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ノートンやAvast、CCleanerが1つになった巨大セキュリティ企業、「Gen」では何が変わる? 社長に聞いた

増える「生成AIを使った攻撃」には、AIで対抗する研究も

Gen代表取締役社長のOndrej Vlcek氏

 Gen(ジェン)という社名をご存知だろうか。聞いたことがなくても、「Norton(ノートン)」「Avast(アバスト)」「AVG」「CCleaner」「LifeLock」「Avira」「ReputationDefender」といったPC・モバイルセキュリティ関連の製品のいずれかの名前を知っている人はいるのではないだろうか。

 Genはこれら7つのブランドを持つ会社だ。何度かの合併を経て、最終的に2021年にNoron LifeLock社がAvast社を買収することで現在の形になり、2022年に社名をGenに変更した(日本法人は執筆時点で株式会社ノートンライフロック)。

 これらのブランドを持つGen社の立ち位置や戦略、そして注力する分野について、同社代表取締役社長のOndrej Vlcek(オンドレイ・ヴルチェク)氏に話を聞いた。

社長はAvast元CEO、7つのブランドを集めることで技術力向上にも期待

――Genという会社についてご紹介ください。

[Vlcek氏]Gen(ジェン)は新しい社名です。セキュリティ企業の買収・合併を経て、7つのブランドが1つになり、それをまとめる社名がGenとなります。

 7つのブランドが集まることで、より拡張しながらより良い機能を集めることができるほか、技術力の向上、ターゲット市場へのリーチなど、価値が高まります。それは結果的にお客様のメリットにもなります。

7つのブランドを持つGen

――合併して現在のGenになる前はAvastのCEOということでしたが、これまでどのような活動を行われてきたのでしょうか。ご自身の経歴もご紹介ください。

[Vlcek氏]もともと1995年にAvastに、社員番号6番として入社し、エンジニアとして仕事を始めました。そして会社が大きくなるにつれて私の仕事も大きくなり、AvastのCTOを13~14年間ほど務めました。Avastの製品が成長することが私の責任だったわけです。

 AvastのCEOになってからは、ロンドンでIPOを実施し、すぐにFTSE100(ロンドン証券取引所の総合株価指数)にも選ばれました。今回の合併と統合も、私が率いました。
 ちなみに、社名の由来ですが、Generation(世代)のGenからとっています。Gen Z(Generation Z、Z世代)やGen Y、Gen Xなどと言いますよね。現在は、高齢の人もインターネットで買い物やバンキングするのが一般的になりました。そうした全ての世代の方々(Generation Digital)をつなげる、という意味でGenと付けました。また、短くて覚えやすいですよね(笑)

Genは米アリゾナ州テンピとチェコ共和国プラハの2拠点に本社を置く

製品やサービス名は維持、地域ごとに強いブランドの特徴を活かす

――巨大セキュリティ企業の誕生という印象があります。Genの7つのブランドは、統合していく方向なのでしょうか、それとも個別のブランドを活かしていくのでしょうか?

[Vlcek氏]社名のGenを製品やサービスの名前として一般のお客様に出す計画はありません。あくまで7つのブランドを1つ1つ大切にして、そのまま維持していく考えです。

――ブランドが集まったことによる効果はすでにあるのでしょうか。ユーザー側のメリットも気になります。

[Vlcek氏]お客様への効果の1つとしては、セキュリティのエンジンの高度化が挙げられます。セキュリティソフトはPCなどのデバイスにエージェントをインストールして使います。

 例えばAvastの無償版は世界で何億ものデバイスにインストールされています。そうしたエージェントがリアルタイムのセンサーとなり、検知したセキュリティ脅威の情報がインターネット経由で集まることで、検知力が上がります。ブランドが集まることで、観察する数が多くなり、よりお客様に安心を提供できます。

――その一方で、複数のセキュリティソフトがGenに集まることで、重複する部分もあるかと思います。その棲み分けはどう考えているでしょうか。

[Vlcek氏]セキュリティソフトについて言えば、まずそれぞれ違う地域に強いというのがあります。ノートンは北米と日本において強いブランドであり、Avastはヨーロッパやラテンアメリカで強く、Aviraはドイツで強いという特徴があります。

