トピック

経理や業務の「普段使いPC環境」を、Copilot+ PCで作ってみたら……

窓の杜の人気アプリは全てが動作、古くても、ハードウェアを扱うものでも……

 優れたAI機能を持つPCとして登場した「Copilot+ PC」は、PCにおける新たな転換期になると言われている。それ自体は素晴らしいことなのだが、AIに対する理解はなかなか難しく、「今までのPCとどう違うのか」を判断するのは容易ではない。

 その答えは「今までのWindows PCにAI機能が追加されたもの」であって、これまでのPCと同じく、基本は「Windows 11が動作しているPC」だ。キーボードに「Copilotキー」が追加されたりしているが、外見的変化もあまりない。

 ただし、最初の「Copilot+ PC」である、Qualcomm製CPU「Snapdragon X」シリーズを搭載した製品は、Arm版Windows 11が搭載されている。PCに詳しい人の中には、ソフトの互換性に対して懸念する方もいるようだ。搭載しているエミュレータ「Prism」により、「ほとんどのアプリが動く」と言われてはいるが、万一、自分が使うアプリが動かなければ困るからだ。

【今回試したアプリ】

「Microsoft Office」
「Slack」
「弥生会計25」
「Adobe Photoshop」
「DaVinci Resolve 19」
「Dropbox」
「PDF-XChanger Viewer」
「PhotoDirector 365」
「Gimp」
「はがき作家」
「Audacity」
「JW Cad」
「VLC media Player」
「Libre Office」
「Lhaplus」
「7-Zip」
「CrystalDiskInfo」
「Excel電子印鑑」
「FFFTP」
「WinMerge」
「CPU-Z」
「WinSCP」

 そこで今回は、仕事でPCを使う社会人の方に「Copilot+ PC」の1つである「Surface Pro(第11世代)」を使っていただき、普段使っているソフトを試していただいた。

 なお、アプリの対応状況が分かりやすいよう、本文には「対応アプリ」または「Arm版あり」という表示をつけている。「対応」表示は、ソフトメーカーやMicrosoftストアによる公式告知、あるいはQualcommによる動作確認を元にしている。

 先に掲載した学生編も含め、「こんな感じ」というところをつかんでいただければ幸いだ。

「業務向けソフト」はSnapdragonでも問題なく動く!

経理のAさん:OfficeにSlack、弥生……

 さて、1人目のAさんは経理のお仕事をされている。

 普段使われているソフトを聞くと、やはりオフィスソフトは多用されているそう。

 「Surface Pro(第11世代)」には、「Microsoft Office」(対応アプリ)がプリインストールされている。もちろん動作にも問題はなく、OSがArm版Windows 11であっても、いつもと同じように使える。

 そこで、テスト第一弾としたのは、コミュニケーションツールの「Slack(対応アプリ)だ。公式サイトからダウンロードしに行くと、Windows版のところに「ARM64ビット」の文字が。これはArm版Windowsに向けて作られたソフトのことで、確実な動作が期待できる。今回ももちろん問題なくインストールでき、動作した。

 従来型のソフトは「x64」や「x86」という名前で呼ばれていることが多い。「Copilot+ PC」には「Prism」という高度なエミュレーターが搭載されており、これらのソフトも動作するように作られている。

 他のソフトとしてはぜひ会計ソフトを……と思ったのだが、社外のPCには導入できないとのこと(セキュリティ的に当然である)。お使いのソフトは「弥生」シリーズとのことなので、試しにこちらで「弥生会計25(対応アプリ)をインストールしてみたところ、初期設定を無事に完了し、基本的な動作部分は問題ないようだった。

「弥生会計25」

 また「弥生」はクラウド向けサービスも多く提供している。こちらはWebブラウザがあれば使用できるため、「Copilot+ PC」でもほぼ問題なく動作すると思われる。なお「弥生」製品は公式サイトでArm版Windows 11における動作検証の情報を発表している。使用するソフトが決まっている場合は、各社のWebサイトで確認してみるといいだろう。

映像制作のBさん:Photoshop、DaVinci Resolve、Dropbox……

 2人目のBさんは、映像制作を中心としたお仕事をされており、専門的なソフトを多数使用されていた。今回はその中から、ユーザー数の多そうなソフトを選んで試させていただいた。

 まずは画像編集ソフトの代表格「Adobe Photoshop」(対応アプリ)。インストールから実行まで問題なく動作していた。BさんはAIを使った自動生成のデモを動かしてくれたりもして、いつもどおりの使い方ができている様子だった。

 Adobeのソフトに関しては、同社のWebサイトにて動作検証の情報が発表されている。「Photoshop」に関しては、「Copilot+ PC」でネイティブ動作(エミュレーターを介さない)するそうだ。

