【第36回】
Windows XPがオンラインソフトに与える影響
~新機能との競合と未来~
(01/11/26)
Windows XPの新機能とオンラインソフトの“競合”
オンラインソフト好きの窓の杜読者なら、Windows XPを使い始めればその新機能のいくつかが既存のオンラインソフトと機能的にダブっている、すなわち“競合”していることに気付くことだろう。『これって何かのソフトに同じような機能があったよね…』それは決して単なるデジャヴ(既視感)ではない。WindowsというOSとしては新機能であっても、オンラインソフトの世界ではそれほど目新しい機能ではないものが結構あったりするのだ。このようにオンラインソフトが持っていた機能を備えたOSとも言えるWindows XPが今後普及していくことで、オンラインソフトの世界は少なからず影響を受けるのではないだろうか。今回のよもやま話では、そうしたWindows XPの新機能とオンラインソフトの関わりをあれこれ考えてみようと思う。
サムネイル型画像ビューワーがついた
Windows XPを初めて触って最初にぼくが『おっ』と思ったのは、エクスプローラについたサムネイル表示型の画像ビューワー機能だ。画像ファイルが入ったマイピクチャフォルダを開くと、フォルダビューの画面いっぱいに画像のプレビュー、下部に細長く横一列のサムネイルが表示され、プレビューとサムネイルの間にあるいくつかのボタンを押せばプレビュー画像を次々と切り換えたり画像を回転させることができる。また、サムネイルをダブルクリックして、Windows XPの標準画像ビューワーである「Windows Picture and Fax Viewer」から画像ファイルを開くと、拡大・縮小、スライドショー、印刷、さらにペイントと連動して画像編集することも可能になっている。
これはまさに、オンラインソフトの世界で一大ジャンルを築いているサムネイル型画像ビューワーの多くに共通する基本機能と言えるだろう。これまでのWindows 98/2000にもフォルダウィンドウ内で画像ファイルをサムネイルで表示する機能は確かにあったが、どちらかと言えば簡易的でスライドショー機能はなく、またWindows 98では拡大・縮小もできなかった。オンラインソフトとして開発されている多くの画像ビューワーにはやはり敵わないと思っていたのだが、今度のWindows XPの新機能はひと味違う印象だ。もちろん画像の数が多くなるとサムネイル表示を横スクロールさせる必要があるなど、大量の画像を扱う場合の使い勝手ではどうかと思う部分もある。また、オンラインソフトの中にはビューワー機能の他に画像の振り分け機能が付いているものなど、Windows XPにはない“プラスα”の機能を備えたソフトも多々あることを忘れてはならないだろう。
NTPによる自動時刻合わせ
Windows XPのタスクバーにある時計をダブルクリックしてプロパティを開くと、[インターネット時刻]というタブ項目に[自動的にインターネット時刻サーバーと同期する]というオプションがある。これはインターネット経由でのNTP(Network TimeProtocol)による時刻合わせの機能で、標準では有効になっていないがこのチェックボックスをチェックしておけば、1週間に1度、PCがインターネットに接続している場合だけ自動的に時刻合わせが行われる。また、[今すぐ更新]ボタンを押せばその場ですぐ時刻が正確にセットされる。
このような機能は、オンラインソフトで言えば「桜時計」をはじめとする数々の時刻合わせソフトに相当するものだ。タスクトレイ常駐系の時計ソフトやスケジュール管理ソフトでも、この機能を持つものをしばしば見かける。オンラインソフトの場合は、時刻合わせを行う間隔をユーザーが指定できたり、時刻を合わせる前にどれだけ時刻がズレているかをユーザーが確認できたり、中には時間のズレ具合を記憶してオフラインでもおよその時刻を合わせられるものや、ファイアウォールを考慮してNTPではなくHTTPで時刻を合わせるソフトもある。こうした付加的な機能については、Windows XPには特に備わっていないようだ。
リモートでデスクトップを操作する
Windows XPのProfessional Editionに限られる興味深い新機能では、リモート・デスクトップの機能があげられる。これは簡単に言うと、遠隔地にあるPCのWindowsデスクトップをあたかも手元にあるローカルのPCのように操作できる機能だ。なおマイクロソフトの「NetMeeting」にも2年前に登場したv3.01からリモート・デスクトップ機能があり、Windows 95/98/Me/2000の環境でもリモートPCのデスクトップを操作することは可能だった。Windows XPの機能との違いは、サーバーとなるPCに複数のユーザーがそれぞれ接続できるようになったこと、そして「NetMeeting」がなくても使える標準の機能になったことだろうか。
WindowsのデスクトップをリモートPCからそのままGUIで操作するオンラインソフトとしては、ぼくの記憶では古くはWindows 95の時代から海外製のフリーソフト「VNC」が存在していたし、その後は和製ソフトでもいくつか出ている。また、たとえデスクトップを直接操作できなくても、キャプチャーしたデスクトップ画面をリモートPCで見るようなオンラインソフトや、最近だとiモードのようなケータイからでもリモートでWindowsをコマンド操作できるというオンラインソフトも登場している。これらはまさに、Windows XPのリモート・デスクトップと同様の機能や目的を持つソフトだと言えるだろう。
