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【第22回】
Opera Software ASA、CEOのJon Stephenson von Tetzchnerさん
私は99.9%の仕事を「Opera」でこなしています
(03/12/18)
窓の杜の読者のみなさんなら、それぞれに気に入って使い続けているオンラインソフトがあるはず。そしてそのソフトに愛着がわけばわくほど、どんな人が作ったのかが気になってくるから不思議。そこで「このソフト作った人はどんな人?」では、普段はお目にかかれないオンラインソフト作者さんに、「普段はどんなことをしているんですか?」「他の作者さんのオンラインソフトのなかでオススメのソフトはありますか?」など、みなさんの代わりにお話を伺って、ソフトを作っている作者さんがどんな人なのか、お伝えしていこう。
第22回目は、リリース当初より“第3のブラウザ”として話題の「Opera」を開発するOpera Software ASAのCEO、Jon Stephenson von Tetzchnerさんだ。
まず年齢と、趣味など普段なさっていることを教えて下さい。
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Opera Software ASAのCEO、Jon Stephenson von Tetzchnerさん |
年齢は36歳です。妻と3人の子供がいるので余暇は家族で過ごす時間が多いですね。趣味はテクノロジー全般です。“MK 14”や“ZX 81”といった8ビット機で有名な英Sinclair Research Ltd.製のマシンや、“Amiga”で有名な米Commodore製のマシンなど、古いコンピューターを20台くらいもっていまして、これでよく遊んでいます。日本に来たときには必ず秋葉原の電気街へ行って、新しい機器をいじって遊んだりもしますよ。
あとは、旅行も好きですね。人々の考え方、行動など異なる文化に触れるのが楽しいんです。スポーツではとくにサッカーが好きで、観るだけでなくプレイもしています。
これまでの簡単な経歴を教えて下さい。
アイスランド生まれで、祖父母とそこで12歳まで暮らしました。父がノルウェー人、母がアイスランド人だった関係で、12歳からはノルウェーに移り、そのままオスロ大学へ進学しました。在学中、イギリスのヨーク大学に1年間の留学経験があります。大学卒業後はノルウェーに帰り、大手通信事業者の研究機関Telenor Research and Developmentに入社しました。そして1994年に退社後、Opera Software ASAを立ち上げました。
□Telenor: Research and Development
http://www.telenor.com/rd/
□Opera Internet Browser(Opera Software ASAページ)
http://www.opera.com/
現在、IEが圧倒的なシェアを占めていますが、なぜWebブラウザーを開発しようと思ったのですか。
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Opera Software ASAで、アジア圏を担当している冨田 龍起さん |
1994年に「Opera」を最初に開発した時点では、まだIEはありませんでした。当時の一般的なWebブラウザーだった「NCSA Mosaic」の処理があまりに原始的だったので、これなら自分でもWebブラウザーを作れるなと思って始めたのがきっかけです。現在はIEやNetscapeもあり、競争が続いていますが、幸運なことに、会社として利益も出せていますし、ユーザーさんからのサポートもあります。
□窓の杜 - Opera
http://www.forest.impress.co.jp/library/opera.html
□窓の杜 - Internet Explorer
http://www.forest.impress.co.jp/library/msie.html
□NCSA Mosaic Home Page
http://archive.ncsa.uiuc.edu/SDG/Software/Mosaic/
□窓の杜 - Netscape
http://www.forest.impress.co.jp/library/netscape.html
パソコン歴と最初に使ったパソコンを教えて下さい。
パソコン歴についてはよく思い出せないのですが、自分が最初に買ったパソコンは覚えています。1981年、英Sinclair Research Ltd.製の“ZX 81”ですね。メモリは1KBで、ユニークなキーボードがついていたのが印象的でした。当時はこれで電話帳のようなデータベースやゲームを作りました。雑誌に書いてあるプログラムコードを実際に打ち込んだりもしましたね。
「Opera」の開発にあたって苦労したことや、エピソードがあれば教えて下さい。
「Opera」の歴史を今こうして振り返ると、いろいろな困難がありました。一番難しかったのは、なんといっても既存のWebページ表示と互換性をもたせること、つまりIEやNetscapeと表示の互換性を維持することです。HTML表示に関する標準規格は確かにありますが、世の中に存在するWebページが必ずしもそれにしたがっているわけではありません。
また、みなさんが目にしているWebページの表示は、業界標準とされているIEのバグや独自機能に依存した、規格とは異なっていることも多いのです。そういう状況を呈している市場でユーザーを拡大していくには、ある意味で我々の方から歩み寄って対応していくわけですが、これが一番難しかったことだと思います。とはいえ、そのような対応を10年近く続けてきたので、今となってはそれが大きな財産となってPDAや携帯電話などのほかの機器向けのWebブラウザー作りに役立っています。
「Opera」を利用しているユーザーに望むことはなんですか。
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国内販売元(株)トランスウエアで、「Opera」を担当している関口 浩之さん |
これまで「Opera」は、ユーザーコミュニティとの関係を非常に重視してきました。新規に実装した機能についてユーザーから『ここはいい』『ここは悪い』という率直な意見をもらえるからです。
逆に我々もユーザーの期待に応えるために、努力をしなければなりません。もちろん、ユーザーと我々で意見が食い違うこともあるでしょう。ですが、それはしっかりとディスカッションして解決していけばよいことです。我々が何のためにWebブラウザーを作っているのかを考えれば、最終的には我々がユーザーの意見を尊重することになるわけです。「Opera」の使い方は人それぞれありますので、往々にして意見は分かれるものです。そういう場合は多数派の意見をデフォルトの設定に、少数派の意見をオプションとして盛り込むように対応していきます。