 次は動画編集ソフト「DaVinci Resolve 19」(Arm版あり)。こちらは公式Webサイトからインストーラーをダウンロードする際、「Windows ARM」という項目があるので、こちらを選択。動作にも問題はなかった。

 「DaVinci Resolve」に関しては、実は弊誌でもテストしており、「Copilot+ PC」のNPUを用いて一部の処理を高速化するという内容を紹介している。動作環境としては万全と言っていいだろう。

 最後はクラウドストレージの「Dropbox」(対応アプリ)。公式Webサイトからデスクトップアプリをダウンロードし、インストール。無事にクラウドストレージのファイルを確認できた。こちらに関しても、公式対応が発表されている

主要な業務用アプリはしっかり対応

 今回、お二人が主に使っているソフトを試してみたが、メーカー各社のサポートもよく、Arm版Windowsへもしっかり対応していた。特に映像を扱うソフトは、PCの負荷も高くなるため、Armでネイティブ動作するのは心強い。クリエイターにとっては大きな安心材料と言えるだろう。

 なお、仕事で利用する場合、課題になるのは「プリンタ」と「カーネルレベルでの動作が必要なソフト」の2種類だ。

 先に後者から解説すると、標準の「Microsoft IME」以外の日本語入力ソフトや、アプリをインストールして使うタイプのVPNソフトは、「Arm版」が用意されていないとArm版Windowsでは利用できない。特に、VPNソフトを使うような環境では、情報システム部門に事前確認するのが確実だろう。

この画面からプリンタを追加すればOK

 また、「プリンタ」についてだが、Arm版Windows 11ではメーカー各社が提供しているプリンタ用ドライバは使用できないことが多く、Windowsの標準ドライバを使用することが推奨されている。

 実際の作業としては、設定画面の「プリンターとスキャナー」から「デバイスの追加」を選ぶだけなので、手間はない。複合機であれば、同様にスキャナ機能なども利用できるし、両面印刷なども行える。ただし、Windowsの標準ドライバが利用できない場合は利用できないことになる。

メーカー各社がArm版Windows 11の対応状況を発表しているので、自宅にあるプリンタが対応しているかどうかご確認いただきたい。

 なお、メーカー公式の対応アプリをまとめたリストを別途用意した。

 前述のように、「Prism」エミュレーターで、非常に多くのアプリが普通に動作するのだが、Arm版アプリの有無を含め、しっかり確認したい場合はこちらを確認するといいだろう。

窓の杜の人気ソフトは全部動く!古くて更新されていないものや、ハードウェア依存のアプリまで………

 さて、通常のアプリについては、ここまででざっと紹介できたと思うが、今度は方向性を変え、窓の杜のライブラリに収録されているオンラインソフトの中から、人気のソフトを選んで動作状況を試してみた。

 先に試したソフトとは異なり、Arm版Windows 11への対応どころか、「Copilot+ PC」の発売後に更新されていないものや、すでに更新終了を宣言しているもの、さらにハードウェア情報を表示するようなアプリも含まれる。

 動作テストの条件としてはかなり悪い、と言えるだろう。

 ソフトの中にはWindowsストアアプリ版が用意されているものもあるが、今回のテストでは窓の杜のライブラリからダウンロードできるものを選ぶようにした。

 先に結論をまとめておくと、これら窓の杜の人気アプリは全て利用可能だ。CPU-Zのようなハードウェアに密着したアプリでは、Arm版をインストールする必要があるものがあったが、そうしたもの以外は当たり前に動作している。

●PDFビューワー 「PDF-XChanger Viewer」

 タブ切り替え型で軽快に動作するPDFビューワー。既に開発は終了している。インストールし、PDFファイルの読み込みまで問題なく動作した。

「PDF-XChanger Viewer」

●フォトレタッチソフト「PhotoDirector 365」(対応アプリ)

 画像管理機能を備えた高機能なフォトレタッチソフト。インストールし、画像の読みこみまで動作するのを確認した。

「PhotoDirector 365」

●画像処理ソフト 「Gimp」(対応アプリ)

 オープンソースで開発されている画像処理ソフト。インストールし、画像の読み込みまで確認できた。

「Gimp」

●宛名印刷ソフト「はがき作家」

 入力した宛名のレイアウトをリアルタイムにプレビューできる宛名印刷ソフト。インストールし、はがきのレイアウトが表示されるのを確認した。

「はがき作家」

●サウンド編集ソフト 「Audacity」 (対応アプリ)

 VSTプラグインに対応する非破壊サウンド編集ソフト。インストールし、簡単な音声操作ができるのを確認した。

「Audacity」

●2次元汎用CADソフト 「JW Cad」

 自由に線種をカスタマイズできる2次元汎用CADソフト。インストールし、簡単な描画操作ができることを確認した。

「JW Cad」

●メディアプレイヤー 「VLC media Player」 (対応アプリ)