その他にはファイアウォール機能もあげられる。パーソナルユースとしてフリーで使える簡易ファイアウォールソフトは以前に窓の杜で記事紹介され、記事アクセスランキングでもその週の上位に入ったので覚えている人も多いのではないだろうか。Windows XPでは、ネットワークのプロパティの[詳細設定]タブに[インターネット接続ファイアウォール]というオプションがあり、このチェックボックスをチェックするだけでファイアウォール機能を有効にできる。さらに[設定]ボタンから、通過させるサービスを選択したり、接続のログを取るなど細かい設定も可能になっている。
標準装備であるということの意味
このように従来ならオンラインソフトの利用で得ることができた数々の便利な機能が、新しいWindowsの標準機能として装備されたことで、オンラインソフトの世界にどのような影響をもたらすことになるだろうか。
まず単純に考えれば、Windows XPの機能と同等もしくはそれ以下の機能しか持たないオンラインソフトは、この新しいWindowsがこれから普及していくにつれ、利用者が減ったり開発が終了するなどして衰退していく可能性がある。ジャンルによってはオンラインソフト世界における勢力図が今後、大きく変わる可能性もありそうだ。おそらくWindows XPユーザーの多く、特にWindows XPから初めてPCに触れる初心者ユーザーは、標準機能よりよほど魅力的でなければ、オンラインソフトをわざわざ自分でダウンロードしてインストールするという手間と時間をかけてまで使おうとは、なかなか思わないのが現実ではないだろうか。
特に前々回のよもやま話でも触れてきたように、オンラインソフトを利用する上ではウイルス混入や深刻な不具合などさまざまなリスクもある。もちろん標準装備であってもセキュリティ問題がないわけではないし、不具合が生じない保証もないのだが、ユーザーの心理としてはWindows標準のもので十分なら、それを使うに越したことはないと考える人も多いのではないかと思う。
勢力図が描き換わる
例えばかつて、Windows標準装備のメールソフトとして「Outlook Express」が登場したが、あの登場以前と以後ではオンラインソフトを含めたWindows用メールソフトの勢力図が一変してしまった。ぼくは個人的に「Outlook Express」はいろいろな面で好きではないし、もっといいメールソフトはフリーソフトにもシェアウェアにもたくさんあると思っているのだが、それでも現在のメールソフトのシェアは圧倒的に「Outlook Express」がトップなのだそうだ。これはWindowsに標準でプリインストールされているメールソフトであるということの意味がやはり大きいように思う。
しかしその一方で、オンラインソフトの世界でメールソフトが駆逐されたかというと、決してそんなことはない。むしろ「Becky!」のようにオンラインソフト全体での人気投票でも毎回上位に入るような、ユーザーの熱い支持を集めているメールソフトはちゃんとある。つまり、Windows XPが備える機能よりもずっと魅力的な機能を持っていれば、それを見抜いて利用を続けるユーザーも数多くいるということなのだ。
未来のWindowsを先取り!?
このように、Windows XPの登場によってオンラインソフトの世界が受ける影響は、決して小さなものではないだろう。今後は積極的な開発を終了したり、やがて人々からひっそりと忘れ去られていくものも出てくるかもしれない。しかし、ならば逆にWindows XP標準の機能では実現できないもっと面白い機能を付けてやろうと意気込んでいるオンラインソフト作者もいそうだし、すでに述べたとおり、Windows XPの機能よりも高機能なオンラインソフトもある。また、前回ちょっと書いたようにWindows XPならではの機能を利用したオンラインソフトというのも今後どんどん登場してくるだろう。新しいOSが登場したことが、なんにせよオンラインソフト業界の活性化につながることは間違いないだろう。
優れたオンラインソフトがWindowsに取り込まれる、という表現には語弊があるような気がしないでもないが、見方によってはオンラインソフトを使うということは、実は未来のWindowsが備える機能を先取りして使うということにならないだろうか。どんなオンラインソフトの機能が次のWindowsで“搭載”されることになるのか、そんなことを考えながらいろいろなオンラインソフトを使ってみるのも一興ではないかとぼくは思うのだ。
(ひぐち たかし)
お詫びと訂正:
記事掲載時に、My Picturesフォルダ内の画像に関して、Windows Meではスライドショー表示ができず、Windows Me/2000では拡大・縮小表示ができないとの記述がありましたが、実際には、Windows Meではスライドショー表示ができ、Windows Me/2000では拡大・縮小表示が可能となっております。本文を訂正するとともにお詫びいたします。