でんこと旅するメタバースの世界
“耕うん機のHonda”が「Roblox」でワールドを作ったら150カ国・50万人以上が体験! 制作の秘訣を聞いてみた
若者とつながる新しい挑戦! でも企業プロモになぜメタバース?
2024年7月11日 11:00
こんにちは、咲文でんこです。
本田技研工業の事業ブランドのひとつであるHondaパワープロダクツが、2023年から「Roblox」を利用したグローバルキャンペーンを実施。公開したオリジナルワールドを150カ国・50万人以上のユーザーが体験したとして大きな注目を集めています。
「Roblox」は単なるオンラインゲーミングプラットフォームではなく、ユーザー同士がオンライン上の空間でコミュニケーションを取り、共に創作を楽しめるメタバース的な要素も強いプラットフォームです。
昨今では、企業が自社のマーケティング活動にメタバースを使うことは珍しくはありません。本連載でも取り上げてきましたが、例えば、VRChatでは日産自動車が独自制作のワールドを公開していますし、clusterでは近鉄不動産がワールドを公開しています。さらにバーチャルキャストでも「MIKU LAND」という初音ミク公式VRテーマパークの事例もあります。
クルマやバイクのイメージが強いHondaですが、今回キャンペーンを主催したHondaパワープロダクツは、耕うん機や除雪機、芝刈り機といった生活密着型製品を展開しているブランド。
そんなHondaパワープロダクツが「Roblox」上に公開したのが「Tiny Hero」というオリジナルワールドになります。「Tiny Hero」では、プレイヤーが小人となって平屋の家の中を駆け回り、エネルギーを集めて住人の困りごとを解決するという独特の体験が用意されています。
そこで気になったのは、なぜ数あるプラットフォームの中から「Roblox」を選んだのか、という点です。さらに、メタバース上で企業のプロモーションキャンペーンを実施した成果はあったのか、メタバースを利用する際にはどのような点を気をつければよいのか。そんな疑問を直接、ワールド制作者の方にインタビューしてみることにしました。
今回のインタビューでは、キャンペーンのクリエイティブディレクターを務めた株式会社CHERRYの贄田翔太郎氏に、「Tiny Hero」ワールドの企画意図や制作過程、メタバース上でのプロモーション効果について詳しくお話しを伺いました。そこからは、若年層とのコミュニケーション強化を目指したHondaパワープロダクツの挑戦、企業のメタバース活用の可能性と課題が見えてきました。
2010年ADK入社。マーケターとしてコミュニケーション戦略立案に従事した後、デジタルを活用したキャンペーンを多数制作。その経験を統合し、課題の発掘から解決に向けたコンセプト策定、企画制作とPRまでを一貫して担当する。ブランドと人の関係を定義し、絆を強めるプランニングが信条。地方への移住促進から企業の人材確保、新人アーティストのデビューPRまで幅広いミッションに対応する。2018年にCHERRYを設立し、近年では「Pokemon Presents 2024」で発表されたポケモンシリーズ最新作「Pokemon LEGENDS Z-A」Announcement Trailerの企画制作を担当。
150カ国・50万人以上のユーザーが体験したワールド制作の秘訣とは? 制作者に直接聞いてみました
特に若い人とどう関わるかがブランドの大きな課題
――本日はよろしくお願いします。まずは、なぜ「Roblox」をキャンペーンに利用することにしたのか、その理由を教えてください。
贄田翔太郎氏(以下、贄田氏):「Hondaパワープロダクツ」というのは、Hondaの中では少し変わったブランドです。Hondaといえば、クルマやバイク、もしくはジェット機、少し前ですが「ASIMO」を思い浮かべる人が多いかもしれません。ですが、Hondaパワープロダクツというのは、そのどれとも異なる事業を展開しています。
Hondaパワープロダクツは、除雪機や芝刈り機など、生活に密着した製品に、自社のエンジンやパワーユニットを活かして提供しています。芝刈り機や除雪機などを例に挙げましたが、ほかにも、汎用エンジンや発電機を提供していて、東南アジアの屋台で、Hondaパワープロダクツの発電機が使われていることがあります。実際にはユーザーはその恩恵を受けていますが、それがほとんど見えません。生活者に見えない部分や、除雪機や芝刈り機などの限定的なニーズを持つ生活者以外には、接点が作りにくい特徴があるのです。