 高機能なメディアプレイヤー。64bit版をインストールし、動画ファイルを再生できることを確認した。ちなみに本ソフトの公式WebサイトにはArm版のダウンロード項目もあるのだが、まだ開発中のバージョンのようだ。

「VLC media Player」

●オフィスソフト 「Libre Office」 (Arm版あり)

 無料で利用できるオフィスソフト。64bit版をインストールし、基本動作を確認した。なお本ソフトの公式Webサイトには、Arm版(Aarch64版)も用意されており、こちらもインストールして動作確認できた。できればこちらを使用する方がいいだろう。

「Libre Office(Aarch64版)」

●圧縮・解凍ソフト「Lhaplus」

 DLL不要で数多くのアーカイブ形式に対応する圧縮・解凍ソフト。インストールし、圧縮ファイルの関連付けと圧縮ファイルの解凍ができることを確認した。

「Lhaplus」

●圧縮・解凍ソフト「7-Zip」 (Arm版あり)

 7z形式の書庫ファイルを圧縮・解凍するためのツール。64bit版をインストールし、動作を確認。また本ソフトの公式Webサイトには、64-bit ARM64版が用意されており、圧縮ファイルの解凍ができることを確認した。

「7-Zip」(64-bit ARM64)

●HDD/SSD情報表示ソフト「CrystalDiskInfo」 (Arm版あり)

 ローカルのHDDやSSDの健康状態などを監視できるソフト。通常版をインストールすると、自動でArm版がインストールされた。SSDの情報を問題なく表示できることを確認した。

「CrystalDiskInfo」

●Excel用アドイン「Excel電子印鑑」

 「Microsoft Excel」のシートにさまざまなスタイルの判子を押すことができるアドイン。インストールし、各種電子印を使用できるのを確認した。なお「Copilot+ PC」に限った話ではないが、本ツールを使用するにはマクロのブロック解除手順が必要

「Excel電子印鑑」

●FTPクライアント「FFFTP」

 左右分割型で日本語UIのFTPクライアント。64bit版をインストールし、FTPサーバーに接続してリスト表示ができることを確認した。

「FFFTP」

●ファイル操作ソフト「WinMerge」 (Arm版あり)

 64bit版をインストールし、2つのテキストファイルを比較できることを確認した。なお公式サイトにはArm版が用意されており、こちらでも2つのテキストファイルを比較できることを確認した。

「WinMerge」

●CPU情報表示ソフト「CPU-Z」 (Arm版あり)

 CPUのプロセッサー名やモデルナンバーなど詳細な情報を取得・表示できるソフト。窓の杜のライブラリからダウンロードできるものは、インストールはできたものの、ほとんどの情報が見られない。本ソフトの公式WebサイトにあるArm版をダウンロードしてインストールし直すと、全ての情報が正しく表示された。

「CPU-Z(Arm版)」

●FTPクライアント「WinSCP」

「WinSCP」

 オープンソースで開発されているFTP/SFTP/SCPクライアントソフト。インストールし、筆者の自宅サーバーにSCPプロトコルで接続できることを確認した。


 以上、16本全てで基本的な動作を確認できた。細かい部分で何かしらの不具合がないとは言い切れないが、筆者が試した範囲では全く問題が出なかった。正直なところ、1つ2つは動作不具合があるかと思ったのだが、ここまで動作したことには筆者も驚いた。

 CPU-Zのようなハードウェアに密接にかかわるアプリはArm版のインストールが必要だったが、逆に言うと、既にArm版が用意されており、こうした点でも安心と言えるだろう。

最安11万円台!値ごろ感も出てきた「Copilot+ PC」

 今回検証に使用した「Surface Pro(第11世代)」だが、先の社会人のAさんにお見せしたところ、「すごくかわいい!」という評価。丸みのあるデザインのタブレット型であること、カラーが4色から選べる(今回使用したのは青系色の「サファイア」)ことが好印象だったそう。

 デザインと言えば、「Copilot+ PC」にはマイクロソフトの「Surface」シリーズのほかにも、PCメーカー各社が発売している製品がある。カラーや画面サイズ、キーボードの配置など、製品によって大きく異なるので、好みに合う製品を選んでいただきたい。

 CPUの「Snapdragon X」には、高性能な「Snapdragon X Elite」と、「Snapdragon X Plus」という2つの製品群がある。「Snapdragon X Plus」には安価な製品も多く、12月時点だと11万円台で購入できる安価な製品もあるようだ。「Copilot+ PC」はx86 CPUを搭載した製品も発売されており、価格の幅も、値ごろ感も増してきた。

 今後はAIを活用するアプリが増えてくるのは確実で、NPUを搭載するCopilot+ PCと、NPU非搭載のPCで差が開いてくるのは間違いないと思われる。購入しやすいモデルも出てきた、Copilot+ PCはこの年末の狙い目と言えるのではなかろうか。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/