石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
「マインクラフト」の大型アップデートが年1回ではなくなる! その狙いは?
映画を発表するも賛否両論。世界一売れたゲームならではの苦悩が見える
2024年9月13日 11:53
ひっそりと、しかし大きく変わる開発方針
ここ数日、サンドボックスゲーム「マインクラフト」の話題がちらほらと上がっている。ただし、ゲームそのものの話ではない。
1つは2025年公開予定の映画「マインクラフト/ザ・ムービー」だ。公開されたトレーラーの映像では、人間がそのままゲームの世界に入り込んだような内容で、見た人からは賛否両論を起こしている。
筆者が見る限りでは批判的な声も多いように感じるが、これまでの公式イベントや動画のノリから考えれば、概ね正常運転な内容だと思う。公式動画の中でも筆者が大好きな“ナレーター”が活躍する「マインクラフトの秘密」シリーズを見れば、わかっていただけるはずだ。なお内容は大人向けである(子供には理解できないという意味で)。
という話は前置きで、今日の本題は9月10日に発表された「マインクラフトの今後の展開」についてだ。それほど長くはない内容で、ゲームに関する新情報がもないため、あまり注目されていないように感じる。しかし「マインクラフト」というゲームを今後も楽しむ上で、とても重要な内容となっている。
1年1回の大型アップデートをやめ、小分けして定期的に実装する形へ
発表内容で注目して欲しいのは、「開発のリズムを変更する」という部分。これまでは1年に1回のペースで大型アップデートを実施してきた。直近のものは2024年6月に実装されたv1.21「Tricky Trials(トリッキートライアル)」。その前は2023年6月のv1.20「Trails & Tales(旅路と物語)」だ。
しかし今後はそのやり方が変更される。1年に1回まとめてアップデートするのではなく、1年のうちに複数のアップデートを定期的にリリースするという。「より頻繁に新しいコンテンツを楽しみたいという声に応えるため」というのが理由だ。
定期的、というのがどのくらいのペースなのかは書かれていないが、2023年12月には飾り壷に収納機能を持たせる等のアップデートがあり、さらに2024年4月にはアルマジロなどが追加されるアップデートも行われている。既に開発のやり方は変わってきている、と言いたいようだ。
合わせて、1年に1回行われていた、本作の関連情報を伝えるライブイベント「Minecraft Live」も、放送時間を短縮しつつ年2回に増える。恒例となっていた、本作に実装して欲しいモブの投票も廃止するという(最後は昨年のアルマジロということになる)。「Minecraft Live」では本作の派生タイトルの情報も出されており、さまざまな情報が以前より高頻度で発表されることになるだろう。
世界一売れたゲームならではの手法とかじ取りの難しさ
この開発方針の転換にどんな理由や狙いがあるのか詳しくは語られていない。ただ本作を取り巻く環境を考えると、何となく想像がつく部分もある。
本作は発売から16年目を迎える、超長寿タイトルである。その間、システムのベースを共通化するBedrock版に更新するなどしたが、基本的にソフトは売り切りの形だ。アップデートは無料で提供されているので、一度購入すれば追加投資なしでずっと遊べる(別のプラットフォームでプレイしたい場合などを除けば)。
そして本作はこれまでに3億本以上が売れており、世界で最も売れたコンピュータゲームとも言われている。今も3億本の全てが稼働可能なわけではないが、膨大な数のプレイヤーが、何年も長く遊べる環境にある。特に本作は、新しい世界をいくらでも作れて、地形もその都度変わるため、長く飽きずに遊び続けられる。
本作は今や世界中にプレイヤーがおり、好きなだけ遊べる環境が整っていると言っていい。プレイヤー数が多い分、ソフトを新たに購入する人もまだまだ多いと思われるが、さすがに何年もプレイしていたら飽きが来ることもある。16年目ともなれば、その割合が上がってきている可能性も十分あり得る。
本作の収入はゲーム本体だけではない。「Realm」と呼ばれるレンタルサーバーの提供もあれば、他の派生タイトルもある。関連グッズの数も膨大だ(筆者も息子にグッズをどれだけ買わされたかわからない)。それらに興味を持ってもらうには、まずは大元の「マインクラフト」を飽きずに遊び続けてでもらうのが重要だ。
その観点でいくと、1年に1回のアップデートではもはや物足りないと感じるプレイヤーが増えており、「より頻繁に新しいコンテンツを楽しみたい」という声に応えないと離脱率が高くなる……と考えたのかもしれない。
本作が世界一売れたゲームソフトである以上、ビジネスとして他者の真似をするのも難しい。そもそも、売りきりのソフトを15年以上もずっと無料でアップデートし続けるのは、普通のゲームでは非現実的な対応だ。3億本以上も売れている本作ならではのやり方と言える。
本作のプレイヤーである筆者としては、そろそろ全てをリセットして「マインクラフト2」を作る時期なのでは?とも思う。ただ、今も世界的人気を誇る作品にうかつに次回作を出せば、「もう1は終わりか」と受け取られ、大量のファンを失う機会を作りかねない。
今回の発表は、今後も長く楽しんでもらえる「マインクラフト」を作っていくという、開発姿勢の表れであることは間違いない。それと同時に、「マインクラフト」というブランドを長く維持する方法を模索しているのだなと感じる。難しいかじ取りに違いないが、この結果がどう出るのか、この先1年ほどは特に注視していきたい。「ユーザーは変化を求めていなかった」なんて結果が出る可能性すらあるのだ……。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。