特に若い人とどう関わるかがブランドの大きな課題で、それを解決するためのコミュニケーションを考えて欲しいということで、昨年2023年から取り組みを開始しました。
若い人や、これまでHondaパワープロダクツが持っていなかったタッチポイントを考えたとき、どのようなキャンペーンが有効か検討し、デジタルインタラクティブを重視したいと考えたところ、「Roblox」のようなバーチャルな接点に進出するのは初めての試みであり、現在の課題を解決するための非常によいアプローチだと考え、「Roblox」でコンテンツを作ることを提案し、事業担当者と共に取り組みました。
グローバルに展開できること、モノづくりの敷居が低いことが「Roblox」を選んだポイント
――最初にHondaパワープロダクツに提案されたときから「Roblox」を利用する想定だったのでしょうか。
贄田氏:最初は「Roblox」に限定せず、メタバースやバーチャルプラットフォームを利用する提案を行いました。プラットフォームの選択は後回しでしたが、さまざまなプラットフォームの状況や他ブランドの活用方法をリサーチした結果、「Roblox」を推薦しました。Hondaパワープロダクツ側もこれに同意し、「Roblox」で実施することが決定しました。
――リサーチの結果、最終的に「Roblox」を選んだ理由を教えてください。
贄田氏:1つ目は、グローバルなコミュニケーションを取りたいという我々の要望に対して、「Roblox」が展開している国が非常に多いことが挙げられます。日本以上に海外で使われているサービスでもありますし、昨年の段階で、イギリスやアメリカのティーンエイジャーの3人に1人が使っているというデータもありました。
現在の具体的な数値は把握していませんが、かなりの割合の方たちが使っています。日本ではまだゲームのプラットフォームだと思われがちですが、実際はコミュニケーションプラットフォームとなっており、ワールド内でチャットなどが盛んに行われています。VRChatなども同様ですが、若い人たちと非常に自然にコミュニケーションが取れる場所だと考えました。そこが「Roblox」を採用したポイントの1つです。
2つ目は「Roblox」自体の開発思想が商業的な匂いを排除しているということです。元々、教育用のツールとして開発されているという経緯があり、プログラミングやゲーム制作、モデリングなど、モノづくりができる場所として開発されたという経緯があります。実際に「Roblox Studio」というソフトウェアは無料で提供されていて、「Roblox」上での制作開発を非常に敷居低く体験できます。何かを作ることに対して、非常にポジティブな姿勢を持てるプラットフォームなのです。
Hondaも物作りのブランドですし、「Roblox」ではゲームというアウトプットの体系を作り出し、誰かが作ったゲームを別のユーザーが楽しむという、他者のために作り上げる世界観ができあがっています。誰かのために何かを作り出し、誰かの力になろうとする、Hondaパワープロダクツの理念と非常に近しいものがあり、そういった点でもブランドとの親和性が高いと考えました。
「Minecraft」なども近いところがあります。ただ、Minecraftは非常に普及しているサービスですが、やや普及のピークを迎えつつあるように感じています。一方、「Roblox」はアップトレンドにありました。世界でも日本国内でも、ユーザー数やアクティブ率など複数の指標を見ると、数値が着実に上昇しているというアップトレンドだったので、ブランドとしてもいち早くチャレンジしていくのがよいのではないかと考えました。
VRChatはロケーションとして作品を作るという方向性
――例えば、日産自動車などはVRChatを使ってユーザーとコミュニケーションをとっています。そういった意味では、VRChatなどもリサーチの対象にはなっていたと思うのですが、その中で「Roblox」を選んだ理由について教えてください。
