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VRは触覚フィードバックで体験する時代が来る!? ~日本の新鋭Diver-Xの「Contact Glove」がすごかった【TGS2022】
bHapticsでは上半身が振動するベスト型デバイスも紹介。VRはさらに現実に近づいた体験へ
2022年9月17日 06:45
今年の「東京ゲームショウ2022(TGS2022)」ではゲームメーカーの展示はもちろんだが、VRやメタバース関連企業のブースも多く出展されていた。最寄り駅から会場となる幕張メッセまでの道のりにはVRヘッドセットの「Meta Quest 2」の広告が大々的に吊り下げられ、その上、会場近辺には同じくVRヘッドセット「Pico Neo3 Link」の広告が目を引いた。
また、VR会場「TOKYO GAME SHOW VR 2022(TGSVR2022)」も開催されているし、9月15日の初日に行われた基調講演でもメタバースが取り上げられた。会場内には「VR/ARコーナー」として関連ブースを集約して配置。昨今の「メタバース」という単語の流行などにより、改めてVR/ARの注目度が高まっている印象だ。
そんな中、TGS2022の会場内では、VRで自分の手を自由に動かし、なおかつモノに触った感覚などが感じられる「触覚フィードバック(ハプティクス)」付きのグローブを展示していたブースが目に留まった。このデバイスから体験できるのは「VR空間で本当にモノを掴んでいる」という感覚だ。何を今さらと思われるかもしれない。しかし、VRヘッドセットを被っているときのプレイヤーは「VRの世界にいる」という感覚を覚える。そこで操作するのがコントローラーか、それとも自分の手指か、両者から得られる体験は全く異なるものだ。
今回は、Diver-X社とbHaptics社の2社が開発する「触覚フィードバックグローブ」を体験できたので、そのインプレッションをお届けしたい。
手指を自由に動かせることで、VR空間への没入感がさらに増す「グローブ型」
現在、VR機器の多くは両手で専用のコントローラーを持つスタイルが基本だ。
VRヘッドセットごとにコントローラーもいくつかの種類があるが、基本的にはボタンやアナログスティック、トリガー、タッチパッドなど、プレイヤーの入力を受ける部分とコントローラーを持っている手の位置を検出するセンサーがついているのが基本的な構造となる。
そのため、一般的なビデオゲームをプレイするようにアナログスティックとボタンを組み合わせた操作や、何かを掴むような操作、引き金を引くような操作は既存のVRヘッドセット向けコントローラーでも体感できる。
しかしそうとはいっても、コントローラーを介した擬似的な体験でなく、VR空間で自分の手を思い通りに動かすような細かい指の動きまでを検出するようなことは、まだまだ不得意な分野だ。一部のVRヘッドセットでは、この機能自体は実装されているが、いまだに精度や安定性に難があるのが現状である。
そうした中で、その解決方法の1つとして注目されているのが、今回取り上げるグローブ型のデバイスだ。これは手袋型の装置に指の状態を感知するセンサーを埋め込み、そこから得た指の状態をVR空間に反映するという仕組みだ。グローブ型のデバイスを介することにより、VRの世界の中でプレイヤーは自由に手指を動かして、モノを掴んだり、何かを操作したりする。それより非常に直感的で、さらに現実に近い体験が可能となる。
グローブ型のデバイスは、VRを使用するさまざまな分野への活用が期待されている。ゲーム分野でも手指を直感的に動かせることでこれまで以上に奥深い体験ができるだろうし、いま流行のメタバースでも、これによりさらなる豊富な感情表現が可能だ。もちろんVR空間でのパフォーマンスにも応用ができるだろう。
そして、今回体験したデバイス「触覚フィードバックグローブ」は手指の動きをトラッキングするだけでなく、その名の通り「触覚フィードバック」という機能を搭載しているのが最大のポイント。これはモノを掴むと指先に感覚があり、実際にはモノに触れていないのに、たしかに「触れた感覚」、つまり触覚を再現した機能だ。
これにより、自由に手を動かせる上に、自分で何かアクションを起こしたら、それに対して反応がかえってくる。この機能もいわば、より現実感を高める機能の1つだ。
Diver-X社の「Contact Glove」でリアルな触覚フィードバックを体験
会場内の「VR/ARコーナー」でひと際注目を集めていたのがDiver-X社のブースだ。Diver-X社は2021年3月に設立された、日本の学生を中心とした今話題のベンチャー企業だ。
ブース内では、同社が現在開発中のフィンガートラッキング付き触覚フィードバックを搭載したグローブ「Contact Glove」のデモ版モデルが展示されていた。「Contact Glove」はKickstarterで9月下旬にリリース予定で、価格は6万5,000円からを予定している。今回体験できたデモ機は「Meta Quest 2」をベースにしたモデルだった。
