【第25回】
オンラインソフトとサポートの限界
~姿を消したシェアウェア~
(01/08/27)
シェアウェアの失踪!?
長年愛用しているオンラインソフトが、ある日突然消えてなくなっていたら、読者の皆さんはどう感じるだろうか。消えるといっても、ハードディスクから削除したりアンインストールするわけではない。すなわち、作者のサイトが“NOT FOUND”になり、ダウンロードサイトからも配布ファイルがなくなっていて、作者にメールを出しても返事が来ない、といった状態になることだ。これがフリーソフトなら諦めもつくだろうが、お金を払ったシェアウェアだと心境穏やかではなくなる人もいるのではないだろうか。
ぼくも実際そうした経験をしたことがある。インターネットから特定の情報を収集してくれるタイプのシェアウェアで、登録料は1,000円。当時はほかに同種のソフトもなく、使い勝手もよかったので個人的にお金を払ってシェアウェア登録し、数年にわたって使っていたのだ。要望をメールで作者に伝え、改善してもらったこともある。バージョンアップの連絡を必ずメールで送ってくれるといったサービスはなかったものの、自分から不定期に作者サイトへアクセスして、バージョンアップも何回か行っていた。
ところがある日、情報を収集するWebサイト側のフォーマットが変わってそのソフトがうまく動かなくなったので、対応版が出ていないかと作者サイトにつなごうとしたが、ページには何も表示されず真っ白。HTMLソースを見ると、index.htmlファイルは存在するのだが何も書かれていない。工事中かと思って数日様子を見ても変化なし。作者にメールを出したが返事は来なかった。よもやと思ってシェアウェア登録の代行サイトに問い合わせてみると、「以前に作者から掲載の取り下げがあった」「連絡先はメールアドレスしかわからない」というツレナイ答え。もはやどうしようもなくなってしまった。
ソフトの開発とサポートは永遠ではない
しかし冷静に考えてみれば、お金を払ったシェアウェアといえども将来のサポートを永遠に保証してくれるものではない。その責任範囲は大抵の場合、シェアウェアの使用許諾書などに明記されていて、同意できる人だけがお金を払うようにと注意書きされている。また、特に個人ベースで開発されているものも多いオンラインソフトだからこそ、作者の個人的な都合…例えば就職や進学、病気や事故などでやむを得ず開発やサポートを中止するようなことは、しばしば起こりうることなのだ。
今回の場合を振り返ると、実は心当たりがないわけではない。以前に作者とメールをやりとりしたとき、作者からの返事がかなり遅れたことがあり、ようやくもらった返事の冒頭には「病気で入院していたために返事が遅くなりました m(._.)m」といった一文が添えられていたことがあった。もしそうした事情でやむを得ず開発サポートをやめたのだとすれば、お世話になったソフトのいちユーザーとして、作者さんには治療に専念してもらって一日も早い回復を祈るばかりだ。
シェアウェアがフリーソフトに!
一方、作者の個人的都合というよりは、状況が変わってソフト開発を続ける意義が少なくなったために開発やサポートの終了を作者が宣言するようなことも、オンラインソフトの世界では珍しくない。例えば今でもMS-DOS専用のシェアウェアを積極的に開発しているようなソフトハウスは、ひょっとするとゼロではないかもしれないが、事実上ほとんどナイと言っていいだろう。
そう言えばつい先日も、かつては一世を風靡した有名なシェアウェアのWebオートパイロットソフトが、シェアウェアとしての開発とサポートを終了し、今後はフリーソフトになるという発表があってちょっと驚いた。なぜそうすることにしたのかは発表されていないしぼくも聞いていないのだが、まぁ理由を想像することは難くない。インターネットの常時接続やブロードバンド環境が普及し始めた現在、主としてダイヤルアップユーザーがオフラインでの閲覧をするためのWebオートパイロットソフトは、いわば“お役ご免”になりつつあるのだろう。
しかし、なにはともあれ元々シェアウェアだったものをフリーソフトとしてユーザーに開放するというのは、ユーザーにとってはかなり良心的というか、ありがたい話だと思う。いわば最新モデルに比べると流行遅れになってしまったデザインの水着やスキー板を、誰にでも無料で配るようなもので、オンラインソフト以外には例がないように思う。
オンラインソフトならでは!?
こんな風にオンラインソフトの世界での常識を見直してみると、オンラインソフトならではのユニークな面がいろいろ見えてくる。フリーソフトに相当するような品物やサービスが、オンラインソフト以外で探してもほとんどないことは書くまでもないだろうか。公園の掃除などのボランティア活動は少し似ているが、フリーソフトをインターネットでダウンロードするときのように、全国どこからでも電話1本で呼びつけられて、自分の家の前をタダで掃いてくれるようなボランティア団体はまず存在しない。
また、お金を支払うシェアウェアで考えても、“お試し”のできる市販商品は少ない。もちろん通販の化粧品などで“お試し”ができるものもあるが、一般的なシステムではないし、通販のクーリングオフだって開封したものは返品できなかったり料金を支払わなければならなかったりする。しかも返品時の発送料は消費者負担だ。また、例えばうっかりシェアウェアの登録パスワードを失ってしまった場合なら、作者にお願いすればパスワードを無料で再発行してくれることは多い。これが、購入したノートパソコンを落としたり火事で壊してしまった場合なら、メーカーにお願いしてももう一台タダでもらえるわけではない。たとえ保証書の保証期間内であっても、自分の過失で壊した場合の修理は有償だ。
こうして考えてみると、オンラインソフト、特にシェアウェアというのは、ほかの市販商品に比べてかなり“消費者保護”されているような感じがする。もちろん冒頭に書いたように、突然メーカー(=作者)が行方不明になって、故障(=不具合発生)しても修理(=サポート)してもらえなくなる場合がないわけではないが、それはどんな商品でもメーカーが倒産すれば同じことだ。それ以上に“お試し”の利点や“再発行”の利点、さらにメールや掲示板でサポートしてもらえる手軽さ、バージョンアップが無料であることが多いなど、シェアウェアやオンラインソフトならではのさまざまな利点がある。だからこそ、ユーザーはその“ありがたみ”をしっかり認識してオンラインソフトを利用したいものだ。
シェアウェア作者への“お願い”
ただ、それでもシェアウェア作者の人にぼくからわがままを言わせてもらえるなら、有料ソフトの責任を問うとかではなく一言だけ“お願い”したいことがある。もし将来、何らかの理由で開発やサポートを中止するようなことがあれば、ホームページで事情を説明するとか、せめて登録ユーザーだけにでもその旨をメールで連絡するくらいはしてほしい。それがどうしてもできない事情があるならともかく、いつの間にかホームページを引き払って、シェアウェア登録代行サイトにも連絡して掲載を取り下げ、オンラインソフトの世界からこっそりいなくなるなんて寂しいことはやめようよ。愛用してるユーザーほど心配するんだから、ね。
(ひぐち たかし)