【第27回】
ヘルプにヘルプ!
~正しいヘルプのありかた~
(01/09/10)
神様ヘルプ!?
面白そうなオンラインソフトを見つけてダウンロードしてみたものの、最初は使い方がよくわからずに困ったとか、同梱の説明書やヘルプファイルを読んでいて挫折したというような経験は、おそらく誰にでもあるのではないだろうか。オンラインソフトを使い続けて、はや十数年になるぼくでも、いまだにそういう状況になることがあるので、オンラインソフトというものにまだ慣れていない初心者ならなおさらかもしれない。もちろんそれには、ユーザー側の知識や経験が足りないということも原因としてあるだろう。しかし、ヘルプのほうに原因がある場合もしばしば見受けられるように思う。
どんなに便利な機能が豊富なソフトでも、どんなにうたい文句のすごいソフトでも、その使い方をユーザーが理解できなければ価値はなくなってしまう。ヘルプをまったく読まなくてもひと通り使えるのがソフトウェアの理想だが、ヘルプを読んでも使い方がよくわからないソフトだって現実にはある。たかがヘルプ、されどヘルプ。今回のよもやま話では、オンラインソフトに欠かせないナビゲーター役であるヘルプファイルについて、あれこれと書いてみたい。
ヘルプ形式のいろいろ
さて、一口にヘルプと言ってもいくつかの形式があることはもうご存じだろうか。最もよく知られているのは、拡張子が“*.hlp”というスタンダードなヘルプファイルだ。Windowsであればどんな環境でも見ることができるという長所をもつ反面、作成には専用のエディターやヘルプコンパイラーが必要で、作者にとってはバージョンアップのたびにヘルプも書き換えるのは手間がかかり、ヘルプの内容や説明が最新版の機能と合致していないということもしばしば見られる。そういうときは大抵、READMEなどのテキストファイルで補足してあるので、ダウンロードしたソフトの最新情報をチェックするときはヘルプだけでなくREADMEも読む必要がある。
ヘルプファイルとして最近増えているのは、拡張子が“.chm”というファイルだ。これはHTMLを専用ツールでコンパイルして1つのファイルにしてあるもので、操作性はWebブラウザーにほぼ準じる。作者からするとHTMLの知識があれば比較的簡単にヘルプを編集でき、インターネット上のサポートサイトにリンクを張って見てもらうこともできるのが便利だ。ただし難点は、Windows 95上ではHTMLヘルプのランタイムコンポーネントがインストールされていなければ見ることができないということだ。
オンラインヘルプとPDF
コンパイルせずにHTMLそのままを配布ファイルに同梱してヘルプの代わりにしている作者もいる。HTMLのままであれば書き換えも簡単なので、作者にとっては最もお手軽なのだろうが、初心者ユーザーにとってはどのファイルを最初に開けばいいのかがわからなかったり、アイコンを見ただけではそれがヘルプであるということに気付かなかったりといった問題が起こり得るように思う。せめてヘルプ関連のHTMLファイルは、できるだけサブフォルダにまとめてアーカイブしておくといった作者側の配慮が望ましいだろう。また、ヘルプ用のHTMLをオンラインヘルプとしてインターネットで公開し、ソフトのヘルプメニューから呼び出せるようにしてあるソフトもある。これならユーザーが混乱することは少ないが、オンラインヘルプだとインターネットにつなげられない環境では見ることができないし、作者がサーバーを移転しにくくなるという難点もある。
そのほかちょっと特殊ながら、ヘルプをPDF形式で同梱してあるソフトもごくまれに見かけることがある。PDFファイルを開くにはアドビ社の「Adobe Acrobat」または「Acrobat Reader」が必要で、パソコン上で読む場合は通常のヘルプファイルに比べると操作性の面でどうしても劣るように思う。しかし、印刷することを考えるなら、PDFほど印刷に適したヘルプファイルはない。作者がユーザーに対し、ヘルプをどういう形で読んでほしいのか、それによってはPDFという選択肢もアリだろう。実際、特に高齢者やパソコン初心者の人から、説明書は印刷して読めるほうがありがたいという意見を聞くことが多い。
どうやって使うの? 困ったヘルプ
