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【第10回】

「IP Messenger」の作者
白水 啓章さん

自分のほしいものを作ることが基本ですね

(02/09/19)

白水 啓章さん
白水 啓章さん

 窓の杜の読者のみなさんなら、それぞれに気に入って使い続けているオンラインソ フトがあるはず。そしてそのソフトに愛着がわけばわくほど、どんな人が作ったのか が気になってくるから不思議。そこで「このソフト作った人はどんな人?」では、普 段はお目にかかれないオンラインソフト作者さんに、「普段はどんなことをしているん ですか?」「他の作者さんのオンラインソフトのなかでオススメのソフトはあります か?」など、みなさんの代わりにお話を伺って、ソフトを作っている作者さんがどん な人なのか、お伝えしていこう。

 第10回目は、「IP Messenger」の作者「白水 啓章」さんだ。

まず職業、年齢と、趣味など普段なさっていることを教えて下さい。

 通信系企業の会社員で、UNIX用のソフトを開発しています。32歳ですが、現在2歳になる子どもができてからは趣味に割く時間がありません。もっぱら子どもと遊ぶことが趣味になっています。

オンラインソフトはいつ、どんな時間帯に制作していますか。

 子どもができて以来、自由時間は深夜だけになってしまいました。それでもたまに早朝まで開発に没頭していしまい、眠い目をこすりながら会社に向かうなんていうこともあります(笑)。

パソコン歴と最初に使ったパソコンを教えて下さい。

 中学生の頃の、父のカシオ“PB-100”というポケコンでした。その後MSXマシンを経て、エプソンのPC-98互換機を2回買い換えて使っていました。もちろんMS-DOS環境です。Windows 95の発売と同じ頃に初めてPC/AT互換機を自作し、Windows用の開発環境を手に入れました。

現在のオンラインソフトの開発環境を教えて下さい。

“ThinkPad R31”。開発もこのマシンで行っているそうだ”
“ThinkPad R31”。開発もこのマシンで行っているそうだ

 主に日本IBMの“ThinkPad R31”というノートパソコンで開発しています。開発は、いまだに「Visual C++」v4.1という古い環境で、統合環境を使わずに「秀丸エディタ」でコーディングします。

□窓の杜 - 秀丸エディタ
http://www.forest.impress.co.jp/library/hidemaru.html

オンラインソフトを作ろうと思ったきっかけを教えて下さい。

 社内のマシン環境が変化してしまい、それまで利用していたソフトが使えなくなってしまったため、私自身、こういったソフトが必要だったことに加えて、仕事ではUNIXのソフト開発ばかりなので、自分のスキル取得のためにWindowsのソフト開発もしてみたいと思ったのがきっかけです。そのため、Visual C++のMFC(Microsoft Foundation Class)は使わず、もっぱらWin32 APIを直接使う開発手法を採っています。MFCは便利そうだったのですが、Windowsを知るためにはまずWin32 APIからと思ったわけです。

 そうしてできあがった「IP Messenger」ですが、MS-DOSを使っていた頃やUNIXでお世話になったフリーのオンラインソフトへの恩返しの意味も込めて、フリーで公開しました。

 また当時は、Windows用のオンラインソフトでソースコードを公開しているものが少なかったのですが、UNIXでのソースコード公開の文化も知っていましたし、使う側も安心して使え、改造も可能で、類似品作成やテクニックなどを真似する参考になる、という意味から当初からソースコードとプロトコルを公開しています。

継続してソフトを作ろうと思う理由は何ですか。

 まずは、自分自身が使っているからだと思います。そして、一般の方のほか小中学校、さらには盲学校で音声リーダーと組み合わせて使っているというお礼のメールが届いたときは、うれしかったですね。みなさんに使っていただけているというのは、本当にうれしいです。もちろん、「IP Messenger」用のメーリングリストでメンバーの方々に助けられていることも影響しています。

オンラインソフトを作っていて辛いと思ったことはありますか。

 そのようなことを思ったことはあまりありませんが、昔、職場に直接質問の電話をしてきた年配の方がいらっしゃって、閉口したことはあります(笑)。

あなたのソフトを利用しているユーザーに望むことはなんですか。

IBM製のキーボードがお気に入りだそうで、職場でも“スペース・セーバー・キーボード”をご愛用とのこと
IBM製のキーボードがお気に入りだそうで、職場でも“スペース・セーバー・キーボード”をご愛用とのこと

 特にありません。強いて言うなら、せっかくソースコードを公開していますので、どんどんカスタマイズして使っていただきたいと思います。さらに言えば、そうして改良されたソフトを私が使わせていただけるということになれば、もっとうれしいですね。

