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なぜゲームショウにシヤチハタが? 商用可能な学割フォントサービスをリリースへ【TGS2022】

使える文字が盛りだくさんのフリーフォントに注目、新書体「碧隷」も発表

TGS2022の会場で発表された新書体「碧隷」と「武骨HR」

 3年振りにリアル会場での開幕となった日本最大級のゲームイベント「東京ゲームショウ2022(TGS2022)」。その千葉県・幕張メッセ内のビジネスソリューションコーナーの一角にブースを出展しているのがシヤチハタ(株)だ。同社は、リリース予定の新書体「碧隷(へきれい)」と「武骨HR」、さらに学生向け・個人向けの新たなフォントサービスを発表。今後登場予定の新商品を来場者にアピールしていた。

シヤチハタブースの様子
人気書体「大髭」などを展示

 シヤチハタと聞いて、まずイメージするのは看板商品の「ネーム9」に代表されるはんこだろう。

 ゲームショウとはすぐにイメージが結び付かない読者もいるかもしれないが、ビジネス印章用フォント「シヤチハタフォント」を開発するなどフォント事業にも力を入れており、例えば「モンスターハンターライズ」や「新サクラ大戦」といった人気ゲームタイトルに登場した力強い筆文字たちはシヤチハタ提供のものだ。作品の魅力をさらに引き立たせる縁の下の力持ちとしてゲームとの親和性は高いといえる。

フォントの利用事例。「モンハンライズ」といったゲームタイトル以外にも、大泉洋さん出演のTV番組「水曜どうでしょう」にも採用されているという

複数の崩し方を展開する新書体「碧隷」

 今回のブース展示では、主に新書体と新たなフォントサービスを紹介。新書体の「碧隷」は味わいのある隷書体で、提供開始は今年秋頃を予定している。

 「碧隷」は「碧隷 - 甲」、「碧隷 - 乙」、「碧隷 - 丙」の3書体がリリースされる予定だが、ここが面白い。通常のフォントであれば、細い・真ん中・太いといった具合に太さの異なるラインナップを展開するところ、「碧隷」では崩し方を変えた3書体をリリース。ラインナップ展開として、甲から丙にかけてだんだんと書体がくずれていくというのは大変珍しいことなのだとか。

新書体「碧隷」のサンプル。太さではなく崩し方を変えた3書体をリリース予定
利用シーンは日本酒やカップそばのラベルなどを想定しているとのこと

 フォント業界ではスタンダードかつ使いやすいフォントが求められる中、他社にはないスタンダードな「筆文字」を幅広く展開するシヤチハタ。ここで敢えてレトロな隷書体「碧隷」をラインナップに追加することで、手で書けない書体、ほかにはない書体を提供できる強みを広くアピールしていく考えとのことだ。

人気書体「武骨」がリニューアル

 また同ブースでは「碧隷」以外にも、今年冬頃登場予定の新書体「武骨HR」も披露していた。これは従来商品の「武骨」をより鮮明にデジタル化したリニューアル版にあたる。

 「武骨」は、かすれが出る筆スピードで書き上げられた書体。2009年に初めてリリースされたパッケージ版(買い切り版)は、ディテールは細かいものの、フォントとしてはエラーが起きやすく、安定性が悪かったという。そこで、その点を踏まえて安定性重視で作成されたのが、2013年に登場した「HOT-武骨」だった。しかし、今度は安定性に重きを置いた代わりに、大きなフォントサイズで表示したときのディテール不足、インパクト不足に悩まされることになった。

2009年のパッケージ版「武骨 TrueType」
2013年の「HOT-武骨Std OpenType」
新登場の「HOT-武骨HR Std OpenType」
新登場の「武骨HR」は2009年のものと区別がつかない仕上がりに

 今回披露された「武骨HR」は、まさしく従来フォントのいいとこ取りしたリメイク書体だ。利用者が多い人気の「武骨」が、当時では技術的に難しかった部分に手を加えたことで、安定性を持たせながらディテールアップした新たなフォントとして仕上がっている。

「J-Font.com」に商用利用も可能な学割プランが登場

 (株)白舟書体が書体の開発、シヤチハタ(株)が販売・運営を行なっているフォントサービス「J-Font.com」にも新たなサービスが登場する。これまでは、1年契約(19,800円〜/1台)で全フォントが利用可能なプランのみで展開されてきたが、今後は「個人向け」と「学生向け」にも新料金で利用できるよう、準備を進めているとのことだ。

「J-Font.com」のトップページ

 とりわけ、近日リリース予定の学生向けプラン「J-Font.com 学割(仮)」は注目したいところ。学割プランというと、個人のPCで4年間、特別割引料金で利用できるというのはよくある話だが、いざ利用してみると「教育目的」でしか使えないという制約が科せられていることが多い。

 しかし昨今では、学生時代のうちにプロダクトを作って販売するということは珍しくない。こうした時代背景を踏まえ、新登場の学割プランでは「教育目的」と「商用目的」のどちらでも全フォントを利用可能なのが最大の特徴。使用許諾範囲も「J-Font.com」のものと同じで、フォントをゲームなどに組み込む場合の追加料金も発生しない。ただお得に、広くさまざまなシーンで使える新プランだ。

学生向けプラン「J-Font.com 学割(仮)」。教育機関向けの新プランも準備中だ

 さらに、これまでの61書体オールインというプランとは異なる、新たな個人向けサービス「J-Font.com セレクト1」も10月からリリース予定。これは、利用者が好みの1書体をセレクトして利用できるお得なプランだ。人気書体の「大髭」だけ使いたい、印鑑を作りたいから印鑑用のフォントだけ欲しい、といったニーズに応える。なお、こちらのプランも商用利用可能だが、個人向けに特化したプランのため、法人での契約はできない。

個人向け新サービス「J-Font.com セレクト1」

 ちなみに「J-Font.com」では、教育漢字1,026文字のみではあるが、フリーフォントの展開にも力を入れているとのことだ。今年4月から提供中の無償フォントは10書体に上り、そのラインナップの中には「白舟髭隷教漢」など使える場面の多い書体も用意されている。ダウンロードには無料の会員登録が必要となるが、使用許諾の範囲内で商用・個人利用が可能だ。

 そのほか、好きな文字を入力すると印鑑風のオリジナルSNSアイコンが作れるコンテンツもある。興味がある方はぜひ利用してみるといいだろう。

オリジナルのはんこ風アイコンが作れる「ひともじicon」なども積極的にアピールしていた