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【第26回】

ユーザーと作者の“温度差”
~オンラインソフト・ブルーからの脱却~

(01/09/03)

“オンラインソフト・ブルー”?

 つい先日、近所のコンビニでなにげなく手にしたパソコン雑誌をパラパラとめくっていたら、“ネット・ブルー”なる言葉が取り上げられていて『ふーん』と思ってしまった。簡単に言えば、ネット上でいわれなき誹謗中傷や悪意あるイタズラなどさまざまなトラブルに遭い、それが原因で鬱状態になったり、パソコンから遠ざかったりしてしまう症状を指すようだ。こうしたことは今のようにインターネットが普及する以前、パソコン通信が盛んだった時期にもあったことだと思うが、匿名で利用可能なメールサービスや掲示板サービスが多くなった最近は特に、増えているのだろうか。

 オンラインソフトもインターネットが主たる配布媒体であるからには、同じような原因でいわば“オンラインソフト・ブルー”になっている人がいるかもしれない。例えば、あるソフトのサポートMLに入ってちょっと批判的なことを投稿したら、ほかの熱狂的なMLメンバーから袋叩きにあってしまった、といった話は何度か聞いたことがあるし、メールでのちょっとした言葉の行き違いから作者とケンカになって、もうそのソフトを使う気がしなくなった、といった話もたまに聞く。逆に作者側の立場では、匿名掲示板などでヒドイ中傷を書かれ、ウンザリして開発をやめてしまったなんて話は珍しくない。

 市販のパッケージソフトに比べ、特に個人ベースで開発されているオンラインソフトは、作者とユーザーの密接なコミュニケーションが開発に影響する割合が高いように思う。フリーソフトでもシェアウェアでも、作者はユーザーとの対話の中で開発のアイデアが生まれたり、新たなソフトを制作する意欲が湧いたりするものだと聞く。またユーザーにとってオンラインソフトを使う理由は、無料もしくはお試しがきくという理由ももちろんあるが、それ以外にもメールで報告した不具合を迅速に修正してもらえたり、自分のアイデアを採用してもらえたりすることが、オンラインソフトを使う上での大きな魅力になっている。こうしたオンライン・コミュニケーションは、オンラインソフトには欠かせないものなのだ。だからこそ、コミュニケーションがうまくいかないと、たずさわる人を鬱状態にしてしまうようなことも、しばしば起こってしまうのだろう。

ネチケットの問題もあるけれど…

 ただ、改めて書くまでもなくオンラインソフトをめぐる作者とユーザーとのコミュニケーションは、ほとんどが文字オンリーであり、トラブルになる原因がそこにあるというのは確かだと思う。メールや掲示板のように、文章だけで相手と意志疎通を図るからには、いわゆるネチケットを守る必要はあるし、書くほうの文章力、読むほうの読解力も必要になってくる。“売り言葉に買い言葉”のようなトラブルでは、その時の気分という要素も影響するだろう。つまり、例えば友達と食事しながら話をする場合だと、相手の表情を見て機嫌が悪そうなら言いにくいことを言わないでおくといった配慮ができるけれど、メールではそうもいかない。逆に自分の虫の居所が悪いときにシェアウェアの不具合に遭遇し、つい作者宛に普段なら書かないような嫌味ったらしい文章でメールを書いてしまった、という経験も恥ずかしながらぼくにはある。

 しかし、そうしたネチケットの問題以前に、オンラインソフトならではというか、作者とユーザーの“温度差”、すなわちオンラインソフトというものに対する概念や認識の微妙な違いによって引き起こされる問題も多々あるように思う。むしろ、それこそがオンラインソフトに関わる上で十分気を付けなければいけないことではないかと思うのだ。

