Blender ウォッチング

「オブジェクト」って何? 3DCG制作で頻出する「インスタンス」「アセット」などの用語を解説

「トランスフォーム」「ペアレント」「アペンド」なども説明します

 本連載では、無料の高機能3Dモデリングツール「Blender」の使い方や関連情報を幅広くお伝えします。

 今回は「オブジェクトとデータ関連」の用語を取り上げてみました。特に「Blender」特有のルールや概念、語句の使用などがあるため、恐らく多くの初心者が引っかかると部分だと思われます。

「Blender」にはわかりづらい用語がたくさん

オブジェクト

 3DCGでは3D空間内の「物体」のことを差す。「Blender」では原点の「位置」「回転」「スケール」などの情報を持った「トランスフォーム行列」と、「オブジェクトデータ」と呼ばれる、追加時のオブジェクトのタイプにあったデータとの組み合わせで表現される。

 「オブジェクトデータ」は、トランスフォーム行列により「ローカル空間」から「グローバル空間」に変換され、レンダリングなど様々な処理が行われる。

オブジェクトの「トランスフォーム行列」で形状データが変換される

トランスフォーム

 3DCGにおけるトランスフォームは多くの場合、「位置」「回転」「スケール」「せん断」(斜め方向に押しつぶす変形)などの情報を持つ、「トランスフォーム行列」(4×4の変換行列)による操作を指す。「位置」「回転」「スケール」の3つのみを指すことも多い。

スケール

 3DCGでは、オブジェクトのオリジナルの大きさに対する倍率のこと。デフォルトではすべて「1.0」であり、「0.0」にするとその軸で潰れ、「負のスケール」にすると形状が反転する。なお「負のスケール」は「Blender」の多くのツールでトラブルの元となるため、避けた方が無難。

負のスケールで反転してしまった形状

ペアレント

 親子関係にある親オブジェクト、またはオブジェクト間で親子関係を構築すること。多数のオブジェクトをまとめるのに使用され、「子オブジェクト」は「親」のトランスフォームの影響を受ける。

 3Dビューポート内では「関係の線」で親子関係であることが示される。

ペアレントしたオブジェクト

インスタンス

 「Blender」ではオブジェクトの実体を持たないコピーのこと。単に複製するのとは違い、実体のデータはコピー元の1つだけなので、形状データなどは編集できない代わりに、容量を軽くできる、一定の条件ですばやく大量に配置できるなどのメリットがある。

 メッシュオブジェクト上では頂点と面にインスタンスを配置できるほか、追加メニューから他のオブジェクトのように「コレクション」のインスタンスが追加できる。

インスタンスの例。メッシュオブジェクト(球体)の頂点にインスタンスを配置している

コレクション

 「Blender」ではオブジェクトをまとめる機能およびデータ形式。中に入れたオブジェクトを、レイヤーのようにコレクション単位でまとめてON/OFFすることや、コレクション全体を1つのオブジェクトとして、または中のオブジェクトの1つをランダムに抽出してインスタンス化することも可能。

2つのコレクション利用例。左端の木がコレクションとして登録されており、隣接する2本の木がオブジェクトとしてコピーされている。右側の四角い枠内はコレクション内のオブジェクトをランダムにインスタンス化したもの

アウトライナー

 blendファイル内のデータ群の階層構造(アウトライン)を表示・編集するエディターの1つ。「Blender」のアウトライナーでは様々な「ビューモード」が利用でき、アウトライナー内での「ペアレント」や「コレクション登録」などの編集も可能。

アウトライナーのビューモード

ローカル空間

 オブジェクトのトランスフォームを基準とした空間のこと。オブジェクトを適当な方向に回転し、ヘッダーで[トランスフォーム座標系]を[ローカル]に変更後、[移動]ツールなどを使用すると一番理解しやすい。

[トランスフォーム座標系]を[ローカル]にし、[トランスフォーム]ツールに切り替えた図。軸がオブジェクトの傾きに追従している

グローバル空間

 3D空間を基準とした全体的な空間のこと。ワールド空間とも。

 [編集モード]中、[サイドバー]([N]キー)-[アイテム]タブの[トランスフォーム]にて、選択中の「頂点」などの「グローバル」空間と「ローカル」空間での表示を切り替え可能。特に[オーバーレイ]で[辺の長さ]を表示中の時は重宝する。

[ビューポートオーバーレイ]-[辺の長さ]で表示した辺の長さを、[サイドバー]で「グローバル」に切り替えて表示すると、スケールの変更が反映された長さになる

アセット

 「資産」を意味するが、3DCGやゲーム制作関連ツールでは「モデル」や「テクスチャ」のような、再利用可能なデータを指す。

 「Blender 3.1」にて[アセットブラウザー]が導入され、「Blender」でも多用されるようになった。

アセットブラウザー

アペンド

 一般的にはデータの追加を指す。「Blender」でのこの機能は、他の.blendファイル内のデータをコピーし、現在のファイルに取り込むことを指す。[ファイル]メニューや[アセットブラウザー]から利用可能。

 外部ファイル内の取り込み方法には他に「リンク」があるが、そちらはコピーせずに参照する。若干扱いが面倒で、個人での利用ではあまり恩恵はないため、初心者には「アペンド」をお勧めする。

データブロック

 「Blender」内でデータを扱うための概念。「メッシュデータブロック」や「マテリアルデータブロック」「画像データブロック」などの種類があり、同種のデータブロックは付け替えが可能。

データブロックの付け替え。木の台のマテリアルデータブロックを付け替えている

ユーザー

 「Blender」における「ユーザー」という語句には、「Blenderの利用者」以外にも「データブロックを参照(リンク)している物」という意味がある。

 後者の意味でのユーザー数は各「データブロック」のUI(上図)またはリスト中に表示されており、ユーザー数が「0」(どこからも参照されない)になると、保存時に自動削除される。これを阻止するには、「フェイクユーザー」(盾アイコン)で文字通り偽のユーザーを追加しておく必要がある。

 なお、画像データブロックの場合は内部データと外部ファイルへのパスの場合があり、後者ではデータブロックが消えても実際の画像ファイルが消えるわけではないので安心して欲しい。

ユーザー数が「0」になったデータブロック