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GPT-4 turboなど、10種類の生成AIを無料で使い放題!「リートン」が目指すところとは
「無料で使い放題」を提供する理由と、その目指すもの
2024年3月26日 12:35
本来有料の「GPT-4/4 Turbo」を無料で使える、生成AIサービス 「wrtn(リートン)」
生成AI「ChatGPT」では「GPT-3.5」や「GPT-4」といったLLM(大規模言語モデル)を利用できる。外部に対してAPIも公開されており、個人でも企業でも有料で使えるようになっている。これらのLLMを無料で公開しているのが生成AIサービス 「wrtn(リートン)」 だ。
なぜ、本来有料の「GPT-4/4 Turbo」を無料で公開しているのか、どんなビジネスモデルを考えているのか、など疑問に感じることだろう。そこで今回は、2023年11月に設立された日本法人「リートンテクノロジーズジャパン」のken Kim(金起漢)氏にいろいろとお話を伺った。
Wrtn Technologies, Inc.は2021年4月に韓国で創業し、生成AIサービスの開発を進め、オープンβとして出したのが2022年10月のこと。ChatGPTが登場したのは11月なので、1か月早く世に出ているのだ。
当時の生成AIサービスは、「GPT-2」や「GPT-3」といったLLMを使い、作文を支援する目的で開発されていた。このプロダクトはラスベガスで開催される電子機器の見本市「CES 2023」にて生成AIサービスとしては初となるイノベーション賞を受賞している。ちなみに、サービス名や会社名のリートンは「write」の過去分詞形である「written」から付けられたとのこと。
しかし、リリース直後に「ChatGPT」が登場し、生成AIは世の中を大きく変えるものではないか、と気が付いたそう。そこで、開発したのが「リートン」というAIチャットツール。「GPT-3.5」や「GPT-4 Turbo」を無料で使い放題というサービスだ。2023年1月にローンチし、現在は全世界でユーザー数は200万人(2024年3月時点)を超えている。
現在は、GPT以外にも「Claude」や「PaLM2」など複数のLLMを選択できる。リアルタイムの検索結果を元に生成AIを利用できる「WRTN Search」も用意されている。
画像生成AI「Stable Diffusion」の「SDXL」も利用でき、テキストから画像を生成することができる。さらに「Japanese SDXL」というモデルもラインナップ。これは、韓国にもないモデルで、日本版にのみ追加されている。「Stable Diffusion」を開発するStability AIと協業し、実現した機能だ。
通常、画像生成AIは英語でプロンプトを入力する必要があるが、「Japanese Stable Diffusion」は日本語で入力したほうが良好な結果が得られるという。
AIと既存サービスをつないで送客手数料を生み出すビジネスモデル………だから「無料」が実現できる
なぜ、これだけのサービスが無料で使い放題なのだろうか?
「計画の一つがプラグインです。通販や旅行、美容などの検索サイトと提携し、旅行プランやグルメ情報などを生成AIが提案してくれます。昨年、韓国ではそれぞれの分野の大手20社と連携させていただき、当社のモバイルアプリで利用できるようになっています。アプリからサービスに送客することで、お金を動かせるようになると考えています。現在は実証実験中ですが、今年から本格的にビジネス化していく予定です」(金氏)
日本でも同様の事業を立ち上げるためには、まずユーザーが必要になる。ある程度のユーザー数がいないと、企業側に提供するメリットがないためだ。
「このビジネスはBtoC事業に近いと思います。今、生成AIを手掛けている会社さんの中でBtoCを考えているところはおそらくないのではないでしょうか。結構、弊社はチャレンジしているところだと思っています」(金氏)
確かに、生成AIをそれぞれのサービスの営業スタッフやコンシェルジュのように利用できれば、送客効果は大きく、送客コストも抑えられる。とは言え、既存のAIでその部分を担うことは難しそうだ。
