レビュー

Microsoft公式の無料動画制作ツール「Clipchamp」

TikTokやInstagram向けの映える動画を簡単に作成できる

「Clipchamp」のWebサイト
「Microsoft Store」からインストール可能

 「Clipchamp」は、2016年頃にClipchamp Pty Ltd.が開発したオンラインの動画制作サービスで、2021年9月に米Microsoftに買収され、傘下のサービスになった。「clipchamp.com」にアクセスすれば、Webブラウザー上で動画を制作することができるほか、買収されたことをきっかけに現在では「Microsoft Store」からPWA(プログレッシブ Web アプリ)としてPCにインストールすることもできる。

無料で始められる動画制作ツール

 ブラウザー版とPWA版で機能や操作性に違いは無いが、PWAのほうがウィンドウ上部のツールバーがスッキリして少しだけ表示領域が広く感じる。もちろんアカウントを紐づけすればどちらから動画を制作してもデータが同期されるため、好みに合わせて利用することができる。

 利用開始は簡単で、MicrosoftアカウントやGoogleアカウント等を利用してサインアップするだけですぐに使い始めることができる。「Clipchamp」は、個人利用・商用利用、および追加機能の有無により「Basic」・「Creator」・「Business」・「Business Platinum」4つの料金プランから構成されている。解像度は 1080p(FHD)までのエクスポートに対応しており、個人利用に限定される「Basic」プランは無償で利用可能だ。

これまで「Basic」プランでは480pまでがエクスポート可能な最大解像度であったが、つい先日の3月末に1080pのエクスポートに対応。公式のニュースリリースを見るとこういった機能追加のほかに、ハウツーやアイディアなども定期的にアップデートされており、これから始めるユーザーにとっては朗報だ。

完全無料でありながら1080pのエクスポートに対応する
つい先日のアップデートで 1080p のエクスポートが無料になった

動画制作の手順

 今回は無料の「Basic」プランを利用して、実際にどのような動画制作が可能なのか試してみたい。

[最初の動画を作成]から動画制作を開始

 PWA版を起動させると、左上から[ホーム]、[ブランドキット]、[テンプレート]、[フォルダーを作成]と並び、左下には[設定]ボタンが表示される。現在表示されている画面が[ホーム]となり、どこからクリックしても動画作成は可能だが、一番初めは画面中央にある[最初の動画を作成]をクリックすると良いだろう。

最初に表示される画面。もちろん画面上部のテンプレートをクリックしても問題ない
有償の「Business」プラン以上で利用可能な[ブランドキット]
デザインやイメージから直感的に始めることができる[テンプレート]
[フォルダーを作成]ボタンをクリックすれば、任意の名前で制作する動画をフォルダー分けすることができる
フォルダー画面
[設定]-[プロフィール]画面ではユーザー名と登録しているメールアドレスの変更ができる
[設定]-[請求]画面では登録しているプランの確認可能

動画に含まれるすべての要素を含む「アセット」を組み合わせて動画を制作

 [ホーム]画面中央にある[最初の動画を作成]をクリックすると、ウィンドウがダークモードに切り替わり、空のタイムラインが表示される。

 動画の編集は「アセット」と呼ばれるパーツを組み合わせて行う仕組み。アセットには動画・音声・画像ファイルやリアルタイムで入力された映像のほか、テンプレート、シーン切り替え時の効果(トランジション)、テキスト、背景など動画に加わるすべての要素が含まれる。

 左側にある縦型のツールバーに並ぶアセットのジャンルをクリックすると、豊富なアセットの一覧が表示され、上部の検索窓からキーワードで検索できる。たとえばテンプレートであればアスペクト比から絞り込むことができる。

動画編集画面はダークモードに切り替わる

 アセットのドラッグ&ドロップ、もしくは[タイムラインに追加]ボタンのクリックで、アセットを直接タイムラインに追加できる。今回は[テンプレート]ジャンルのアセットをアスペクト比が9:16の縦長に絞りこみ、クリスマスのテンプレートを追加してみた。タイムラインに追加すると、テンプレートに含まれるBGM、動画、テキストなどが自動で配置され、すでにひとつの動画コンテンツとして完成している状態だ。

縦長のアスペクト比9:16のテンプレートに絞りこみ
時季外れだがクリスマスのテンプレートを選んだ
数秒でタイムラインにデータが読み込まれ、再生を押せば完成動画がプレビューされる状態になっている
掲載しているスクリーンショットのサイズの関係でウィンドウは小さいが、もちろん任意のサイズに変更して、タイムラインの領域を拡大することができる

 追加したテンプレートの各要素をクリックすると、要素の端を掴んで長さを変更したり、カットツールでカットしたり、右クリックをすれば複製やコピーといった操作ができるほか、一部ショートカットキーによる操作も可能だ。またビューポートの上部にアイコンが表示され、BGMのアセットならボリュームとフェード、動画のアセットならレイアウトや形、フィルター、色相などを編集できる。

タイムラインの要素を選択すると、ビューポート上部にアイコンが表示される。たとえばテキストのアセットなら文章の変更やフォント、フォントカラー、表示位置など

 ツールバー上部の[+]ボタンからは、任意の動画ファイルを取り込める。さらにツールバーからジャンルを選び、アセットをタイムラインに追加できる。スクリーンキャプチャーやカメラの映像を読み込んだり、テキストを合成したり、BGMを追加するといったことが可能だ。