ぼくの経験から言って一番困るヘルプというのは、その形式はともかく、それぞれの細かい機能については非常に詳しく書いてあるのに、とりあえず使ってみるにはどうすればいいのかが説明されていないヘルプではないだろうか。ソフトを使用するために最低限行わなければならない設定はどこなのか、設定が終わってまず何をすればいいのか、そういう一番基本的な使い方の説明がないと、各機能をどんなに丁寧に説明されても初心者ユーザーは戸惑ってしまう。英和辞書だけ渡されても、英文法がわからなければ英文が訳せないようなものだ。
もちろん最近はウィザードという方法で初期設定を対話式に行えるようにしてくれている親切なソフトもある。しかし決して多くはないし、ウィザードをつけることでプログラムサイズが大きくなるのを嫌う作者もいるようだ。また、ヘルプを読まなくても当てずっぽうで触っているうちになんとかなるソフトもあるが、バージョンアップして機能が増えれば増えるほど、ヘルプなしでユーザーが使いこなせる確率は下がっていく。
特に、バージョンで新機能が追加されても、ヘルプに書かれているはずの追加機能説明までたどりつくのが大変、というヘルプも結構あるように思う。“更新履歴”には書いてあっても、そこから具体的な機能説明へのリンクがされていないのだ。これでは、いち早く新機能を使いたいのにヘルプ内の隅々をあちこち探し回るハメになってしまう。作者ホームページなどには「ここが拙作ソフトのウリ!」とか「今回のバージョンアップの目玉!」といったうたい文句で紹介してあることは多く、ダウンロードするほうとしてもわかりやすくていいのだが、いざ実際にその目玉機能を使うためにはどうすればいいか、肝心の説明が探しにくいヘルプというのが意外に多いように思う。
ヘルプに欠かせない3大要素
改めて考えてみると、ヘルプに欠かせない要素というのは主に3つありそうだ。ひとつは、ヘルプの基本といえば基本になる“リファレンス”の要素。個別の機能それぞれについて、辞書のように解説を読めるという役割だ。とはいえ、この要素がまったくないヘルプファイルには今のところお目にかかったことがないので、特に説明は不要かもしれない。
次に必要なのが“チュートリアル”、すなわちソフトの基本的な操作の流れを解説する部分だ。上記の“どうやって使うのか?”という説明はこれに当たる。よくわかった作者なら、ヘルプの目次に[とりあえず使うには]といった文字通りのメニュー項目を設けている場合もある。このチュートリアルは、作者からすれば知っていて当然だから書かなくても平気と思える盲点なのかもしれないが、そのソフトをまったく知らない初めてのユーザーからすれば、ぜひ文章として書いておいてほしい項目なのだ。
そしてリファレンスとチュートリアルのほかに、FAQもヘルプの大事な要素になるだろう。Frequently Asked Question、すなわち“よくある質問(と回答集)”は、なにも本当にユーザーからの質問が来てから書く必要はない。ヘルプは基本的にユーザーがなにか困ったときに開くものだから、ユーザーが困りそうな事例を作者が想像して、それに対してあらかじめ解決方法を書いておけばいいのだ。ユーザーにとっては、最初からFAQを読んでおくことでソフトの理解が進むし、作者宛てに質問メールを書く前にヘルプのFAQをチェックするというのは、むしろオンラインソフトを使う上で当たり前のエチケットと言っていいかもしれない。作者側が積極的にFAQを用意することで、ユーザーサポートにかかる時間と手間はかなり減らせることだろう。
ユーザーの視点と作者の視点
前回のよもやま話で書いた、ユーザーと作者の“温度差”というのは、今回のヘルプに関しても大いに当てはまると思っている。ヘルプを通じて作者が説明したいことと、ユーザーが実際に必要とするソフト説明とが、微妙に食い違っていることは多々あると思うのだ。チュートリアルの欠けたヘルプがしばしば見られるというのもその一つだし、端的に言えば初心者ユーザーがヘルプを印刷できるようにしてほしいと望むのも、作者が想定していなかったことに入るだろう。そうした“温度差”を簡単にあきらめたり切り捨てたりせず、ユーザー側からも作者側からも、少しずつ埋められるようなアプローチがなされることを期待したい。また、そうやって作者が作り込んでくれているヘルプであればあるほど、ユーザーはそのことを心して、もっともっと活用できるようになってほしい。たかがヘルプ、されどヘルプ、なのだ。
(ひぐち たかし)