贄田氏:ユーザーが自分でものを作りやすいという点が非常に大きいです。「Roblox」はローポリの世界であるため、何かを作る際の敷居が低いです。私もVRChatでMVを作ったことがあるのですが、VRChatはどちらかというと、よりメタ的で、現実世界にあるような都市が再現されており、そこを一緒に回って楽しんだり、観光したり、一緒に寝たりするなど、そういった楽しみ方をする文化だと思っています。したがって、VRChatはロケーションとして作品を作るという方向性に非常に適していると思います。一方、「Roblox」の場合は、よりモノづくりにフォーカスしている面が強いと考えており、その点でHondaパワープロダクツとの相性が非常によいと考えました。
「Roblox」は、企業が自分たちのテーマパークを作るのに非常に適したプラットフォームだと考えています。例えば、SpotifyはSpotifyアイランドを作っていたり、VANSはVANSワールドを、ナイキはさらに大規模なものを作っていたりします。ほかにもH&Mなど、海外ではアパレルブランドを中心に、自分たちの世界観を表現した一つのテーマパークのような世界を作り上げ、そこを訪れた人が体験できるコンテンツや、Roblox内で購入できるアイテムを提供しています。
――どうして「Roblox」は企業のテーマパークを作るのに向いているのでしょうか。
贄田氏:まず、企業がワールドを作ること自体にお金がかからないという点が挙げられます。いわゆるタイアップのような概念がなく、企業も一般ユーザーと同じように作ることができます。そのため、純粋に制作や開発にかかる人件費とリソースが確保できれば作ることができ、挑戦のハードルが低いという特徴があります。
また、開発の自由度が高いことも特徴の一つです。最もハードルが低い方法は「Roblox Studio」という「Roblox」のゲーム制作用ツールを使用して、全ての作業を完結させることです。ですが、より精緻なモデルが作成可能な別のソフトウェアでモデルデータを作成し、それを「Roblox」に読み込むこともできます。そのため、ワールドによっては、非常に高いクオリティのモデルデータを用いて作られているものもあります。非常に美しいワールドを作ろうと考えた場合は、そういった手法が適しており、一方でスピード優先で作ろうと考えた場合は「Roblox Studio」だけで完結させることもできます。プログラムさえ記述できれば、自由に設定でき、ワールドの広さも自由に決められるため、やりたいことを自由に実装しやすいという点も「Roblox」の特徴だと考えます。
ユーザーは入ってすぐに“このワールドが自分に合っているのか”を判断する
――それでは、Hondaパワープロダクツが具体的に「Roblox」でどのような取り組みをしてきたか教えてください。
贄田氏:今年でHondaパワープロダクツの取り組みは2年目ですが、昨年のワールドは十分に活用しきれていない部分がありました。
昨年のワールドでは、ゲーム体験としてこちらから作り上げたものを提供していました。例えば、水ポンプは水を撒くという通常の使い方もできますが、途中からジャンプ力が大幅に上がり、それを背中に背負ってジャンプして移動できるといったような、いわゆるチート機能を実装して、現実でそのプロダクトが持つ性能を拡張するような体験を提供していました。
また、製品一つ一つをモデルデータとコードのセットにした「モジュール」という単位で配布しました。配布されたモジュールは「Roblox Studio」内で、他のユーザーが自由に転用できるという文化があり、そのようなマーケットのような場所に公開したのです。昨年は、ユーザーにそれらを使ってもらい、自由に機能を変更したり、自分たちのワールドに取り入れたり、新しいゲームワールドを作ったりしてもらうキャンペーンを実施しました。
その中で、私たちには全く思いつかないような発想で、制限時間内に除雪機を使って文字を描くゲームを作ったユーザーがいたり、プロダクトを空中に浮かべ、それをジャンプしながら進んでいくゲームを作ってくれた人もいました。そういった作品を「作ったよ」と教えてくれたら、こちら側のワールドからワープゲートで飛べるようにする、ということを昨年は行いました。したがって、昨年は「Roblox」で何かを作る人に向けて、材料やアイデアを提供することを重視し、一緒に作り上げていくという意味で“Rewired”という言葉を使っていました。