「Contact Glove」は前述した通り、グローブ型のデバイスだ。体験では、それを装着して手の甲にあたる部分に「Meta Quest 2」のコントローラーを付けることで、空間上の手の位置をトラッキングしていた。なお、PCを使ってVRを体験する際は、既存のトラッカーを使用することもできるとのことだ。コンパクトで軽量なトラッカーを使うとより快適に使用することができるだろう。
気になるグローブは少し厚めの素材だ。とはいえ基本的な手の動作は問題なくできるし、単純にVR空間で何かを触ったりするのは全く問題ない。ただ、現実には手袋に接触している感覚があるので、例えばメタバース空間上でパフォーマンスを行うDJがコントローラーを操作するなど、複雑な操作をする場合には少し慣れが必要になるかもしれない。
手指のトラッキングに関しては遅延なども感じず、リアルタイムにVR空間に反映されていた。視界から手を離すと手の位置を見失うこともあったが、この点はしっかりと正面に手を捉えられていれば問題なかった。
「Contact Glove」の触覚フィードバックは、指を包み込むように圧力をかける仕組みだ。ほかの触覚フィードバック型グローブでよく使われている小型のモーターを振動させる仕組みとはまた違ったフィードバックだった。
また、デバイスには別売りのコントローラーをつけることもできる。こちらはアナログスティックやボタンなどがついており、手のトラッキングや触覚フィードバックを受けつつ、今のVRコントローラーのような細かい操作もできる。まさにいいとこどりな印象だ。
ちなみに今回はデモ版ということで、フィードバックは人差し指のみに実装されていた。製品版では小指以外の4本に触覚フィードバックが搭載される。なぜ小指にないかというと、個人の指の細さに関係して、これ以上小型化するのが難しいからということだった。
小型モーターを使って質感の違いまで表現する「TACTGLOVE」
「触覚フィードバック」の機能をアピールしていたブースはDiver-X社だけではない。韓国のbHaptics社のブースでは、11月に発売予定の触覚フィードバックグローブ「TACTGLOVE」を展示していた。こちらも「Meta Quest 2」をベースにしたモデルでの体験だった。
「TACTGLOVE」の場合、同じくグローブ型のデバイスを装着するのだが、センサーがグローブに内蔵されており、外側に特別なデバイスをつけることはなかった。ヘッドマウントディスプレイ側に手袋の位置を計測する小型のセンサーがついており、そちらで手の位置を計測していた。
また、グローブの素材は「Contact Glove」と同様に少し厚めに感じた。正しく触覚フィードバック機能を得るため、指先にある小型のモーターのところまできっちりと指を入れる必要があるが、基本的な手指の動作には全く問題ない。なお、手袋の厚みのため、細かい操作に慣れが必要なのはDiver-X社の「Contact Glove」と同様だ。
指先のトラッキングに関しては精度が高い印象だ。ほぼ遅延もなく手指の動作も含めてきっちりと判定されていた。さすがに正面のセンサーから大きく外れるとトラッキングがブレるが、ちゃんと正面に持ってくれば元に戻る。
「TACTGLOVE」の触覚フィードバックは、指先の小型のモーターを使って表現している。これにより、触ったものの形状や質感に応じた振動がかえってくるという仕組みだ。
ザラザラとした平面を触ると微弱な振動が発生し、デコボコした面を触ると大きめの振動がおこる。もちろんデコボコが激しければさらに大きめに振動する。また炎に触れるという体験もできた。さすがに熱さは感じられないが、ジリジリとした独特な感覚があった。視覚情報も合わさって、本当に炎を触っているかと錯覚してしまうような独特な感覚があった。
「TACTGLOVE」以外にも、同社のブースではヘッドマウントディスプレイの振動と、ベスト型のデバイス「TACTSUIT」を使った上半身へのフィードバック機能も体験できた。
「TACTSUIT」のベースになっているHMDは「Meta Quest 2」だったが、その顔に接する部分に小さなモーターを仕込んでいるとのことだった。こちらもVR空間内の刺激にあわせて振動する。特にゲーム分野などでは面白そうな印象だ。
ベスト型のデバイスを装着することで上半身にフィードバックを与える。レーザーのような刺激を自分自身に受けるとボディスーツがビリビリと振動する。さらにボクシンググローブでアバターにパンチすると、ドンというフィードバックがあった。
VRヘッドセットに加えて、こういったデバイスを使うことで、よりVR空間の中に自分自身がいるような現実感を感じられる。自分の動きをVR空間上に反映する、そしてVR上の感覚を現実側にフィードバックする。そういった進化する体験は今後のVRの発展に寄与することだろう。
著者プロフィール:でんこ
バーチャルに活動の場を移したゲームライター。得意分野はビデオゲーム全般だが、最近はメタバースへの関心が強い。
ライターとして様々なメディアで執筆する一方、NPO法人バーチャルライツ公認の第0期VR文化アンバサダーでもあり、メタバース上の活動やメディアでの情報発信を通じてVR文化の魅力を普及させるべく活動中。
・著者Webサイト:https://note.com/denpa_is_crazy/