感情では割り切れない

 例えば前回のよもやま話で、たとえお金を払ったシェアウェアといえどもサポートは永遠ではない、という話を書いた。将来のサポートまでがシェアウェア料金に含まれていないというのは実は当たり前のことで、“オンラインソフト文化”に長年親しんでいる人ならよくわかっているだろうし、もちろんぼくも理解しているつもりだ。それでもいざ、自分が愛用シェアウェアの“失踪”に直面したときには『おいおいちょっと待てよ…』と思ってしまったのだ。たぶんシェアウェアというものにさほど慣れていない“オンラインソフト初心者”なら、『なんてこった!』とか『騙された!』とさえ感じる人も多いのではないだろうか。つまりそこには理屈ではない、作者とユーザーの明らかな“認識の違い”や“イメージの違い”が存在するのだ。

 そう言えばつい先日、有名な外資系パソコンメーカーが、日本を含めたアジアからの撤退を突然発表してビックリした。ぼくの知人で別のパソコン関連会社に勤める友人も「最近あそこのパソコンを買った人は怒るだろうなぁ」と言っていたのだが、これも上記のケースと似ているように思う。アジアからの撤退が発表されたとはいえ、最近本体を買った人がなにか直接的な不利益を被るものではないはずだし、ユーザーサポートは日本でも続けるという話も聞いている。それでもやっぱり、心境穏やかではないというユーザーの気持ちもわかる。ハードウェアとソフトウェアという大きな違いはあるものの、オンラインソフトでもユーザーの感情は同じようなものではないだろうか。

当たり前のようでも当たり前ではない

 少し話がそれたので戻すと、オンラインソフト、フリーソフト、シェアウェアというそれぞれの言葉や実体に対する認識が、作者とユーザーの間で微妙にズレていると感じることがしばしばある。作者がオンラインソフトを配布する上で当然と思っていることと、ユーザーがオンラインソフトを使う上で当然と思っていることが、決してピッタリとは一致していないのだろう。そこにオンラインソフトならではの、さまざまなトラブルの原因があるように思える。

 例えばソフトの作者がメールや掲示板でユーザーサポートを行うことは、現在のオンラインソフトの世界ではごく“当たり前”のことのように見える。しかし、本来は決して“当たり前”のことではないのだ。オンラインソフトの作者が行うユーザーサポートは決して義務ではなく、あくまで作者側の“厚意”で行われている。それをあまりにも多くの作者が当然のようにサポート活動をしてくれているおかげで、ユーザーはそれが当然かと錯覚してしまい、あげくにメールを書いても返事をくれない作者に不快感を感じたり、シェアウェアなら『金とってるんだからまともなサポートしろよ』と腹を立ててしまうようなことも起こってくる。オンラインソフトならではの“ありがたみ”を、当然の権利だと“勘違い”してはいけない。

ユーザーは神様なのだろうか?

 日本には「お客様は神様です」という名言(?)がある。商売においてはなによりも顧客第一、という感覚が広く浸透していることを端的に象徴している言葉だと思うのだが、これはオンラインソフトの世界ではあまり通用しないように思える。作者が自分でそう思っているならともかく、少なくともユーザーが作者に押しつけるような言葉ではないし、オンラインソフトの歴史やなりたち、シェアウェアの意味、フリーソフトの意味を考えれば、「お客様は神様です」という言葉はオンラインソフトの世界には似合わないとぼくは思う。

 しかし、かといって「作者は神様です」などという言葉もヘンだ。どちらかがどちらかに対して一方的に媚びへつらったり、逆に見下ろすような尊大な態度を取ったりするのは、人間同士のコミュニケーションとして見てもあまり誉められたものではないだろう。文字だけのオンライン・コミュニケーションでも同じことだ。大事なのは、ありきたりだが相手に対する思いやりと感謝の気持ち。攻撃的なコミュニケーションよりも、協力的なコミュニケーションから数多くの優れたソフトが生まれてきたのだし、これからも生まれてくることだろう。オンラインソフトに触れるとき、そうした認識をしっかり持っていれば、“オンラインソフト・ブルー”を克服することは決して難しくないはずだ。

(ひぐち たかし)

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