Blender ウォッチング

無料の3DCG統合環境「Blender 4.3」は金属の反射をよりリアルに再現可能

位相関数による光の拡散表現も

 本連載では、無料の高機能3Dモデリングツール「Blender」の使い方や関連情報を幅広くお伝えします。

 11月19日(中央ヨーロッパ夏時間)、「Blender 4.3」が公式リリースされました。
本リリースでは、ペイントやスカルプトのブラシのインターフェイスの刷新や、新バージョンのグリースペンシルのようなペイント系の新機能が目立ちます。

 今回は「Cycles」レンダーで改善されたシェーダー、「EEVEE」レンダーの新機能、新しいノイズパターンについてご紹介します。

Fournier-Forand位相関数による水中のレンダリング例

メタリックBSDFシェーダー

 金属の質感用の[メタリックBSDF]シェーダーノードが追加されました。

 金属の色付けを計算するフレネルメソッドに、ユーザーによる色付けが簡単にできる「F82チント」と、測定値を直接指定する「物理的導体」のどちらかを選択でき、見栄えを重要視するなら前者、リアリティを追求するなら後者と、使い分けができます。「プリンシプルBSDF」のメタリックはF82チントに相当します。

 「物理的導体」モードはいわゆる「Complex IOR」と呼ばれる、光の吸収に対応した複素数による屈折率表現です。「IOR」と「減衰」値はそれぞれ「n」(実部)と「k」(虚部)に対応しており、PHYSICALLY BASEDなどのようなサイトで参照できます。

 なお、「v4.3」の時点ではCyclesレンダー専用になっており、[マテリアルプレビュー]シェーディングモードとEEVEEレンダーではF82チントで代用されます。

物理的導体による金・銀・銅のシェーディング例。感覚頼りではなく、実測値が利用できるのはありがたい

オーレンネイヤーBSDFの改善と結果の違い

 オーレンネイヤーBSDFとは、[ディフューズBSDF]シェーダーノードで、[粗さ]パラメーターが「0」以外の時に使用されるシェーディングアルゴリズムです。従来、エネルギーの損失で暗くなってしまった面が、エネルギーが保持されることで明るくなりました。

 同じマテリアルでも「v4.2」と「v4.3」でレンダリング結果が変わる可能性がありますので、注意が必要です。

「v4.2」と「v4.3」でのオーレンレイヤーBSDF(ディフューズBSDFノード)の違い。下の立方体に注目

Gaborノイズの導入

 新しく[Gaborノイズ]ノードが追加されました。方向性のある有機的なランダム模様が作成できます。[値][位相][強度]の3つの出力ソケットがあり、それぞれ特徴的な模様が生成されます。

[Gaborノイズ]ノードの[値][位相][強度]ソケットのそれぞれの出力の比較

ボリュームマテリアルの位相関数

 霧や雲などを表現できる[ボリュームの散乱]シェーダーノードで「位相関数」が選択できるようになりました。

 え? 位相関数って何? っていう方も、とりあえずツールチップに用途が出てくるので、それにあった関数を選択すればOKです。

ボリュームの散乱シェーダーノードの位相関数とツールチップ。用途が示されるので安心

EEVEEレンダーにもライトリンキング

 ライティングを特定のオブジェクトに制限できる「ライトリンキング」機能が、EEVEEにもやってきました! 目のハイライトや顔へのライト、不要な影(光源)の削除などに活躍してくれます。

ライトリンキングで「眼球」オブジェクトにハイライトを表示(クリックでインターフェイス表示)

Vulkan対応

 従来、「Blender」は多数のグラフィックソフトウェアで(そしてゲームでも)利用されているAPI、「OpenGL」を表示のバックエンドとして利用してきました。

 「Vulkan」はこのOpenGLの後継として策定された新しいAPIで、最近のハードウェアでの性能の向上が期待できます。「Blender」もこのVulkanへの対応を進めており、「v4.3」ではまだ実験的ではあるものの、Vulkanをバックエンドとして利用できるようになりました。

 試用するには、まず[編集]メニューから[プリファレンス...]で[プリファレンス]エディターを開きます。次に[インターフェイス]タブの[表示]-[開発者用オプション]を有効化し、[システム]タブの[グラフィックス表示]-[バックエンド]を[Vulkan]に変更した後、「Blender」を再起動すればOKです。。

 まだ実験段階であるため、パフォーマンスが低下する可能性があります。また、OpenXR(VR用)と、GPUサブディビジョン(サブディビジョンサーフェスのGPUアクセラレーション)には未対応です。大事なファイルの編集には使用しないでください。

[編集]メニューから[プリファレンス]エディターを開き(①)、[インターフェイス]タブ(②)から[表示]-[開発者用オプション](③)を有効化
[システム]タブ(④)の[グラフィックス表示](⑤)-[バックエンド](⑥)で設定した後「Blender」を再起動でVulkan対応に

終わりに

 今回は「Blender 4.3」に追加された、新機能とシェーダー、ノイズについてご紹介しました。次回はジオメトリノードの新機能などについてご紹介したいと思います。

 ではまた。