――そして、今年のワールド「Tiny Hero」に繋がっていくんですね。
贄田氏:その通りです。「Roblox」には非常に多くのゲームが存在します。その中で自分たちのワールドに気づいてもらい、選んでもらうのは非常に難しいことだとわかりました。多くの選択肢があるからこそ、ユーザーは入ってすぐに“このワールドが自分に合っているのか”を判断するんです。そのことは、実際に作ってみたからこそわかりました。
昨年作ったワールドは、入口がロビーのようになっていて、そこから電車に乗って移動するとメインのワールドにたどり着くという構造で、ゲームを遊んでもらうための手順が1つ増えていました。これは、ロビーを作ることで、ユーザーが作成したワールドにもテレポートできるようにする、という目的で作っていたのですが、移動してメインのワールドに行くことすら面倒に感じる人が多くいるということがわかりました。そのため、多くの人に楽しんでいただいていましたが、メインのワールドにたどり着く前に離脱してしまった人も少なくないということがアクセス分析などからわかりました。
今年はその教訓を活かし、最初からメインの体験を楽しんでもらえるようにしました。また、Robloxでワールドを作るとすると、どうしても大規模な世界を作りがちです。そうすると、壮大にどんどん大きくなっていき、作り込むのが大変になっていきます。ただ前回の経験から、日本人が「Roblox」のワールドを作る際の利点は、むしろ箱庭的な作り方だと思っていました。限定的なシチュエーションや空間にして、その中をできる限り作り込み、ユーザビリティを追求していくやり方の方がよいのではないかという仮説を昨年の終わりに持ち、今年試したのが「Tiny Hero」というワールドです。
今年は、昨年取り組めなかった部分に注力しました。昨年の我々のワールドは、あくまでもモジュールの使い方のデモンストレーションの一つという位置づけで、ゲーム性があまり高くなかったため、見て楽しむという面では物足りなかったり、人が集まるようなワールドになっていなかったのです。
今回のワールドの舞台は平屋の1階しかないという家の中で、小人が駆け回りながら、エネルギーを集めて行動していくというワールドです。一見スケールは小さいのですが、作り込み要素がたくさん持てるような企画で進めました。
ある種のチート的な行為もゲーム自体の認知を広めてくれるきっかけになった
――今回のキャンペーンでこだわった点について教えてください。
贄田氏:昨年の秋に開催された「JAPAN MOBILITY SHOW」(ジャパンモビリティショー、自動車の見本市)でキャンペーンを実施させていただいたのですが、その際に、誰かの助けになるようなアイデアを落書きで書いてもらうようなキャンペーンを行っていました。そこで出てきたユーザーからのアイデアをいくつか選び出し、今回のワールドに実装しました。それらを上手く繋げて1つのストーリーにしていきたかったのです。
そのため、今年は「Roblox」を1つの到達点にして、先にみんなからアイデアを集め、それを上手くゲームの中で具現化していくことを目指しました。それに合わせて「Roblox」内でオリジナルのコスチュームがもらえるキャンペーンを実施しました。モード学園の学生さんとコラボレーションさせていただいたりしてキャンペーンを行ったのです。
最初からそれをベースにしていたので、1つの家の中という空間を使って、家族の困りごとのようなものをどう解決していくか。そのためにHondaパワープロダクツのモビリティやプロダクトを活かして、それらを動かせるようにしていくという流れでした。ちょうど、くるみ割り人形やトイ・ストーリーのような世界観の掛け合わせをコンセプトとしました。
――私も実際にプレイしたのですが、難易度が少し高めのように感じましたが、ここにも狙いがありますか。
贄田氏:難易度設定は、何度もプレイしてもらうことを前提に設定しています。例えば、子供の方がゲーム自体に習熟している傾向があります。また「Roblox」の設計には特徴があり、例えば段差の判定が甘いんです。「こんなところは駆け上がれないだろう」と思えるような場所でも駆け上がれたりするので、子供たちやコアなユーザーが「Roblox」に慣れている分、そういった判定の甘さも考慮に入れ、アスレチック的な難易度の高いコンテンツを作りました。そして、そのコンテンツに何度も挑戦してもらい、クリアするとコスチュームがもらえるといった仕組みで、何度もチャレンジしてもらい、楽しめる作りにしました。
