Blender ウォッチング

メタバースは厄災! ハリウッドと決別! 爆弾発言(笑)も飛び出した「Blender Conferences」の基調講演

ARやVRなどで人をつなぐ「Blender」の未来像、アドオンの公式ライブラリなどを語る

 本連載では、無料の高機能3DCG統合環境「Blender」の使い方や関連情報を幅広くお伝えします。

【開催の風景(動画)】
RECAP - Blender Conference 2022

 今回は数年ぶりにリアル開催された「Blender Conferences」にて行われました「keynote」(基調講演)について解説したいと思います。

Blender Conferenceとは

 「Blender Conferences」とは、毎年オランダで行われる催しで、Blenderユーザーが一堂に会し、様々なパネルディスカッションやワークショップに参加します。

 特に今年は「Blender」がオープンソースになってから20周年となっており、Ton氏の久々の登場とあいまって盛り上がったようです。

 会場の様子は動画として、YouTubeのBlenderチャンネルにて配信されており、下記プレイリストにてまとめられています。

Blender Conference 2022 - YouTube

「Blender」のオリジナル作者Ton Roosendaal氏

0:00~
 基調講演を行うTon Roosendaal氏は、オリジナルの「Blender」の作者であり、現在の開発元「Blender Foundation」の最高責任者です。

 コミュニティでカリスマ的人気があり、数年前に入院して以来、しばらくイベントなどで姿を見せていなかったため、心配する声が上がっていました。

 というわけで、まずはそのTon氏の復活と近況に関する話が少しあるのですが、この辺は「Blender」コミュニティ向けなので、3分ほど飛ばしてもOKです。

メタバースやAIは災厄?

2:06~

「WW3」(第三次世界大戦)、「Energy Crisis」(エネルギー危機)、「Climate Changes」(気候の変化)、「Biodiversity Collapse」(生命の多様性の激減)の後に「Metaverse」(メタバース)、AIと続く

 Ton氏はまず1コマ漫画を掲出し、新コロナ(Covid19)から始まり、今後襲い来る災厄について説明、そしてその災厄の後ろに「メタバース」がありました!(ここで会場は大爆笑)

 現在、多くの大企業が皆に開かれたオープンな標準を策定しているらしいのですが、氏がSIGGRAPH(CG業界の祭典)にてメタバース関連事業のイベントに「Blender」が呼ばれなかった体験を話し、結局は民衆の利益にはならず、大企業グループが内輪で儲けて終わり、そんな企業を誰も信頼せずついてこないのでは? と問いかけます。

 ちなみにMeta社は「Blender」の開発ファンドをスポンサー企業中の1社です。いいのか。

 さらにその後ろには「AI」があり、氏は「アーティストのために働くツールであることを保証する必要がある」と語りました。

ARやVRなど人をつないでコラボレーションする「Blender Lab」

6:38~

Seize the Future(未来を掴め)

 そこで、3Dに関するクリエイティブな人が集まるコミュニティを持つ「非営利団体」のBlender Foundationがその役割を果たすべきではないだろうか、という発想から、「Blender Lab」が発案されました。

 これは5年程度のスパンで、ARやVRなどのネットワークで人をつなぎ、オンライン共有やコラボレーションが行える、未来の「Blender」に取り組む予定だそうです。

スローガンは「The Freedom to Create」

8:53~

3つの自由

 このスローガンは氏が退院した時、街がロックダウン中でどこにも行けず、考える時間がたっぷりあった時に生まれたそうです。

  • 「Freedom to deploy production software」(制作ソフトウェアデプロイの自由):オープンソースの原則であり、ソースコードへのアクセスと改変、新バージョンの作成と共有の自由のことです。
  • 「Freedom to apply creative resources」(クリエイティブリソース適用の自由):ライブラリやデータ、知識などの「リソース」へのアクセスの自由を指します。
  • 「Freedom to participate in the market」(マーケット参加の自由):マーケットへのアクセスの自由。動画やゲームの販売ができるマーケットに取り組む予定とのこと。

「Blender」を利用したミニアプリを作成できる「Blender App」

10:19~

モデルにドラッグ&ドロップでマテリアルを適用するアプリ例

 「Blender App」とは、blendファイルと設定ファイルにより、「Blender」を利用した単体アプリが作成できる機能で、例えば、3Dプリンタのデータビューアーや、建築物ビジュアライゼーションのクライアント向けアプリといった用途があるとか。

 昔からの「Blender」ユーザーの方々は、約20年前にあった「Game Blender」を思い出すかもしれません。この企画自体も「Blender 2.5」の頃からあった物だそうです。

 詳しくは公式のブログ記事(英文)をお読みください。

Blender Studioの役割の再考

11:59~

現在 Eeveeレンダーで制作中の「Project Heist」

 Blender Studioとは、様々な「オープンムービー」の制作や、制作に使用したアセットやチュートリアルなどの配布(サブスクリプション)を行っています。

 従来は「Blender」は業界への浸透を目標としてきましたが、その役目も果たされ、さらに昨年の「Blender」でNetflix用のアニメーションを制作していたスタジオ「Tangent Animation」の倒産や、最近の巨大産業ではアーティストたちを使い捨てるパイプラインを採用する傾向にあること、「Blender」自体もそんなパイプラインに適合するよう要請されたことなどについて、これらのパイプラインは過去の物だと否定、今後は個人やもっと少人数へのサポートへと方向転換するそうです。

ハリウッドへのメッセージ

15:33~
 また、上記の理由からか、Ton氏はハリウッドへの愛を伝えつつも、「もうハリウッドに私たちは必要ありません。後はアドビやオートデスクが面倒みてくれるでしょう」と、ハリウッドとの決別宣言とも思える発言をしています。

 実は支援企業にアドビがあるため、そちらとの競合を回避する目的の発言である可能性もあります。なお、ハリウッドとの制作の仕事は継続するとのこと。

公式のアドオンライブラリ「Extension Platform」

17:14~

商用アドオンも素晴らしいが……

 Ton氏によると、現在、アドオンは「Blender Market」などで広く流通しているものの、最近は「Blenderにない機能があるならアドオンを買え」という風潮になっているのを好ましく思っておらず、もちろんいい商用アドオン作者もいることや、販売の自由の尊重も認めつつも、「Blender」プロジェクトとして「Firefox」の「Firefox Add-ons」のような公式のプラットフォームを持つことを決めたそうです。

 ここでは登録時にレビューされた高品質なアドオンが「GPL」かつ「フリー」で公開されるとのこと。「Blender Market」などと連携して衝突を避け、バランスを取りたいとしています。

 詳しくは公式のブログ記事(英文)をお読みください。

【Keynote - Blender Conference 2022 - YouTube】

終わりに

 本記事では文字数の都合もあり、Ton氏の健康状態以外にもその他色々割愛しています。もう少し詳しくて長い物を、Blender.jpにて公開していますので、よろしければそちらでご覧ください。少し前に上げた物ですが、新たに加筆訂正しています。

 最後になりますが、筆者はVR機器の普及に一役買ったMeta社を応援しています。いやマジで。