラインソフトにまつわる社会問題、社会現象についてあれこれ考えてみようと思う。オンラインソフトの世界で過去に起きた問題や現在抱えている問題、そしてこれから起こるであろう問題などについて、ざっとまとめてみたい。
社会問題から発生したオンラインソフトたち
世間を騒がせたニュースや事件、時事問題などをテーマしたオンラインソフトがインターネット上などで公開されることがある。最近では、大阪で起きた小学生殺傷事件を彷彿とさせるゲーム、昨年の西鉄バスジャック事件を題材にしたゲーム、もう少しさかのぼれば神戸の児童殺傷事件を題材にしたゲームもあったと聞いている。
こうしたゲームソフトは、そのほとんどが世間で騒がれることを目的にした、いわゆる“愉快犯”により悪意をもって作成されるものだ。そのため実際にプレイしてみてもゲーム性は乏しいとか動作不安定であるなど、作りの雑なものが多い。ものによってはわざとウイルスを混入させている場合もあるという。主として匿名で利用可能な無料Webサーバーなどにアップロードされて匿名掲示板や口コミなどで瞬く間に広まるが、すぐにWebサーバーの主催者や管理者から強制削除を受けることが多い。
こうしたゲームの問題点は、書くまでもなく非人道的、反社会的な点にある。たとえ作者側に何がしかの社会風刺的な主張があるとしても、被害者の心情を逆なでしたり傷つけることに変わりはない。そうしたゲームが作られること、広まることについては、ぼく自身オンラインソフトに携わる者として許し難いと思っている。しかし、かといって目に見える損害をもたらすものではないため、法的に取り締まったり規制の対象にすることは難しいようだ。
社会問題の解決を目指すソフト
一方、現実にある社会問題に対して何らかの改善をしたり解決のための役に立とうという意図で作成される、善意のオンラインソフトもある。例えばぼくの印象に強く残っている中では、阪神大震災のあとに、被害の大きかった神戸・長田地区の惨状を伝えるスクリーンセーバーというのが公開されたことを思い出す。被災地を撮した写真と短いメッセージを次々と表示する比較的シンプルなスクリーンセーバーだったが、インパクトの強い、意義深いものだったと思う。
最近では、インターネットを利用してPCを医療研究に役立てるというオンラインソフトが登場したことも記憶に新しい。インターネットを通じて医療データを取り込み、CPUの空き時間を使って解析を行うというフリーソフトだ。あれもいわば社会問題を解決することを目指したソフトと言っていいだろう。
□インターネットに接続されたパソコンを医療研究に役立てるソフト「UD Agent」
http://www.forest.impress.co.jp/article/2001/04/05/udagent.html
社会問題になったオンラインソフト
上記とは逆に、あるオンラインソフトそのものが社会問題となったり、派生する利用方法が社会問題を引き起こすというものもある。テレビのニュースやドキュメンタリー番組などに取り上げられるほど社会の注目を集めたオンラインソフトといえば、古くは「FLMASK」があげられる。“FLMASK裁判”はオンラインソフトの世界ではあまりにも有名であり、古くといっても最初の逮捕が1997年4月、有罪判決が下ったのは昨年3月のことなので、覚えている読者も多いことだろう。
「FLMASK」は画像の一部をマスク処理するソフトで、可逆的なマスク処理を行えるため、わいせつ画像のモザイク加工に使われることが多い。「FLMASK」を使って処理したわいせつ画像を公開していた人物が裁判で有罪となり、そのサイトへリンクをしていた「FLMASK」の作者も、わいせつ図画公然陳列ほう助の罪で起訴され、有罪になったのだ。
この事件と判決についての詳細は、ぼく自身法律に詳しいわけではないのでここでは割愛しておきたい。興味のある人はインターネットの検索サービスなどで検索すれば、さまざまな記録や論評がいくつも出てくるはずだ。ただオンラインソフト好きの、いちユーザーの目でみるなら、「FLMASK」の事件において、可逆的にマスク処理をしたり処理をはずすというソフトウェアの機能そのものに罪がないことは確認されており、留意しておくべきだろう。問題なのは、イノセントなオンラインソフトを人間がどのように使うか、どういう目的で使うのかということなのだ。
現在進行形の社会問題
さて、「FLMASK」事件以降、しばらく静かだったオンラインソフト業界で再び大きな社会問題となっているのが、MP3をめぐる「Napster」や「Gnutella」などのファイル共有問題ではないだろうか。この問題は現在も決着が付いておらず、また新たなソフト「WinMX」の登場もあって、大きく広がりを見せ始めている。次回のよもやま話では、こういった現在進行形のオンラインソフトをめぐる社会問題についてとりあげながら、さらに今後のことなどを考えてみようと思う。
(ひぐち たかし)