また、意図していた部分と予想外の部分がありましたが、ある種のチート的な行為もありましたね。実際にプレイしてくれている人たちの中に、私たちが配布しているアイテムの一部やコードを自分たちのSNSにアップして、「こんな抜け道がありますよ」といったことをしてくれる人もいたんです。それを見た他の人が「そんなことができるんだ」と試してくれて、結果的にゲーム自体の認知を広めてくれるきっかけになったことは面白いポイントで、少し予想外の広がり方もしてくれたというのも事実ですね。
楽しみながら体験してもらうことで、自然にメッセージが伝わっていく
――「Roblox」において企業が作ったコミュニケーションということを考えると、楽しさはとても重要ですよね。
贄田氏:その通りです。それこそが最も重要な部分だと考えています。押し付けがましい形で「これを体験してください」と言うのではなく、楽しみながら体験してもらうことで、自然にメッセージが伝わっていくことが、最もよい形だと考えています。今回の場合は、誰かの役に立つためにエネルギーを集めるといったテーマ性を持たせながらも、自然とやりたくなるような状況を作っていくことが大切だと思います。
――反響や成果はいかがでしたか?
贄田氏:例えば、「Roblox」には「いいね」の数に相当する「グッド」と「バッド」という概念があり、そこから高評価率のようなものも算出できます。また。国別のアクセス数を確認できるのですが、驚いたのは、1カ月で155カ国の人がアクセスし、実際にプレイしてくれていたことです。グッド率も、最初の1週間は90%以上だったのですが、その後少し落ち着いて、それでも85%程度を維持しました。企業が作ったワールドの評価がそれほど高いのは珍しいですし、現時点でのプレイ数が約51万回に達しています。それは、キャンペーンのWebサイトのページビューが51万回というのとは意味合いが異なると考えています。
普段接点のない人たちとつながりを作れたことは大きな成果
――意味合いが異なるということを具体的に教えてください。
贄田氏:プレイしてくれている方が155カ国から51万人もいて、さらに1人あたりの平均プレイ時間が14.2分程度なんです。つまり、すぐに離脱してしまう人が比較的少ないということです。そのため、私たちが意図した体験を、かなりの割合の人にプレイしていただけていると考えており、それは非常にポジティブな結果でした。Hondaパワープロダクツにとっても、今回、企業メッセージをグローバルに伝えることが目的でしたので、結果として155カ国に届いたことで、その目標を達成できたと言えます。
「Roblox」はコンソールゲームと比較すると、スマートフォンでもアクセスでき、無料でプレイできるという点で、より多くの人に広がる可能性がありますよね。全体の割合としてはアメリカやブラジルなどの方が多いですが、アジアや東南アジアなどからのアクセスも非常に多かったです。実際、「Roblox」自体がそういった地域で特に成長しているようで、今回の取り組みでは、そうした途上国を中心に大きく接点を増やすことができました。また、年代も幅広く、10歳未満の子供たちが約3割、18歳以上も約3割を占め、残りがティーン層でした。ティーン層がメインではありますが、実は30代、40代の方々も多くプレイしてくださっていました。想像以上に幅広い年代の方々にプレイしていただけたのは、とてもよかったと思います。
また、女性の割合は約7割にも上りました。我々もまだ詳細な分析はできていないのですが、箱庭的な世界観や、小人が活躍するという設定、この光景がよかったのかもしれません。比較的男性ユーザーが多いブランドにとって、女性にアプローチできたこと、普段接点のない人たちとつながりを作れたことは大きな成果だと言えるでしょう。そういった点でも、「Roblox」で展開できたことは私たちにとってよかったと感じていますし、クライアントの方々にも評価していただいているポイントです。
企業と生活者が一緒にアイディアを具体化していく、これはメタバースの利点
――ほかの企業などで「Roblox」で成功した事例はありますか?
