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雪のなかのスフィンクスも創造、PhotoshopのニューラルフィルターをAdobeが紹介
傷ついた古い写真をワンクリックで修復できる新機能「写真を復元」も開発中
2022年8月5日 14:33
アドビ(株)は8月4日、フォトレタッチソフト「Adobe Photoshop」のAIツール「ニューラルフィルター」で提供されているベータ機能などを紹介。背景の変更、傷ついた写真や古い写真を修復する新たな機能について説明した。
「ニューラルフィルター」は、2020年から「Adobe Photoshop」に搭載された機能で、同社の独自AIである「Adobe Sensei」の技術を活用したもの。数クリックするだけで、写真の編集やレタッチなどを行うことができる。
アドビ(株) マーケティング本部 Creative Cloud セグメントマーケティング部 マーケティングマネージャーの岩本崇氏は、『ニューラルフィルターは、多くのAdobe Photoshopユーザーの操作をもとに、機械学習を組み合わせることで実現したものであり、画像編集のプロが行うような難しいワークフローを大幅に削減できる機能。非破壊編集のツールであり、画像を直接加工せず、新規レイヤーを作成してフィルターをかけることができる』と紹介した。
本機能は、Adobe Photoshopの[フィルター]メニューのなかから[ニューラルフィルター]をクリックすることで使用できる。このなかで「すべてのフィルター」に表示されているメニューのうち、「おすすめ」に表示されている機能が、製品版として提供されている機能になる。
「おすすめ」に含まれている機能は顔写真の肌の質感を高めたり、顔のシミなどを取り除ける[肌をスムーズに]、表情や髪型ポーズ、顔の年齢、照明などを変更できる[スマートポートレート]、ポートレートの領域を選択して解像度を高めることができる[スーパーズームフィルター]、参照画像からテクスチャーや色、スタイルを適用し、デッサン風に変更できる[スタイルの適用]、白黒の写真に自動着色する[カラー化]などの機能が用意されている。
これらの機能は正式にリリースされたものであり、社内のAI倫理委員会を通じて審議を行った上で製品化された。とくに、人物の編集などについては倫理観を持った形で運用できるようにしている。高い基準を満たし、法律や同一性保持基準、多様性の尊重基準に準拠しているという。
岩本氏は『スマートポートレートでは、口を閉じている表情を、歯を見せながら笑っているようにしたり、首の傾きをまっすぐにできたりする。また、スタイルの適用では、北斎やモネ、ゴーギャンといったアーティストスタイルにより、写真をアーティストが描いたように変更できる。カラー化では、自動的に色を付けるだけでなく、スライダーの操作で微調整も可能になる。東奥義塾高等学校では、カラー化などの機能を使って、同校の120周年史に掲載されている人物や施設の白黒写真をカラー化した』などと述べた。
「すべてのフィルター」には、もうひとつ「ベータ」というメニューがある。これは、テスト用のフィルターと位置づけられており、機能そのものは利用することができるが、フィルターの結果が予想に反する場合があること、機械学習モデルやワークフローが継続的に改善されることが前提となっている。また、これらのなかには、クラウドからダウンロードして利用したり、オンライン接続によって利用する機能もあるという。
ここでは、風景写真の季節や時間帯を変更できる[風景ミキサー]、参照画像からカラーパレットを抽出して他の画像に転用することで同じような色調を再現する[カラーの適用]、被写体を際立たせるために背景などをぼかしたり、ぼかしに粒状感を加えたりできる[深度ぼかし]、写真を合成する際に被写体と背景のカラーや輝度を自動的にあわせる[調和]が用意されている。
岩本氏は『風景ミキサーでは、別の画像を組み合わせたり、時間や季節などの属性を変更して風景を変えることができる。夏の山の写真を雪山に変えたり、グランドキャニオンのような赤土色の山肌に変えたりできる。昼間撮影した風景も、夜の風景にしたり、実際にはありえない雪のなかのスフィンクスや、街のなかを緑の木々で覆ったりといったこともできる』とした。
また『風景ミキサーは、2021年10月のAdobe Max 2021で発表して以来、とくに日本のユーザーが積極的に利用した機能であり、SNS上でも多くの作品が掲載されていた』という。
さらに「ニューラルフィルター」では「待機リスト」というメニューも用意されている。
これは現時点では入手できない機能だが、近い将来に利用できる可能性があるものを表示している。簡単な機能説明があるだけだが、フィルター名を選択し、[興味があります]ボタンをクリックすると、投票ができたり、コメントを書くことができる。アドビでは、この声をもとにユーザーの関心を把握。開発の優先度を変えたり、機能の方向性を変えたりといった作業を行い、整ったものから「ベータ」のメニューに移行することになる。
現在では[ポートレート生成]、[水の長時間露光]、[シャドウ再生成]、[潜在ビジョン]、[ノイズの軽減]の5つが「待機リスト」に表示されている。
これらの機能は、最新版となる「Adobe Photoshop」v23.4.2で利用できるニューラルフィルターの機能となるが、Photoshopのパブリックベータ版として、2022年7月から公開されている「Adobe Photoshop」v23.5では「写真を復元」という機能がベータとして提供されている。
「写真を復元」は、古い写真や、傷ついたり、折れ目がついていたりする写真を、ワンクリックできれいに復元できる機能である。岩本氏は『ベータ版であるため、まだ傷が修正しきれない部分があったりするが、開発チームでは、こうした部分を改善しているところだ』としている。さらに、古い写真が白黒であれば、修復後にカラー化することで、写真をよりきれいにできる。『夏休みに帰省を予定している人は、この機能を使って、実家にある古い写真をぜひ修復してほしい』などと期待を寄せた。
なお、「Adobe Photoshop」v23.5は、Creative Cloudの[すべてのアプリ]にある[ベータ版アプリケーション]のメニューから入手可能だ。
2022年10月には、クリエイティブカンファレンス「Adobe MAX 2022」が開催される予定であり、ここでもPhotoshopをはじめとしたCreative Cloudの新たな機能が発表されることになるだろう。そこでどんな機能が発表されるのかが楽しみだ。