 ビジネスモデルによる棲み分けもあります。Avastは低価格で、無償で使える製品もありますし、ノートンに比べると価格は抑えめです。

 また、PCシステムクリーナーのCCleanerや、個人や企業のオンライン上の評判を管理するReputationDefenderなどは、それぞれ独自の機能を持っています。

 このように7つのブランドをセグメントに分けて、重複しないようにしています。

――ただし、無償のAvastに対して、WindowsではMicrosoft Defenderが標準搭載されています。これについてはどうお考えでしょうか。

[Vlcek氏]Microsoft Defenderとの差別化として、Avastのビジョンは「製品を使ってユーザー個人を守る」を掲げています。もちろんMicrosoft DefenderはPCを守りますが、Avastは「あなた自身を守る」のがコンセプトです。PCだけでなく、クラウドやモバイル端末についても、アカウントを乗っ取るようなサイバー攻撃の脅威からユーザー個人を守ります。

 例えば1つの例としては、現在75%以上のサイバー攻撃ではフィッシングやソーシャルエンジニアリングのメールが感染経路と言われています。われわれの製品は、そうしたメールが届いたとき、WindowsだけでなくiPhoneなど全てのところで検知してブロックし、削除します。

日本ではノートンとAvastへの投資を継続今後はAIを使った攻撃にAIで対抗する研究も

――日本市場についてはどのような考えをお持ちでしょうか。今後の取り組みについて教えてください。

[Vlcek氏]日本では、ノートンがプレミアムブランドとして、Avastがフリーミアムのブランドとして知られています。日本では今後も特にこの2つのブランドに投資を続けます。

 中でもノートンでは、今後もパートナーとの関係を強化していきます。通信事業者、大手小売、PCメーカーなど、それぞれ業界に強いパートナーがいます。新しい製品を出すときも、そうしたパートナーの力を借りてお客様に届けます。

――今後の戦略や方向性についてお聞かせください。

[Vlcek氏]世の中のトレンドの1つに、生成AIがあります。2022年の11月からメインストリームになってきて、日常生活の一部に入ってどんどん大きくなっています。

 これはすばらしいことですが、サイバー犯罪者も同じ技術を使うという面もあります。例えば、生成AIにより高精度なフィッシングメールがたくさん作れてしまいます。また、生成AIの助けを借りて作ったマルウェアも出てくるでしょう。さらに、声や動画によるなりすましでも、ディープフェイクにより説得力のある詐欺ができてしまいます。

 そこで我々の会社では、巨額の投資をして、AIの研究開発や人材採用をしています。いかに人を守るかのビジョンのもと、AIがもたらす脅威からどのように守れるか、どのように効果的な製品を開発できるかを研究しています。新しい時代が始まりましたね。

――AI時代のセキュリティとしてユーザーをどう守るのでしょうか。コンセプトやアイデアなどがあれば教えてください。

[Vlcek氏]1つの例として、7月にリリースした「Norton Genie」という製品があります。メールやSMSなどの、フィッシング詐欺のメッセージをAIで検知する製品です。まだ日本では提供されておらず、一部の英語圏のみでのリリースになります。

――AIを使った攻撃にAIで対抗する、というわけですね。

[Vlcek氏]そうです。なお、Norton Genieについて補足すると、チャットボットのUIから対話形式で対策できるようになっています。Genieと対話しながらより対策を強化できるのが特徴です。

AIを使った攻撃にAIで対抗する「Norton Genie」

――セキュリティの脅威は世界中の問題になっていますが、立ち向かうために他のセキュリティ企業とコラボレーションしているといったことはあるでしょうか。

[Vlcek氏]各企業ごとに成長・存続するためのビジネスのミッションはありますが、1つの会社だけでは大きなセキュリティ問題を解決できないと考えています。セキュリティ業界は、常に一緒に、ときにはデータを共有しています。今後もそのように取り組みを行い、セキュリティの脅威に立ち向かいます。

――ありがとうございました。