「メモ帳のはるか上をいく高機能なテキストエディター! 絶賛公開中!」
“高機能”という表現の絶対的な指標はないが、その根拠がもし上記のようなHTMLタグのカラー化だけであれば、これでは誇大広告ということになるだろう。初めて公開するのに最初から“絶賛”といってしまうのも、過剰な表現にあたるかもしれない。オンラインソフトといえども誇大広告がよろしくないのは言わずもがな。また、誇大なだけでなく、具体的に何が“高機能”なのか書かれていないのも、ユーザーにはわかりにくく、かえって実際に使ったユーザーに悪印象を与えるだけだ。場合によっては悪評につながることにもなりかねない。プレゼンテーションは常に的確かつ効果的に行う必要がある。
プレゼンテーションのためのホームページ
プレゼンテーションという意味では、オンラインソフトにとって、作者が運営するホームページの存在意義は大きい。インターネットがこれだけ普及したこともあり、作者自らが最も自由にプレゼンテーションを行うことができる場は、やはりホームページが代表的なものだと言える。ウィンドウ画面をキャプチャーしたり、ソフト添付用に作成したHTML形式のヘルプをホームページにも載せるなど、表現方法はさまざまある。しかしプレゼンテーションの第一歩は、機能をこと細かく説明するよりも最大の特長をいかに簡潔にユーザーに訴えられるかがポイント。その点さえ押さえていれば、あまり難しく考えることはないだろう。
一方、作者の中には単に自作ソフトを一次配布するだけのシンプルな場所としてホームページを公開している人も見られる。自分ではホームページを用意せず、オンラインソフトを集めたライブラリ系のサイトで、ソフトの説明もほとんどないままソフトを配布している人もいる。そうした作者の多くは、ソフト開発に専念したいがために自分ではホームページを作り込んだりはしないという考えのようにも見える。
しかし、ぼくからするとそれは実に“もったいない”ことだと思う。もちろんオンラインソフトを公開するポリシーは作者によって人それぞれで、周りがとやかく言うことではないのかもしれない。もし作者がプレゼンテーションの必要性を承知の上で、あえてシンプルにダウンロードオンリーのサイトにしているというのであれば、それは尊重すべきことだろう。けれど、ソフト開発に専念するあまり、プレゼンテーションの意義に気付いていないのであれば、もう少し気を配ってみてはどうかとも思う。
プレゼンテーションとしてのフリーソフト
ところでユーザーの中には、シェアウェアには見向きもせず、フリーソフトだけを使いたい人も多いと聞く。特に学校や会社で主にPCを利用する人のように、領収書の発行や予算決済などの関係でシェアウェアは利用しにくく、どうしてもフリーソフトに目が行きがちという場合もある。そんなフリーソフトオンリーの人には、シェアウェアというだけでどんなソフトでもハナから使われない、ということになってしまう。
こうした人たちを考慮しているのか、オンラインソフトの中には通常のシェアウェアとしての形態を取らず、有償のシェアウェア版のほかに機能を限定したフリーソフト版を並行して公開しているものもある。機能限定とはいえ独立した1本のアプリケーションであり、それだけなら完全にフリーソフトということになるわけだ。また、フリーソフト版を“機能限定”とは呼ばずにスタンダード扱いにして、シェアウェア版のほうを“機能拡張版”もしくは“Professional版”などとして公開しているケースもある。
それはそれでうまい方法だとぼくは思う。フリーソフトであれば、それだけでより多くのユーザーに注目されるということを、こうしたソフトの作者はちゃんと理解しているのだろう。つまり人目を引くための手段という意味では、何らかの形でフリーソフトという形態をとることが一種のプレゼンテーションになっているのだ。
中身と同様に外見も大事
このように同じソフトであっても、その説明文がちょっと違うだけでもユーザーの注目度は大きく変化するし、ホームページでの紹介やソフトの配布形態によってもユーザーの関心度は大きく変わるものだ。
特に初公開から間もない新しいソフトの場合、口コミやメディアでの紹介なども少ない、もしくはないために、自己PRのいかんで初期のユーザー数が変わることになる。それがユーザーからの不具合報告や要望、アイデア提供などの量にも影響し、ひいてはソフトの質や今後の方向性に関わってくることもあるだろう。多くの人々に利用されるためにオンラインソフトを公開しているのであれば、まず使われなければ始まらない。中身が大事なことはもちろん、外見つまり人目を引くということも十分大事なポイントと言えるのだ。
オンラインソフトユーザーの醍醐味
一方でユーザーも、ソフト開発力のある作者が必ずしもプレゼンテーションまで巧いわけではないということを理解すれば、ホームページ上の情報だけに左右されずに、いろいろなオンラインソフトに触れたり、自分で優れたソフトを発掘することが楽しくなってくるはずだ。ぼくの経験で言うなら、人に勧められて定番ソフトを使うよりも、自分で見つけたほとんど無名のソフトをなにげなく試してみて『これはスゴイ!』と感じたときの方が、何倍も感動が大きい。読者のみなさんには、まさにこれがオンラインソフトユーザーの醍醐味でもあることを知ってほしいと思っている。
最近「シェアウェアを公開したけれどちっとも売れない」というオンラインソフト作者の話をインターネット上で目にすることがしばしばある。「他にはないユニークなソフトのつもりなのに、ダウンロードもしてもらえない」と掲示板などに書いている作者もいるようだし、実際そんなメールをもらったこともある。しかし、「ソフトの数が多すぎる」とか「ユーザー意識が変わった」などと嘆く前に、しっかりしたプレゼンテーションをしているかどうかを振り返ってみてはどうだろう。多くのユーザーの目に触れ、何も知らないユーザーにもダウンロードしてもらえるような工夫をしているかどうか。ユーザーの少なさが気になっているオンラインソフト作者は、改めて振り返ってみることが必要かもしれない。
(ひぐち たかし)