Blender ウォッチング

「Blender 3.5」の新機能! スカルプトで簡単に形状を加えられるVDMブラシを解説

 本連載では、無料の高機能3Dモデリングツール「Blender」の使い方や関連情報を幅広くお伝えします。

目とウロコは後述のデモファイルのブラシを利用

 3月29日(GMT)、「Blender 3.5」が公式リリースされました。

 今回はスカルプト機能に追加された、一部の方には待望の「ベクトルディスプレイスメント」ブラシをご紹介したいと思います。

ベクトルディスプレイスメントブラシとは

 ベクトルディスプレイスメント(以下VDM)とは、画像のRGBをディスプレイスメント(変位)ベクトルとして利用する物で、簡単に言えばスカルプトモードのブラシに立体的なパーツが利用できるようになります。

 ノーマルマップと似ていますが、表現できる値の範囲が広い「HDR画像」の「OpenEXR」ファイルの利用により、尖った立体物も使用できます。

作成したブラシと、別オブジェクトへのブラシでスカルプト。スカルプトする表面は滑らかな方がいいため、図のような凹凸のある地面に生やすのはお勧めできない

公式デモファイルを試してみよう

 まずは手っ取りばやく試してみましょう。

 公式サイトからダウンロードできるデモ(Daniel Bystedt氏作)には、サンプルブラシとそのデモファイルだけでなく、自分でVDMブラシを作成可能なアドオンも入っています。

 まずはこのデモでどんな物か体験してみましょう。

デモファイルのページ。囲みをクリックしてダウンロード

VDMブラシでスカルプト

 「vdm_brush_demo.zip」をダウンロード・展開すると、2つのフォルダーが入っています。「vdm_using_brushes」から「VDM_sculpting_demo.blend」を「Blender 3.5」で開きます。

「vdm_brush_demo.zip」を展開後、「vdm_using_brushes」から「VDM_sculpting_demo.blend」を「Blender 3.5」で開いたところ

 このデモ用のVDMブラシの大半には、ドラッグ開始位置とドラッグ中の位置により、方向と大きさが変化する「アンカー」ストロークが設定されています(この設定については後述します)。3Dビューポート中央に表示されている顔のモデル上で左ドラッグしてみてください。

最初に左ドラッグした位置とドラッグ中の位置により、パーツの方向と大きさが変化

ブラシの設定の変更

 デフォルトでは「耳」のブラシが設定されています。3Dビューポート右の「サイドバー」に表示されているブラシのアイコン(下図)をクリックすると、このファイル内に設定されているブラシが表示されます。

 「鼻」のブラシなど、中央に配置する物は、3Dビューポート右上の「対称」設定を切るといいでしょう。

サイドバーの[ブラシ]内のサムネイルをクリックするとブラシを変更可能。鼻などを使用する場合は右上の「対称」設定を切ろう

 上記のアンカーの挙動ではなく、方向を変更せず、ブラシサイズでのみコントロールしたい場合は、[サイドバー]内の[ブラシ設定]-[ストローク]-[ストローク方法]の[アンカー]を[ドラッグドット]に変えてみてください。

[サイドバー]内の[ブラシ設定]-[ストローク]-[ストローク方法]を[ドラッグドット]にすると、方向はオリジナルのまま、ブラスサイズで大きさが決まるように

 同様に[スペース]にすると、通常のブラシのようにスカルプトできます。デフォルトでは不自然なので、[間隔]を上げるといい感じに間隔が空いてスカルプトされます。

 これらの設定はデフォルトでは「ブラシ毎」に設定されます。

ウロコなどのブラシでは[スペース]に設定し[間隔]を上げるといい感じに

自作ブラシの作成

アドオンのインストールと有効化

 前述どおり、アドオンをインストールすれば、VDMブラシを作成できます。プリファレンスの[アドオン]タブの[インストール...]ボタンからzipファイルを展開したフォルダーにある「vdm_creating_brushes」フォルダーの「add-on_VDMBrushBaker.zip」を指定してインストール後、有効化します。

プリファレンスの[アドオン]タブ(①)の[インストール...]ボタン(②)から、「vdm_creating_brushes」フォルダー内の「add-on_VDMBrushBaker.zip」を指定してインストール後、有効化(③)

 アドオンのインターフェイスには[サイドバー]からアクセスできます。

  1. 3Dビューポートで[N]キーを押すなどしてサイドバーを開き、[ツール]タブの[VDM Brush Baker]パネルを開きます。
  2. [+ Create Sculpting Plane]ボタンをクリックすると、「グリッド」が作成され、自動的にスカルプトモードに入ります。ここにブラシ形状をスカルプトします。
3Dビューポートで[N]キーを押すなどしてサイドバーを開き、[ツール]タブ(①)の[VDM Brush Baker]パネルの[+ Create Sculpting Plane]ボタン(②)でグリッドを作成
  1. ブラシ形状ができたら一度ファイルを適切な場所に保存します。
  2. [Render and Create VDM Brush]ボタンをクリックすると、保存した「.blendファイル」と同じフォルダー内の「output_vdm」フォルダーに「(名前に設定した文字列).exr」という名前でファイルが保存されます。
スカルプトしたらファイルを保存(①)した後、[名前](②)などを設定し、[Render and Create VDM Brush]ボタン(③)をクリックすれば、VDM用「OpenEXRファイル」が作成・保存される

 早速作成したブラシを使用してみましょう。アドオンが今作成したブラシを、[ドロー]ツールへ自動的に追加・設定してくれます。ツールバーで切り替えて使用してみてください。[強さ]が[1.0]以外では形状が縦に潰れたようになりますのでご注意を。

 ちなみにブラシのアイコンが灰色一色になっていますが、これはサムネイルがないためです。

[ドロー]ツールに切り替えると、今作成したブラシが自動的に設定されている

VDMブラシの使用

 最後に、実際に他のファイルで使用できるようにしてみましょう。

 作成されたOpenEXRテクスチャファイルは外部に保存されていますので、このファイルに同梱(パック)して保存してしまいます。

 これはテクスチャファイルや利用したファイルを別の場所に動かしたときに、パスが変わってリンクが切れるのを防ぐためなので、移動する予定がない場合は省略してもかまいません。

  1. [プロパティエディター]を[テクスチャ]タブに切り替えます。
  2. 恐らくこのブラシのテクスチャデータが表示されているはずですので、[画像]-[設定]パネル内のファイルパスの左側(下図参照)の「箱」アイコンをクリックします。
  3. ファイルを別名保存します。
[プロパティエディター]を[テクスチャ]タブ(①)に切り替え、[画像]-[設定]パネル内のファイルパスの左側(下図参照)の「箱」アイコン(②)をクリックし、ファイルを別名保存(③)

 残念ながら、現時点ではブラシデータはアセットシステムに未対応なので、「アペンド」機能([ファイル]メニュー内)から使用します。

 アペンドで上記のファイルを選択後、ファイルブラウザーから「Brush」フォルダー内の作成したブラシを指定して読み込みます。

[ファイル]メニューの[アペンド...]を実行後、ファイルブラウザー内で上記のファイル→[Brush]フォルダーとたどり、作成したブラシを指定して読み込む

終わりに

 今回はv3.5で追加されたベクトルディスプレイスメントブラシの使用方法について解説しました。デモのような人やクリーチャーのみならず、植物や廃墟などアイデア次第では色々な物に応用できそうです。

 Blender 3.5には他にも「リアルタイムコンポジター」をはじめ、新機能や変更が多数あります。公式リリースノート(英文)や、Wiki版リリースノートの翻訳をチェックしてみてください。

 ではまた。