贄田氏:コンテンツのサプライヤー自体は増加しています。アニメ「ドラえもん」や「風雲たけし城」のような、元々他のメディアで展開されていたコンテンツの「Roblox」版が大幅に増えました。それは非常によいことだと思うのですが、企業とのコミュニケーションという観点では、それほど増加していないのではないかと考えています。
「DEVLOX」という公式のコミュニティがあり、さまざまな事例が共有されているのですが、日本の企業でそのような取り組みを行っている例はまだ少ないというのが正直な感想です。日本の企業からも「Roblox」で展開をしたいという相談をよく受けるのですが、通常のWeb制作よりも低い予算感で相談されることが多く、その場合は予算的に厳しいというのが正直なところです。
――普通のWebサイトの予算でキャンペーンのWebサイトを作るのと、予算をかけて「Roblox」のワールドを作ってキャンペーンを実施するというのは大きな違いがあるということでしょうか。
贄田氏:全く違いますね。恐らく、実際にやっていることは180度くらい異なっていると思います。今年も昨年と同様に、ある種ありえないものを動かすというか、例えば、除雪機がジャンプしてしまうようなことをテーマの中心に据えています。現実では不可能なものを動かすことをテーマの中心に据えているので、普通のWebサイトのように綺麗にできていたり、情報がしっかり整理されていて読みやすいといったものとは全く異なります。
昨年はWebサイトの考え方を「Roblox」に持ち込むというチャレンジでした。さまざまな意味で成功もありましたし、改善点も見えてきましたが、それを活かして今年は、もっと「Roblox」らしくありえない体験を提供できるようにしようというのがポイントですね。
――3年目の展開について、どのような形を考えていますか?
贄田氏:今年の取り組みである「Tiny Hero」は、Hondaが実施している「子どもアイディアコンテスト」と連携しています。このコンテストは、夏休みの宿題のように、こんなものがあったらいいなというアイディアを子供たちにプレゼンしてもらうという活動なのですが、そのアイディアを「Roblox」内で実装し、実際に体験してもらうということを行っています。
そのコンテスト自体も好評なので、今後もそのような形で、企業としてアイディアを形にしていく取り組みが重ねられたら、そのパートナーとして伴走できたら最高ですね。その中で、バーチャルな世界で具現化する手段として、「Roblox」を使うことが一つの方法だと考えています。それが未来への投資だと思いますし、その中の1つでもリアルなプロダクトにできれば面白いと考えています。そのような機会を今後も作っていきたいですね。
「Roblox」を使ったプロトタイピングの一つとして、企業と生活者が一緒にアイディアを具体化していくということですね。これがメタバースやプラットフォームの利点だと思います。Honda以外の企業の皆さんにも、ぜひこのような形で活用していただければと思っています。
――ありがとうございました。
メタバースならではの特徴・強みを活かし、ユーザーに寄り添うこと
企業がメタバースを使ってメッセージを伝える、消費者とコミュニケーションをとる、という手法はこれからも増えていくことでしょう。そういったときに一言で「メタバースを使ってアプローチすれば話題になるだろう、ユーザーにメッセージが伝わるだろう」という考えでは、有効活用できないのだということを強く感じました。
今回お話しを伺ったHondaパワープロダクツのキャンペーンは、グローバルのプレイヤーが多く、モノづくりの敷居が低い「Roblox」というプラットフォームの特性を活かしたマーケティング活動でした。その結果、グローバルも含めて多くのユーザーに伝えたかったメッセージを届けられたのだと思います。
メタバースならではの特徴を活かし、さらにプラットフォームごとの強みを活かし、ユーザーに寄り添った活動を行う必要がある。そうすることで、キャンペーンの効果を最大限に引き出すことができるのでしょう。
著者プロフィール:咲文でんこ(さきふみでんこ)
ライター/VTuber。得意分野はビデオゲーム全般だが、メタバースやAI関連の記事も積極的に執筆中。ライター業以外にもVTuberとしての活動や、メタバース内ではラジオパーソナリティや、DJとしての顔もあり、肩書きが混雑してきたのが最近の悩み。
・著者Webサイト:https://note.com/denpa_is_crazy/