「ユーザーさんの意図を把握するところがもっとも重要なので、そこに関しては弊社独自のAIモデルを開発しています。例えば、レストランに行きたいというニーズがあるユーザーさんでも、その通りには言わない場合が多いのです。それでも、結局はレストランに行きたいんだな、と理解しないとまともに利用できません。そのため、過去のデータなどを参照し、お客様ごとに最適化した内容を判断できるAIを開発しようとしています。ここが弊社のコアになる技術となります」(金氏)
現時点では収益は上がっていないということだ。成功するIT企業も初期は売り上げが少ないことを覚悟して事業を立ち上げている。リートンもその覚悟で、大きなビジョンを追い求めていきたいと金氏。投資家もその考え方に共感し、昨年6月にはシリーズAで16.5億円の資金調達を行っている。既存株主のキャップストーンパートナーズ(Capstone Partners)をリード投資家として実施したもので、累積資金調達額は21億円となる。
日本法人は昨年11月に設立されたばかり。創業当時から日本進出の志を持っており、昨年4月からすでに日本で事業は展開していた。しかし、日本で15年ほど働いた経験を持っている金氏は、外国の会社が日本のユーザーから信頼を得るのは一筋縄ではいかないことを知っていたそう。そこで、日本企業とパートナーを組むためにも日本法人を立ち上げたという。
「日本のユーザーさんの信頼を獲得していくための組織を構築し、長い目で活動していこうと思っています」と金氏。
ChatGPTに多くのユーザーが課金している中、「GPT-4/4 turbo」を無料で使えるということで、訝しんでいる人もいる。「今は全部無料だけど、結局そのうち有料にするんでしょう」とユーザーから心配の声があるそうだ。しかし、金氏は「今の計画ではユーザーさんに直接課金するつもりはありません」ときっぱり。
ユーザーには無料でサービスを提供し、付加価値を提供することで大きなビジネスを作っていきたいと言う。
強みは「自由にどんなLLMでも使える」「大量の生成AI処理を安定的に実行可能」
ChatGPTだけでなく、いろいろなLLMが登場し始めている。中には無料で利用できるサービスもあるが、リートンの優位性はどこにあるのだろうか?
「例えば、ChatGPTですと、GoogleのLLMは多分使えません。ウェブとの接続は自社のものしか使えないというのは、結構縛りになると思います。弊社だと、自由にどんなLLMでも使えるというのが強みだと考えています」(金氏)
また、大量の生成AI処理を安定的に実行できるのも優位性の一つだ。
実は、生成AIの利用量には限りがあり、お金があるからと言って無制限に使えるものではない。リートンはAzure OpenAI Serviceを利用しているが、マイクロソフトと業務協約を締結しており、結果として、より多くのユーザーに無料でリートンを使ってもらえる仕組みになっているということだ。
金氏は普段、どの生成AIを使っているのか尋ねるともちろんリートンとのこと。実際に、ビジネスにどう活用しているのかは気になるところだ。
「普段は、長い文章を整理する際にリートンを使っています。ビジネスメールを送るときに、文面を作るのが面倒くさいときにも活用しています。素案を作ってもらうだけでも手間が省けるので。また、日本と韓国の文書をお互いにやりとりしますが、その際の翻訳にも活用しています。契約書などの法的な文書は、自分で書くよりAIに任せた方がいいものが出てきます」(金氏)
「LLMの価値を世の中に広げていきたい」
最後に、今後の展望についてお伺いした。
「日本でも生成AIに対する関心はとても高いと感じています。そういったお客様に対して、複数のLLMを無料で使い放題という体験を提供するというのは今後も継続していきます。
ユーザーがある程度集まったら、次のステップの体験を提供していきたいと思っています。みんなのためのAIというのが弊社のスローガンなので、LLMの価値を世の中に広げていきたいと思っております」と金氏は語った。
リートンは本当に、複数の最新LLMを無料で使い倒せるサービスだった。
ユーザーとしては、気兼ねなく利用させていただこう。ChatGPTの無料プランを使っている人は、ぜひGPT-4の精度の高さを体験して欲しい。有料のChatGPT Plusを契約している人も、3時間に40メッセージという制限がある。使い込んでいるとあっという間に制限がかかってしまうので、そんな時もリートンがあれば安心だ。
今後、ユーザーが増えていくのは間違いない。今年から始まるというビジネス展開が楽しみだ。