 ユーザーの方々の協力もあって、さまざまなOS用がリリースされている「IP Messenger」ですが、実は、Windows CE版だけありません。私自身、Windows CEのプログラミングには詳しくないので、どなたか作っていただけませんでしょうか。作っていただけたら私が一番に使いたいと思っています(笑)。

お作りになったソフトの中で一番自信のあるものはどれですか。

 「IP Messenger」しか公開していませんので、「IP Messenger」です(笑)。会社で業務用に作った「ZFS」というUNIX上で動作するDVDライブラリ用ファイルシステムも自信作ですが、一般の方が触れることがないので残念です。

□窓の杜 - IP Messenger
http://www.forest.impress.co.jp/library/ipmsg.html

影響を受けたソフトはありますか(オンラインソフトでなくても構いません)。

 最近のソフトでは特に思い当たりませんね。MS-DOS用のファイル管理ソフト「FD」や、テキストエディターの「VZ Editor」のように、キビキビと無駄のない動作をするシンプルかつシャープなソフトが好きです。

□FD for DOS/V(MS-DOS/ユーティリティ)
http://www.vector.co.jp/soft/dos/util/se020040.html
□VZ Editor Version1.6(ビレッジセンターサイト)
http://www.villagecenter.co.jp/soft/vz16.html

 また、UNIXのカーネルの設計にも影響を受けていると思います。UNIXのカーネルには、単純さを保ちつつ“力強い”設計をするにはどうしたらよいのか、というヒントがたくさん隠されています。私自身、そういった基本姿勢や考え方に多くの影響を受けていて、それは「IP Messenger」にも微妙に反映しているように思います。

他の作者さんのオンラインソフトのなかで、オススメのソフトはありますか。

 自分がよく使っているソフトで、かつオススメなのが「Tera Term Pro」です。また、「Tera Term Pro」用の補助ソフトで、タスクトレイから一発で目的のホストマシンにログインできる「TeraTerm Menu」も便利です。実はこのソフト、私の同僚が制作したものなんですけどね(笑)。

□窓の杜 - Tera Term Pro
http://www.forest.impress.co.jp/library/terat.html
□Shinpei's Homepage!!(「TeraTerm Menu」)
http://www.bb.wakwak.com/~shinpei/

 そのほか、コーディング用に「秀丸エディタ」、電子辞書の検索に「DDWin」を愛用しています。

□DDwinのページ
http://homepage2.nifty.com/ddwin/

ソフトを作ってみたい人、ソフト作者になりたい人へアドバイスをお願いします。

 まずは、自分の使いたいソフトを作ってみるのがいいかもしれません。自分が使いたいものでないと、モチベーションを保つのが難しいですから。また、自分が強くほしいと思うソフトは、ほかの人にもニーズが高い場合が多いと思います。ある程度できあがったら、公開してみて、ユーザーの要望を聞きながら、さらによいソフトを作り上げていくとよいのではないでしょうか。

今後、オンラインソフト全体はどうなっていくと思いますか。

 一言で言えば「分かりません」。いずれ今以上に常時接続が当たり前となり、それを前提とした今までは考えもしなかったような面白いソフトが現れるといいですね。

窓の杜へのご意見やご要望など、窓の杜に望むことはありますか。

 特に思い当たりませんが、窓の杜自身がオープンソースのフリーソフトを作ってみるというのはいかがでしょう? 紹介するばかりでなく、たまには作る側になってみるというのも面白いと思いますよ。

 お礼のメールが来て喜んだり、難しい要望がやってきて困惑したりと、普段は味わえない作者側の立場を経験してみるのもいいのではないでしょうか。

読者のみなさんに一言お願いします。

休日の取材では、愛娘のれいなちゃんにもお相手いただきました
休日の取材では、愛娘のれいなちゃんにもお相手いただきました

 「IP Messenger」もv2となり、要望の高かった通信路の暗号化とファイル添付もサポートしましたので、これからもご愛顧ください。暗号化の処理は、1,024ビットの「RSA」と128ビットの「blowfish」を使っていますので、パケット盗聴などへの心配もなく安心してお使いいただけると思います。なお、今回のCryptoAPIを利用した実装は、ほかのWindowsソフトで暗号化処理をしたい場合に参考になると思いますので、ぜひソースコードを眺めてみてください。

 また、次バージョンの「IP Messenger」では、添付ファイルをフォルダ単位で送信可能にしたり、送信者の側から受信者のダウンロードステータスを見られるようにするつもりですので、楽しみにしていて下さい。

□白水啓章ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~VZ4H-SRUZ/

(齋藤 正穂)

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