これらを踏まえた上でユーザーの方々に申し上げたいのは、『これからも「Opera」を使い続けて下さい』ということです。そしてフィードバックをいただければ、それを満たすだけでなく、それを上回るものを提供することをお約束します。
「Opera」であなたが一番アピールしたいポイントはどこですか。
第1に「Opera」はパソコンのほかにも、携帯電話やSTBにも搭載されているということです。次にファイルサイズが非常に小さいということです。IEは20MB以上もありますが「Opera」は3MB強にもかかわらず、ほとんど同じ機能を提供しています。
第3に機能面です。「Opera」のアピールポイントとしてユーザーのなかには、マウスジェスチャーやズーム機能を挙げる人もいますし、「Opera」はCSSなど標準仕様への対応度の高さを挙げる人もいます。次に、ファイルサイズの小ささや機能、ユーザーコミュニティと弊社の関わりなどを総合的にみて、“ユーザーの立場に立ったソフトウェア作りをする”という弊社の理念そのものを信頼してくれるユーザーもいます。
このように、ユーザーによっていろいろメリットは違いますが、基本的には“速く、効率的にブラウジングができるツールが「Opera」である”と言えるでしょう。そして私たちもそのことを心がけて開発しています。
Windows、Macintoshはもちろん、Linux、携帯電話、セットトップボックスなどさまざまなデバイスにWebブラウザーを供給している理由を教えて下さい。
既存のWebブラウザーに代わるものとして、市場からの大きな要求があるからです。我々としても将来を考えたときに意味がありそうな、つまり将来性のあるプラットフォームを選択して市場を拡大してきました。そしてそれらの市場も、我々の方から積極的に働きかけて移植したわけではなく、要求を受けて取り組んできたというのが実情です。
開発面においても、「Opera 7」からは、プラットフォームに依存する部分を極力少なくしました。それによって簡単に他のプラットフォームへ移植ができるようになっています。場合にもよりますが最短で9時間程度で可能です。ただ、実際に移植を行うという意志決定をするには、そのプラットフォームがこれからどう伸びていくかについてを複数の視点から分析して決定しなければなりません。
とはいえFreeBSD版については話が全く違います。このプラットフォーム用の「Opera」を開発すること自体が利益を生み出すものでないことは明らかですが、非常に多くのユーザーが望んでいたこと、Linux版の「Opera」がすでにあったため、さほど手間がかからないという点を考慮した結果“ユーザーさんへの還元”という意味で移植しました。
個人的に影響を受けたソフトウェアはなんですか。
もともとソフトウェアのユーザーインターフェイスが私の専門分野なので、その部分で優れていた米Commodore製の“Amiga”やMacintoshのコンセプトに非常に共感をもちました。しかし、これまで非常に多くのソフトが私に影響を及ぼしてきたわけですし、そのどれもが私にとっては大切な存在なので、影響を受けたソフトとしてひとつのアプリケーションを挙げるのは難しいですね。
余談ですが、父親が心理学の博士で、障害をもった子供たちを助けることが研究テーマでした。このことが、私の人生にとって非常に大きく、また重要なことだったと思っています。と言うのも、市場に出される多くのソフトが、機能の提供を重視した結果、アクセシビリティやユーザビリティという点をあまり考慮されずに設計されています。しかし父のおかげでこれらを技術的にどうやってそれを克服するのかということに興味をもち、常にどうやって人間とコンピューターが調和できるかということを考えてソフトを開発するようになりました。
「Opera」以外で、個人的にオススメのオンラインソフトはありますか。
強いてソフトの名前を挙げるとすれば……そうですね、私の仕事の99.9%は「Opera」でこなしています(笑)。残りの0.1%ですが……OpenOffice.orgを挙げておきましょう。
□窓の杜 - OpenOffice.org
http://www.forest.impress.co.jp/library/openoffice.html
今後、どういう戦略で生き残って行こうとお考えですか。
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ニッコリ笑って腕時計を見せてくれる気さくな人柄 |
これまでどおり、優れたテクノロジーを提供し続けることです。我々は絶対に諦めません。ただ、優れたテクノロジーを提供するということと、競争に勝てるということは必ずしもイコールではありません。IEよりも「Opera」が優れているということは多くの人が認めてくれていますが、PCの市場を支配しているマイクロソフトよりもマーケットシェアを取るということはまずないと言っていいでしょう。
しかし、テレビや携帯電話の世界を考えると状況は変わってきます。パソコンの世界ではハードウェアメーカーが価格競争で疲弊するなか、マイクロソフトだけが利益を上げるような構造ができてしまっています。しかしこの状況を知っている以上、家電業界が同じことを許すとは思えません。また出荷台数の面でも、PCより携帯電話やネット家電の方が遙かに多いですし、これからも伸び続けることは容易に想像できます。そこで我々は、その分野で競争力をつけられればと思っています。今、モトローラやノキア、ソニー・エリクソンの携帯電話がすでに「Opera」を採用していますし、2004年末までにはまた新たな製品も出てきます。今後、こういう製品がどんどん増えれば、「Operaは生き残る」ということを皆さんにも目に見える形でおわかりいただけると思います。
□「NOKIA 9210i Communicator」のブラウザにOperaが採用(ケータイ Watch)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/8659.html
□京セラ、Operaのブラウザを搭載した携帯端末を近く発表(ケータイ Watch)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/13943.html
「Opera」の今後のロードマップをお聞かせ下さい。
これについてはあまりお話しできません。こんな新しい機能を実装すると予告するよりも、リリースしたときに実装されているほうが楽しいでしょう(笑)。
最後に、読者のみなさんに一言お願いします。
「Opera」をとおして、ユーザーのみなさんにハッピーになってもらうため、ベストを尽くします。
(伊藤 大地)