[+]ボタンからはローカルやクラウドストレージからの動画ファイル取り込みなどができる
目的に応じたアセットがすでに組み合わされている[テンプレート]ジャンル
音声関連の素材を追加できる[音楽とサウンドエフェクト]ジャンル
動画素材を追加できる[ストック動画]ジャンル
静止画素材を追加できる[ストック画像]ジャンル
テキストを使ったエフェクトを追加できる[テキスト]
背景やGIFアニメーションなどを追加できる[グラフィック]
シーン遷移時の特殊効果を追加できる[トランジション]
有償の「Business」プラン以上で利用可能な[ブランドキット]

 たとえば、ソリッドな背景を追加したい場合は、[グラフィックス]から[背景]を選択して、タイムライン上で色や透過、サイズを変更する。シーンの切り替えで適用するトランジションは、任意のエフェクトをタイムライン上にドラッグすると、動画間で追加できるポイントが自動で表示され、そこで離すと効果が適用される。

ソリッドな背景は[グラフィックス]の[背景]から追加する
トランジションは動画間の中央に[+]マークが表示され、その部分でドロップすると効果が適用される

カメラやデスクトップの録画対応・高性能日本語読み上げ機能で解説や実況動画に最適

 [録画と作成]画面ではパソコンに接続したカメラ単体の映像を録画する[カメラ録画]、デスクトップ上の任意のウィンドウを録画する[画面録画]、それらを同時に録画する[画面とカメラ]が用意されている。さらに、高品質なテキストの読み上げが可能な[音声変換]といったワンランク上の動画編集ツールを利用することが可能だ。もちろんこれらは個人利用なら無償で利用することができ、[音声変換]のテキスト読み上げではまさかの日本語対応だ。

[録画と作成]画面

 日本語の音声は[Nanami]、[Keita]の2種類から選択することができ、これがびっくりするくらい精度が高く、自然な読み上げをする。また一度に読み上げ可能な文字数制限も特になさそうなので、自分の声で収録するのが苦手という場合も安心して読み上げさせることができる。

読み上げ音声は2種類だが、読み上げスピードをスライダーで「低速」「通常」「高速」から調整することができ、汎用性が高い

制作した動画の保存は[エクスポート]から

 編集を終えたデータは、ウィンドウ右上の[エクスポート]をクリックすると、任意のファイル名でダウンロードファイルとして書き出すことが可能。ファイル形式はMP4(H.264)のほか、ファイルサイズが大きくなってしまうが15秒以内であれば240pのGIFアニメーションで書き出すことも可能だ。

 無償の「Basic」プランでは、一部の機能やアセットが制限されているが、豊富で高品質なアセットの中からお気に入りを見つけたら試してみたくなるものだ。仮に有料のアセットをタイムラインに追加すると、エクスポートをすることはできなくなってしまうが、実際に編集したデータ自体はアカウントに紐づきオンラインで保存されるため、有償のプランへアップグレードする前に出来栄えを確認することもできるだろう。

[エクスポート]をクリックして任意の解像度を指定するとすぐにエンコードが始まる。
またアカウントを紐づければ、「Google ドライブ」や「OneDrive」へ保存できるほか、YouTubeやTikTokへ直接投稿することができる

 注意点としては、ブラウザーやPWAで動画編集ができるといっても、映像のエンコードでは相応の処理能力が求められる。テンプレートを元にフォントやフォントカラーを変更した程度の動画であれば、グラフィックス機能を内蔵した統合型のプロセッサーでも十分なプレビューが可能だが、ピクチャーインピクチャーなどで要素が増えるほどにグラフィックス処理が要求される。

豊富な解説コンテンツを活用しよう

 「Clipchamp」は、公式で用意されているハウツーガイドやトレーニングツールが豊富に用意されている。

 トレーニングセンターにアーカイブされている各ツールの解説動画は英語だが、ブラウザーの翻訳機能や、YouTubeの日本語字幕機能で十分にカバーできる範囲だ。動画編集ツールにありがちな、始めてみたが使い方がよくわからない、思い通りにできないといった不安も解消できるだろう。

公式サイトのハウツーとトレーニングセンター、各ツールの詳細をクリックするとYouTubeの解説動画を視聴できる

TikTokやInstagram向けの動画をすばやく制作するためのツール

 「Clipchamp」は、ドラッグ&ドロップですばやくタイムラインに追加できる豊富なテンプレートと、動画、画像、サウンド等のアセットがひとつに集約された簡易的な動画制作ツールだ。カラー補正やキーフレームの追加、パスツールやマスク処理、3DやVFXなどの機能は無いが、これはそもそもそういった編集用途向けのツールではない。

 実際に何度か動画を作っているうちに、あまり時間をかけて作るものではないと気が付いた。まさにスマホアプリのように、思い立ったら直感的な操作ですぐにアウトプットする。そういった意味では、特にTikTokなどでよく利用される縦長の16:9や、Instagramなどで利用される1:1などのアスペクト比とテンプレートが豊富な理由にも納得する。

気に入ったら有償プランの課金も検討してみよう

 有償プランの価格は、無制限のクラウドストレージと、無制限のオーディオストックが利用可能な「Creator」が月額9米ドル。「Creator」の機能に加え、オリジナルのプリセットを適用できる「ブランドキット」が利用可能な「Business」が月額19米ドル、「Business」の機能+無制限のビデオと画像ストックを利用可能な最上位プラン「Business Platinum」が月額39米ドルとなっている。いずれもエクスポート可能な解像度は 1080p(フルHD)まで。

 また、すべてのプランは月額支払いのほか、年単位での支払いにも対応しており、その際は一律30%OFFとなってお買い得感が増す。これから動画編集を始めてみたいというユーザーは、お試しで編集して気に入ったら有料のプランを購入してエクスポートしてみるというのもアリだろう。

年単位の契約なら30%OFFとなるため、実際に使ってみてから目的のプランを選択しても良いだろう